二節 作戦名は「行動計画・死神の刃」(弐)

「どうやら、生きて戻ってきてくれたな、死神め――」

 ギルベルトが防衛基地の北を見やった。

「私はツクシを迎えに行く」

 豪華な椅子から颯爽と立ち上がろうとしたフロゥラの肩を、

「女王陛下はここから動かないでください。戦わないでください。戦闘時の女王陛下が無制限に展開するひずみ効果オーラは防衛基地に多数設置された導式機器へ悪影響を及ぼします。それに、総司令部キングを守る女王クィーンは最後の切り札です。何度いったら理解できるのですか?」

 右からはゴードンが、

「それとそれと、興奮しているご主人様の魔導式陣砲は照準が不安定で味方が超危ないです!」

 左からは、ふんふん鼻息荒いカレラが押さえ込んだ。

「――ええい、おぬしら放せ。は・な・せ!」

 フロゥラは長い黒髪を振り乱しながら脚をパタパタやった。ゴードンとカレラは無言で顔を左右に振った。彼と彼女はこの危険人物を絶対に自由行動させない気構えであったし、ギルベルトからもそうするよう厳しく注文されている。

「――ギルベルト総司令官、砲の準備が完了しました。攻撃の許可を、チュ!」

 立体情報ツリーの中央にニーニのねずみ面が大写しになった。大通路北方に設置されたトーチカからの通信だ。ワーラット兵千五百名余が常駐するこのエレベーター前防衛基地内なら、チーロ特務少尉とイシドロ少尉が構築した導信構造を通じ、音声と画像による情報交換が可能だ。基地内の通信は人面鼠の妨害を受けない実線を経由している。

「ニーニ中将、焦るな。攻撃は味方の到着を待ってからだ」

 ギルベルトが画面越しに命令した。

「チュ、ニーニ中将、クジョー特務中佐は必ずや帰還する。それを信じて今は待つのだ。チュウ!」

 ギルベルトの横でメルモは踏み台の上に乗っていた。

「イシドロ少尉、大通路北方の戦況を立体情報ツリーへ表示できるか?」

 ギルベルトが要求した。

 銃声はもう聞こえるが目視で状況を把握することはまだ難しい。

「はい、騎士殿、ええと――チーロ氏の見解は?」

 イシドロ少尉がチーロ特務少尉へ顔を向けた。

「――うーん、イシドロ氏。戦闘が始まって基地内の情報交換が活発になったら、すぐ導熱の供給を他の通信分に回さないと厳しいだろうねえ」

 チーロ特務少尉の、チリチリ丸まった黒髪がかかるうなじをポリポリと掻き毟りながらの返答である。

 頷いたイシドロ少尉が、

「騎士殿、北方に待機している導式術兵ウォーロックの視界を借りて、立体情報ツリーへ北方面戦場の映像を追加します。ただ、その情報を提示できるのはあくまで限定的な時間帯で――」

「――説明はもういい。早くやれ」

 ギルベルトは顔を真横に向けて仕事を急かした。

 不満そうに頷いたイシドロ少尉が立体情報ツリーから部隊登録票と音声通信用のシンボルを呼び出して、

「ええ、はい、じゃあ、やりますよ――デル=レイ大尉、こちらは総司令部。応答せよ、こちら総司令部――」

「――こちらはデル=レイ大尉。何とか聞こえる」

 雑音混じりの返答だ。実線を頼らない音声通信はまだ新しい技術であって、異形種の妨害工作もあるので基地の外ではなかなか成功しない。基地内部でも不安定で途切れがちなので普段は使用しない。

