二節 神経結束

 ネストダイバー連合レイドが活動を停止した直後だ。

 アマデウス冒険者団が各探索者へ呼びかけて新たな連合レイドの結成を宣言した。まず最初に、ジャン・ジャック組合長率いる天幕街探索者組合が、アマデウス連合への参加を表明した。この組織の主体は元ネスト・ポーターなので一般的な冒険者が持つ独特の気質――渡世人の心構えが薄い。レオナ副団長の誘いを受けた天幕街探索者組合は二ツ返事で新たに発足した連合の傘下に入った。次に、アマデウス冒険者団のエッポが壊滅的な被害を受けた北北西運輸互助会を勧誘した。北北西運輸互助会の会員からは反対する意見も多く出た。隻眼のドワーフ戦士エッポ・ヘルモーニは、元はグリフォニア大陸内地で略奪者団レイダーズを率いていたらしいと噂がある、悪い意味で有名なドワーフの男だ。だが、最終的に同族意識が強いドワーフ族の男たちは、エッポの提案を呑んで北北西運輸互助会を解散し、アマデウス冒険者団へ入団した。二百名に近い大戦力だった北北西運輸互助会は先日の戦闘で五十名余まで人数を減らした。さらに、互助会の指導者のガラテア・クズルーンも死んだ。食ってゆくためには致し方ないだろう。互助会の会員にはそんな諦めもあった。アマデウス冒険者団の謀略で(エッポは事故だったと強弁に主張したが――)伴侶を失ったイーゴリだけは、互助会の解散とアマデウス連合への参加に反対をしていたが、しかし、最後には長いものに巻かれる形になった。

 自発的にアマデウス連合へ参加を表明した冒険者団もあった。

 メンヒルグリン・ガーディアンズである。

 ネストダイバー連合の再結成に、ルシア・トルエバが声を上げるに違いない――。

 ヴァンキッシュ冒険者団とスロウハンド冒険者団は期待していたのだが、結果は予想を裏切った。人数を集めてネストの探索を始めたアマデウス連合には王座の街に日々増える新顔の探索者も次々と加わった。

 地上の戦況は悪化している。

 タラリオン王国領土の中央にあった大都市ミトラポリスは、一ヶ月以上に渡る猛攻撃を受けた末、魔帝軍に占領された。王都へは戦争難民――流民が流れ込み続けている。流民が暮らす天幕街は元よりある王都の街並みと同じ面積にまで広がった。流民は仕事を求めて王座の街へも雪崩込む。地下へ来た流民は日々の糧を得るため、ネスト探索者を希望するものが多い。この彼らはたいてい天幕街探索者組合にいる。

 レオナ副団長はアマデウス連合の運営に辣腕を振るった。

 犠牲者は毎回出るものの、現時点に至るまで過去三回行われたアマデウス連合の探索は、成功といえる形で終わっている。今では、アマデウス連合の戦力は、人員にして千名近くにまで膨れ上がった。

 最終的にヴァンキッシュ冒険者団とスロウハンド冒険者団も、アマデウス連合への参加を決めた。連合を主導するレオナ副団長が何回も彼らのもとを訪れ、稼ぎ口が無くなって不満を溜め込んでいた団員へ切り崩し工作を行った。これには口の達者なダンカンも協力した。

 リュウとフィージャとシャオシンは、シルヴァ団長が直接勧誘した。迷ったが、結局、この三人娘もアマデウス連合に参加した。新たな異形種ヴァリアント――コボルトとグレンデルの数は多く戦闘能力も高い。異形種の大軍勢を相手に少人数での対応策は無きに等しい。アマデウス連合の傘下にいなければネスト探索は不可能といえる状況になっている。

