十八節 那由他への道(弐)

 連合第二戦闘班も北から退避してくる味方と合流するため戦闘を継続していたが、しかし、敵の数が多すぎる。ねじくれた槍を並べて隊列を作った異形犬の大群は押せば退き、退けば押してくるといった具合で北への進撃に手間取っていた。白い巨人の襲撃で五十名近の人員を失った連合第二戦闘班は脇道の閉鎖も必要で、ひと手が足りていない。異形犬の数は圧倒的に多い。数三百以上が大通路に群れている。

 それでも、異形犬の大群は優勢でないのである。

「このクソ犬ども、一体、何匹いやがる!」

 異形犬の大群にとって、不利な状況を作り出している男が飽和した不機嫌を咆哮に変えた。

 折り重なった異形犬の斬殺体に囲まれたツクシである。

 異形犬の隊列がこのツクシへ突撃すると、その手にある白刃が目にも留まらぬ速さできらめいて異形犬の軍勢の被害が瞬く間に増える。

 接近戦は危険。

 そう察知した異形犬が距離を取ってねじくれた槍を投擲すると、その武器が手元から離れた瞬間、目の前にツクシが出現して異形犬を端から叩き斬る。異形犬の隊列が押しても退いてもだ。その男ただひとりのために被害が増える。異形犬はさほど知能が高くはないが、しかし、この白い刃を武器にした不可解な殺し屋を警戒し始めた。

 戦闘が膠着状態に陥ったところで、ドォォォォンと爆発音が大通路を振動させた。

「まさか、ヤマさん!」

 ツクシは爆発音の出た先――大通路の北に視線を送って目を見開いた。

「ゲロゲロ――」

 近くで異形犬の駆除に精を出していたゲッコも鳴いた。

「あれ、ヤマかァ?」

 戦場を駆け回って負傷者の手当てをしていたゴロウが、大通路の北で高く舞い上がった粉塵と、高く舞い上がったひと影を目に止めた。

「大通路の北にいた班はもう駄目か――」

 ルシア団長が呟いた。

「ルシア、愚図愚図していると俺たちまでヤバイぜ。あっちで白い奴が喚いてる。じきに、こちらまで到達するぞ」

 ルシア団長に耳打ちしたのは駆け寄ってきたゲバルド副団長だ。その周囲に、γ型導式機関鎧装備の団員たち――メンヒルグリン・ガーディアンズの団員も集まってきた。白い巨人の襲撃から辛くも生き残った男たちだ。それぞれ異形犬の返り血で白い鎧を赤く染めている。

「ボゥイ副団長、導式鳥で連合各班へ自主的な撤退を促してくれ!」

 ルシア団長が異形犬を相手に導式ウィップを振るっていたボゥイ副団長へ怒鳴った。

「もう退くのか、まだ北で生きてる奴はいるだろ、くそ!」

 ボゥイ副団長が導式ウィップを強く引いた。しなりのある導式の刃に絞められていた異形犬の首がパンッと飛ぶ。敵を仕留めたボゥイ副団長は背後へ目を向けた。ヴァンキッシュ冒険者団の生き残りが異形犬の大群へ向けて発砲や光球焼夷弾の投射を続けている。この集団の役割は脇道から出現する異形犬の処理だ。恐怖で固まった彼らの表情の上に疲労が重なって生気がまったくない。

 持ちこたえるのはもう限界に見えた。

「親父なら、こんなときどうする――?」

 ボゥイ副団長の顔が歪んだ。動きを止めたボゥイ副団長の横をひと影が通り抜けた。あっと驚いたボゥイ副団長が、その男の背に視線を送った。

 その背で死神の翼が揺れている。

 大通路の道幅を埋める異形犬の大群へツクシ独りが歩いてゆく――。

「うぬおっ、おいおい、ツクシ!」

 ゴロウがツクシの独断専行に気づいてダミ声を張り上げた。

「ゲゲゲッ、師匠!」

 ゲッコも異形犬の集団を相手に偃月刀と円形盾を振り回しながら声を上げた。

「ツクシ、おめェは独りで何をするつも――ぬぅあっ!」

 ゴロウは駆け寄ってツクシは止めようとしたのだが、その途中でねじくれた槍が飛んできて尻餅をついた。その股の間に飛んできた槍は突き立っている。ゴロウの目の玉が飛び出しそうになっていた。

