第9話 救出

 数日後、救出作戦実行を翌日に控えた朝、ワタル達五人は、木の枝で隠していた冷凍車に乗り込み、洞穴の外に出てきた榛名山避難所の人々に見送られて出発した。子供たちが

「アサミ―!」と声をかけ、行っては嫌だと泣いている。

 榛名山部隊の隊員二人が、道を知ったドライバー役という事で同行する事になった。山を下り、榛名湖を迂回して伊香保温泉から関越自動車道に入り、新潟へ向けて北上する。

 人民友好塔を右手に見て、関越トンネルを抜けると新潟県になる。そこで関越自動車道から一般の国道に降りていく。

 ワタルは携帯で、東京湾で待つレキオス号の喜屋武隊長に、

 「伊香保温泉で中華麺の売り込み成功。明日か明後日に戻る予定。今月の給料下さい!」という連絡をする。

 隊長からは「考えてやろう!」という返事が来た。

 

 新潟県にはいると街は普通に車や人が多くなり、C国兵も多く見るようになった。放射線量もほぼ正常値になっている。

 市内に近づくと、

「日本人もC国人も協力して平和で豊かな共和国をつくりましょう!」

とマイクで繰り返しながら宣伝カーが通る。車にはC国と日本国旗が立ててあり、「日本人はC国人に感謝しよう」とか書かれている。

空には色とりどりの風船をつけたドローンが飛んでいて、そこから演歌調の歌が聞こえてくる。「♪悲しい話はーーもう嫌だーー、みんなでーー、みんなでーー良い国つくりましょう・・・」高いビルの上には、C国人指導者と日本の演歌歌手が笑顔で握手している看板が出ている。

 ワタル達はそれらを見聞きし、げんなりした雰囲気のまま、混雑していない、人気のなさそうな食堂を捜し、その駐車場に入る。


 仏頂面の店主が注文を聞きに来る。全員が看板に出ていた「新潟とんこつラーメン」を注文する。暫くしてラーメンが出てから、奥にいる店主に聞こえるように、大声で言う。

「とんこつラーメンうまいなーーー、久しぶりだぜこんなうまいラーメン」

「そうだなーー。しみじみうまいな。」

「で、新潟まで来たけど、○○テレビってどう行くんだ?」

「ナビもねーから○○テレビが何処にあるのか分かんねーよ、もう一度電話してみるか?」

こんな話をしていると、店主が出てきて、

「あんたら、○○テレビいくのけ?○○テレビって警備がすごくて兵隊が何十人も見張っているらしいな。中に東京から来た芸能人とか、いっぱい捕まっているんだろ?」

「へえー、そうなの?芸能人ってふつうに暮らしてるんじゃないの?」

「いいや、聞いたところによると、高い塀に囲まれた大きいビルが五、六棟建っていて、芸能人やタレント達はその中で監禁されて、言う事を聞かないと殺されるらしい。それこそ人質だよ。ひでーー話だ。」

「俺たちは神奈川から来たんだけど、この辺には神奈川から来た人も多いのかな?」

「神奈川?神奈川は聞いたことね―なーー。東京で地下街やシェルターに隠れていた人を新潟に連れてきたという話は聞いたが、神奈川の人の話は聞いたことね―なーー。」


 店を出た五人は、大きな駐車場に冷凍車を止め、「連盟」に紹介されたマンガ喫茶にばらばらに入っていき、仮眠をとった。



 五月二十四日深夜一時、レキオス部隊は作戦を開始した。先ず榛名山部隊の隊員に紹介されたバス会社の駐車場から、桜と富士山の描かれた大型の観光バスを一台調達する。そして、「○○食品」と書かれた冷凍車を先頭に、かなり離れて調達した観光バスという隊列で、○○テレビ方面へと向かう。

 深夜なので人も車もほとんどいない。LEDの白色の街灯だけが煌々と光っている。

 新潟市内中心部の高い塀に囲まれたビル群が見えてきた交差点で、緑色軍服の背の高い中国兵が銃を構えて検問している、車を停止させ、C国語で何かを聞いてくる。

「××××××?」

「○○テレビさんから中華麺を納入するように言われたんですけどね。」

とオダは落ち着いて日本語で答える。

 C国兵は銃を突き付けて、車の外に出るように言う。

 オダは素直に外に出て、困ったように首を傾げて、ボストン型の黒縁メガネを触る。そして、メガネをC国兵に向け、右側のつるについている発射ボタンを押した。

 左側のつるから極小の毒針がC国兵に向かって飛んでいく。痛みはないらしい。

 あと二人にも同様にすばやく毒針を発射した。

 一分後、C国兵三人は叫び声も立てずに倒れた。C国兵三人を物陰に座らせる。(この毒針は十数分後に完全致死状態にさせる)