 ただし、この三人の男たちを除いては――。


「――『神経結束ニューロ・ユニゾン』だとォ?」

 ゴロウが赤ワインの杯を呷る手を止めて顔を上げた。

「あぁん?」

 耳慣れない単語を聞かされて、学がないのを馬鹿にされたような気分になったツクシが、轟然と殺気奔った。

「ゲッ、ゲロゲロ?」

 ゲッコは怪訝そうな鳴き声を喉から漏らした。

「うん、そうだ、神経結束だ」

 頷いたオリガが口紅で真っ赤な唇へダイキリが注がれたカクテル・グラスを寄せた。

「オリガ、何だよそれ?」

 ツクシもタンブラーのじゃがいも酒に口を寄せた。

 四日間に渡ったネスト探索を終えたツクシたちが、その懐を金貨で重くして酒場宿ヤマサンで酒の杯や水の杯を傾けていたところ、オリガが来店して挨拶もそこそこ、丸テーブル席へ参加した。

 このオリガという女騎士はたいてい面倒事を手土産に持ってくる。

「帰れといっても、絶対に帰らないだろうな、こいつの場合な――」

 そんな感じで諦めているツクシは、嫌そうな表情になったものの何もいわなかった。本題に入る前に、オリガはウェイトレスの(ウェイターのような風貌ではある)テトを呼んで、お気に入りのカクテル――砂糖ダブルのダイキリを注文した。

「――ツクシ?」

 オリガがダイキリのグラスを卓に置いて呼びかけた。

「あぁん?」

 ツクシはじゃがいも酒の味わいに顔を歪めながら不機嫌に応じた。少人数で行動するようになると、ツクシはネストの稼ぎがうんと増えた。ゴルゴダ酒場宿にあった借金も完済一歩手前だ。これは奇跡だ。しかし、貧乏が骨の髄まで染みついた貧乏性で貧乏人のツクシが酒場宿ヤマサンで注文する酒は未だに安くて強くて不味いこの蒸留酒――ジョナタン特製じゃがいも酒だ。これは密造酒である。酒税の払いをまんまと逃れている非合法の品である。本日のツクシはこれをボトルで注文した。銀貨三枚以上の値札がついた酒のボトルを見るとツクシは激しく目が泳ぐし、手が震える。じゃがいも酒のボトル丸々一本。これは精神も懐も貧しく、金が絡んだ途端、臆病になるツクシにとっては十分に贅沢な注文だ。これは余談だが、ジョナタン特製じゃがいも酒一本の値段は少銀貨が七枚に銅貨が五枚だ。

 日本円に換算すると大雑把に九百八十円くらいである。

「ツクシは何も考えずにグレンデルを始末していたのか?」

 オリガがカクテル・グラスを傾けた。

「あの白いクソは首を斬り落したのと同時に胴体を叩き割ればあっさり死ぬだろ。何を考える必要があるんだ、あ?」

 ツクシは銘柄のないボトルからじゃがいも酒を自分の杯にどぼどぼ注いだ。

「あのよォ、ツクシ――」

「ゲロゲロ――」

 ゴロウとゲッコがツクシの不機嫌な顔をじっと見つめた。

「何だ、お前らは俺に文句があるのか。文句ならいつでも上等だ。さっさといえよ、オラ!」

 ツクシは酒に焼けた不機嫌をカッと吐き散らした。以前もひどかったが、今は酒の飲み方と酔い方がもっと乱暴になっている。これ以下は流石にないだろう。そう考えたところで、大多数の想像の斜め下を突き進むのがこのツクシという男だ。期待するだけ無駄である。諦めたほうがいい。

「あんな厳つい真似ができるのは、この世でおめェだけだと思うぜ。たぶんよォ――」

 ゴロウが弱い声でいいながら赤ワインの杯を呷った。ゴロウの前にあるのは、ドラゴニア大陸から輸入された、あまり旨くない赤ワインの大瓶だ。「戦争の影響で、グリフォニア大陸の中央で盛んに行われていた農業や酪農は壊滅的な被害が出ていてさ。内陸に集中していた酒造業者も、今年はほとんど商品の出荷ができないらしいんだよ」これは、ヤマダの急逝で天幕の酒場宿ヤマサンの新たなオーナーになったトニーが酒の値段にくどくど文句をつけてきたツクシへ語った内容だ。彼の妻であるアナーシャも今はこの酒場宿で働いている。オーナーといっても、トニーもアナーシャもボルドン酒店の従業員なので、本店から出向してきた社員のような立場になる。

