十二節 炎姫降臨(壱)

 胡座をかいた山羊頭の半獣人が、周辺に集まった異形人に説法をしている浮き彫りの真下だ。大通路の壁際に団員の亡骸が並べられた。団の荷が軽くなったあとで、これらの亡骸をリヤカーに乗せて地上の墓へ納める予定だ。謎の導式剣術兵ウォーロック・ソードマンの死体もおおむねは回収されている。敵への恨みがこもっているのか。それらは一箇所へゴミのように積み上げてあった。死体の山の脇へは禁断の導式兵器――一〇年式改ソリウム・トキシック・エヴォーカーがまとめて置かれている。この兵器を警戒したアドルフ団長が団員へ敵兵の死体の回収を命じた。

「――ゾラ、ボゥイ」

 ツクシが呟いた。

 足元にボゥイとゾラの亡骸が並んでいる。

「ゲロロ――」

 口を閉じままゲッコが喉の奥で鳴いた。

「ドワーフ野郎どもも、こんなに死んだのかあ――」

 アドルフ団長は改めて犠牲者の数を確認して呻いた。

「兄弟たちよ、すまぬ、俺はまた生き残ってしまった――」

 近くでうなだれていたイーゴリが声を震わせた。

「それをいうな、イーゴリ兄」

「兄弟は皆、立派に戦って死んだのだ」

「イーゴリ兄、死んだ兄弟を笑顔で見送ってやれ」

 周辺のドワーフ戦士が――この戦場を生き残った二十名余のドワーフ戦士がイーゴリの肩を抱いたのだが、

「でも、それでもなあ、ぐっう――」

 イーゴリは肩を震わせて泣きだした。戦闘が終わると、イーゴリは気弱なドワーフの中年男に戻ってしまうのだ。

「生きてさえいればよォ――」

 ゴロウが髭面を歪めた。

「俺たちが治せ――」

 これ以上いうと涙がこぼれる。

 リュウは言葉を切ってうつむいた。

「ゾラの美貌がひどいことに。あんな危険な兵器を使用するなんて非道な――」

 フィージャが厳しい表情で唸った。

「残酷じゃな――」

 シャオシンが暗い顔で呟いた。

 腐食瓦斯を浴びたゾラの顔は左半分が崩れている。

 ツクシは腰を屈めて半分だけ美貌を残したゾラの死に顔へ手ぬぐいをかけると、

「なあ、アドルフ」

「何だあ?」

 アドルフ団長がツクシの背を見つめた。

「どうして、エルフ族のゾラがお前らの団にいたんだ。スロウハンド冒険者団の団員は、ほとんどがタラリオン王国陸軍の兵隊崩れなんだろ?」

 ツクシは背を見せたまま訊いた。

「ゾラは性癖がアレだったからなあ。それで、故郷に居辛くなって、ミトラポリス――グリフォニア大陸の中央まで流れてきたらしいな」

 アドルフ団長は顔を隠したゾラの亡骸を見やった。

「セクシャル・マイノリティへの差別を避けて、ゾラは故郷を捨てて北大陸くんだりまで流れてきたのか?」

 ツクシが呟くように訊いた。

「セクシャル? マイノリティ? ああ、性的少数派ってところか――ツクシは、たまに難しい古語を使った言い回しをするなあ。たぶん、そうなんだろうなあ。エルフの国は一夫多妻制らしいからよお。それで故郷にいた頃、ゾラは色々あったんだろうなあ――」

 アドルフ団長も呟くようにいった。

「――そうだったのか」

 ツクシの声はいつもと変らないような響きであったが、いつも近くにいるひとなら察知できるだろう。

 その低い声が震えていた。

 ツクシは憤っている。

 激怒している。

「俺も詳しく知らねえんだ。ゾラをこの団へつれてきたのは前の団長――ロジャーだったからなあ。何でも冒険者になる前のゾラはエルフォネシア連邦陸軍の佐官をやっていたって話だったが――まあ、それを訊いたところでよ。ゾラもゾラで自分の過去を話したがらない奴だったしなあ――」

