十一節 瘴気満ちる異形のはらわた(肆)

「全体、身を低くしろ、突っ立ってると撃たれるぞ! くっそ、今度は奴ら脇道からまったく出てこなくなったなあ――」

 アドルフ団長が身を低くして呻いた。今度は南方と北方の双方から銃弾がヒュンヒュンと飛んでくる。数はさほど多くないが狙いは正確だ。

「――団長、位置は大通路の南と北。距離は六百七十七スリサズフィート先(おおよそで四百五十メートル先)に敵影を発見。数は十前後づつ!」

 近くにいた導式術兵姿の中年男が導式ゴーグルで遠方の敵影を確認した。

「何とか、こっちからも弾を当てろお!」

 アドルフ団長が指示を出した。

「うひっ! 先込め銃で当てるには的が遠すぎるし暗すぎるぜ。収束器フォーカスを使ってくれ!」

 この要請は、匍匐前進中、眼前の路面を抉った敵の銃弾を見て首を引っ込めた若い団員だ。

「そうだ、光球炸裂弾で奴らをまとめてふっとばせ!」

 その横にいた中年の団員が怒鳴った。

「駄目だ、誘導が上手く利かない。光球を投射した直後から、俺たちのほうにある陣が操作へ干渉してくる!」

 導式術兵姿の若者が投射した光球炸裂弾は、前方の約四百五十メートル先で散開している敵の周辺ではなく壁面で炸裂している。

「ああもう、導式の『相殺効果』か。味方に攻撃を邪魔されるとはな、くっそ――」

 中年の団員が紙薬莢を噛み千切りながら呻いた。腐食瓦斯を退けるため、大通路へ展開中の退魔の領域が味方の導式機器へも悪影響を及ぼしているのだ。

「敵は西の脇道から、腐食瓦斯弾の投射をまだ続けてるぞ」

「脇道をけん制するのに人数が足らん!」

「暇にしている中央の奴らはこっちへ来い!」

 銃持ちの団員たちが喚いた。

「くっそ、忙しいなあ、もう――」

 何人かの銃を持った団員が腰を屈めたまま移動を開始したが――。

「――おい、お前ら陣から出るなあ!」

 アドルフ団長が血相を変えた。

「えっ? ここまでは、平気な筈じゃ――」

 アドルフ団長へ顔を振り向けた若い団員は鼻血を流している。

「――あっ、ぎゃっ、あっ、げぼっ!」

 断末魔が重なった。中央から移動していた団員の何十人かが血反吐を撒き散らしながら、路面を転げ回っている。この彼らは展開された導式陣と導式陣の合間に足を踏み入れていた。その隙間へは外部で展開されている腐食瓦斯が侵入している。

「導式鎧組とドワーフ戦士は、ゴロウやリュウ、それに衛生兵を何としてでも守ってくれよ。絶対に殺させるな!」

 腐食瓦斯の犠牲になった団員を睨みながら、全体へ指示を飛ばしたアドルフ団長が、

「しかし、この状況は、かなりマズイよなあ――」

 周囲へ聞こえない声で呟いた。

「――アドルフ。ボゥイは大丈夫なのか?」

 ツクシが戻ってきた。敵はツクシの魔刀が届かない遠方からの狙撃と脇道からの腐食瓦斯弾投射に専念している。

「金属薬莢弾だ。大した精度と威力だよなあ――」

 アドルフ団長が近くの路面に寝かされたボゥイ副団長を見やった。ボゥイ団長の顔色が極端に悪い。衛生兵は導式陣を展開中だ。団員の数人が慣れない手つきで負傷者の手当をしている。負傷者は銃槍に苦しんでいる。そのたいていは鉛弾を弾き返すことができない軽装の団員だ。三十名前後いる。