「師匠ノ境地――イツナンドキモ喧嘩上等。ゲッコ、全然、届カナイ。ゲッコ、マダマダ修行不足――」

 ゲッコがゲコゲコうなだれた。

 ゲッコは表情がほとんど変化しないが、これは明らかに落ち込んでいる様子だ。

「まったく呆れた男だな――」

 笑ったオリガがおつまみの皿にあったオリーブの塩漬けを手にとった。

「オリガ、用事は何だ。もったいをつけるな」

 ツクシは獰猛な色合いの唇の間に挟まれた緑色のオリーブを眺めている。

「騎士の姐さん。もしかして新種の異形種の――グレンデルの調査が終わったのかァ?」

 そう訊いたのはゴロウだ。

「ゲロゲロ」

 ついでにゲッコが意味もなく鳴いた。

「うん、それだ。ついさっき、グレンデルの解剖調査報告がようやく上がってきてな。奴が脳髄を破壊されるような致命傷を受けても活動を持続できるのは、その神経結束ニューロ・ユニゾンが体内にあるかららしい」

 オリガはオリーブの塩漬けを噛み砕きながらいった。

「だから、オリガ。何だよそれは。そのニ、ニョーロ?」

 ツクシがオリガの横顔に不機嫌な顔を寄せた。

「あっ――」

 オリガはツクシへ顔を向けてそのまま絶句した。

「おう、オリガ、またお得意のダンマリなのか?」

 ツクシがオリガの顔へ酒臭い息を吹きかけた。化粧が薄くても、なかなか見れる三十路間近の女の顔だ。

 薄い化粧でソバカスが透けている。

「いよう、騎士様じゃねえか」

「ゲロゲロ。ヒト族ノ雄ノ騎士サマ」

 ゴロウとゲッコが顔を上げた。

 ツクシが振り返るとギルベルトが顔を真横に向けて佇んでいる。

「ゴロウ、ゲッコ、騎士『様』はやめろ。ギルベルトでいい――」

 小さな声でいったギルベルトが赤い鍔広帽子を手にとって丸テーブル席についた。ギルベルトはオリガの対面の席だ。

 眉間にシワを作って顔を背けたオリガは、ギルベルトを目に入れようとしない。

 無表情のギルベルトはオリガへじっと視線を送っている。

「へえ、ギルベルトが酒の席ここに座るのか、珍しいな」

 ツクシがいったところで、

「いらっしゃいませ! ご注文は――?」

 営業スマイル全開のテトがギルベルトの横に出現した。

「ああ、テトか。水を一杯もらおう」

 ギルベルトは横でくねくねしようとしていたテトへ視線すら送ろうとしなかった。

「――はい。かしこまりマシタ!」

 溌剌とした色気を利用して、余計な注文を取ろうと企んでいた、美少年風美少女のテトは、カウンター・テーブルの向こう側にいたジョナタンへ、「父ちゃん、このひとは酒場に来て水だけだって!」と思いっきり吼えた。

 グラスを磨いていたジョナタンは苦笑いだ。

「ギルベルト、酒場に来て水を飲むのか?」

 ツクシが密造酒の杯を片手に口角を歪めた。

「俺は勤務中だ。酒は飲めん。飲めん筈だ。王国軍法でも勤務時間中の飲酒は重罪だ。裁判なしの銃殺刑だな。良くても三ヶ月は独房送り――」

 早口で応えたギルベルトはしつこくオリガを見つめている。

「うん、そうだったかな――」

 オリガは自分の口紅が縁についたカクテル・グラスを横目で見やった。オリガの素行不良を上官へ密告チクるのも、ギルベルトの仕事になっている。

「あァ、軍務おサボり中の姐さんに訊くより、働き者の騎士様に訊いたほうが早いかァ?」

「ゲロロ?」

 ゴロウとゲッコがギルベルトへ視線を送った。

「ああ、そうだな。そのニョロニョロ――ゴロウ、あれは何といった?」

 ツクシがゴロウへ目を向けた。ツクシは目元が赤くなるまで酒が入っている。ジョナタン特製じゃがいも酒はとてもアルコール度数が高い酒なのだ。もっとも、ツクシはシラフでも物覚えがすごく悪い。太い眉尻を下げたゴロウがツクシの不機嫌な顔を見つめた。ツクシもゴロウの髭面から視線を外さなかった。そのうち、ツクシの目つきが鋭くなった。まるで刃物だ。目を合わせると殺気立つのは野獣の習性だ。ヤマダの死後、ツクシは前にも増して荒んだ行動を取るようになった。飲む酒の量も以前よりぐんと増えている。