「ああ、ヤマさんをつれて帰らないとな――」

 ツクシは振り向かずにいった。

 その右手の先に下がるのは、血化粧を整え終わった魔刀ひときり包丁――。

「だっ、駄目だ、ツクシ、気持ちは俺もわかる。俺にもわかるけどよォ。たぶん、ヤマはもう手遅れ――」

 ゴロウのダミ声が震えた。

「ゴロウ、俺はヤマさんと一緒に日本へ帰るって約束したからな」

 ツクシの三白眼から殺気が溢れ、前へ進む足元の周囲に虹が浮く。

 これは良し、

 これは良し、

 この男は大いに良し――!

 魔刀はギラリギラリと高笑い。

「ツクシ、死ぬぞ、無茶だ、敵の数が多すぎる!」

 ゴロウが床に這うような姿勢で叫んだ。

「独リデヤル、師匠デモ無理――邪魔ダ!」

 ゲッコが目の前に迫った異形犬の頭を偃月刀で叩き割った。戦場はどこを見ても乱戦だ。ゲッコは異形犬に囲まれているし、ゴロウへもねじくれた槍を掲げた異形犬の集団が突っ込んでくる。ツクシの背へ視線を残しながら立ち上がったゴロウが、鉄の錫杖で応戦を始めた。

 間違いなく連合の戦力は足りていない。

 ツクシの援護をするものはいない――。

「デギ、デギ!」

「コイツ、イチバンギゲンナ、デギ!」

「ゴロゼ、ゴロゼ、ズグゴロゼ!」

「デギ、デギ!」

「ニンゲン、マンマノ、デギ!」

 北でねじくれた槍を並べて隊列を作った異形犬の大群は、歩み寄るツクシへねばつく涎を撒き散らして喚いた。

「――殺すだと?」

 ツクシは死神の翼を広げた。

「俺を殺すだと?」

 唸るツクシの足元から虹色の煌きが広がった。

 半径で十二歩半。

 歩くツクシを中心に虹のきらめきが円陣を描いている。

「ふざけてんじゃあねェぞ――」

 ツクシは一直線に北へ――ヤマダのもとへ足を進めた。虹の円陣内へ不用意に足を踏み入れた異形犬の一匹が真っ二つになって崩れ落ちた。魔刀のワザである。ツクシは十二歩半先で二つに割れた異形犬を確かに魔刀で仕留めた。だが、ツクシは一直線に歩いてもいる。二個の結果が零秒のうちに発生している。ツクシの行く手を遮る異形犬の群れは数三百以上。そのすべてが沈黙して虹の円陣を広げ歩み寄るツクシを凝視していた。

 死神の虹彩は無定無量の絵画を描く。

 金剛界――。

「今から死ぬのはな――」

 死神はその足元で全世界を網羅する。

 大曼荼羅――。

「邪魔だ、そこをどけ、犬畜生ども!」

 咆哮した死神が虹色の光を散らして跳躍する。零秒後、異形犬の大群の真っ只中に死神が出現。死神の手の先で殺しの刃が踊躍歓喜ゆやくかんぎ(※踊り上がって喜ぶこと)した。決死の断線に掛かった異形犬がバラバラに崩れて落ちる。

