プロローグ(2):神話

 まだ太陽と月、荒野と海しか存在しなかったはるか昔、荒野には3人の姉妹が住んでいました。


 慈愛に満ちた、輝く金の髪の長女、エミリア。

 気高き誇りと情熱を持つ、燃えるような赤い髪の次女、ロザリア。

 自由奔放で笑顔がまぶしい、艶やかな黒い髪の三女、サーリア。


 性格の違う3人は、しかし、サーリアが無邪気に走り回り、ロザリアがそれをたしなめ、その二人の様子をエミリアが笑顔で見守るという、とても幸せな毎日を送っていました。


 ある時、家の周りの荒野を見たエミリアが言いました。

「家の周りが寂しいわね。もっと賑やかにしましょう」

 そうつぶやいたエミリアは、自分の髪の毛を数本抜き、地面に埋めました。

 するとエミリアの髪の毛はどんどん大きくなり、大きな木となって、鮮やかな緑に彩られました。


 続けてエミリアは自分の指を切り、血を数滴地面に垂らしました。

 するとエミリアの血はどんどん大きくなり、犬、鹿、熊、鳥となって、森は賑やかになりました。


 ある時、熊が木を傷つけ、枝を折っているのを見たロザリアが言いました。

「熊が悪いことをしないよう、見張りを立てよう」

 そうつぶやいたロザリアは、自分の指を切り、血を数滴地面に垂らしました。

 するとロザリアの血はどんどん大きくなり、人族の男と女となって、森を見張るようになりました。


 ある時、人族の男と熊が喧嘩をしているのを見たサーリアが言いました。

「喧嘩はダメだよ、みんな仲よくしようよ」

 そうつぶやいたサーリアは、自分の指を切り、血を数滴地面に垂らしました。

 するとサーリアの血はどんどん大きくなり、獣人、エルフとなって、人族と熊をなだめ、仲直りさせました。


 こうして3姉妹の家は森に囲まれ、賑やかで幸せな生活を送る事ができました。


 ある時3姉妹の住む森の近くに、白髪の男、ガリエルが来ました。

 ガリエルは3人の住む森を見て羨ましくなり、自分の髪の毛を抜き、指を切って、髪の毛と血を地面に埋めました。

 するとガリエルの髪の毛と血はどんどん大きくなりましたが、しかし、枯れ木と、見るのもおぞましい白い毛皮を持った醜悪な魔物となったのです。

 それを見たガリエルは怒り狂い、魔物をけしかけて3姉妹の森を襲わせました。

 魔物に襲われた3姉妹の森は、木が枯れ、動物が消え、魔物の白い毛で覆われてしまいました。


 魔物が去った後、変わり果てた森を見たエミリアは嘆き悲しみました。そして、また自分の髪の毛を抜き、指を切り、地面に埋めました。

 するとエミリアの髪の毛と血はどんどん大きくなり、また木と動物となって、森は賑やかになりました。


 しかし、それを見たガリエルがまた自分の髪の毛と血を地面に埋め、またも枯れ木と白い魔物となってしまい、怒り狂ったガリエルは魔物をけしかけ、再び3姉妹の森を枯らし白い毛で覆ってしまいました。


 何千年にも渡って繰り返された結果、エミリアは悲しみから病に倒れてしまいました。

 しかし、またも森が白い毛で覆われてしまったのを見て、病をおして髪の毛と血を地面に埋め、森を蘇らせました。


 ガリエルはまたも髪の毛と血を埋め、白い魔物をけしかけようとします。

 しかし、この時は白い魔物の前にサーリアが両手を広げ、立ちはだかったのです。

「姉様はもう起き上がれないの。森を枯らすのは止めて」

 白い魔物はサーリアの願いを聞き入れず、サーリアを殺してしまいました。


 ロザリアはサーリアの死を聞き、悲しみにくれ、怒り狂いました。

 サーリアはもういません。エミリアももう起き上がれません。森はもう蘇らせる事ができません。


 こうしてロザリアは森を守るため、遺された人族、獣人、エルフとともに、白い魔物と永遠の戦いを繰り広げる事になったのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る