四節 サムライ・ナイトの伝説

 ツクシの鼻先に硝煙が流れてくる。

 ネスト地下九階層の北西区では遠くで近くで銃声が鳴り響く。断続的にエイシェント・オークの咆哮も聞こえた。ネストダイバー連合レイドに所属する探索者の怒鳴り声がその咆哮を取り囲んでいる。ネストダイバー連合の中央集団に交じったツクシは、大通路の十字路中央で沈黙したまま佇んでいた。

 ツクシの顔には無精髭が目立つ。

「東の小路からスパルタンが六きてる!」

「もう俺たちだけじゃあ東方面を支えきれねーよ!」

「後続のスカウトも来るぞおーッ!」

 ツクシは東から逃走してきた探索者集団二十数名を横目で見やった。集団の先頭を走っているのはベリーニ三兄弟だ。彼らの自慢は逃げ足らしい。エイシェント・オーク・スパルタンが六体、足を踏み鳴らして逃走者を追撃している。最も接近しているスパルタンは装甲盾の代わりに松明を掲げていた。

「ゲゲッ!」

「グルルッ!」

 飛び出した二人の獣人が巻いた風で、ツクシの外套の裾が揺れた。突撃したのはゲッコとフィージャだ。ヒト族より遥かに素早く、そしてタフなこの二人がスパルタンの突撃を食い止める。

「おうい、ゲッコ! 独りで全部を相手にする必要はねえぞお!」

「フィージャ! そんなに気張って深入りすると俺の防壁が届かんではないか、自重しろ!」

 リュウとゴロウが十字路中央に固まっていた集団から飛び出した。スパルタンと真正面から切り結ぶ獣人二名を奇跡の力で援護するのはこの二名だ。

 ツクシはただ眼光鋭くしただけで、その場から一歩も動かない。

「さて後続のスカウトはどのていどの数か――」

「ゲッコとフィージャばかりにいい格好をさせるのはシャクだ。団長、俺たちも出ようぜ」

 言葉を交わしたのは、ツクシの近くにいたアレス団長とボゥイ副団長である。

「アレス、『スロウハンド』も東方面に出るぜ。西は暇すぎてな。眠くなってきたぞ。突っ立っているだけじゃ稼ぎにならんからな」

 そういったのは、西の大通路から探索者集団を率いてきた、黒い幅広帽子に黒い武装ロング・コートを羽織った男だ。鍔拾帽子の下で落ち窪んだ眼窩に鋭い眼が二つ光っている。

「いや、ロジャーの団には導式陣砲収束器カノン・フォーカスで支援砲撃を頼みたい。まだ敵の後続が来るようだ」

 アレス団長がのっぺり重い声で告げた。

「――慎重だな。アドルフ、フランマ・エヴォーカーの用意をしておけ。導式機動鎧組は指示があるまでこの場で待機」

 黒い一本髭の中年男――ロジャー団長が指示を出した。このロジャーというアダな感じの中年男は、ネストダイバー連合レイドに参加中のスロウハンド冒険者団の団長で、フルネームを、ロジャー・スロウハンド・ウィズリーという。彼が率いるスロウハンド冒険者団は兵隊崩ればかりを集めた武闘派で、ロジャー団長自身もタラリオン王国陸軍の元大尉だ。王国軍の払い下げ品――型落ちの導式機動鎧や導式陣砲収束器を多く持つ総勢百二十名余のスロウハンド冒険者団はネストダイバー連合の主力になっている。

「団長の指示は聞こえたな? おい、準備機動だ、さっさとやれ」

 ロジャー団長の後ろに控えていた目に導式ゴーグルをつけた大男――アドルフ副団長が周辺の団員を促した。このアドルフ副団長は、あばた面に顎髪と口髭を生やした、見るからに悪党といった感じの巨漢である。そのアドルフ副団長は導式陣砲収束器を両方の側腕部に装着した。導式機動鎧装備の団員も準備機動を開始した。彼らの団のシンボル・カラーの黒一色で塗られたβ型導式機動鎧に導式の光が巡って低い機動音が重なる。