 再び冷凍車とバスを高い塀に沿って走らせ、バスを手前に停止させ、予定通り深夜二時、救出作戦を開始する。冷凍車で○○テレビの宿舎正門に近づいていく。やはり数人のC国兵が、大声で誰何してきた。

「××××××?」と銃を突き付けてくる。

 オダは急がず騒がず、C国兵の指示に従うふりをして、大人しく車から降りて、同様に黒縁メガネの毒針を発射し、C国兵を眠らせた。レキオス部隊は静かに正門を通り抜け、宿舎内に入っていった。


 宿舎内には道を挟んで左右に十数棟のビルが並んでいる。部隊は先ず一番手前の右側のビルに入っていく。管理人らしき男がC国語の厳しい口調で、「××××××?」と、たぶん何の用かと聞いてくる。

 オダがペコペコと頭を下げつつ管理人に近づき、またもやメガネの毒針で眠らせた。部隊は階段を2階へと駆け上がる。

 二階の入り口の鉄格子の扉を開けて、一番手前の部屋に入ると、以前テレビのバラエティーでよく見た漫才コンビの二人の男がベッドの上に起き上っていた。二人に、自分達は日本の芸能人を助けに来たと言う。


 漫才コンビの話によると、このビルには芸能人、タレント、俳優、アナウンサーなど千人近くが監禁されている。そのうちTKBなど女子の芸能人の宿舎は左側2番目のビルだという。この反応の早そうなコンビを連れていく事にした。


 二人の男の案内で、レキオス部隊は左手二番目のビルに入った。管理室内で寝ていた管理人をより深く眠らせ、二階に駆け上がり、入り口の鉄格子の扉を開けて、1号室のドアを開けると、その部屋には以前よくテレビに出ていた女性アナウンサーが二人いた。二人によるとTKBのメンバーはたしか四階で、十人位いるという。

 自分たちは日本の芸能人を救出に来た。あなた方も救出したいと言うと一緒に行くという。女子アナの案内で4階に行き、各部屋のドアを開けて声をかけていく。TKBのメンバーや他の女性タレントが次々と出てくる。

「全員助けるから静かに」と伝える。

 他の階や他のビルの入居者全員も救助したいところだが、バスにもレキオス号にも乗り切れない。


 どうやら、監視カメラの情報がC国軍に流れたらしく、大きなサイレン音が鳴り始める。

事前の打ち合わせ通り、芸能人の救出はアサミと宮里組が担当し、ワタルとオダは別働隊として、近づきつつあるC国軍を宿舎の外で迎え撃つ事にする。ワタル達は下に降り、ビルの外に停めてある冷凍車から運搬ロボットを下ろす。

 自動追跡レーザーとロケット弾一発を乗せた運搬ロボットを先頭に、ワタルとオダはレーザー銃をかまえて、宿泊所の正門から大通りへ堂々と出て行く。


 大通りに、運搬ロボットの「ガシャンガシャン」という音が響き渡る。たぶんC国人の住民が、驚いた様子で、ビルの窓から顔を出しては引っ込めている。

 大通りを数十メートル進んだ地点で振り返ると、宿泊所の正門から、冷凍車とバスが大勢を乗せて右手へ出発していくのが見える。

 ここで手を振ったり、別れの言葉を交わすために、立ち止まって時間を無駄にするような愚かな真似はしないように訓練されている。しかし、ワタルには、アサミがバスの窓から乗り出して手を振っているのが一瞬見えた。



「連盟」の部隊が富山方面でロケット弾を発射した為、混乱しているのか、C国軍の反応はかなり遅い。二十分程してやっと、大通りの前方上空にC国軍の三角ドローンが現れた。ドローンは大音量で「×××・・・」と言いかけたが、運搬ロボットの自動追跡レーザーに撃ち落とされ、歩道に落下する。

 続いて、大通りの向こうからサイレンとともに、C国の白色のパトカーが現れる。ワタルがすぐさま、運搬ロボットのバッテリーにつないだレベル3(destroy)のレーザー銃を撃ち込んだ。パトカーはガソリンに引火して爆発を起こし、大きな炎をあげて燃え上がった。


 ワタルとオダは、レーザー銃を派手にぶっぱなしながら、大声で叫んだ。

「俺たちは沖縄から来た義勇軍、レキオス部隊だ。かかってこい奴隷人間ども!!!」

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