十三節 王都炎上(壱)

 場所はゴロウの定宿やどりぎ亭だ。

 時刻は昼で客席は三分の一ほど埋まっていた。娼婦と男性客が丸テーブル席へとびとびに座って何かを囁きあったり無言で身体を寄せあっている。男娼に声をかけたらしき男性同士の組もいた。今朝、十三番区の東半分一帯に広がる女衒街へ魔帝軍が放った魔導式陣砲の砲弾が着弾して娼館が何個か全壊した。それでも客は女衒街を訪れるのだ。来客の表情には自棄があった。娼婦や男娼には危機を目前に自分たちの生活をどう変えたら良いのか判断がつかない諦めがあった。

 そんな光景のなか、ツクシとゴロウは年季の入ったカウンター・テーブル席で肩を並べて昼食を食べている。

「ああよォ、ネストからはねずみが掘った地下道が、そんな南まで続いていたのかァ――」

 ゴロウが深皿のクネーデル――じゃがいも団子のトマト・ソースあえを食う手を止めた。

「そうだ、実際、煙草葉やらラム酒やら米粉やらと南国からの輸入品が王座の街には溢れていただろ。ネストから南のコテラ・ティモトゥレ首長国連邦まで太い地下輸送路が通っているのは間違いねェ。そのねずみの地下道なら魔帝軍に包囲された王都からの脱出経路に使える。どうも、メルロースの娼婦連中――チョコラたちもその経路を使って王都を脱出したらしいな」

 ツクシはデキャンタから南方産ワインを杯に注ぎ一息に呷った。そして、その渋みと酸味に顔をしかめた。この不味いワインでも物品が不足する王都では贅沢品になった。

「ツクシ、そうなるとよォ、俺の王都は――」

 ゴロウはうなだれた。

「他の奴らが――ギルベルトやオリガやその他のタラリオンの上層部が、どう考えているか俺は知らん。だが、少なくともジークリットのクソ野郎が王都を見限ったのは間違いないと見ていいだろうぜ」

 渋い顔のままツクシはゴロウの杯へ赤ワインを注いだ。

「――ああなァ」

 ゴロウはうつむいたままツクシの手で満たされた杯を眺めている。

「すぐゴロウの周辺の連中にも伝えろ。ただ、声をかける人数は適当にしとけよ。助けたい全員はおそらく無理があるぜ」

 ツクシは深皿のじゃがいも団子をフォークで突き刺した。

「ああよォ――」

 ゴロウの髭面が上がってこない。

「まず、ミシャに声をかけろよ。あれは身重なんだろ。これだけ空襲が続いていれば王座の街へ避難するだけでも迷わない筈だ。俺の心情的にも、ヤマさんの一粒種をあとの世の中へ残してやりたいしな」