略奪者団レイダースと違って、エイシェント・オークが飛び道具を使わないのは助かるよね。ねえ、ツクシ。あれっ?」

 茶色いフード付きマントを羽織ったエルフ族の若い美人が、横にいた筈のツクシへ自慢の美貌を振り向けたが、そこにツクシはもういない。

「ゾラ、ツクシに『その趣味』はないみたいだぜ。いい加減に諦めろ」

 アドルフ副団長がゲハゲハ笑った。視線を落とした周囲の団員たちも肩を震わせて明らかに笑いを堪えている。むっと眉を寄せたエルフ族の美人――ゾラ・メルセス=ノーミードがアドルフを横目で厳しく睨んだ。スロウハンド冒険者団の紅一点であるエルフ族のゾラは明るい茶髪を白いヘアバンドで後ろへやっておでこを広く見せた、赤茶色の瞳もチャーミングな美少女っぽい容姿である。美少女っぽいのである。このゾラは美少女っぽい男性だ。少女といってもゾラはエルフ族なので正確な年齢がよくわからない。訊いても教えてくれない。そのゾラがネスト探索中、暇を見つけてはツクシにつきまとっている。その理由はよくわかない。ひとがひとへ好意を寄せるのに理由らしい理由は必要ないことが多い。

 スパルタン六体を相手に、ゲッコとフィージャが飛び回って火花を散らしていた東の大通路へ、

「おい、この野郎、逃げるんじゃあ――」

 ゾラから逃亡したツクシが虹を散らして出現した。十字路中央に集まってきた戦力を眼にしたスパルタン六体は旗色が悪いと判断したのか、ここから撤退する様子を見せている。

「――ねえッ!」

 鞘から解き放たれた魔刀ひときり包丁がギラリと笑って、横一閃に殺しの断線が突っ走る。スパルタンの巨体が上下へ二つに割れて血飛沫と臓物が舞い散った。同時に大通路の奥で爆発が起こる。爆炎が壁になって残っていた。大通路奥手から出現したスカウトの小集団へ向けて、スロウハンド冒険者団が光球焼夷弾を投射したのだ。零秒の殺戮と爆発に気を取られたスパルタンの背へ取り付いたゲッコが、その首鎧の隙間から強引に偃月刀を捻じ込んだ。「ヴォ、ヴォアッ!」と咆哮しながらスパルタンが巨体を回転させた。不恰好なダンスである。ゴロウとリュウの防壁を受けたフィージャは、その脚力を生かして縦横無尽に走り回り、スパルタンの体力を消耗させている。

 十字路中央迫ったスパルタン六体のうち、生きてその足で立っているのは残り二体となった。


「――見事だ」

 アレス団長が呟いた。

「俺は自信がなくなるぜ。あの装甲鎧をあんな簡単に――」

 ボゥイ副団長は戦場から猫耳と顔を背けた。

「アレスはツクシを団に誘ったのか?」

 ロジャー団長が訊いた。

「誘った。だが断られた。それがどこかは訊いていないが、ツクシには目指す場所があるらしい。奴はやはりサムライ・ナイトだ。かつてにして未来の君主の元を去った流離さすらいの剣士、永劫に彷徨さまよ宿命さだめを負いし――この一節にはまだ続きがあったな。何だったか――」

