十三節 地下二五〇〇メートルの復讐(捌)
追撃してきたコボルトの小集団を何とか撃退したシルヴァ団長とその団員は、シャオシンに遅れて大通路に辿り着いた。
「なっ、何だ、これは誰がやったんだ?」
シルヴァ団長は声を裏返した。大通路は一面コボルトの死体が転がっている。そのほとんどが何か恐ろしく鋭利な刃物で斬り裂かれていた。身体が完全に二つ、あるいは三つに分かれている。
警戒して足を止めたシルヴァ団長の脇を、リュウとフィージャが抜けていった。
「いよう、リュウ、フィージャ。ご苦労さん」
「ゲロゲロ」
ゴロウとゲッコがリュウとフィージャを出迎えた。
「あとは頼んだ」
「お願いします」
リュウとフィージャが硬い声と表情で応じた。シルヴァ団長は足を止めたままリュウとフィージャの背を見つめている。
その歩数にして十二歩半先に六人が並んでいる。
フィージャ・アナヘルズ。
ゴロウ・ギラマン。
ゲッコ・ヤドック・ドゥルジナス。
そして――。
「――
右手から魔刀を下げたまま、唸りを上げたツクシである。
「――クジョー・ツクシと、そのお仲間?」
シルヴァ団長が呟いた。
背後に控えたアマデウス冒険者団の団員たちは、全強張った顔を並べていた。
彼らの十二歩半先に
「これは一体どういうことだ? リュウ? フィージャ? シャオシン?」
シルヴァ団長が一人づつ名前を呼んだ。
「――突き詰めて考えるとな」
三人娘の代わりにツクシが唸る。
「はあ、何? オッサン野郎には何も訊いてないんだが?」
シルヴァ団長は顔をしかめて不愉快そうた。
「ヤマさんが死んだのは、シルヴァ、手前の所為だよな。裏でコソコソやりやがって。
ツクシが低く唸った。
「ヤマさんって――誰だそれ?」
シルヴァ団長は涼しい顔だ。
「――シルヴァ・ファン・アマデウス」
死神の呼び声。
シルヴァ団長の背後で並ぶ団員の顔が揃って真っ青になった。
「何だよ、クジョー・ツクシ?」
シルヴァ団長は空白の笑みで応じた。
「
必殺を宣言した死神の双眸が無尽蔵の殺意で蒼く燃えている。
「死ぬ?」
シルヴァ団長が首を傾げた。
「俺が?」
シルヴァ団長が辺りを見回した。
「ここで?」
背後に控えている団員へ視線を送ったシルヴァ団長は、いつも通り大袈裟な溜息をついて余裕を見せつけようとしたが、しかし、吐き出そうとした息を途中で呑み込んで、
「――んぐっ。いっ、いやいや待てよ待て待て待て――もしかしたら、
シルヴァ団長が唾を飛ばして怒鳴った。
「本当に仲間だったのか?」
リュウが強張った顔でいった。
「ついさっき、自分がその仲間を見捨てたのに、どの口がいっているのでしょうか?」
フィージャは無い眉根を厳しく寄せていい放った。
「シルヴァ、最初から、お前には仲間など一人もおらなかったのじゃよ――」
シャオシンが小さな声でいった。
「――ま、まあいい。女の子への『おしおき』はあとのお楽しみにしよう、グフ、ウッフーッ!」
シルヴァ団長は前髪を揺らす強い息を吐き出して空白の笑顔を作った。この魔人の青年は自分の力で――魔導の力で他人の意志などどうにでもできると考えているし、実際、それができるのだ。
「そ、それでだな。ヒト族風情がこの俺を殺すといったな?」
シルヴァ団長がツクシを睨んだ。
「ああ、そうだ。今から、この俺が
ツクシが身体の重心を落とした。死神の翼が広がる。反応して、シルヴァの背にある黒いマントが浮いた。異形の迷宮に風はない。魔導の力――
呆気にとられた様子のシルヴァ団長のマントが背に落ち着く。
「――好きなときに抜け」
ツクシがいった。
「かっ、かっ、かかか、かかか――かっ、格好をつけやがって、このオッサン!」
シルヴァ団長は甲高い声で怒鳴った。
決闘の場に若い声がキンキン響く。
憤慨する魔人の前で佇んだツクシは眉ひとつ動かさない。
死神は両の手をだらりと下げたままその殺意を蒼く燃やしている。
必殺の無構え――。