 その断線は零秒間に七つ奔った。

 これは速さではない。

 零秒の間に複数の結果が発生した。

 魔刀を振るったツクシが七つに分かれて見えた。

 だが、異形犬の死体を踏み越えて歩みを進めるツクシはただ独り。

 殺人剣――。

「――おい、勘違いをするな。此処ここで死ぬのは手前てめえらのほうだ」

 血塗れた白刃を携えた死神が、戦意を失いつつある異形犬の大群へ、低い唸り声を聞かせた。

 金剛界大曼荼羅殺人剣こんごうかいだいまんだらさつじんけん

 ツクシの繰り出したワザを魔刀ひときり包丁はそう呼んだ。この業に新たな名をつける必要があった。ツクシが今この場で頓悟とんごしたこの大業オオワザは永劫のときを様々なあるじと共に彷徨い歩き因果を断ち斬ってきた魔刀ひときり包丁が持つ戦いの聖典コデックスに――殺合コロシアイに存在しなかった。

「――間違いなく、ブチ殺してやる」

 ツクシを中心に描かれた虹色の絵画のなかに足を踏み入れた異形犬は、零秒間で多発する死神の刃の贄となった。

 決死の断線が乱れ飛び、ギャア、ギャア、ギャギャン、と異形犬の断末魔の声が連鎖する。

 異形犬の隊列が総崩れになって左右に割れた。

 ツクシはその中央を進む。

 異形の大群に遮られていた視界が開けた。

「この、腐れデクノボーどもが――!」

 ツクシの視線の先に白い巨人が三体いる。白い巨人は北の戦場でまだ生き残っていたものを追い回したり、そこに散らばった死体を口に運んだりしていた。

「おい、調子に乗ってるんじゃねェ――!」

 これは呪詛だ。

「覚悟しろ――」

 呪詛。

「必ず俺が、この俺が、この俺の手で手前てめえらをる――」

 呪詛。

「揃って三枚に下ろしてやるぜ――」

 呪詛。

手前てめえらの薄汚ねえはらわたも、デキの悪い脳みそも、残らず此処でブチ撒けてやる」

 死神が薄暗がりの翼を広げた。

 その手の先で血に濡れて尚も白きを失わぬ魔刀が大笑する。

 ギラリ、ギラリ、ギラリ――。


 §


 硝煙の匂い。

 黒煙の匂い。

 血の匂い。

 薄汚れた獣の臭い。

 悲鳴、悲鳴、悲鳴――ねじれた槍に貫かれ、白い拳に叩き潰されて、次々ひとが死んでゆく。強張った足がもつれてシャオシンはぽてんと転んだ。転んだ傍に、喉を切り裂かれて死んだ異形犬が転がっていた。その近くに、ねじれた槍で胴を貫かれて死んだひとも転がっていた。黒い導式機動鎧の男だ。スロウハンド冒険者団の団員のようだった。そのまま床に両手をついて、シャオシンは、「ううっ、ううっ」と嗚咽した。

 もう動けない。

 シャオシンは戦いたくない。

 シャオシンは血を見るのが、暴力を見るのが、大嫌いだった。

 これは現実逃避だ。

 遥か西方から来た王女は平和だった故郷を思い出していた。

 ウェスタリア大陸の南東に位置する黄龍ホァンロン。その国の王族であり支配者であるホァン家。シャオシンは黄家の第四子だった。父親の黄龍王の側室から生まれた女児に黄小芯ホァン・シャオシンという名が与えられた。彼女の上にはよくできた兄が――正室の子が三人いた。だから当然、シャオシンは黄龍王の後継者として考えられていなかった。シャオシンの母は物心つく前に病死した。幼い女児のシャオシンは周囲から王を決して継げない立場と軽く見られた。

 シャオシンは孤独だった。

 孤独だったが、黄龍で暮らしていた頃のシャオシンは血と暴力からは無縁の生活を送っていた。シャオシンの世話役だった劉華雨リュウ・ユンファとフィージャ・アナヘルズは平和を心から愛する王位を継げない王女の傍にいつもいて、その孤独を癒し、弱さを支え、少女に足りなかった家族の愛情をも補って――。