「――やたあ、無事に繋がったよ、チーロ氏!」

 イシドロ少尉はすごく嬉しそうだ。

 口周りにドロボウ髭を生やしたイシドロ少尉は三十路の童顔中年男である。

「昨日に調整した音声関係のプログラムは大成功だねえ。さっすがは、イシドロ氏!」

 チーロ特務少尉が親指をビッと突き立てた。

 ウィンクまでしている。

 気持ち悪い。

「実際、戦闘中の防毒兜の視覚情報へ突然文面を流すとかなり危険だから――」

 話を続けようとしたイシドロ少尉が、その横で腕組みして自分を冷たく睨みつけるギルベルトに気づいて、

「あっ、ああ、えっと――今からデル=レイ大尉の視界を司令部側でお借りしたいのです。そちらは問題ないですか?」

「――戦場はまだ遠いけど短い時間で頼むよ。とんでもない敵の数だ」

 デル=レイ大尉の返答だ。

「――了解。トーチカにある通信用の実線を大尉の防毒兜の背面にあるプラグ――3MTプラグ差込口へ接続してください」

 操作パネルを叩くイシドロ少尉の要請だ。

「――司令部。準備完了」

 デル=レイ大尉から雑音のない返答があった。

「では始めます。大尉、こちらからの干渉でそちらの視覚情報が一時的に乱れますから注意をしてください――オール・グリーン。デル=レイ大尉の視界取得を完了。立体情報ツリーへ映像を表示します――」

 立体情報ツリーに表示された大通路の北方の戦況だ。

 ボルト・アクション式ライフル銃の硝煙で視界は霞んでいる。何人かの吸血鬼が魔導式陣砲を使っているのが見えた。魔導光が着弾先した先で紫炎に巻かれた超級異形種の姿がある。遠い視界は歪んではっきり敵影は見えない。ワーラット兵の列が不鮮明な敵へ向けてストーム・エンカウンターを発砲していた。隊列を作りつつ、じわじわ撤退している特攻班は総勢四百名余いる。撤退中の特攻班の南方――後方の時空がぐらぐら揺らいだ。撤退中の方向へ多数の超級異形種が突如出現。これらは盾と槍を装備した前足のない黒駒に乗る重装の騎士の群れだ。

 この超級異形種の識別名は『悪夢を駆る騎士ナイトメア・ライダー』。

 空間を跳躍して出現したナイトメア・ライダーの大群が、ワーラット兵や吸血鬼へ槍を刺突した。二本脚の馬が高く飛び跳ねて、それに乗る騎士が上空から槍を突き入れる要領だ。特攻班は突然開始された白兵戦で混乱している。吸血鬼は身体能力の高さを活かして白兵戦も得意だが、ワーラット兵は飛び道具を奪われると非力なものだ。異形の長槍に貫かれて次々とワーラット兵が倒れていった。

 これは、総崩れか――。

 司令部で画像を見守っていたものは息を呑んだ。

 しかし、次の瞬間。

 乱戦のなかで虹の光を散らしながら、必殺の白い断線が駆け巡った。特攻班の背面を急襲していたナイトメア・ライダーは血煙を散らしながら次々と落馬する。

 魔刀を駆るものはまだ生きている――。


 ギルベルトが特攻班の撤退戦を見つめていると、爆音が司令部天幕と大通路全体を揺るがした。ビクンと身を竦めたイシドロ少尉とチーロ特務少尉が北へ視線を送った。防衛陣地の北で爆炎と粉塵が広がっている。敵襲である。各トーチカから立体情報ツリーへ割り込み通信画面が発生した。イシドロ少尉が対応のため操作パネルを叩く。北方の戦況画面の上へ、小さな画面がいくつも被さった。

「チュ、チュウ、チュウアーッ!」

 画面のなかで血塗れのワーラット兵が悲鳴を上げた。

「チュチューウッ!」

 その横に発生した画面も同様だ。

「チュチュー、チュウ、チュウッ!」

 血相を変えた(らしい)黒いねずみの顔が何か必死に喋っているが粉塵塗れになったこの彼(彼女かも知れないが)は、襟元につけている導式翻訳機を爆風で失ってしまったようだ。