「フィィイーッ! あのな、
大袈裟な溜息で前髪を揺らし、どうにか冷静さを取り戻した様子のシルヴァ団長が、魔導生命体の形成を開始した。
魔人の瞳のなかで紫炎に揺らぐ魔導式が飛び交っている。
それは、揺らぎ、歪み、捻れて――。
「――お、俺だけでいいんだーッ!」
背の黒マントを跳ね上げたシルヴァ団長が自分の視線をツクシの目へ送り込んだ。クジョー・ツクシが扱う魔刀の
死神の刃と正面から斬り結んで勝てるものはいないのだ。
それでも、俺ならな。
俺ならクジョー・ツクシに勝てるんだよな。
聖魔の騎士なら、やれやれフフンと余裕で勝てちゃうんだよなあ――。
シルヴァ団長がツクシの精神のなかへ送り込んだのは
シルヴァ団長はほくそ笑む。
しかし、次の瞬間。
死神の瞳に白い光が奔る。
それは刃のきらめきだった。
「――えっ!」
シルヴァ団長が声を上げた。ツクシの意識を食い荒らす予定だった奇形の黒い蜘蛛は、その瞳のなかで、真っ二つに斬り裂かれて消滅した。
その男は殺し合いの上に殺し合いを重ね。
身のうちにある殺意を磨きに磨いて磨き抜き。
遂には己の心をも刃へ変えて――。
「――おっ、おお、俺の
絶叫と一緒に顔を引きつらせたシルヴァ団長が導式剣の柄へ手を伸ばした。手に柄の感触はあった。だがその感触はぬるりと滑ってゆく。
シルヴァ団長の右手は武器を掴めない。
「――あれっ?」
シルヴァ団長が自分の右手を阿呆のような顔つきの前へ持ってきた。手の先にある筈の指が四本も消えている。切断された右手の先はシルヴァ団長の足元に転がっていた。
呆然としたシルヴァ団長の眼前で、
「クソみてェに、すっトロくせェ。蝿が止まるぜ――」
十二歩半あった距離を零秒で縮めた死神の相貌が低く唸った。
抜身の魔刀を右手にぶら下げたツクシがシルヴァ団長へ刃が届く距離で佇んでいた。
「あっ、俺の右手が――」
シルヴァ団長が路面でぼたぼた音を鳴らす自分の出血を見て青ざめた。
「あっ、足が!」
シルヴァ団長の両膝が血を噴いて折れた。ツクシの魔刀がシルヴァ団長の両膝小僧を叩き割っていた。
これがこの場で零秒間に発生した二つの結果だった。
「あっ、いっ、痛! 手が、足が、痛いっ! な、何でこんな、ひ、非道い非道い――」
尻を落としたシルヴァ団長が死神を見上げた。
「――シルヴァ、手前はヤマさんを殺した。だから、ここで手前が死ぬのは
魔人を見下ろした死神の相貌に一片の同情心も見当たらない。
「こっ、殺したって――お、俺は、し、知らない知らないぞ、そんな奴!」
シルヴァ団長が声が震えた。
お互い刃の届く範囲にいる。
ツクシはいつでも殺せる。
戦闘能力を失ったシルヴァ団長には何も抵抗する手段がない。
「――そんな奴だと?」
ツクシが舌打ちをした。
突き刺すような舌打ちである。
「ヤ、ヤマって奴を俺は本当に誰だか知らないんだ!」
シルヴァ団長が叫んだ。
「ヤマ『さん』だ。敬称をつけろ、クソガキ。ガキは大人に敬意を払え」
ツクシはシルヴァ団長の鼻面に魔刀の切っ先を突きつけていた。突きつけて「いた」のである。
「なへっ、ふひっ、えっひい!」
その刃の動きがまったく見えなかったシルヴァ団長は魂の芯から震え上がって、途切れ途切れの悲鳴を上げた。
死神は動作を起こす前触れすらも見せない――。
「おい、ガキ、よく聞けよ。ヤマさんはな、手前の倍は生きてきたんだ。手前なんかよりずっと苦労して、手前なんかよりずっと立派な堅気をやって、コツコツ真面目に生きてたんだ。手前が生きてきた倍に近い時間を、歯を食いしばって、辛抱に辛抱を重ねてな――」
ツクシがシルヴァ団長の鼻面から刃を引いた。
「そそ、そんなことをいわれても、そそそ、そんなオッサン、俺は全然知らな――あっ、ひゃらっ!」
シルヴァ団長の舌が鋭い痛みを感じて止まった。
細かく震える前歯に魔刀の冷たい切っ先がガチガチ当たっている。
「ヤマさんをオッサンだと?