「ボゥイは首筋に弾を食らったのか?」

 ツクシがボゥイ副団長の首元へ止血パッチを押し当てている団員へ訊いた。額へ押し上げられた導式ゴーグルを見ると、この彼は導式術兵のようだった。

「ああ、そうだ、重症だ。衛生兵だとかゴロウさんの手が空けばすぐ処置できるんだが――今はそれができない状況だからな――」

 その団員はツクシへ視線を返さずに頷いた。長年の冒険者暮らしをしてきたのだろう。陽焼けをした浅黒い肌に、ぎょろりと強いまなこを持って、顎に短い無精髭を生やした中年の男だ。

「おい、ゴロウ。早く怪我をしたボゥイへ、お得意のチチンプイプイをしてやれよ。それが医者の仕事だろうが!」

 ツクシは怒鳴った。そのゴロウは大通路の中央で盾の代わりになった団員(ゲッコもそこに加わっている――)に囲まれて退魔の領域を展開中である。

 苛立ったツクシがゴロウへ歩み寄ろうとすると、

「ツクシ、今はゴロウに声をかけるな!」

 アドルフ団長がその肩を掴んで止めた。

「何だ、アドルフ、うるせェぞ!」

 ツクシはアドルフ団長の手を振り払った。

「今、退魔の領域の展開を止めると俺たちは全滅する」

 アドルフ団長はボゥイ副団長の真っ白になった顔を睨んでいる。

「周辺に撒き散らされている毒ガスの所為か――」

 ツクシは視線を落とした。

「まずい、ボゥイ副団長の呼吸が止まった。衛生兵はまだ手が空かないのか!」

 中年の団員が叫んだ。

「そこを退け、手前は人工呼吸もできねェのか!」

 ツクシが中年の団員を突き飛ばして、ボゥイ副団長の鼻を押さえ、マウス・トゥ・マウス方式で強く息を吹き込む。乱暴な扱いを受けたのだが、中年の団員のほうはそれでも顔色をひとつも変えずに心臓マッサージを開始した。二人の救命行動をアドルフ団長は睨むようにして眺めていた。

「――ブッ!」

 ツクシが顔を横へ向けて、口のなかに入ってきたボゥイ副団長の血を噴いた。ボゥイ副団長へ心臓マッサージを繰り返していた中年の団員は作業を止めて、汗に濡れた顔を左右に振った。

「どいつもこいつも、俺の目の前で気軽によ。おい、ボゥイ、ふざけるな。俺がここまでやってやったんだ。息をしろ――」

 ツクシは床に膝をついたままの姿勢でうなだれた。

 中年の団員も視線を落とした。

 アドルフ団長は路面を睨んでいた。

 その路面に導式が弱々しく巡っている――。

「――アドルフ団長」

 太い声がアドルフ団長の背にかかった。

「イーゴリとドワーフ野郎ども?」

 アドルフ団長が振り向くと、イーゴリとドワーフ戦士が並んでいた。

「俺とドワーフ兄弟が陣の外で戦おう。脇道の敵を叩かねば、このまま団は全滅なのだろう?」

 イーゴリは控えめな笑顔で穏やかにいった。

「だが、イーゴリ、お前――」

 アドルフ団長の顔が歪む。

「退魔の領域を内起動できるドワーフ戦士なら、毒素で満たされた大気なかでも戦闘は可能だ。陣内から俺たちの援護をしてくれるか?」

 イーゴリの顔は歪まない。

「おい、イーゴリ、敵は凄腕の導式剣術兵ウォーロック・ソードマンだぞ。三次元空間戦闘に慣れていないドワーフ戦士だけでは不利だ。それに奴らは銃も使う。退魔の導式陣を優先して防壁の展開なしだと、奴らの鉛弾をまともに食らって――」