 荒れたくなる気持ちはわからんでもないがなァ――。

 大きな溜息を吐いて諦めたゴロウが、

「騎士様、今、俺たちは姐さんから話を聞いたんだけどよ。グレンデルの体内にある神経結束ニューロ・ユニゾンってのは何なんだァ?」

「ゴロウ、いつもいっているが、その騎士様はよしてくれるか――言葉通り神経の束だ。『予備脳』とも学者どもはいっている」

 顔を横向けて、ギルベルトがいった。

「――予備脳。あの白いクソの肉体からだには、脳みその予備があるのか?」

 眉根を寄せたツクシがギルベルトへ視線を送った。

「そうだ。グレンデルは頭部にある脳髄が損傷した場合、その神経結束が損傷した脳髄の代替品として機能を始める。ああ、すまんな、テト」

 ギルベルトがテトの手で置かれた水のグラスを手にとった。

「――ごゆっくり、ドウゾ」

 無料のものを注文した客の耳元で、テトは嫌味たらしく呟いたが、ギルベルトは真横にきた褐色の美少女の顔にやはり視線すら返さない。カンカンと靴の踵を石床へ叩きつけて不満を表明したテトはカウンター席に腰かけて、そこにあった文庫本をまた読みだした。それは成人女性向けで過激で過剰な性描写が多いものだ。『愛欲キャッスル② ~俺サマ若侯爵の新人メイド性教育~』と、そんなタイトルとサブタイトルがついたピンク色の背表紙の文庫本だ。文庫本に顔を埋めたテトの頬が赤い。テトは自分の暇を性的興奮で紛らわしているようである。

 ツクシたちはアマデウス連合より先に王座の街へ帰還した。人数が少ないツクシの班は、持ち込める備品も少ないし、夜警の人員も満足に確保できないので、危険な未探索区での活動時間はどうしても短くなる。大人数を率いて大量の探索用備品を持ち込んでいるアマデウス連合は、ネスト地下十階層をまだ探索中だ。実際、酒場宿ヤマサンの客席はひとが――ネスト探索者の客がほとんどいない。

「――あァ、だから、グレンデルはあんなにしぶといのか」

 ゴロウが頷いた。

 グレンデルの特徴をゴロウは大まかに理解したようである。

「ゲ、ゲロロ?」

 疑問符をつけて鳴いたゲッコが、丸テーブル席にいた一同を忙しなく見回した。野生力至上主義のリザードマン族であるゲッコは、ツクシと同じくらい学がない。

「――なるほど。そのニョロニョロが――ニョーロウニウニ?」

 理解したような気分になったツクシがまた専門用語をいい間違えた。

「ツクシ、神経結束ニューロ・ユニゾンだ。グレンデルの肉体には神経が球状に束なったものがある。位置しているのは心臓の後ろだ。正確には脊椎の中央上寄りになる。神経結束そのものはマシュマロのように柔らかいぞ。だが、そのマシュマロは硬い脊椎で完全に防護されている」

 そう語ったあと、ギルベルトはグラスの水に口をつけた。

「脊椎? ほ、骨のことだよな?」

 ツクシが緊張した面持ちで訊いた。

「――脊椎といっても、神経結束を覆っている部分の形状は頭蓋骨に近い。これが厄介だ。グレンデルの骨は人類のものより強度が高い」

 ギルベルトが空にしたグラスを卓に置いた。

「ゲロ、グレンデルノ歯ヤ爪、青黒イ色」

 ゲッコがいった。戦闘に関係する事柄なのでゲッコは真剣であるが、ギルベルトの話を理解しているかどうかはわからない。

「それだ、ゲッコ。骨の色からして地上の人類とはまったく違う。グレンデルの骨格は超高硬度と粘性を持つ物質で組成されている。あれの特性は金属に近いな。学者どもの話では今の錬金技術で生成できない物質らしい。あの骨に包まれた神経結束は小口径の銃で傷すらつかなかった。実験に立ち会った俺がこの目で見てきたから間違いない」

