十六節 飛翔機兵

 アマデウス冒険者団は撤退中、キルヒの威厳ある風精の王インペリアル・シルフォンが異形犬と白い巨人の追撃を食い止めつつ、ユーディッドが事前に小路のあちこちへ仕掛けた爆発物を炎の精霊たちサラマンダーで起爆させた。破壊された小路は瓦礫で埋まって通行不能になる。地下十階層から出現した異形犬の群れと白い巨人――異形犬の主軍はアマデウス冒険者団の策略で追撃する道を絶たれた。そこで異形犬の主軍は東方面へ回ってアマデウス冒険者団を追った。その時間帯、ネストダイバー連合レイドがネストの探索を東方面から下り大階段に向けて開始していた。必然的にネストダイバー連合と異形犬の主軍が衝突する。事前に立てた計画通り、追撃してくる敵をネストダイバー連合へ押しつけた(もっとも、押しつけるのはエイシェント・オークの予定だったが――)アマデウス冒険者団は、ネスト九階層の南西区北寄りの大通路を移動中にその足を止めた。その対面から来る百名前後の集団は歩みを止めない。黒い導式機動鎧やら黒い軽武装服やらで武装した黒づくめの集団だ。この集団は、スロウハンド冒険者団が主体となって形勢された連合第三戦闘班である。

 シルヴァ団長が「フーッ!」と大袈裟な溜息をついて自分の前髪を揺らした。

「――シルヴァ・ファン・アマデウスだな」

 連合第三戦闘班から黒い唾広帽子に黒い武装ロング・コート姿の中年男が進み出た。

「フーッ、お前は誰だったっけ?」

 シルヴァ団長が大袈裟な溜息と一緒に訊いた。

「一度、顔を合わせた筈だがな。俺はロジャーだ。ロジャー・スロウハンド・ウィズリー。スロウハンド冒険者団のかしらをやっている」

 ロジャー団長が帽子の鍔を手で引き上げて名乗った。

「ふぅん、それで、そいつが俺に何の用?」

 シルヴァは空白の笑みを見せた。

「小僧、また好き放題にやってくれたな。貴様らがつれてきた薄汚い犬っころのお陰で、俺たちの連合レイドは壊滅寸前だ。どんな小細工を使って貴様らが逃げてきたのか知らんが――」

 ロジャー団長が唸ると背後に控えた団員たちが武器を構えた。

「だから、何だ?」

 シルヴァが空白の笑みを傾けた。導式機動鎧装備が三十名。長銃持ちが六十名。導式陣砲収束器と軽導式陣収束器を装備したものが合計で十名。ロジャー団長が率いる戦力はタラリオン王国陸軍で中隊規模の装備と実力を備えている。対峙するシルヴァ団長率いるアマデウス冒険者団の戦力は、ドワーフ戦士三十名に銃装備のヒト族を加えた三十名の合計で六十名。