 黒い毛並みのワーラット兵を横から突き飛ばして、

「――チュウ、衛生兵、衛生兵を五番トーチカへ早く回してくれ、チュウァー!」

 別のワーラット兵が悲鳴を上げた。

「総司令部、総司令部。北方から異形砲ヴァリアント・キャノンが防衛陣地へ飛んできた。敵影はトーチカから確認できない、チュウアーッ!」

 これは防衛基地北のトーチカにいたニーニの報告だった。

「イシドロ少佐、デル=レイ大尉を呼び出せ」

 ギルベルトがパイプ椅子へ腰を下ろした。

「はい、総司令部へ応答してください。デル=レイ大尉!」

 イシドロ少佐が音声モジュールへ呼びかける。

「――総司令部。こちらはデル=レイ大尉です」

 立体情報ツリーにデル=レイ大尉の若々しい顔が出現した。

 まだ少年の名残が多分にある顔だ。

「良し、生きていたな。戦況の報告を頼む」

 頷いて見せたあと、ギルベルトがいった。

「騎士殿、被害の状況を見ると、おそらく『魔女の飼い蜘蛛アラクネー』の異形砲が、遠方から防御基地まで届いたようです。しかし、おかしいですよ。奴らの砲弾は上方の仰角四十五度から飛んできた。異形砲はほぼ直線で射出される筈です。曲射射撃はまだ前例がありません――」

 デル=レイ大尉が顔をしかめた。

 識別名は魔女の飼い蜘蛛。

 この超級異形種の形状は女性型の上半身を持つ巨大な蜘蛛だ。体長は五メートル。八本の脚を広げるともっと大きい。この個体は女性型となっている上半身の胸部を開いて、不安定な空間を収束した破壊エネルギーを遠方から投射する能力を持つ。いうなれば、これは異形種の砲兵だ。

「――大尉、敵影を確認しました! 奴ら、大通路の天井にぶら下がって砲撃をしていますよ!」

 デル=レイ大尉の画面外から怒鳴り声が聞こえた。報告の通りだ。アラクネーは八本の脚の先についた鋭い爪を突き立て壁の側面や天井を移動できる。

「デル=レイ大尉と指揮下の導式術兵は偵察を続行。何か異常があったら、そちらから連絡しろ。イシドロ少尉、至急、エーリカ少佐へ繋げ」

 ギルベルトはイシドロ少尉へ視線を送った。

 イシドロ少尉が音声通信モジュールの通信先を切り替えて、

「はい、騎士殿。こちらは総司令部。エーリカ少佐、こちら総司令部です。応答を――」

「――味方の砲撃が始まるぞ。導式術兵はトーチカ背面で接近する敵影を警戒。機動歩兵は無理に突出するな、バディを組んで防壁の展開を優先、トーチカの砲とワーラット兵を防衛せよ。衛生兵は負傷したワーラット兵を救護だ、ほら、さっさと走れ、走れ!」

 返ってきたのは、エーリカ少佐が部隊へ発する命令だった。

「――騎士殿、これでよろしくて?」

 エーリカ少佐はツンと一言付け加えた。

「――それでいい。エーリカ少佐」

 ギルベルトは目を細めて応えた。

 これは笑っているわけではなく、イラッとしたようである。

 ギルベルトは一呼吸置いて、

「――曲射ができん敵の砲兵は天井に張りついて上方から基地を砲撃中か。それは逆に好都合だ。上空への反撃なら撤退してくる地上の味方を巻き込む不安がない。メルモ大将、立体情報ツリーを通して全部隊への指示を頼む」

「チュチュチュ! 天井からの仰角なら我らの陣地を狙うに容易く安全だと思うたか、浅はかな異形種どもめ。元々、この陣地に設置してあるのは超長距離射程を持つ対空砲を改造したもの。上空への射撃こそ真価を発揮する――イシドロ少尉、チュ!」

