第8話「連盟」


 ワタル達は「本州奪回連盟」本部からの連絡待ちで、この榛名山避難所に滞在する事になった。

 洞穴に避難している人々は、出来るだけ外出を控えて、洞穴の避難所の中で過ごしている。C国の監視衛星から発見されるのを懸念してだが、監視衛星はもう機能していないという説もあるらしい。ただ用心に越したことはない。

 春五月とはいえ、夜の寒さは厳しいのだが、洞穴の中は暖かい。避難所で出された食事は、畑の芋、大根、人参などの野菜が主で、確かに中華麺があればご馳走だっただろう。

ワタル達が提供した携帯食料は、例によって芋カレー・芋そば・芋パスタ・・・なのだが、これでも避難所の人々にとっては貴重だったらしく、備蓄倉庫に回された。以前は伊香保温泉の旅館やホテルから食料を調達できたのだが、経営者がC国人にかわってからは、ほとんど調達できないという。


 次の日の昼過ぎ、連絡がついたらしく、「連盟」の群馬地域の本部長という初老の男が、二人の部下とともに、古く使い込んだ様子の登山服姿でやって来た。

 本部長は、早速ワタルたちの乗ってきた冷凍車の中を覗き込み、運搬ロボットやロケット弾などの装備を見て、「オーー」と声を上げて感心している。

 ワタル達は、この群馬地域の本部長や榛名山の女性リーダー達と今後の作戦について話し始めた。

 群馬地域の本部長がこう話した。

「話は、聞かせていただきました。群馬地域の本部長としても、あなた方を歓迎し「連盟」として全面協力する事を約束します。」

「私は群馬県の陸上自衛隊相馬原(そうまがはら)駐屯地の一等陸佐だった。九年前の夏、P国のミサイルが駐屯地に着弾した。基地のヘリ・戦車・装甲車等はすべて破壊され、残されたのは、負傷者を含めた約半数の隊員と小火器のみだった。」


「新潟などの日本海側の都市が、P国の大部隊に侵略され、多くの市民が犠牲になった。殺されていく国民を助けられなかった事については、自衛官として言葉にできない責任を感じている。あれから残った自衛官達とともに、P国やC国に対する反撃を計画したが、装備に差があり、しかも市民を巻き込む戦闘を実施できず、ただ、山に避難してきた住民を保護する事しか出来なかった。しかし我々は近々、C国に対する何らかの反撃を計画している。C国に対する今後の作戦について、あなた方の考えを聞きたい。」


 宮里ヒロシが言う。

「私達は沖縄を出るとき、元TKBのメンバーだった女性から、TKBと連絡が取れない、東京に行って捜してほしいと頼まれて来た。そのTKBは新潟で拘束されている可能性があります。彼女たちを含めた女性芸能人を助けるのが、私たちの第一の目的です。それが成功すれば、C国が日本人を強制拘留している事を世界にアピールする事になり、C国の現在の不当な支配状況が、少しでも改善されるのではと思います。」


「なるほど、私も同意見です。C国支配下では、C国政府の不都合になる言動は完全に禁止されています。とくに、テレビなどのマスコミに出る芸能人は、厳しい統制をかけられて、かなりの人数が拘束状態になっているようです。我々もその作戦に、出来る限りの協力をしたい。しかし、協力するにしても、救出部隊が大勢になってはかえって目立ちやすい。一緒に救出に行くのではなく、あなた方の救出作戦にあわせて、別の場所で騒ぎを起こす、つまり陽動作戦をとるというのはどうでしょう?別の場所で騒ぎを起こすと、そこへC国の軍隊が集中するから、あなた方の救出作戦が成功しやすくなる。例えば、救出作戦の数時間前に、新潟ではなく富山辺りでC国軍に向かってあのロケット弾をお見舞いするというのはどうですか?」


 レキオス部隊は、群馬本部長のいう富山陽動作戦に賛同し、ロケット弾をもう一発、その富山作戦のために譲渡する事にした。


「是非、その作戦でお願いします。それから、我々が芸能人の救出に成功したとして、その人質を運ぶ手段ですが、大型のバスを一台どこかで調達できたらと考えています。良い方法はありませんか?」