 ギルベルトの眉が段々と寄っていった。

 抱えている面倒事がその眉間に浮いている。

「脊椎の中央に、その神経結束――脳髄の予備があるのか。それで、頭を切り落としても動き回れるんだなァ――」

 ゴロウが太い眉尻を寄せていった。

「そうだ、ゴロウ。頭部を破壊した上で、さらに神経結束を破壊しないと、グレンデルは生命活動を停止しない。脳髄だけを破壊しても無意味だ。損傷を受けた脳髄を修復した痕跡がある個体も何体か見つかった。おそらく自然に治癒したのだろう。グレンデルは神経結束が生きている限り、外部からの攻撃で致命傷を与えるのが難しい。それでも首を切り落とすような大きな損傷を与えれば、いずれは出血多量で死ぬだろうと学者どもはいっていたが――どうだかな。王国学会アカデミーの学者どもは机上の空論を愛人だと思い込んでいる連中も多い――」

 ギルベルトの話を、

「――あれは異界の生物だ。地上にあんな生き物はおらん。ツクシ、グレンデルは双頭なのだ。二つある頭のうちのひとつを体内に隠した――」

 視線を卓上に置いたオリガが繋いだ。

 いつも笑っているようなオリガの声が今は重い。

「だから『異形』って呼んでいるんだろ。地上の生物と身体の構造が全然違っても、それは特別、不思議でもないんじゃねェか?」

 ツクシが密造酒の杯に口をつけた。珍奇で暴力的な存在をネストで散々目にしてきたツクシは、グレンデルの身体構造を知ったところで、それがさほど新鮮なものだとは思えない。

「――うん」

 頷いてもまだオリガは卓上を睨んでいた。

「どうした、珍しいなァ、姐さんが神妙な顔つきでよォ?」

「ゲロゲロ?」

 ゴロウとゲッコがオリガへ顔を向けた。

「――そうだ。あれは――グレンデルはまさしく異形だ。だから、王国学会アカデミーの連中は鼻息が荒い。進化系統が欠落している人類の――猫人族やらフェンリル族やらリザードマン族やら――とにかく、ヒト族以外の人類がカントレイアに存在する理由を、あのグレンデルを元に究明できるかも知れんだとかな。だが、そんなくだらんことは王国軍私たちに――タラリオン王国にとって、今はどうでもよいのだ――」

 オリガの話を、

「騎士オリガ」

 ギルベルトが遮った。

 オリガはまっすぐギルベルトに視線を送って、

「騎士ギルベルト。やはり私は感心せんぞ。あれを形成する技術は当初の想定とまったく違うものだ。円卓会議でも採用するか否かで問題になっていただろう。あんな化け物を作る技術を我が軍へ導入したら兵士は人類でなくなって――」

 見習い騎士だったギルベルトはその能力を上官に認められて、つい先日、晴れて正騎士へ昇格を果たした。

「騎士オリガ。書類が溜まっています。執務室に戻ってください。あと、一七〇〇ひとななまるまる時に臨時で会議が――」

 ギルベルトはまたオリガの話を遮った。

「――ああ、もう、うるさい奴だな。それは管理省天幕でお前から私は聞いた。もう忘れたのか。だから、私はここでサボって――まあ、いい。騎士ギルベルト。あとは頼むぞ」

 オリガは酒場宿ヤマサンから出ていった。

「あとは頼む、だあ?」

 ツクシが卓に残ったギルベルトを睨んだ。

「はァ、まだ何かあるよなァ、これはなァ――」

 ゴロウがワインの杯に口をつけながら髭面を曲げた。

「ゲロゲロ」

 ゲッコはパカンと大口を開けて特大タンブラーの水を流し込んだ。

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