提灯記事がなくならない世界

 ビリー・ジョエルの『Honesty』という歌がある。訳せば「誠実さ」とでもなるだろうか。誠実さ、それは何という悲しい言葉だろう、誰もがみんなその逆でうそつきだ。誠実さんなんて、ほとんど見つけることができない。それこそが一番あなたの中に見つけたいものなのにー。



 今朝、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が興収77憶突破の大ヒット、という記事があった。これを「提灯記事」という。



【ちょうちんきじ】 提灯記事とは、記事の内容が特定の組織などに対して有利になるよう意図して書かれた、好ましくない内容の記事を揶揄した言葉。 有力者に媚びへつらう人を「提灯持ち」と呼ぶことから、転じて同じような意味を持つ記事を「提灯記事」と呼ぶようになった。



 77憶、という庶民には想像もつかない金額と「大ヒット」という言葉、そして何より天下のジブリであり巨匠・宮崎駿だ。好意的に捉えない人の方が少ない。

 情報弱者は、そのままこれを信じ感心する。しかし、色々な情報を知っている人の見方は違う。



①制作に7年余り、制作費に50億以上かけている。

②宣伝費を削ったとはいえ、興収の全額がジブリにはいるわけではない。そう考えると実は赤字である。

③酷評されたゲド戦記とそう大きくは変わらない興収。(まだ上映期間はあるとはいえ、見込みで)これは、実は駿監督関係ない「借りぐらしのアリエッティ」にすら負けているのである。

④『風立ちぬ』にも及んでいない。駿監督の有終の美を飾る作品としては、明らかに興収的には外した作品である。



 以上の点を踏まえていれば、これのどこが大ヒットなのか、という話。

 岸田内閣の支持率もそう。マイナカード関係のものもそう。キムタクファミリー(特に娘たち)の話題もそう。分かっている者は「ハイハイ、まぁ忖度してな」ってなもので相手にしないが、情報弱者は「そ、そうなんですね!」と素直に受け取り、さらに別の情弱に広めてしまう。

 私は疑問なのだ。保身のためのウソが堂々と世にさらされ、人々はその「誠実でない」情報に「ハイハイ」と、まるでそういうものがあるのは仕方がない、とでもいったふうに放置する。そして、そのウソを見抜けない人が真に受け、回りまわって損をする——。

 いつから世の中はこうなったのだろう。立場を守るためのウソなら「まぁ生きてくのに仕方がないよね」ってので放置され黙認されているなんて。



 誠実さ、とは言い換えれば表裏がないことである。

 別な言い方では、人によって言うことや態度を変えない、ということである。

 ただし、今の自由競争社会の中で、弱肉強食のこの世界でそれを貫いていたら、確かに損をする。目を付けられたら仕事を干される。社会的に追いやられる。

 なので人は生きていくために必死にウソをつき、自分を繕う。メンタルのタフな人や、自分の醜さに見て見ぬふりが上手な人なら上手く世を渡るが、誠実でそれほどの器用さのないものには生き辛い世界である。

 真面目で表裏のない誠実な人間が生きにくい、ってなんておかしな世界なのか。

 今一度、私たちはオネスティ(誠実さ)というものについて考え直してもよい時代へと突入しているのではないか。

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