 アレス団長が呟くようにいった。

「聖霊書外典――『流転する刃の伝承』か。それはどうか知らんが、あれだけの腕前だ。安売りをしないだろう」

 ロジャー団長の表情を見ると、ツクシに興味はあっても、カントレイアの伝説には興味がないようだ。

「ねえねえ、ロジャー、ロジャー、ボクたちの団にツクシを誘おうよ」

 おねだり口調のゾラがロジャー団長に身を寄せた。

「アレス、本当のところ、あのクジョー・ツクシという男は何者だ?」

 ロジャー団長は肩口に寄ってきたゾラの美貌を見やりながら訊いた。

「何者って――ツクシはサムライ・ナイトだぞ」

 アレス団長は厚い唇の端っこで笑みを作った。

「アレスは、あの与太話を本気で信じているのか?」

 ロジャー団長が顔をしかめた。

「世の中は嘘が多いほうが面白くなる」

 アレス団長が今度は顔全体で大きな笑みを作った。

「――まあ、そうしておくか」

 苦く笑ったロジャー団長が戦場へ目を戻すとスパルタンは残り一体にまで減っている。

「あのリザードマンもすげえな。奴らがドラクルの子孫だって話は案外と嘘じゃないかも知れん――」

 そういいながら、アドルフ副団長が手で合図を送って団員の光球焼夷弾投射を止めた。

「あのフェンリル族も負けてないよ。あれだけ動いても息が上がってないもん。ああもう、いつ見てもフェンリル族はもふもふ可愛いなあ。リザードマンは気に食わないけれど!」

 女子っぽく胸元に両手をやったゾラが複雑な表情を見せた。エルフ族のゾラにとって、フェンリル族はさほど珍しい種族でもない。そしてやはり、エルフ族の天敵リザードマンは虫が好かないようだ。団長や副団長が雑談を交わしているうちに、スパルタンの死体が六個できあがった。

 戻ってきたツクシへ、

「ツクシさん、この調子なら今週中に地下十階層へ入れそうだな」

 アレス団長がのっぺりといった。

「そうかもな――」

 ツクシは無感動な声で応えた。

「暇なのがシャクだ。ツクシが全部やっちまう」

 ボゥイ副団長がツクシから顔を背けたままいうと、ゲッコがゲコゲコ笑って、その横でフィージャが申し訳なさそうに無い眉根を寄せた。

「ボゥイ、そういうな。ツクシさんたちのお陰で連合レイドの被害は最小限だ」

 アレス団長がボゥイ副団長へ目を向けた。

 ボゥイ副団長は口元だけで苦く笑って応じた。

 十字路中央の集団に紛れて所在なさげにしていたシャオシンが、

「ス、スカウトがくるぞえ!」

 咆哮と一緒に炎壁を突き抜けてスカウトが姿を現した。

「今度こそ、スロウハンド俺たちが出る」

 ロジャー団長が黒い導式機動鎧装備の団員たちと一緒に前へ進み出ると、

「いや、ロジャー、俺の団が銃でやろう」

 その肩にアレス団長が手をかけて止めた。

 アレス団長の背後でヴァンキッシュ冒険者団の団員たちが銃を手にとっている。

「おい、アレス、ウチにも働かせろよ。稼ぎにならんだろ」

 ロジャー団長が顔をしかめた。以前、ツクシが提案した通りだ。ネスト管理省から支給される異形種討伐金は連合に参加する団単位で仕留めた数が取り分となる約束になっている。地形の探索データに対して支払われる報奨金は連合全体で折半だ。

「十分、引きつけてから一斉に撃て、焦るなよ」

 団長同士の揉め事を無視して、周囲に指示を出したボゥイ副団長が導式ウィップを手にとった。それと同時に先頭を走っていたスカウト二体の眉間へ矢が突き立った。二体のスカウトは前のめりに倒れて二転三転したあと動かなくなった。「ヴォッ!」と鳴いて、後続のスカウト三体が走る足を止めた。

「――ああ、もう、くっそ――撃て撃て!」

 顔をしかめたボゥイ副団長が命令すると、生き残っていた三体のスカウトへ鉛弾が降り注いだ。導式で作られた炎壁を強引に潜り抜けてきたスカウト五体は敵へ刃を届かせる前にすべて絶命した。