シルヴァ団長の舌へ魔刀の切っ先を乗せたツクシは凄んだあとに刃を引いた。
「――ぐふ、ひっ! お、お、お、俺は、そのヤマ――ヤマさんのことを全然知らないんだ。だだ、だから、お、お、俺は、そのヤマさんを殺していない!」
シルヴァ団長は鼻水をズルズル垂れ流しながら泣き喚いた。
「ヤマさんは手前らがつれてきた異形の群れに轢かれて死んだ」
ツクシの声は変わらず非情な響きだった。
「そ、それは、おっ、俺はそいつを――ヤマさんを殺すつもりなんてなかった――」
シルヴァ団長が視線を落とした。
路面は魔人が散らした血で濡れている。
「俺は、た、ただ、
ぶつぶついいながらシルヴァ団長はツクシを見つめた。涙と鼻水でぐしょぐしょに濡れたシルヴァ団長の顔は真っ白だった。それは
「そうか、ヤマさんが死んだのは事故だったのか」
ツクシが憮然といった。
「そ、そうだそうだ。あれは本当に事故だったんだよ。そのヤマさんを――お前の仲間を、俺は殺そうとしていたわけじゃないんだよ――」
強い調子でいったシルヴァ団長が、頬に少しだけ血の気を取り戻した。
「――シルヴァとやら。お前は男なんだよな?」
ツクシが不機嫌に訊いた。
「な、何をいきなり――見ればわかるだろう。俺は男だ――」
シルヴァ団長は顔を歪めた。
指を四本失った右手から血が流れ続けている。
血がこれ以上出ると死ぬ――。
恐怖したシルヴァ団長は右手首を無事な左手で強く掴んだ。
応急の止血である。
「ああ、そうだ、お前は男だな。じゃあ、よく聞け。男ってのはな、自分の責任を全部、背負って生きていくもんだ。それができねェ奴は男じゃねェ。断じて、それは男じゃあねェぜ――」
ツクシは告げた。
「お、お前、一体、何をいって――」
シルヴァ団長は真っ白になった顔を上げた。
「手前が引き起こした事故で、ヤマさんは死んだといったな?」
ツクシの声はこれまでになく不機嫌なものだ。
「ああ、そうだ、そうだよ、あれは事故だ。事故なんだよ。俺の故意じゃない――」
シルヴァ団長の声は明らかに死神へ媚びを売っている。
「そうか、ならな、手前でコトを起こした責任は手前が全部背負い込めってことだ。お前、男なんだろ」
歯ぎしりの音と一緒にツクシが唸った。
「なっ、な、何で、そんな責任を! そんな、馬鹿な! そもそも、あれは俺じゃあなくて、レオナが計画を立てたんだ。それはさっきいったし――」
シルヴァ団長が涙と一緒に言い訳を喚き散らした。
「うるせェ。俺のいいたいことは、これで終わりだ。手前の疑問だの意見だの都合だのなんてのは俺の知ったこっちゃあねェ」
ツクシは魔刀を薙ぎ払った。
「ひっ、あっ!」
シルヴァ団長は頭を抱えた。俺は真っ二つになった――シルヴァ団長は考えたのだが、しかし、それはツクシが刃についた血を振り落とす動作だった。
「おっ、お前のいっていることは自分勝手で滅茶苦茶で整合性がない。ふ、ふ、ふざけてる。お、お話にならない――」
シルヴァ団長が呻いた。
「ああ、その通りだぜ。
ツクシは魔刀の白刃を鞘へ帰した。
刀のハバキが黒い鞘の鯉口へ納まるとぢゃっと音が鳴る。
「シルヴァ、ヤマさんだってな、手前の都合に合わせて生きていたわけじゃねェんだ!」
ツクシが怒鳴った。
怒りの咆哮が大気を斬り裂き大通路の隅々まで響き渡る。
シルヴァ団長はポカンと間の抜けた若い顔で無尽蔵に憤る男を見上げていた。