 ツクシはじゃがいも団子を食った。じゃがいもだけは、戦火が及んでいないドワーフ公国で栽培が盛んなので、戦時下の王都でも比較的安価な食材だ。

「そう、だなァ――」

 ゴロウがようやく赤ワインの杯を手にとった。

「もう騎士の爺様へ――バルカへ話をつけた。明日には王座の街へ続くエレベーターが管理省の許可証がない一般人でも自由に使えるようになるぜ」

 ツクシはじゃがいも団子で頬を膨らませた顔を向けたが、

「王都は廃都かァ。はァ、参ったよなァ――」

 ゴロウは杯を手に持ったままじゃがいも団子の深皿をぼんやり見つめていた。

「おい、この赤髭野郎!」

 ツクシが煽った。

「――あァ?」

 何呼吸分も遅れたゴロウの返事だ。

「しっかりしろ、へろへろしやがって。女将さん――エイダにも俺から話をしてあるんだ。あとは悠里たちにも、この話をしておこうと思ってる」

 顔を歪めたツクシがいうと、

「――アルさんの団は前線から無事に帰ってきたのか?」

 ゴロウがようやく顔を上げた。

「ああ、今日の夜に俺の宿へ帰ってくるらしい。女将さんが連絡が受けたみたいだ。まったくもってしぶとい連中だぜ。誰も死体になっていねェとよ」

 ツクシが口角を歪めて見せた。

「――そいつァ、良かった。そうか、死んで帰ってくる連中ばかりでもねえか――おっしゃ、ツクシ。俺はまずミシャとローザのところへ行ってくるぜ」

 ゴロウはじゃがいも団子を口のなかへ全部詰め込み、それを不味い赤ワインで腹へ流し込むと席を立った。

「おう、ゴロウ、その意気だ」

 ツクシの声がゴロウの背を押す。

 ゴロウはやどりぎ亭を足早に出ていった。

 覇気が戻った大きな背を見送ったツクシはじゃがいも団子を綺麗に食べ終えて、デキャンタに残った不味いワインも空にした。

「さて、俺も行く。ごちそうさん――」

 ツクシも席を立った。

「――あっ、ちょっと待って、ツクシ」

 やどりぎ亭の女将さんがツクシを呼び止めた。

「どうした、やどりぎの女将さん?」

 外套を小脇に抱えたツクシが振り向くと、

「お勘定、お勘定。じゃがいも団子二人前とそのワインで銀貨四枚と小銀貨三枚だよ。ごめんねえ、戦争の所為で何でもかんでも値段が高くなっちゃってさ」

 だそうである。

「ああ、ゴロウ、また俺に勘定を押し付けたな。今度こそ、マジでブチのめしておくか。あの野郎と一回も殴り合いをせずに日本へ帰るのは、男の未練が残るってもんだろうぜ――?」

 ツクシは油の染みた木の床をガリガリ睨みつけながら、しばらく自問自答を繰り返したが、

「まあ、もうじき、この世界の金には用がなくなるしな――」

 最終的には諦めの境地に達して財布を取り出した。

「やどりぎの女将さん。釣りはいらねェから取っておいてくれ」

 渋面のツクシが格好をつけて卓に置いたのは金貨が一枚だ。

「おや、こんなにもらっていいのかい。ありがとね!」

 やどりぎ亭の女将さんは丸々とした笑顔になった。


 §


 ゴルゴダ酒場宿だ。

 早朝から従業員は目が回るほど忙しく、朝一番から訪れた客はとにかく騒がしかった。アルバトロス曲馬団が帰還した。それ以外の冒険者もカウンター席や丸テーブル席を埋めて荒々しく酒を酌み交わしている。丸テーブルの上には用意できる限りのご馳走と酒があった。今朝のゴルゴダ酒場宿はアルバトロス曲馬団とその他の冒険者の面々が貸し切っている。

 久方ぶりにゴルゴダ酒場宿が野郎どもの喧騒で揺れていた。

 朝からは酒を飲まない。

 今日一日限りで禁を破ったツクシはエールの杯を片手に悠里へ訊いた。

「おい、クラウンの姿がないぞ。お前らの団からは死人が一人も出なかったと俺は聞いたがな。あいつはどうした?」

「――ほも、あの女は僕たちとは別働でう」

 ツクシの横の席で悠里はロースト・チキンを手で裂きながら、それを口一杯に頬張っている。「ああ、戦地ではまともなものはひとつも食べられませんでした!」悠里は昨日の深夜、大いに嘆きながら帰ってきた。

「――別働って何のことだ?」

 ツクシが眉根を寄せた。

「ツクシさん、クラウンはすごく悪い女なんですよ。もういっても差し支えないと思うのでいっちゃいますが、あの女の正体は名もなき盗賊ギルドの幹部です。それも、ギルドの暗殺部門の統括責任者をやっていて、最悪に危険でヤバイ女です。深く関わらないほうがいいですよ。ちょっとした気まぐれで、あの女に殺されても、文句いえませんからね。あの女はそれが本職ですから」