 アドルフ団長はうなだれた。

「それでこいつらは何者だよ。以前、似たような道具を、あのオリガも使っていたが――」

 ツクシが敵兵の死体の山へ歩み寄った。

「ツクシ、そいつらは全員、導式剣術兵ウォーロック・ソードマンだぜえ」

 アドルフ団長が教えた。

「――アドルフ、もっと、わかりやすくいえ」

 ツクシが抗議した。

 ものすごい不機嫌な顔である。

 アドルフ団長が困った顔でツクシへ視線を返していると、

「ああよォ、ツクシ。そいつらは王国陸軍の特殊部隊だ」

 代わりにゴロウが説明した。

「ああ、レンジャー部隊だな。まあ、そんな感じだったぜ。毒のほうはもう危険がないのか?」

 ツクシが死体の山の傍らで片膝をついた。

「その忌々しい収束器が機動してなきゃ平気だ。大気を毒化していた結果は跡形もなく消える」

 ゴロウは床に積み上げられた深緑色の導式陣砲収束器の山を睨んでいる。

「そうか、それなら、こいつらの面を拝んで、唾を吐きかけてやる。メキシカンスタイルのプロレスラーかよ。ふざけた仮面をつけやがって――おい、外れねェ」

 ツクシが、カッ、とゴロウへ不機嫌な顔を向けた。

「あァ、俺がやってやる。この白い兜も導式具なんだろ。たぶん、軽級精神変換ナロウ・サイコ・コンヴァージョンで面当ての開閉をする筈だ――」

 ゴロウは溜息を吐きながら防毒兜の側面へ手を置いた。

 その動作だけで面当てがするりと上へ跳ね上がる。

「――何だァ、この顔は?」

 ゴロウは防毒兜の下にあった敵の死に顔を見つめた。

「こいつ、鼻がないぜ。唇とまぶたもないのか――?」

 ツクシは眉根を寄せた。

「不自然に真っ白な肌。この顔は不死身の白子グレンデルと似ていないか?」

 リュウがツクシの傍らで顔を強張らせた。

「匂いはヒト族ですがね。ヒト族ではないのでしょうか?」

 フィージャが首を捻った。

「髪の毛も眉毛もないぞえ。つるつるじゃ――」

 シャオシンが呻き声を上げた。

「おい、野郎ども、他の死体も確認しろ」

 アドルフ団長が周辺の団員へ声をかけた。

「そっちはどうだ?」

「こっちもだ、同じ顔だ!」

「同じだ!」

「こっちもだぞ!」

「何だよ、こいつら?」

 防毒兜の下から出てきたのはすべて同じ顔だった。

 ぬるりつるりとした白い顔である。

 あとの特徴といえば、その歯が全て剣のように尖っていて青黒い――。

「――何てこった。本当に全員が同じ顔なのかあ?」

 アドルフ団長が後ろへ撫でつけてある自身の黒髪を掻きむしった。

「いや、これだけは違う、ひとの顔だ!」

 若い団員が声を上げた。

「こいつ、ゲバルドだ」

「メンヒルグリン・ガーディアンズのゲバルド・ナルチーゾだぞ」

「襟元の階級章は金星ひとつ――」

「王国陸軍少佐――」

「ゲバルドは平民出身じゃあなかったのか?」

「市民階級は佐官になれん筈だろ?」

「本当は貴族様だったのか?」

 団員たちが口々に呻き声を漏らした。

 最後に、

「死んだら平民も貴族もねえぜ。死人は死人だ。このクソが!」

 若い団員が少佐の死体の脇腹へ蹴りをぶちこんだ。そうしたところで死体は何も語らない。その若者の憤りは体温を失った少佐の身体を揺らしただけだ。