 アドルフ団長は反対のようであったが、

「――承知の上」

 イーゴリは背後に控えていたドワーフ戦士の列へ向き直って大戦斧を突き上げると、

「ゆくぞ、ドワーフの兄弟。同じく我らの兄弟であったゾラ・メルセス=ノーミード。同兄弟であったボゥイ・ホールデン。兄弟の仇を我らの大戦斧で討ち果すのだ!」

「――応!」

 ドワーフ戦士も同じ動作で応じた。

「おいおい、イーゴリ、待てこの樽馬鹿野郎!」

 アドルフ団長の怒鳴り声を背に受けて、イーゴリ率いるドワーフ戦士隊が脇道へ突貫した。

「くっそ、樽が格好をつけやがって――!」

 路面を拳で叩いて歯噛みしたアドルフ団長が、

「ドワーフ戦士が陣地の外へ出る。全体、銃と収束器を使って樽野郎どもを援護しろお!」

 陣の外へ出たドワーフ戦士隊は大戦斧で敵を叩きたい。しかし、敵の集団は白兵戦の誘いに乗らなかった。大通路の南北遠く、それに加えて脇道から敵はボルト・アクション式ライフル銃の射撃と腐食瓦斯の噴霧を続けて対応する。ドワーフ戦士隊は背に負っていた三連筒銃を使って応戦した。だが、奥からも銃撃がある脇道へ突入するのは容易ではなかった。しびれを切らしたドワーフ戦士隊が強行突入を試みた。すると、脇道の奥から光球炸裂弾が投射されて炸裂する。この攻撃でドワーフ戦士隊に死傷者が発生した。

 ドワーフ戦士隊の死を恐れぬ奮闘で脇道から投射される腐食瓦斯弾の数は減った。敵集団は後方へ下がったようだ。しかし、大通路はまだ緑色の毒素に支配されており、スロウハンド連合は陣地に釘付けで身動きが取れない。スロウハンド連合側は的に当たる気配のない銃の発砲を繰り返して応戦するのが精一杯だ。これは威嚇射撃に近い。ただ、黒色火薬の濃い硝煙が煙幕代わりになって敵の狙撃は逸れることが多かった。

 その点だけは優位である。

「アドルフ。奴らはもう俺の新しい魔合を完全に見切りやがった。攻撃できる範囲へ敵は一匹も近寄ってこねえ!」

 魔刀を片手に自陣を走り回っていたツクシが陣地の中央へ戻ってきた。

「ツクシ、それよりもだなあ――」

 全体の戦況を眺めていたアドルフ団長である。

「チチンプイプイで作った俺たちの陣地は時間を追って狭まってる。これが一番の問題だぜ。陣が狭くなると俺の戦える範囲も狭まるんだ。何とか陣地を脇道の奥へ広げられないのか?」

 息の荒げたままのツクシは要求したが、

「ツクシも気づいていたかあ。導式陣を長時間展開し続けるのは難しいんだよ。術者の体力的にも精神的にもだなあ。それに広げろといっても動きながら陣を展開し続けるのは、導式機器に頼らないと難しい。敵の狙いはそれなんだ。腐食瓦斯の散布を続けていれば、無理な攻撃を仕かけなくても、時間切れで俺たちは全滅するからよお――」

 悪人面をへし曲げたアドルフ団長に策はないようだった。

「――あっ、撃たれた!」

 西にあった陣地で声が上がった。

「衛生兵、衛生兵ーッ!」

 付近にいた団員が喚く。

「馬鹿、撃たれたのはその衛生兵だ!」

 倒れた衛生兵を助け起こした壮年の団員が怒鳴って、

「とにかく、止血を、がっ、しまった、瓦斯ガスが――」

 手当をしている最中に口から血をこぼした。西にあった退魔の導式陣が消え去って、そこで頑張っていた団員たちは総崩れになった。

「アドルフ」

 ツクシが呼びかけた。

「何だあ、ツクシ?」

 アドルフ団長が面倒そうに返事をした。

「このままだと、俺たちはジリ貧なのか?」

 うつむいたツクシが口角を歪めた。

「そうだなあ、手がねえよなあ――」

 アドルフ団長も苦笑いである。

 もはや、この場にいる全員は死を待つのみ。

 そう思われたのだが――。


「――た、退魔って『五行・水乃陣』でええのかえ?」

 シャオシンが四つん這いで近寄ってきた。

「ご、ご主人さま、一体、何を!」

 一緒に這い寄って来たフィージャが強張った顔で呼びかけた。

「何だ、シャオシン?」

 ツクシは怪訝な顔である。

「わっ、わらわもやる。わらわだって戦えるのじゃ――!」

 シャオシンは青ざめた顔で震え声だった。

「ああ、シャオシンも退魔の導式陣を展開できるのかあ。だがなあ、もうこれ以上援護につける人員はないんだよなあ。下手に動くと敵に狙撃されるぞ。まあ、子供ガキは大人しくな――ぬうっお!」