 ロースト・チキンの骨をしゃぶる悠里である。

「――その忠告、ちょっと遅かったな」

 ツクシはズッキーニとサラミのカルパッチョを指でつまんで口へ放り込んだ。

「――えっ!」

 悠里がロースト・チキンを裂く手を止めた。

「いやいや、何でもねェ。だいたい、悠里は知らなくていいだろ。お前は女に興味もないんだろうしな」

 ツクシはエールの杯を呷って口角を歪めて見せた。

「――ツクシ。それを空にしたら俺の杯を受けてもらおうか」

 左隣に座るアルバトロスがいった。その手に赤ワインの瓶がある。タラリオン王国はアルーノ・リーベル地方産。今では極端に入手し辛い銘柄だ。

「アルさん、仕事前に飲み過ぎじゃないのか?」

 ツクシが空の杯を突き出した。

 唇の端を歪めたアルバトロスは黙ってツクシの杯を赤ワインで満たした。

「ツクシさんも飲み過ぎじゃあないですか?」

 へらへら笑顔の悠里が混ぜっ返したが、

「さっきから、何度もいっているけどな。アルさんも南へ逃げろよ。俺は親切心でいっているんだぜ」

 悠里の笑顔を無視したツクシは唸った。

 アルバトロスはツクシへ視線を返さずに、じゃがいものチーズ焼きをナイフとフォークで口へ運んでいる。じゃがいもが好きらしい。

「それにアルさん、その格好は何だよ。個人の自由信奉者の冒険屋が何で今になって、そこまで王都にこだわる。俺は納得いかないぞ?」

 ツクシが酒精と一緒に不機嫌をカッと吐いた。アルバトロスは全身を高級導式具で武装装飾している。椅子のもたれには緋色の王国陸軍服がかかっていた。背もたれの角に緋色の鍔広帽子もある。

 アルバトロスは三ツ首鷲の騎士の正装だ。

「その格好になると、どいつもこいつも、ダンマリが専売特許になるのか? まあ、いいや、まずは先に悠里のほうだ」

 ツクシは不機嫌な顔を悠里へ向けた。

「はい、ツクシさん」

 悠里もツクシをまっすぐ見つめた。

 お互いの顔が近い。

 男同士である。

「――悠里はこれからどうするんだ?」

 思い直したツクシは真正面を向いて悠里と話をすることにする。

「やだなあ、ツクシさん。さっきもいったじゃないですか。僕はおやっさんにくっついていきますよ。僕は異世界こっちに迷い込んだときこのひとに拾われましたからね。だから、最後までおやっさんに付き合います。それが順当でしょう?」

 悠里がピッチャーを手にとって空になったツクシの杯へエールを注いだ。

「――悠里、あのな。この王都はもう政府から見捨てられたんだ。さっきからずっとそういっているだろう?」

 ツクシがエールの杯を一息で空にして悠里を睨みつけた。

「まあ、ツクシさん。僕は何があったって平気な身体ですからね。戦争といっても気楽なもんですよ。痛いのは嫌ですけれど、あはっ!」

 悠里はへらへら笑っている。

「お前が死なない体質なのは知っているが――でも、悠里のご主人様――アヤカ嬢ちゃんがどうかなると悠里も一緒に死ぬんじゃないのか?」

 ツクシは同じ丸テーブル席にいたアヤカを見やった。アヤカは直径四十センチ以上あるベークド・チーズケーキをたった一人で抱え込み、フォークでもって「はっしゅはっしゅ!」と必死に食べている。