 数の上でも、装備の上でも、アマデウス冒険者団は分が悪いように見えた。

「貴様らを生きて帰すと俺の面子メンツが立たん」

 ロジャー団長が導式機関剣を引き抜いた。

 形状はサーベル型。

 その刀身に青い導式の光がまとわりついていた。

「ふぅん――」

 シルヴァ団長は適当な返事をした。

「――シルヴァ、あいつ、導式剣術使いウォーロック・ソードマンよ。外套の下に軽導式鎧を着ているわ」

 レオナ副団長がシルヴァ団長の耳元で囁いた。

「うん、わかってる」

 シルヴァ団長が長剣を引き抜いた。鍔に赤い秘石がはめ込まれた豪華な導式剣だ。

 その刃に赤い導式の光が巡っていた。

「落ち着いてね。貴方なら誰にだって勝てるんだから」

 そう言い残して、レオナ副団長が後ろへ下がった。

「俺は大丈夫だよ。レオナは心配性だよな」

 シルヴァ団長は空白の笑みを消した。

「団長、導式鎧はドワーフ戦士俺たちが引き受けます。あの黒い武装ロング・コート――導式剣術使い、どうしますか?」

 エッポが大戦斧の柄で自分の肩鎧を叩きながら訊いた。

「キルヒは疲れてるよな?」

 シルヴァ団長がキルヒへ視線を送った。

「ひと同士の諍いに手は貸さん」

 小さい声でキルヒが応えた。いつも音楽のようなその声音は明らかに疲弊している。

「そうなるとエッポ。俺が奴の――ロジャーの相手をするしかないだろ? フーッ!」

 シルヴァ団長が大袈裟な溜息と一緒に進み出た。

「はい、お願いします。よし、ドワーフ野郎ども、前へ出ろ!」

 エッポが号令でドワーフ戦士が進み出る。

 重装鎧を身に着けた彼らが一斉に動くとガチャガチャと音が鳴った。

「ユーディット、あいつらの銃が多い、処理を頼めるか?」

 シルヴァ団長がいうと、

「シルヴァ、私、今日はかなり疲れてるんだけどお?」

 ユーディットは無気力な返答だ。

「頼むよ」

 シルヴァ団長が笑った。

 ロジャー団長が腰を落とした。

 刃を向け合った両者の間にある距離は十五メートル。

「仕方ないなあ」

 ユーディットが彼女の守護者――炎の精霊たちサラマンダーを呼び出した。

「――銃を捨てろ。薬莢入れもだ!」

 ロジャー団長が耳の長い女の近くで運命潮流マナ・ベクトルが震えたのを目にして怒鳴った。

 直後、

「ギャッ!」

「痛えっ!」

「な、何だ!」

「俺の指が二本も飛んだ、くっそ!」

 ロジャー団長の背後で悲鳴が上がった。銃や薬莢入れが暴発している。苦悶の声を上げる団員の間を走り抜けながら、ユーディットの使役した炎の精霊たちサラマンダーがケタケタ笑っていた。火薬を暴発させたのはこの小さな乙女たちだ。

「敵集団に炎の祝福を受けたエルフがいる。銃は使えんぞ。奴らを肉弾で叩き潰せ!」

 ロジャー団長の命令で導式機関が唸りを上げた。スロウハンド冒険者団の黒いβ型導式機動鎧の団員六十名が突撃を開始。アマデウス冒険者団の前面を守るのはドワーフ戦士三十名を指揮するエッポ、それに、白いβ型導式機動鎧装備のエレミアだ。

 彼らと彼女は武器を構えたが、その場から動かない。

精神変換サイコ・コンヴァージョン口述鍵キイ強制解除クラック。魔導式陣・串刺し公の晩餐会ウムプラ・ツェペシュを機動――」

 集団の先頭に立つシルヴァ団長の黒いマントが歪の力でふわりと浮く。

 五十機横並び一列で突撃した黒い導式機関鎧の下にあった影が魔槍となって突き出した。魔導で作られた影の鉄格子に囚われて兵機の足が止まる。

「あいつは魔導具を使用したのか!」

「こんな派手な魔導式を機動させやがって――」

「命知らずは感心するがな?」

「目算違いだぜ」

「β型以降の導式機動鎧は魔防機構が標準装備だ」

「魔導式は通じんぞ、陸軍の兵機を甘く見るな、クソガキ!」

 魔槍を力任せにヘシ折って黒い兵機の列は前進した。全員が無傷だ。対魔導式戦闘を考慮して開発されたβ型以降の導式機動鎧には、魔導式に対しての強い耐性を持つ防御機構が備えられている。簡単に説明すると、β型導式機動鎧はその装甲の表面を導式の防壁が薄く覆っているのだ。

「ドワーフ野郎ども、迎撃だ、あの小賢しい鎧と一緒に奴らを叩き潰せ!」

 大戦斧を突き上げたエッポが咆哮するとドワーフ戦士が迎撃を開始した。エレミアも、ドワーフ戦士の集団に交じって突撃する。導式陣を肉体内部で常時機動し、自身の膂力を倍化させる『内機動導式』を扱うドワーフ戦士は導式の兵機と互角に渡り合った。巨大な刃がぶつかり合って火花が散り、その合間合間に血が飛んで、人命の途絶を知らせる断末魔の声が方々で上がる。