「それは任せてもらいたい。新潟市内各所に「連盟」の協力者がいます。その人達に連絡して、大型バスを一台用意させましょう。道に詳しい運転手役の隊員も二人同行させます。それから、あなた方が芸能人を救出した後、新潟から東京へ行く迄の間に、C国軍が追ってくる可能性があります。その時は「連盟」が各部隊あげて全力で対処します。」


「感謝します。作戦が成功して、そのバスで人質たちを東京湾の芝浦ふ頭にいる船まで運ぶ事が出来たら、船に積んである予備の武器・装備をそっくりそのバスに積み込んで、この群馬地域まで運んでくることができるはずです。ロケット弾があと三発はある筈です。」

「それは我々にとって有難い話だ。是非そうなるように頑張りましょう。」


 こうして、レキオス部隊は「連盟」の群馬本部長や榛名山の女性リーダー達と、芸能人救出作戦計画を練り直す事になった。作戦決行は四日後の深夜二時にする事。救出組はバスに芸能人達を乗せたら、関越自動車道、関越トンネルを通って、東京方面に向かう事。救出を成功させるために、救出組とは別に、C国軍の注意をそらすために離れた所で暴れまわる別働隊が必要だという事。その別働隊は新潟県の日本海沿いを進み、長野県の湯沢温泉で「連盟」と連絡する事。などを確認した。


 その日のうちに、群馬県本部長はロケット弾をワゴン車に積み込み、部下とともに出発して行った。ロケット弾が富山方面に到着するのに二、三日はかかるという。


 この避難所には両親を殺された孤児たちもたくさんいた。「連盟」のメンバーが救い出したという事だ。アサミは、この子供たちに大人気で、アサミの周りは保育所状態になっている。宮里組のふたりは、若者や子供を相手にオタ芸を披露し(テレビに出演したこともあるプロ級のパフォーマンスらしい)、一緒に踊って友好を深めている。


 ワタルやオダは何の芸もなく、ただゴロゴロしている状態だったので、女性リーダーに誘われてイノシシ狩りについて行く事になった。

 むろん銃などは使わない。皆が短めの鉄棒を持って、山中の罠にかかったり、突進してくるイノシシをぶっ叩くというシンプルな方法だった。以前は熊もいたらしいが、獲りすで今はイノシシさえも少なくなったという。ニワトリ等はC国軍に見つかりやすいので飼えないらしい。確かにこれではタンパク質が不足するはずだ。

 ワタル達が参加した数日間で、一度だけイノシシが突進してきた。

 女性リーダーがあざやかにひらりと身をかわし、鉄棒を一閃して見事に仕留めた。イノシシはひっくり返り、泡を吹いて痙攣している。

 女性リーダーは、へっぴり腰のワタルやオダを見て、

「君たち大丈夫?そんなんで戦える?」と笑う。

「大丈夫ですよ、レーザー銃を持たせたらこいつ凄腕ですから。俺も、イノシシではなく、P国やC国相手なら容赦しませんから。」とオダが答えた。

 ワタルはイノシシよりも、この女性リーダーが恐かったので、ただ笑って頷くだけだった。


 イノシシはワタルとオダが太い枝に括って担いで帰り、避難所の台所で味噌味の牡丹鍋になった。

 オダが、このイノシシは女性リーダーが一撃で倒したと言うと、人々は

「やっぱりな!リーダーにかかったらイノシシもイチコロだ!」

「最近は、イノシシもリーダーの顔を見ると震え上がって逃げていくらしいぞ!」

「なによ!そのイノシシもっていうのは、私は君達には優しいでしょ!」

「イノシシもかわいそうだ!旨いけど。」

「旨いけど、かわいそうだはないでしょ!さあ、食べて食べて!」


 この女性リーダーの名前は、「ミズキ」と言うらしいのだが、恐れ多くて、子供以外は誰も名前で呼ぼうとしないらしい。

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