「――何故だ、ゲバルドは何を考えていやがった?」

 アドルフ団長が呟いた。

「このよくわからんレンジャー部隊の隊長はゲバルドだったのか。そうなると、王国軍が――ネスト管理省が俺たちの生命を狙ったってことになるのか?」

 ツクシが訊いた。

「王国軍の司令部が――三ツ首鷲の騎士団が民間人を虐殺しろなんて指令を出すとは、とても思えねえがよお?」

 アドルフ団長が顔をしかめた。

 ここにいる全員が沈黙していた。

「――ゲバルドが本物の厄病神だったってことなのか? この野郎、ふざけやがって!」

 ツクシは独り、怒鳴った。

「全員が全天候型視野獲得装置付きの防毒兜を装備。周辺の視界を確保しておかないと危険だろうな。全体、大通路の照明をちゃんと確保しておけよお!」

 アドルフ団長が怒鳴り声で指示を飛ばすと、大通路に照明弾が飛び交って周辺の視界がさらに明るくなる。

「――南の遠くに見えるのは何じゃ?」

 シャオシンが首を捻った。

「何でしょうね、ご主人さま。向こうで生き物が動いている気配はありませんが?」

 フィージャが獣耳と鼻先を使いながら大通路の南方へ目を凝らした。

「ゲロゲロ?」

 横のゲッコも南の遠くをじっと見つめた。

 この獣人二名の視力だけはヒト族のそれと大差がない。

「おい、コウイチ、南に転がっているのは何だ?」

 アドルフ団長が導式ゴーグルを使っていた中年の団員――戦闘中にボゥイ副団長の手当てをしていた団員へ声をかけた。この中年の団員をコウイチというようだ。

「――南に腐食瓦斯はないな。視認できる敵影もなしだ。だが死体は転がっている。全員が陸軍の装備。数は百前後――」

 コウイチ団員が報告した。

「あれは全部、王国陸軍兵士の死体なのか?」

 アドルフ団長が呟いた。

「ああ、それは間違いない。アドルフ団長、どうする?」

 コウイチ団員が導式ゴーグルを額へ引き上げた。

「――疲れているがなあ。状況が状況だ。安全を確認しないといかんだろお?」

 アドルフ団長が諦め顔でボヤいた。

 

 スロウハンド連合は慎重に南へ移動した。目標地点に到達した時点で、まず周辺の脇道へ偵察を派遣する。本格的な探索ではない。照明弾を撃ち込んで敵が潜んでいないか確認するていどだ。

「おい、様子はどうだあ!」

 アドルフ団長が怒鳴り声を飛ばすと、

「視認できる敵影なし!」

「敵影なし!」

「こっちも異常なしだ!」

 団員の返答である。

「匂いも音も異常なし」

 フィージャも応えた。

「ゲロゲロ、ゲーロ!」

 ゲッコも大声で鳴いたが、腹が減っているのか、何だかやけくそ気味である。

 鳴き声に意味もなかった。

 大通路の南にあったのはすべて王国軍兵士の死体だった。導式機動鎧を装備したもの、導式術兵のもの。新式銃を持ったもの、それに、先ほどツクシが相手にした導式剣術兵姿の死体もある。

 ツクシが物珍しさで足を止めた。

 女性兵士の亡骸だ。様々な損害を受けてバラバラになった周辺の死体と違って、その女性は綺麗に見える。ツクシは膝をついた。隣にいたリュウも女性兵士の亡骸を見つめた。よく見ると亡骸の胸に裂傷があった。