ツクシは仁王の形相だった。
世にあるすべての悪に未来永劫憤り続ける
「――それだからよ。手前は手前の責任を手前で取れ。手前は
ツクシが踵を返して、死神と魔人の決闘を黙って見守っていてくれた彼の仲間へ告げた。
「――ああよォ、ツクシ」
ゴロウが最初に踵を返した。ゴロウはずっと凍えた目でシルヴァ団長を眺めていた。ヤマダの死を誘発したシルヴァ団長に対して憤っているのはゴロウも同じだ。ゴロウは大の大の大男だ。だから、ヤマダが死んでも一粒の涙もこぼさない。しかし、ゴロウは、ここまでずっと泣きたい気分だった。
「――ゲロゲロ」
喉の奥で冷血に鳴いて、ゲッコがツクシの背を追った。
「――そうだな」
リュウも背を向けた。その美貌に痛みがある。むろん、リュウも、この魔人の青年は絶対に死ぬべきだと考えている。しかし、それでも、一抹の哀れみのような感情はあった。力に溺れ、自惚れて増長し、結局はすべてを失った愚鈍な若者への憐憫がリュウの胸を締めつけている。
「南から犬がたくさん来ているのう――」
リュウのあとに続いたシャオシンが大通路の南を見やった。
「ええ、大量に来ていますね」
フィージャがシャオシンに身を寄せて歩きながら頷いた。
「ツクシにビビって近寄ってこれなかった奴らだなァ――」
ゴロウが視線だけを背後へ送った。
大通路の南の脇道からコボルトが顔を出している。
「おい、そっちのお前らも早く来い。ツクシはお前らまで殺さんと思うよ」
リュウが振り返ってシルヴァ団長を遠巻きに囲んでいた集団へ声をかけた。すべてアマデウス冒険者団所属の団員だ。彼らは困惑した視線を交換していた。
「おい、お前ら、俺に手を貸してくれ。足が両方とも動かないんだ――」
へたり込んだままシルヴァ団長がいった。両方の膝小僧を魔刀で深く斬り裂かれたシルヴァ団長は歩くどころか立ち上がることもできない。声をかけられた団員が、ツクシたちを追って走っていった。
「お、おい、ふざけるな、殺されたいのか!」
シルヴァ団長は逃げた団員の背へ左手を掲げた。背にある黒いマントが歪の力で浮く。残った団員が「ああ!」と悲鳴のような声を上げた。
何らかの魔導式陣を形成しようとしたようだが――。
「――あいっ、痛ッ!」
シルヴァ団長は身体を丸めた。痛みで集中を乱されて魔導の力を発揮することができない。残っていた団員たちは魔人がその力を使えないことを確認して、ほっと安堵した顔を見せた。
そして、安心した彼ら全員が一斉にツクシの背を追った。
「おい、そんな――俺を置いていくのか!」
逃げる仲間――少なくとも、彼は仲間だと信じていたものに向かって、シルヴァ団長が叫んだ。
「お、俺はお前らにいい給料を払っていただろ。酒だって女だって、お前らは全然不自由しなかっただろ、おい、待てよ、待ってくれよ!」
足を止めるものは誰もいない。
路面に這いながら泣き喚いているシルヴァ団長の容姿だ。雪のように白い肌と真っ赤な瞳のシルヴァは
だが、それは違った。
シルヴァ・『イド』・アマデウスは純血の魔人族であり、タラリオン王国に住むものにとって敵国人になる。魔帝軍はタラリオン王国の中央にまで攻め入って暴虐の限りを尽くしている。アマデウス冒険者団の団員は大陸の中央から魔帝軍に追い立てられて王都まで流れ着いたものも多い。彼らは魔人族に対してはっきりと敵意を持っている。しかし、シルヴァ本人は自身の容姿が短い時間でヒト族から魔人へ変貌したことに気づいていない――。