「――あっ。あいつ空を飛んでるのか?」

 シルヴァ団長が驚きの声を上げた。上空、十五メートルである。武装ロング・コートの裾を広げたロジャー団長が宙を駆けてシルヴァ団長へ突撃してきた。その姿は黒い猛禽を思わせる。

 宙を走るロジャー団長の足元で導式の赤い光が散った。

「――銃班、奴を撃ち落せ!」

 レオナ副団長が命じると周辺の団員が銃を一斉に発射した。空中で射撃の的になったロジャー団長は右の爪先で自身の前面に円を描くような動作を見せた。円形の赤い防壁が宙に発現する。

 ロジャー団長を襲った鉛弾を防壁がすべて弾き返した。

「ああ――」

 アマデウス冒険者団の銃班が呻き声を上げた。ロジャー団長が見せたのは、タラリオン王国陸軍の特殊部隊に所属するもの――導式剣術使いウォーロック・ソードマンが見せる戦いの技術だ。

「やっぱり導式剣術兵に通常の攻撃は通じないか。厄介だな――銃班は下がって距離を取れ。シルヴァ、私たちは貴方の援護に専念するわ。気をつけて!」

 レオナ副団長が銃班と一緒に後ろへ下がった。ユーディット、ダンカン、キルヒもそれに続く。その場にシルヴァ団長だけが導式剣を片手に佇んでいた。導式機関剣を切っ先を向けてロジャー団長がシルヴァ団長を目がけ急降下してくる。

「魔導式陣・雷烈波ヴァジュラ、機動」

 シルヴァ団長の突き出した手の先にあった大気が炸裂した。

 ロジャー団長の外套が魔導が作った衝撃派で千切れ飛ぶ。

「――小僧!」

 吼えたロジャー団長は無傷だ。ロジャー団長は武装ロング・コートの下にフレーム型の導式機動鎧を装着している。そこに駆け巡る赤い導式の光が、シルヴァの放った魔導の力を相殺していた。

「俺を、大人を、大人が積み重ねてきたものを侮るなよ、小僧!」

 ロジャー団長の導式機関剣がシルヴァ団長の首元を狙った。

 ガラスの割れるような音。

 砕け散る導式の光――。

「――くっお!」

 呻き声を上げたシルヴァ団長が右手の導式剣を振り上げた。導式の光が刃の軌道を赤く描く。しかし、赤い光の軌道の上にロジャー団長はいない。宙に作った足場を蹴って後ろへ跳ね上がったロジャー団長がストンと着地した。

「シルヴァ、私の防壁が一撃で剥がされたわ、そいつ、かなり強い!」

 レオナ副団長が叫んだ。シルヴァ団長は無傷である。だが、レオナ副団長がシルヴァ団長を守るために機動していた導式陣・聖なる防壁はロジャー団長の一撃で停止した。

 再起動には時間を要する――。

「ああ、わかってるよ。心配性だよな、レオナは――しかし、その導式鎧すごい。足場を出して宙を走れるのか、ちょっとカッコいいよな――」

 シルヴァ団長は感心している様子だ。

「あの女は導式使いか。何をしている、野郎ども、あの女を黙らせろ!」

 ロジャー団長は怒鳴った。

「団長、ドワーフどもが邪魔で、クソ!」

 ドワーフ戦士を相手に乱戦中の団員たちからはそんな応答が返ってきた。スロウハンド冒険者団は数の上で有利だ。しかし、エッポ率いるドワーフ戦士たちは各々が手錬で粘り強い戦いぶりを見せている。特に、白いβ型導式機関鎧を着込んだエレミアなどは「明日などいらぬ」といわんばかりの奮闘ぶりだった。そのエレミアが振るった大斧槍の犠牲になって、スロウハンド冒険者団の団員がまた一人、悲鳴と一緒に路面へ転げた。