「――皮膚の表面に腐敗水泡。角膜が完全に濁って死後硬直が緩解。殺されたのは三、四日前だ」

 ツクシが持ち上げていた死体の腕を放すとだらんと落ちた。

「――ほう、詳しいな、ツクシ。医術の心得があるのか?」

 リュウは感心した表情だ。

故郷クニで死体を眺める商売をしていたことがあった」

 ツクシは無感動な声で応えた。

「――葬儀屋か?」

 リュウが小首を傾げた。

「似たようなものだろうな。警察ポリなんて事後処理が専門だからよ」

 ツクシが立ち上がると、

「おい、来てみろ! こっちの死体はルシアだぞ!」

 大通路にダミ声が響き渡った。

 あっちこっちカサカサ動き回って周辺の死体を確認していたゴロウである。

「アドルフ、これはどういうことだ?」

「アドルフ、ここにある死体は全部、王国陸軍の制服だよなァ?」

 同時に尋ねたツクシとゴロウは肩口から二つに割れたルシアの亡骸を見下ろしている。

「ああ、間違いねえ。軍服も装備も軍のものだ。階級章は三ツ金星。ルシアは王国陸軍大佐だったのか。こんな高い地位の佐官が現場にいるってことはだ。ルシア・トルエバは幕僚運用支援班所属――厄病神カラミティってことでまず間違いはねえんだろうが、なあ――なあ、お前らどう思う?」

 アドルフ団長は周辺に集まってきた団員たちへ困惑した表情を見せた。

「この切り口を見ると、ここに転がってる兵士を殺ったのは、あの白い顔の兵隊が使っていた赤い剣だよな?」

 ツクシが訊くと、

「ああ、最近、軍が開発した赤色導式機関剣だ。最新型だぜ。たいていのものはこれで切れる」

 アドルフ団長が頷いた。

「もしかすると、ゲバルドが手勢を――あの白い顔の兵士を引きつれて反乱を起こしたのか?」

 ツクシが首を捻った。

 発言した直後にはもう懐疑的だ。

 どうも辻褄が合わない――。

「この状況を見ると、そんな感じだけどよォ?」

 ゴロウが兵士の死体のひとつひとつへ視線を巡らせた。

「そう見えるが――だが一体、何のためにだあ?」

 アドルフが悪人面をへし曲げた。

「ネストで反乱軍を決起しても、ゲバルドに何の得もないよ。政変を目的に地上で行動を起こすのならともかくだよ。しかも、あんな少人数で?」

 イーゴリも怪訝な顔だった。

「フィージャ、敵はまだいるのではないか?」

 リュウが眉を寄せた。

「いえ、何度も確認しましたが、もう周辺で生き物の物音も匂いもありません」

 それでも、フィージャは獣耳と黒い鼻先を使ったあとに応えた。

 ルシア大佐の亡骸を取り囲んだ連合の面々は、それぞれが沈黙をして、各自の考えを巡らせていたが――。

「――わけがわからんな」

 ツクシが不機嫌に唸ると周囲の面々も一様に頷いた。

「わけがわからないだけに薄気味が悪いよなァ――」

 ゴロウが髭面を歪めた。

「アドルフ。団の仕事を――探索をこのまま続けるのか? 俺はさっきからイヤな予感がするんだよ。上手く説明はできねェが、何だろうな、これ――」

 ツクシが顔をしかめた。

 頭のなかでちりちりと音が鳴るような感覚がある。

 目眩もするし耳鳴りもする。

 ただおかしなことに気分が悪いわけではない。

 疲労の所為かな――。

 そんなことを考えている間に、ツクシを苛んでいた感覚は消え去った。

「ツクシさんのいう通りだ、アドルフ団長。この階層は、まだ何か『罠』がありそうな気配だよ。もっとも、これだって、俺のカンだけど――」

 イーゴリもツクシと同意見のようだ。

「だが、もうここに敵はいないんだぜ。探索データを持って帰れば金になる。死体は置いておくと腐っちまうからな。それは団員から何人か割いて地上へ運搬すりゃあいいだろ。ゾラやボゥイの埋葬に付き合ってやりてえのはやまやまだが――生きている奴らを何とか食わせていかんとなあ――」