 メルモは不敵にチュウチュウ笑っている。

「了解。音声通信モジュールを基地全体へ繋げます」

 イシドロ少尉が操作パネルを叩くと、作戦テーブル上の立体情報ツリーから、メルモの前へにゅっと集音シンボルが伸びてくる。

「――では、メルモ大将、命令をどうぞ」

 イシドロ少尉が告げた。

 おもむろに頷いたメルモが、

「総司令部より全部隊へ伝令。総司令部より全防衛部隊へ伝令。敵は天井だ。繰り返す、敵は天井にいる。導式陣砲の準備機動を開始せよ、チューッ!」

「チュー、了解、敵は上だ上だ、チュ!」

「チュチュウ、砲の仰角を上方へ修正、俯角を調整――」

「敵影発見! 照準を固定。以降、自動照準に切り替える、チュチュ!」

「熱量充填を開始、チューッ!」

「収束器への熱量充填率、八〇パーセントに到達。カウントを開始します、チュ、チュウ!」

「九〇パーセント、チュー」

「九七、九八、九九、一〇〇パーセント、チュ――!」

「総司令部、いつでも撃てます、チュウ!」

 ワーラット砲兵から連絡が入った。

 それに歯車が軋む音と導式機関の起動音も交じっている。

「――掃射を開始。奴らを焼き払え、チュウァーッ!」

 メルモが勇ましく命令すると防衛基地に二十以上配置された超長距離牽引型導式陣砲から閃光が放たれた。遅れて基地全体の空気がオンオンと震える。導式陣砲は火薬を使う砲ではないので音も硝煙も出ない。しかし、砲弾が届いた大通路の天井は粉塵を散らして派手な爆音を鳴らしている。

「報告、報告、敵の撃破を確認、チュー!」

銃身バレル温度、メイン収束器、共に安定、チュー!」

「導式機関、制御系、共に異常なし、チュー!」

 トーチカ各所から報告だ。

「チュ、すみやかに次弾の装填を開始!」

 メルモは攻撃の手をゆるめるつもりがないようであった。

「イシドロ少尉」

 ギルベルトが呼びかけた。

「はい。集音シンボルからどうぞ」

 イシドロ少尉の返事と一緒に、ギルベルトの鼻先へ集音シンボルが移動してきた。

「こちらは総司令部だ。導式術兵ウォーロック班は敵の残存兵力を報告しろ。その場から見える範囲でいい」

 ギルベルトの要請だ。

「――総司令部へ、敵地戦力、識別名『悪夢を駆る騎士ナイトメア・ライダー』、数えきれません!」

「――総司令部へ、敵航空戦力、識別名『凶風人パズス』、四十以上を確認!」

「――総司令部へ、敵砲戦力、識別名『魔女の飼い蜘蛛アラクネー』、未だ敵隊列後方に多数!」

 一呼吸遅れて報告があった。

「――ご苦労。そのまま偵察を続けろ。ツクシたちはまだ基地へ帰還できんのか――」

 ギルベルトが眉を寄せて呟いたところで、

「総司令部、特攻班の帰還と安全を確認しました。チュ!」

 立体情報ツリーからニーニの報告があった。

「ようし、地上へも迎撃開始だ。手当たり次第、食らわせてやれ、斉射開始、チュウアーッ!」

 メルモの号令である。

 北方に迫る超級異形種の軍勢へ防衛基地から一斉射撃が開始された。

 エレベーター前防衛基地と、そこへ迫った超級異形の大軍勢は、お互いの足を止めて砲の打ち合いになった。メルモが構築した陣地は堅固で、ワーラット兵の士気も高く、異形砲を受けても防衛基地は沈黙しない。全体を見ると白兵戦闘力が多い超級異形の軍勢は敵の陣地と間で砲火のやり取りをしたあと、それに撃ち負けた形で異形の闇のなかへ撤退していった。


 お互いの砲火が途絶えたあとである。

「――ツクシ、帰還したらすぐに総司令部へ顔を出せ。お前は一応、中佐だろう。基地へ戻ったら上官への報告が最優先だぞ」

 防衛基地の損害をメルモや部下を引きつれて見回っていたギルベルトが、冷たい声をかけた。

 だが、その顔には明らかな安堵がある。

「チュ、ツクシとゲッコは、ここで銃を撃っていたのか?」

 メルモがねずみの顔を傾けた。

「おう、腹いせにな。ストレス解消にはなったぜ」

「ゲロロ、ギルベルト、メルモ大将」

 ツクシとゲッコは防衛基地の北寄りのトーチカのなかにいた。ツクシはボルト・アクション式ライフル銃を持っている。ワーラット兵が持っていた銃を引ったくって、トーチカにある銃眼から敵へ発砲を繰り返していたようだ。ツクシの横で自分の武器を奪われたワーラット兵が所在なさげにしている。