「――貴様、魔導式を使ったな?」

 ロジャー団長がシルヴァ団長へ鋭い視線を送った。

「その導式鎧って最新型なの?」

 シルヴァ団長はロジャー団長の質問には応えずに訊いた。

 両者の間にある距離は目算で十メートル。

「――ご名答だ。Δデルタ型導式機関フレーム。通称で『飛翔機兵イカロス』。こいつは陸軍に供給が始まったばかりの最新型だぜ」

 ロジャー団長は導式機関剣の切っ先をシルヴァ団長へ向けて笑った。

「やっぱり格好いいよなあ、それ――」

 シルヴァ団長は本当に羨ましそうな顔である。

「小僧、切り刻む前にひとつだけ訊く」

 子供のような態度を見て眉間を冷やしたロジャー団長が身体の重心をすっと下へ落とした。

「俺を切り刻む? そんなことお前にできると思っているのか? フーッ!」

 シルヴァ団長は大袈裟な溜息で前髪を揺らした。

「どうして貴様は魔導式具なしで魔導式を扱える?」

 ロジャー団長は唸った。

 シルヴァは空白の笑みを顔に浮かべたまま黙っている。

「外見はヒト族に見えるが――貴様は魔人族ディアボロスなのか?」

 重心をより低くしたロジャー団長の全身が導式の赤い光に包まれた。

 最大出力。

 敵は魔導式を扱う未知の戦力を持つ相手。

 だが、刃を交えてみたところ白兵戦闘能力はさほど高くなかった。

 ならば可能な限りの高速で接近。

 導式機関剣を使用した連撃にて援護の防壁を突き破り確実に抹殺――。

 勝利を確信した黒い猛禽の口角が吊り上がる。

「――え? 魔人族だって? 違う違う、俺は聖魔だよ」

 シルヴァの発言がロジャー団長の出足を止めた。

「何のことだそれは?」

 ロジャー団長は眉をひそめた。

「聖魔の騎士。選ばれしもの。俺はきたるべくしてこの世界に来た英雄――」

 そういいながら、シルヴァ団長は導式剣を両手で持って、その切っ先を高く上げた。

 八相の構え。

「この期に及んでガキの戯言たわごとか。くだらん――」

 ロジャー団長に目に殺気が戻った。

「試してみるか? この俺の――聖魔の騎士の力を――」

 シルヴァ団長は導式剣を振り下ろすと、その右手で虹の光が散った。

「何だと――」

 ロジャー団長は眼前に散った自分の血を見つめた。袈裟懸けに一閃。ロジャー団長の身体が割れている。お互いの間にある距離は十メートル以上。届くことがない筈のシルヴァ団長の一撃がロジャー団長へ届いた。ロジャー団長の口から血が溢れて顎から滴り落ちた。

 片肺を両断する致命傷だ。

「ロジャー団長!」

 両膝についたロジャー団長を見て、黒い導式機動鎧の団員が声を上げた。シルヴァ団長は空白の笑みを大きくして導式剣を横殴りに振るった。聖魔の騎士は一歩も動かない。だが振るう刃は敵へと届く。

「な、何が起こって――ひゅう!」

 黒い導式機動鎧装備の団員が掠れた断末魔を上げた。

 首鎧ごと喉を斬られている。

「あっ、あの虹色の光は――」

 導式ゴーグルをつけた団員の顔が縦に割れた。目の前に敵はいない。だが、彼の顔を割ったのは聖魔の騎士が振るった刃だ。シルヴァ団長は空白の笑い声を上げながら、赤い導式が巡る刃をその場で振り回し、絶対の安全圏内から敵の命を奪い続けた。