 ツクシが辛抱強く待っていると、

「――ツクシ、この次元の世界だけに縛り付けられているていどの虫けらどもが、神様の私をどうこうできると思っているの?」

 アヤカがツクシへ視線を送ってきた。肌にチクチク刺さるような棘々しい態度であり眼光だ。ツクシは馬鹿でかいチーズケーキを見て胸焼けがしていた。

「ツクシ、アヤカ嬢ちゃんは東の前線で魔帝兵の屍山血河を作って帰ってきた。すべて嬢ちゃん単体の戦力だ。あれは何個中隊を全滅させたかな?」

 アルバトロスが悠里を見やった。

「ほもほも、ツクシさん。アヤカなら、全然心配はありませうん」

 悠里はロースト・チキンで頬を膨らませたまま頷いた。

「思い出したくない。久々の贅沢な朝めしが不味くなる」

 眉を寄せて呟いたのはカルロである。

 カルロは生ハムをつまみにして白ワインを飲んでいた。

「でも、あのときは、完全に敵から包囲されたからなあ。アヤカがいなかったら、本当にヤバかった」

 この発言はロランドだ。ロランドはエールと一緒にチキン・リゾットを食べている。最近になって南国から多く輸入されるようになった米をロランドは気に入ったらしい。

「あれで助かったといえばそうよね」

 ロランドの横で頷いたフェデルマは珈琲を飲んでいる。

「あうっうっ――!」

 ありあわせ肉包みパンを両手にもったフレイアが呻いて、顔の前についた大量の護符を散らした。その顔の向いた方向を見るとフレイアはアヤカに怯えているようだ。

「――まあ、アヤカには感謝をしていますわ」

 マリーがツンといってアヤカを見やった。そのアヤカは誰にも視線を返さずベイクド・チーズケーキを黙々と食べている。

 今日のツクシは帰還したアルバトロス曲馬団と一緒に酒つきの豪勢な朝食をとっている。荒々しい冒険者たちにホールの客席はすべて占拠されていて他に座る場所もないのだ。

「悠里は、まあ、いいか――こいつは何しても死なないからな――」

 ツクシが嬉しそうに自分へお酌をする悠里を苦々しく見やった。

「俺のことよりだな」

 そのツクシを見やったアルバトロスである。

「俺のことより何だ、アルさん?」

 ツクシが訊くと、

「俺はロランドたちの今後をツクシに頼めないかと思ってるんだ。こいつらは、すぐにタラリオン王都を脱出して南に向かう」

 アルバトロスがフォークの先で、ロランドとその左右にいるフェデルマ・フレイア姉妹を指し示した。

「ああ、大丈夫ですよ、アルさん。俺たちはいざとなったら、レベッカさんの支援でどうにでも――」

 ふにゃふにゃ頼りない笑みを浮べたロランドの口へ、

「ロランドは黙っていなさい!」

 鋭く一喝したフェデルマが手にあったありあわせ肉包みパンを捩じ込んだ。その動作は、キレのある右フックであり、ありあわせ肉包みパンは拳ごとロランドの口へ突入した形になる。

「――もがっ!」

 ロランドは元々青白い顔をさらに青くした。

「ロランドって何でも喋っちゃうよね。レベッカさんたちのことは秘密にしておかないといけないのにい」

 ありあわせ肉包みパンをモグモグするフレイアである。

「ロランドは落ち着きがないのよ。わたくしよりもずっと長生きをしている筈なのですけれど?」

 マリーも籠に盛られていたのありあわせ肉包みパンを手にとった。

 ツクシはロランド一味のバタバタを眺めながら、

「ロランドと、この大人なんだか子供なんだか、よくわからねえ子供ガキ二匹――アルさん、俺はずっと気になっていたんだがな?」

「何だ?」

 アルバトロスはナイフとフォークの先で皿の脇にあったベビーリーフと生ハムのサラダを器用に丸めた。

「ロランドたちは、どんな『ワケアリ』でタラリオン王国にいたんだよ。こいつら三人はどう見たってヒト族じゃないだろ?」

 ツクシはロランドたちへ聞こえるようにいったが誰からも返事はない。謎の三人組が特別気まずそうにしているわけでもない。強いていえばロランドはまだ胸を叩いて悶絶している。眉を寄せたマリーが席を立って「だらしないわね!」とツンツンいいながら、ロランドの背中をバンバンとぶっ叩いた。ロランドはありあわせ肉包パンを喉に詰めている。横のフェデルマは珈琲を飲みながら涼しい顔だ。