 アドルフ団長が視線を落としたまま呟いた。

 責任で重くなった男の声だった。

 いつの間にか散開していた団員たちが、

「見ろよ、この収束器はクアドラ改だぜ!」

「おっ、銃も最新式――ボルト・アクション式突撃銃だぞ!」

「うひょお、回転弾倉式拳銃も持っていやがる!」

「機動歩兵が使ってたのは最新のΕイプシロン型導式機動鎧だな。損傷が軽度ならひっぺがして持って帰りたい」

「こっちのリヤカーに積まれている備品、まだ使えるものばかりだぞ!」

「瓶詰め各種に――おっ、こいつは上等な生ハムだ、乾燥パスタも!」

「粉末ミルクに真っ白な砂糖。紅茶葉まであるぜえ!」

 団はここで全滅した部隊が運んでいた備品や装備品を手に歓声を上げている。

「仲間を殺られた腹いせだ。使えるものは全部もらっておけえ!」

 アドルフ団長が弾んだ声で怒鳴った。

 もっとも、その指示を出す前に、団員は各自手にとったものを持ち帰る気満々のようであったが――。

「――ハゲタカどもめ」

 ツクシが口角を少し歪めた。

「まったく、たくましいよなァ――」

 ゴロウは歯を見せてニヤニヤしている。

「やっていることは、山賊や海賊とあまり変わらん」

 リュウは苦笑いだ。

「ゲロゲロ、アドルフ団長、食ベ物、アルカ?」

 ゲッコが訊いた。

「そういわれると、お腹が減ってきましたね――」

 フィージャが気恥ずかしそうにいった。

「生きている奴が死人を食うのは自然の摂理だ。この周辺で野営に入るか。夜半を過ぎてるし、これ以上続けて活動するのは限界だろうなあ――」

 アドルフが周辺を見回しながらいった。

 死体が多くても、もう敵はいない。

「――ああ、アドルフ、それは違いねェ。おう、シャオシンはどこだ?」

 ツクシが怪訝な顔になった。

「あァ、あんなところにいるぜ。おーい、シャオシン、それでもあまり離れるなよォ!」

 ゴロウがシャオシンを見つけて声を張り上げた。シャオシンは大通路の南で照明が確保されていない南方――闇が濃い方向を見つめている。

「ゲロロ?」

 ゲッコが一声鳴いた。

「おい、ひとりで行動をするな!」

 リュウが怒鳴った。

 シャオシンは振り返らない。

 声は届く位置にいるのだが――。

「ご主人さま! まったく、何を考えているのか――」

 フィージャが無い眉根を寄せた。

「ああ、フィージャ――俺がいっても――まだ、駄目だと思う。お前に頼めるか?」

 リュウが気まずそうにフィージャへ視線を送った。

「――はい、もちろん」

 白い牙を見せたフィージャがシャオシンに駆け寄って、

「勝手な行動をしては駄目ですよ。ご主人さま、また何かを見つけたのですか――えっ?」

 仰向けに倒れたフィージャは、ツクシたちを逆さまに眺めている。

 何が起こったのか理解できないまま、フィージャの意識は途切れた。

 フィージャが殺された。

 その身体は肩口から脇腹へ抜ける斬撃を受けて真っ二つになった。

 フィージャは二つに焼き切られたのだ。

 フィージャの亡骸の上で紅蓮に燃える炎龍が二匹、虚空を黒く焼いている。

「ゲロゲ!」

 ゲッコがパカンと大口を開けて絶句した。

「な、何だァ。一体、何だァ?」

 ゴロウは自分の顔の表情を変えることも忘れているようだ。

「そんな、フィージャ。そんな、シャオシン。どうして、どうして、そんな――」

 リュウの顔が真っ青になった。

「な、何が起こっているんだあ――」

 アドルフ団長が悪人面を引きつらせた。

「のっ、呪われているのか、この場所は!」

 イーゴリは絶叫した。

「――何だと?」

 ツクシの顔からも血の気が引いた。

 死神ですらその光景に青ざめる。

 フィージャの亡骸を見下ろすシャオシンは左右の手に一対の胡蝶刀を持っていた。その剣先から、フィージャを真っ二つにした炎の刃がしなって伸びていた。お団子を結んでいた紐が焼き切れて綺羅きらびやかな金髪が舞い上がった。

 シャオシンは忠臣フィージャの亡骸を前に眩い笑みを――炎の笑みを見せている。

 異形神の回廊へ殺戮の炎姫えんきが降臨した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る