 ツクシはワーラット兵へ銃を返して、

「ギルベルト、すぐ衛生兵を呼んでくれ」

「どうした、どこかやられたのか?」

 ギルベルトが眉を寄せた。

 粉塵をかぶったツクシは薄汚れているが血に塗れている様子はない。

「俺じゃねェ、ゲッコだ」

 ツクシが視線を送ると、

「ゲロゲロ――」

 ゲッコが顔を上げた。

 ゲッコの左目が潰れている。

 そこから噴出する血が黒く固まりかけていた。

「目をやられたのか――ツクシ、ゴロウはどうしたんだ。まさか――?」

 ギルベルトがはっきり顔を歪めた。

「いや、ゴロウは他の怪我人を当たってるぜ。ゲッコの生命に別状はねェ。だが、すぐ治療をしないと――」

 ツクシが吐き捨てるようにいった。

「ゲロ、師匠、コレシキ何トモナイ」

 横のゲッコは正座のまま強がったが、ゲッコは全身ウロコが剥がれて血塗れだ。

「銃弾が直撃してもビクともしないゲッコに超級異形種は手傷を負わせるのか――」

 そう呟いたギルベルトへ、

「おい、ギルベルト、遊んでいる衛生兵はいねェのかよ!」

 ツクシが怒鳴った。

「ツクシ、見ての通り衛生兵は手一杯だ――」

 ギルベルトが背後へ顔を向けた。導式エレベーターの近くにある負傷者収容用の天幕へワーラット兵が負傷者を運び入れている。なかに入りきらず外に寝かされているものも多い。そこを衛生兵やら吸血鬼やらが右往左往しながら治療を行っている。生命の奪い合いをしたあとでは生命を救うための戦いがあった。治療者の怒号と負傷者の悲鳴が交互に聞こえてくる。ツクシはしばらくギルベルトを睨んでいたが、やがて、視線を落とした。

「イシドロ少尉、消毒液とバンテージを貸せ。ゲッコの止血をする」

 ギルベルトが近くにいたイシドロ少尉へ声をかけた。

「あっ、はい、騎士殿。あっ、背嚢、背嚢を忘れたよ。チーロ氏、持ってる?」

 イシドロ少尉は導式通信機を背負っているが背嚢を持っていない。

 横にいたチーロ特務少尉が背嚢を下ろして、

「イシドロ氏、僕の背嚢に確か救急セットが、ああこれは違う――」

「あっ、何、何、その小型の――チーロ氏、それって情報端末?」

「さあて、何なんだろうねえ?」

 そういったものの、ニンマリと粘度のある笑みを浮べたチーロ特務少尉は訊いて欲しそうな態度だ。

「んもー、教えてよ教えてよう、チーロ氏ィ!」

 イシドロ少尉がくねくねした。

 泥棒髭を生やした中年童顔男がこの仕草だ。

 本当に気持ち悪い。

「これはお手製の導式通信機だよ。気合で小型化してみた、ニッシシ!」

 チーロ特務少尉が小型の導式通信機を手にとってネトネト笑った。

「おおっ、こっ、これを自作とは流石チーロ氏でござるよ!」

 イシドロ少尉のメタ発言だ。

「――早くせんか、この馬鹿ども!」

 ギルベルトが怒鳴った。この冷静沈着が売りの男が怒鳴り声を上げるのはとても珍しい。重責を負っているので色々と溜め込んでいるものがあるのか、それとも今単純にムカついているのかは、よくわからない。

「――はい、申し訳ありませんでした、騎士殿!」

 揃った返事と一緒に、ようやく背嚢から救急セットが出てきた。

 ツクシは革水筒のハーブ・ティーを飲んでゲッコへ回した。

「感謝、感謝、師匠――」

 ゲッコは開けた口へハーブ・ティーを流し込んだ。

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