「シャオシン、立て!」

「ご主人さま、しっかりして!」

 四方八方から迫る異形犬を戦場のステップを踏みつつ撃退しながら、リュウとフィージャが続けて怒鳴った。

「あっ、リュウ、フィージャ、後ろから――」

 シャオシンが弱い声でいった。連続する恐怖で感情が鈍化している。強い警告を発しつもりのシャオシンの表情も声も淡々としたものだった。

 巨大な影が落ちてきて、視界を暗くしたのに気づいたリュウとフィージャが表情を固めた。

「マンマ――」

 呟く口が血で濡れている。白い巨人の一体が異形犬に囲まれていたシャオシンたちを見つけて歩み寄ってきた。それを見て異形犬がさっと離れて距離を取った。白い巨人が振るう絶大な暴力は飼い主を巻き込んでしまうことも多い。

「マンマァァアッ!」

 白い巨人は絶叫しながら巨大な両拳を振り上げた。

 シャオシンはそれをぽかんと見上げている。

 走り寄ってきたリュウとフィージャがシャオシンを抱きしめた。しかし異形の白い拳は、彼女たちの健気さを一撃で打ち砕く暴力を持っている。

 西方から希望を探しに来た三人娘はここで死ぬ。

 そう思われたが――。

 次の瞬間、大気に虹が満ちた。

「おい、舐めるんじゃねェぞ――!」

 翼を広げた死神が必殺の座標に――白い巨人の眼前に出現した。

「――この白いクソが!」

 ツクシは魔刀を振り抜いて敵を痛罵した。白い巨人の首が胴体から離れて後ろへ落ちた。まったく同時に白い胸元が縦に割れた。

 びょおおっ、と音を出して異形の血が奔流する。

 零秒間である。

 零秒間で、白い巨躯に縦横二つの断線が出現し、その命へ必殺を宣告した。

 フィージャと一緒にシャオシンを抱えていたリュウが血の雨で我に返って顔を上げた。首を失って、さらに上半身を縦に割られた白い巨人がその場にふらふらと佇みながら、周辺へ血を撒き散らしている。

 確かにツクシの声が聞こえた。

 白い巨人を倒したのはツクシの筈だった。

 しかし、そこにツクシはいない。

「ツクシはどこへいった――?」

 リュウは零秒で変貌した自分の運命を――戦闘能力を失った白い巨人を呆然と見つめた。

 白い巨人はやがて膝をついて仰向けに倒れた。

 石床が異形の血潮で波打つ――。


 §


「あ、あんだとォ!」

「ゲロゲロゲッ!」

 同時に叫んだのは、ツクシを追うために南で奮闘していたゴロウとゲッコだ。遠い位置で、逃げ惑うひとを蹂躙していた白い巨人の三体が、いっぺんに血飛沫を噴き上げて倒れたのである。それぞれ白い巨人は離れた位置で活動していたのだが、それを同時にツクシが斬り殺した。ゴロウもゲッコも理解できる範疇にない攻撃だ。決戦兵力が一瞬で消滅したことに気づいた異形犬の大群が攻撃する手を止めて、血飛沫が高く上がったほうを見やると、戦場から喧騒が消え去った。

 異様な静けさである。

「――いっ、一気に白い異形種を三体、ツクシがったのか?」

 ルシア団長が顔を引きつらせた。

「信じられん。あの攻撃は何だったんだ。一瞬、ツクシの振るった刃の軌道が何十にも見えたぞ――」

 横でゲバルド副団長が呻いた。

「クジョー・ツクシ。調査レポートよりも遥かに危険な男――」

「サムライ・ナイトにはここまでの戦力があるのか――」

 ルシア団長とゲバルド副団長が視線を交錯させた。

「サムライ・ナイト? そいつは嘘だな――」

 ボゥイ副団長が導式ウィップを振るいながらいった。しなる導式の刃に肩口を割られた異形犬が悲鳴を上げて、ねじくれた槍を取り落とした。よろけた異形犬に容赦なく群がった団員たちが武器を異形犬へ叩きつけてその命を終わらせる。その集団のなかにベリーニ三兄弟もいる。逃げ回ったり、ときには戦ったりしながら、彼らもしぶとく生き残っていた。