「――ま、色々あるんだ。ロランドたちは俺の預かりだった。民間人に紛れていたほうが安全だからな。それに冒険者は定住をしない。追う相手も足取りを掴みにくい」

 アルバトロスの曖昧な発言である。

「アルさんのところはどうか知らん、俺のほうは保育園じゃねェんだぜ」

 ツクシは口角を歪めた。

「ツクシ、子守をしてくれって話じゃない。ロランドの剣の腕は保証するぞ。フェデルマとフレイアだって見た目は幼いが凄腕だ。一緒にいれば必ずツクシの役に立つ」

 アルバトロスがフォークの先にあった生ハムサラダを口へ運んだ。

「アルさんにも随分と世話になったからな。『良し、それは俺にまかせろ』と胸を叩いて男を上げたいところだが――こいつらの面倒を見ろといわれてもなあ、俺はネストの最下層から日本へ帰る予定なんだぜ?」

 ツクシが顔をしかめた。

「ああ、ううん、それも、そうだよなァ――」

 サラダを呑み込んだアルバトロスが視線を上にやった。

 料理油が幾層にも染みついたゴルゴダ酒場宿の高い天井だ。

「――ああ、そうだ。女将さんへ、ロランドたちの世話を頼んでみたらどうだ?」

 エールの杯を空にしたツクシが提案すると、

「そうかそうか、エイダがいたな。あァ、それでいい。あいつらなら俺も安心だ」

 アルバトロスが大きく頷いた。

 遺品整理をしているような気分になってきたツクシは顔をしかめながら、アルバトロスから視線を外して、

「ところで、マリー嬢ちゃんはどうするんだ?」

「嬢ちゃんですって?」

 ツンと目尻を吊り上げたマリーからの返答だ。

「――マリーは今後どうするつもりだ?」

 面倒くせえなあ――。

 そう思いながらツクシは発言を訂正した。

「わたくしは、わたくしの家族と一緒に、どこまでも逃げる予定ですわ」

 ありあわせ肉包みパンを細かく裂いて口へ運ぶマリーである。

「ほれ見ろ、マリーは賢い。アルさんもそうすればいいんだ。負け戦からは逃げの一手が最善策だぜ」

 ツクシがアルバトロスを顔を向けると、

「――わたくしはそうしろときつくいわれていますから」

 後ろからマリーの暗い声が聞こえた。

「誰にいわれてるんだ?」

 ツクシが眉根を寄せた。

「わたくしの姉ですわ、行き遅れのエーリカ姉さん――」

 マリーはじゃがいもパンを指先でめりめりムシっている。

「行き遅れのって、ひでえなあ――」

 ツクシが口角を歪めると、

「あら、これは歴然たる事実ですもの」

 マリーは眉をぎゅっと寄せた。

「――ちょっと待てよ、エーリカだと? あのツンツンした態度の、三十路女の軍人の、エーリカ陸軍少佐のことか?」

 ツクシはマリーを見つめた。長い金髪のツインテールを強烈なドリル巻きにしたマリーは、そのドリルをストレートにするとエーリカ少佐そっくりの容姿になる。

「ええ、エーリカ・カーミラ・ド・カルティエ少佐はわたくしの実の姉ですわ――お父様の事業失敗で傾いたお家を支えるために一生懸命働きすぎて、お嫁へ行きそびれた、わたくしのお姉さん――」

 マリーはうつむいて応えた。

 声が震えている。

「――ま、まあ、その話が長くなりそうだから今はいいや――それで、カルロさんはどうするつもりなんだ?」

 辛気臭い雰囲気から逃げるような態度で、ツクシはカルロへ目を向けた。

「南へ避難する女将さんたちの護衛に回る。アルにそう頼まれた。そのあとは俺も逃げるさ。タラリオン王国と心中する気はさらさらない」

 カルロは自分の杯へ視線を落としたまま応えた。いつもよりさらに言葉数が少ないカルロを見やって悠里は困った顔だ。その他のアルバトロス曲馬団の面々もどことなく、アルバトロスから目を背けている感じだった。

「カルロさんは話が早いな、それでいいと思うぜ――」

 ツクシは悠然と赤ワインの杯を傾けるアルバトロスをまっすぐ睨んだ。

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