 アドルフ団長は苦笑いで視線を落としたのだが、地面を目にして悲鳴を上げた。路面が黄金の光で揺れている。実際に揺れてはいないのだが、あまりにもその光の量は多く強く、地面が揺れているように見えた。

 立ち上がったシャオシンは五行・水の陣――退魔の領域を機動している。

「うおぉおぉおぉおぉおぉおぉぉおぉおっ!」

 大通路に団員たちの驚愕の声が重なった。

「おっ、俺の導式陣が上書きで消し飛ばされただとォ! シャオシンはこんなに馬鹿でかくて強力な陣を張れるのかよォ、しかもこれは――常時機動かァ!」

 ゴロウが目を丸くした。長時間に渡って退魔の領域を展開し続けていたゴロウは汗塗れだったが、その疲労を忘れて、黄金のきらめきに包まれるシャオシンを凝視した。

「シャオシン、お前は戦うつもりか。お前が戦えるのか?」

 リュウが汗の流れる美貌を彼女の主へ振り向けた。

「ご主人さま!」

 フィージャは嬉しそうだ。

「ゲロゲロ、シャオシン、眩シイ」

 トカゲの目を細めたゲッコの感想である。

「こっ、これを目一杯まで広げれば良いのじゃな?」

 黄金の少女と化したシャオシンは訊いたのだが、元にあった陣地――五人ほどで張っていた陣地の大きさにまでその陣はもう広がっているのである。

「お、おい、シャオシン、それはいくらなんでも無茶だろ。これ以上、陣を広げるつもりか――」

 アドルフ団長が呻いた。そして、口を開けたまま表情を固めた。

 黄金の閃光と化したシャオシンは奇跡の力をさらに広げた。

 路面ばかりではなく壁面まで黄金のきらめきが巡っている。

 毒素に浸されていた周辺の大気が一息に浄化されていった。

 黄金の閃光は脇道の奥まで侵入する。

 敵が潜む脇道を制圧しようと奮闘していたドワーフ戦士隊が、「応!」と気合と一緒に突撃した。内機動導式を切り替えた彼らは防壁を展開したのだ。

 これで敵の銃撃は無効化される。

「おい、樽野郎どもに遅れを取るな!」

「好き放題してくれやがってよ!」

「腐食瓦斯がなければ互角にやれるぜ!」

「あいつら必ず全員ブチ殺してやるぞ!」

 隊列を作って突撃を開始しようとした導式機動鎧装備の団員たちへ、

「おい待て早まるな、このクソ馬鹿野郎ども! 導式鎧組は残ってシャオシンを囲め! これは敵から集中して狙われるぞお!」

 アドルフ団長が怒鳴ると、慌てて戻ってきた導式機動鎧装備の団員たちが黄金のシャオシンを取り囲んだ。

「ククッ! アドルフよ。もうそんな心配はいらねェ。その前に俺があのガトンボどもを全部叩き落としてやるからな――でかしたぞ、シャオシン! ゲッコ、ゴロウ、俺を援護しろ!」