「――ツクシは正真正銘の死神だ。ルシア、ゲバルド、これは好機だろ!」

 ボゥイ副団長が怒鳴った。

「あっ、ああ、ボゥイ、そうだな。よし、全体は北へ進撃だ!」

 ルシア団長が号令した。

「銃持ちは俺のところへ集まれ、駆け足!」

 ゲバルド副団長が戦闘班の再編成を始める。

「俺たちの味方は死神だ。戦え、戦えば勝てるぞ!」

 ボゥイ副団長が声を張り上げた。

 異形の白子の絶叫はもう戦場から消えている。


 よくわからねェ。

 よくわからねえェが、だ。

 虹色の殺陣さつじんの範囲へ同時に七つの斬撃。

 今の俺が出せるのはこの七つが限界らしい。

 いや、それよりも、ヤマさんだ。

 無事でいてくれ、ヤマさん。

 生きていてくれ――。

 眼の前が真っ白になったツクシは片膝をついた。心臓が早鐘のように脈打っている。不機嫌な顔を滝のように冷や汗が流れていた。ツクシは呼吸をしていないことに気づいて、自分の胸を拳で叩いた。喉元で固まった吐息がゲボッと口から飛び出すと、ツクシの呼吸は回復した。繰返される呼気が掠れている。それでも、ツクシは立ち上がった。ツクシの前で首を失って上半身を割られた白い巨人が、大の字で寝そべって石床へ血を流している。

 ふらふらと佇むツクシを囲んだ異形犬の群れが、ねじくれた槍の穂先を向けて距離を縮めてくる。

「へえ、まだやるつもりか、上等だ、端からぶち殺してやるぜ――」

 ツクシは手から下げた魔刀の柄に握力を加えた。

 だが、弱い。

 握力が極端に弱くなっていた。

 ツクシは消耗しきっている。

 立って歩くのもようやくの有様だ。

「なるほど。あれは何の対価も無しで使えるワザじゃないってことか――」

 ツクシの顔が歪んだ。弱ったツクシを囲んだ異形犬の大群が、「ギャッ、ギャッ!」と、獣染みた笑い声を上げた。敵は足元から虹色の光を発していない。異形犬は敵の危険はもうなくなったと判断した。ねじれた槍の穂先が三六〇度からツクシへ迫る。

「舐めるんじゃねェ、犬畜生ども――」

 ツクシが腰を落としたところで、

「――師匠!」

 ゲッコが後方から突進してきた。そのついでに、ツクシの背面にいた異形犬の後頭部を、円形盾でブン殴った。後頭部が凹んだその異形犬は前のめりにバタンと倒れてぴくりとも動かない。死んでいる。

「うおおっ!」

 ゲッコに遅れて南から突撃してきた男たちが気勢を上げた。

 連合第二戦闘班が北へ本格的な進撃を開始したのだ。

「おう、来るのが遅いぜ――」

 ツクシが呟いた。

 ここで大勢は決した。

 戦況の不利を悟った異形犬の群れは脇道へ逃げ込んでゆく。

「おい、ツクシ、ツクシよォ――ツクシよォ!」

 ゴロウが駆け寄ってきた。

 ツクシの前に立って歯を剥いたゴロウは何かをいいたそうだった。

 しかし、結局、それ以上のことをいえなかった。

「ゴロウ、ヤマさんだ――」

 ゴロウの代わりにツクシがいった。

「あ、ああよォ――」

 ゴロウが泣きそうな顔になった。

「探さないとな、どこだ、ヤマさんは――」

 ツクシが銃声と怒号がまだ響く戦場を頼りない足取りで歩きだした。

「ツクシ、ふらふらじゃねえか。ちょっと休んでからにしろよ、なァ――」

 ゴロウは力のない声でいってうつむいた。

 その声は聞こえたのだが、ツクシは振り返りもしない。

 大通路一面、異形犬の死体とひとの死体で埋め尽くされている。

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