「――おい、おい、おい、嘘だろ」
シルヴァが呻いた。
「おっ、俺は団長だぞ!」
シルヴァが叫んだ。
「アマデウス冒険者団の団長なんだぞ!」
シルヴァがもう一度叫ぶ。
「お、お前らの、団の――おい、お前ら聞こえていないのかよお!」
シルヴァがまた叫んだ。
「――たっ、助けてくれよ、み、みんな、頼む、頼むから俺を助けてくれ!」
シルヴァは懇願した。傷が痛むシルヴァは四つん這いの体勢も作れない。なので肘をつかって腹で路面を擦りながら泣き喚く。
「いやだ、いやだ、俺をここに置いて行かないでよ!」
シルヴァの涙と鼻水と涎で崩れた顔が固まった。
「ギゲンナデギ、ギエダ」
「マンマ、マモレ」
「ゴロゼ、ゴロゼ」
「ゴロズ」
「ニンゲン、ミナ、ゴロゼ」
ひとの言葉の意味を持つ獣の声が重なって響く。
大通路の南方にある脇道からコボルトがわらわら出てきた。
「お、おい、く、来るな。こっちへ来るな!」
シルヴァは泣き喚きながら左の手を突きだしたが――。
「――あっ、痛ッ、痛い痛いッ!」
その左手の先に形成した魔導式陣は起動する前に紫炎を散らして大気に溶けた。
シルヴァにはもう魔導の力を扱う体力も気力も残っていない。
「い、いやだ、いやだ――」
シルヴァの真っ赤な瞳に――魔人の瞳に横一列ずらりと並んだねじくれた槍の穂先が映った。
「いやだ、いやだ、いやだあぁあぁあぁあっ!」
シルヴァ団長は運命を拒絶したが、ねじくれた槍の列は迫ってくる。
「お、俺は」
呻いて、
「おっ、俺はッ!」
強くいって、
「俺は、まだ、死にたくないんだよぉぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉうーッ!」
最後にシルヴァ・イド・アマデウスは絶叫した。その魔人の右手にあって、彼の渇望に応えていた転生石は、すでに魔刀の一閃で破壊されている。
その望みに応えるものは誰もいない。
ねじくれた槍の列は赤い瞳のすぐ前まで迫っている――。
大通路の北方だ。
後方の遠くで起こった魔人の断末魔の声を耳にしても、ツクシたちは足を止めなかった。その少し後ろを遠慮がちに歩くアマデウス冒険者団の元団員たちも足を止めなかった。
振り返りもしない。
「――これで本当に良かったのかの?」
シャオシンが小さな声でいった。
それは誰に問うたわけでもなかったが、
「どうなのかな――」
リュウが小さな声で応えた。
「
フィージャは無い眉根をぐっと寄せて強い口調だった。
「今日のフィージャは手厳しいなァ。因果応報ときたかァ――」
難しい顔でゴロウが頷いて、
「――ところで、ツクシよォ」
「あ?」
不機嫌に歩くツクシは、当然、不機嫌な返事をする。
「おっめェは本ッ当にひでえ野郎だよなァ。俺ァ、心底、呆れたぜ」
ゴロウはおかしな笑顔だった。
困っているような、泣いているような、怒っているような、そんな笑顔である。
「ゴロウ」
ツクシは髭面に浮かんだ変な笑みを横目で見やった。
「あァ?」
ゴロウが横目で視線を返した。
「今頃、気づいたのか?」
ツクシは口角をぐにゃりと歪めて見せた。
「ゲロゲロゲロ――」
ゲッコは何かに納得したような様子で何度も頷いた。
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