「ヤマ、俺たちの少ない仕事を盗るな」

 ボゥイ副団長が額の茶色いバンダナを指先で引き上げながら背後へ視線をやった。

「へへっ、すんません、ボゥイさん」

 ヤマダが構えていた導式機関弓を下ろして苦く笑った。

 ぽかんと戦場を眺めていたシャオシンの横にヤマダがいる。

「はあ、その導式機関弓は軍の払い下げ品じゃないな?」

 溜息を吐いたあと、ボゥイ副団長が訊いた。

「ええ、オーダー・メイドで作りました」

 ヤマダはこれ以上の敵が出現しないことを確認してから導式機関弓を背負った。

「やっぱり特注品だな。ヤマ、あとで俺に紹介してもらえるか、それを製作した職人」

 ボゥイ副団長がヤマダの苦い笑顔から視線を逸らして訊いた。

 誰と会話をするときでも必ず目を逸らすのがこの猫人の若者の癖だ。

「ネストの近くっすよ。トムの導式具細工店の職人トムさんっす」

 ヤマダは自分の背にある導式機関弓に視線を送った。

「ああ、あの業つくばりのクソ親父。腕はいいらしいがな――わかった、ヤマ、もういい」

 左右の猫耳をぴんぴん振りながら顔を歪めたボゥイ副団長が、ヤマダから本格的に顔を背けた。ヤマダを嫌っているわけではない。

「ははっ――」

 ヤマダは短い笑い声を上げた。

「こんなもんか?」

 ツクシがアレス団長へ視線を送った。

「こんなもんだ、ツクシさん」

 アレス団長が深く頷いた。

「お前のお陰で俺たちは立ったまま居眠りしているだけだ」

 ロジャー団長がツクシに目を向けて口元だけで渋く笑った。ロジャー団長の横でゾラがツクシをじっと見つめている。ツクシはゆっくりゾラから顔を背けた。そうすると、不機嫌な顔の先にゴロウとリュウが佇んでいる。

「ツクシ、まだ進むかァ?」

「連合もエイシェント・オーク相手の戦闘に慣れてきたな」

 ゴロウとリュウがいった。

「ゲッゲッゲッ、敵、コノママ、皆殺シ!」

 ツクシの横で低く唸ったゲッコはまだまだやる気満々のようだ。

 フィージャが導式の炎が消えた東の大通路を見やって、

「追撃してきた残りのスカウトはすべて退いたようですね」

「この様子だと、エイシェント・オークの残党軍は、もう全滅寸前なのかも知れないっすよ」

 ヤマダはエイシェント・オークの死体へ目を向けた。エイシェント・オークの残党軍は、栄養の補給も武器の補修もままならないようで、垢で汚れた巨体は痩せ細り、装甲鎧や鎖帷子に錆が浮いている。

「こ、このまま進むかの?」

 シャオシンはフィージャに身を寄せて周辺の大人の顔色を伺うような態度だ。

「――どうするかな」

 ツクシが不精髭に手をやった。

「どうした、ツクシさん?」

 アレス団長がゆったりとした動きでツクシへ顔を向けた。

「ほう、珍しい。ツクシ、臆病風か?」

 ボゥイ副団長は嬉しそうな顔である。

「ゲゲッ! 師匠、ラシクナイ」

 ゲッコが眼球だけを動かしてツクシの不機嫌な横顔へ視線を送った。

「ゲッコ、買いかぶりすぎだぜ。俺は臆病でな。たまに自分でも嫌になる。何故、エイシェント・オークの残党は北西区からまとまって出てこないんだ。下層へ逃げ込んでいるのか?」

 ツクシはゲッコへ横目で視線を返した。

「ゲロゲロ」

 鳴いたゲッコは顔を傾けた。

 そのまま停止した。

「ツクシ、確かにそういわれると、ちょっと妙だよなァ――」

 ゴロウが太い眉根を寄せた。

「うーん、以前、ネスト制圧軍団に押されて敗走したから、もう無理に進撃しないんすかね?」

 ヤマダが首を捻った。

「それも、あるかも知れんが――」

 ツクシは釈然としないようだ。

「ツクシ。エイシェント・オークの残党が探索済み区画に設置された導式生体感応器を警戒している可能性はあるか?」

 リュウがいった。

「ええ、彼らの知性は高いですからね」

 フィージャが頷いた。

「エイシェント・オークが、チチンプイプイを使っているのはまだ見たことがねェ。見たくもないがな。奴らが天井にくっついた『複眼』を見ても、それがどんな機能なのかわからんと思うが――」