「シ、シルヴァの斬撃は『距離』と『時間』を無視して――」

 叫んだ団員が斬り殺された。

「こ、これはツクシさんと――サムライ・ナイトの『ワザ』と同じ――!」

 感づいた団員もまた斬り殺された。

 うつ伏せに倒れたロジャー団長が右手を上げて、それを後ろへ送った。

 震える指先が総員撤退の合図を送る。

「だ、団長を、ロジャー団長を助けなきゃ――」

 スロウハンド冒険者団の若い団員が、ロジャー団長へ駆け寄ろうとしたが、

「団長は致命傷だ。もう助からん。すぐ退け!」

 近くにいた中年の団員が若者の肩を掴んで止めた。肩を掴む手もその声も震えている。今、地に落ちて瀕死となった黒い猛禽はスロウハンド冒険者団の団員の――兵隊崩れどもの敬意を一身に受けていた男だった。

 喧嘩に強く。

 機転が利き。

 細かいことに拘らず。

 誰に対しても気前良く。

 博打が大好きで博打のイカサマも大得意。

 そのイカサマの技は、まるで手が止まっているような鮮やさ。

 それで『遅い手スロウハンド』と渾名されていた冒険者ロジャー・スロウハンド・ウィズリーは大の男から惚れられるような伊達男だった。

「――全体、撤退だ。連合から指定された座標まで走れ!」

 導式術兵ウォーロック姿の団員が軽導式陣砲収束器から発煙球を投射した。

 煙幕で視野は零に近くなる。

「――副団長、奴らを追いますか?」

 エッポがレオナ副団長へ走り寄って訊いた。残酷で計算高いこのドワーフ族のならずもの――エッポ・ヘルモーニはアマデウス冒険者団の実質的な舵取り役を知っている。

「深追いをする必要はないわ。総員、戦闘停止!」

 レオナ副団長が声を張り上げた。

 路面に倒れたロジャー団長の指先がまだ細かく震えている。

「フーッ!」

 薄くなった煙幕を割って、倒れたロジャー団長へ歩み寄ったシルヴァ団長は大袈裟な溜息をついた。

「き、貴様、は――」

 ロジャー団長が猛禽の目でシルヴァ団長を睨んだ。

「ヒト族風情が俺に勝てるわけがないよな?」

 空白の笑みを見せたシルヴァ団長が導式剣のその切っ先をロジャー団長の背へ落とした。悲鳴は上がらない。折れた翼を広げるように手を伸ばしたロジャー団長は仰け反って、やがて、脱力した。

「あっ、この導式鎧、壊れてる。持って帰りたかったんだけど。格好いいもんなあ、これ――」

 シルヴァ団長は自身の手で破壊したロジャー団長の飛翔機兵イカロスを見て泣きそうな顔になった。

「やっるう、シルヴァ!」

 笑顔のユーディットがシルヴァ団長の腕にまとわりついた。

「さすがでさ、我らが大将、世界一!」

 続いてヨイショをしたのはダンカンだ。

 他のアマデウス冒険者団の面々が集まってきて口々に自分の団の団長を褒め称えた。

「フーッ! ま、こんなの大したことはないよ――」

 シルヴァ団長は大袈裟な溜息を吐いたが、まんざらでもない顔だった。

「急ぎましょう、シルヴァ。モタモタしていると、あの白い奴が追ってくるかも知れないわ」

 レオナ副団長がシルヴァ団長に身をぴったりと寄せたユーディットへ、冷ややかな視線を送りながらいった。

「あっ、ああ、そうだな、レオナ。よし、みんな、予定通りこのまま王座の街へ帰還しよう!」

 シルヴァ団長が慌てて号令した。

シルヴァあの男は因果を絶てる。しかし、だが、このような――」

 独り戦場に残っていたキルヒが眉を寄せた。戦場跡にはスロウハンド冒険者団の団員が転がっている。多くは死体だが、まだ息を残しているものも多少いた。しかし、その彼らもすぐ息絶えるであろう。死体と死体になりかけたものをその場に残して、キルヒも東へ歩き出した。

 大通路の遠く西に異形犬の群れが見える。

 スロウハンド冒険者団が主体になった連合第三戦闘班の六十名は、この戦場からの撤退に成功した。

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