 ツクシが脇道へ突っ込んだ。

「ゲロゲロ、任セロ、師匠!」

 ゲッコがツクシの前に出て盾役を請け負う。

「ああよォ、ツクシ。俺は今すっげえ疲れていてだな――くっそ、おい、ちょっと待てよォ!」

 肩で息をしていたゴロウは愚痴ったが諦めてドタバタ走りだした。

「私たちも行きますよ、リュウ!」

 フィージャもツクシのあとを追う。

「おい、フィージャ、もう少しだけ待――ああ、もう!」

 汗塗れのリュウも愚痴りたかったようだが、やはり諦めてツクシたちを追った。

「おい、落ち着けよ、畜生ども! ああもう、手の空いている奴らはツクシを死ぬ気で援護しろよ、もう一人も殺させるなあ!」

 アドルフ団長が顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。


 銃撃を無効化できるドワーフ戦士、あるいは導式機動鎧装備の団員、もしくはゲッコの背面に隠れながら接近したツクシが攻撃可能な範囲に入った瞬間に敵を殲滅する。これがスロウハンド連合の反撃だった。白兵戦闘可能な距離になると、敵は二刀の赤色導式機関剣を引き抜いて応戦した。しかし、そのすべてが刃を合わせる間もなく、ツクシの魔刀に斬り裂かれる。死神が相手ではタラリオン王国陸軍最強の白兵戦闘能力も無力だった。

 戦況の不利を見て取ったのか、残った敵は散開して行動を始めた。戦術の要であるシャオシンを注意深く防衛しながら、フィージャの嗅覚と聴覚に頼って、ツクシたちは散った敵を追う。導式機関は長時間の連続運用すると疲弊して、いずれは使い物にならなくなる。辛抱強く追跡を続けていると、Δ型導式機動フレームを頼りに移動していた敵は次々と機動力を失っていった。すると、今度は残存していた敵がいっぺんに踵を返してツクシへ白兵戦を挑んできた。玉砕覚悟のようだ。これらはツクシの魔刀がすべて迎撃した。追撃戦は長い時間を――四時間半を要した。

 その結果、ツクシたちの敵は全滅した様子である――。

「――これで、全部終わったのか?」

 ツクシが魔刀を柄へ帰した。

「ええ、見回ってきましたが、残存兵力の気配はありませんね」

 フィージャがいった。敵を追撃したツクシは方々を動きまわったが、現在地は戦闘が発生当初の大通路へ戻っている。ここに団の備品――食料や飲料などを含む備品を置いて敵を追撃したので戻って来るしかない。

「ゲコゲコ、ゲッコ、ッタ敵、タッタ四匹ダケ――」

 円形盾を背負い直したゲッコはうなだれていた。

「いえ、流石です、ゲッコさん。私は二体だけでしたよ」

 血塗れた戦闘爪を装着したままのフィージャが白い牙を見せてニッコリ笑った。

「ツクシ、おい。お、俺の体力も考えろ――」

 ゴロウは床にへたり込んでいる。息も絶え絶えだ。

「フィージャ。お、俺も、本当に限界だぞ――」

 リュウも路面へ手をついてうなだれていた。この二人だけではない。スロウハンド連合の面々――生き残った二百名余はすべて疲労困憊した表情だ。

「師匠、ッタ敵、三十以上。師匠ノ境地、ゲッコ、マダ遠ク及バナイ――」

 ゲッコがツクシを見やった。

「――いやはや、ツクシさん、さすがはサムライ・ナイトだ。見事なワザの数々、眼福だった」

 そう声をかけたのは、リヤカーで団員の死体を回収してきたイーゴリだ。作業を手伝っていたドワーフ戦士たちも一緒にいた。彼らは皆一様にツクシを尊敬の眼差しで見つめていた。

 ツクシは様々な様相で横たわる死者の群れを黙ったまま眺めている。

「シャオシン。もういいぜえ、本当に助かった」

 アドルフ団長がいった。

「――うむ。そうかえ」

 頷いたシャオシンは、この時点で尚、陣を機動しながら黄金に輝いていた。この西方から来た王女は天賦の才を持つ奇跡の担い手だったのだ。この場所で発生した戦闘は凄絶を極めた。犠牲者はスロウハンド冒険者団だけでも百名に近い。追随してきた素人探索者を含めると、ざっと見ただけでも四百以上の死体がある。

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