 ツクシが背後へ視線を送った。遠い場所の石天井に光の塊が見える。ツクシがいった「複眼」とは、この導式生体感応器のことだ。その形状が昆虫の目のように見える。

「――うん。今日で五日目だ。エイシェント・オークをだいぶ狩ったし、探索データも集まった。連合の利益は出ているぞ。ツクシさん、まだやるか?」

 アレス団長が訊いた。

「もう備品が底をつきかけてるぜ。やるならすぐ補給を走らせる」

 そういったのはボゥイ副団長だ。

「いや、ボゥイ、帰るぜ」

 ツクシの発言がボゥイ副団長を止めた。

「ああ、そうか」

 ボゥイ副団長はツクシの無精髭にまみれた顔を一瞥したあと頷いた。

「慎重だな、ツクシ」

 ロジャー団長がツクシへ顔を向けた。

「酒と風呂が必要だろ。不潔にしていると病気が怖い。きんたまが痒くなったりな――」

 ツクシの下品ないい回しに、周辺の男たちは下品な哄笑で応じ、下品が大通路に響き渡る。この場にいる数少ない女性陣は苦笑いだ。ゾラだけは頬を紅潮させてツクシをじっと見つめていた。その赤茶色の瞳が炎のように揺れている。想いびとを熱く見つめる瞳である。

 ツクシは身体をじりじり回転させて顔を背けた。

「ゲッゲッ、師匠、云ウ通リ。病気イラナイ」

 喉の奥で笑ったゲッコも納得した様子だ。

「だなァ、そろそろ風呂で髭をキチンと手入れしてえ――」

 ゴロウは頬髭をもしゃもしゃと弄った。髭を無造作に伸ばしているだけのように見えるが、それなりにコダワリがあるようだ。

「それもありますね。身体がベタベタっす」

 ヤマダが頷いた。

「撤収だな、今回は長かった」

 先ほどから洗っていない髪を気にしている様子だったリュウが表情をゆるめた。

「そうですね、そうしましょう」

 フィージャがいうと、その横のシャオシンも頷いた。

「聞いたか、今回はこれで撤収だ」

 ロジャー団長が周囲の団員へ指示した。

「確かに補給班は風呂と女を持ってこねえからな」

 アドルフ副団長が応じると周囲からまた低い笑い声が漏れた。

「ツクシ、次の襲撃は下り階段周辺になるか?」

 ボゥイ副団長がツクシへ目を向けた。

 チラッとである。

「この調子だとそうなる」

 頷いたツクシは腰から吊るしていた革水筒を手にとった。

 ボゥイ副団長は左手首につけたブレスレット型の導式具に顔を寄せた。目を瞑って精神変換サイコ・コンヴァージョンを始めたボゥイ副団長の手元から次々と白い鳥型が発現する。これらは導式鳥――四つ葉の白鳩クロウベル・ヴァルチャーである。これは導式で作った擬似生命体だ。飛んだ先で音声メッセージを再生できる。役目を終えるとあっさり消えてしまうので、それほど高機能というわけでもない。以前、ツクシがボゥイから聞いた話だと、それほど長い距離を飛ぶこともできないとのことだった。

 今、連合の小集団へ送られた導式鳥には撤収命令が吹き込まれている。

「ツクシ、地下十階層のネストはどうなっているのかのう?」

 シャオシンが天井付近まで舞い上がった導式鳥を見上げた。

「どうなんだろうな。みんなで生きて拝めればいいがな――」

 ツクシが革水筒に口をつけて顔を上へ向けると、その瞳に導式で輝く白い羽根が映り込んだ。

 ネストダイバー連合レイドは撤退を始めた。これ以前にも連合は下り大階段周辺を塗り潰すように探索データを収集しつつ、エイシェント・オークの駆除を行っている。初回の襲撃アタックでは犠牲者が出たものの、今回三回目になる襲撃では犠牲者を一人も出さず帰路についた。探索を成功させるたび、ネストダイバー連合への参加希望者は増え、現在は八百名近い探索者が連合に参加、もしくは参加申請をしている。

 ネストダイバー連合は数あるネスト探索者集団のなかでも最大勢力になっていた。

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