負かす戦いより認めない戦い

 あるアニメのファンクラブの会員しか手に入らない非売品のグッズが、転売屋によって高額で出回ってしまった。それに憤ったファンクラブの運営側が、悔しさのあまり奮発して、そのグッズを転売屋よりだいぶ安い価格で大量にフリマ出品した。

「高い転売屋からは買わないでね!」とのコメントのついたその出品に、神対応との賞賛の声があがっている。



 体にできた切り傷に、絆創膏を貼っただけで「治った」と喜ぶ人はいない。

 軟膏なども塗って、傷が完治してやっと治ったと喜ぶのだ。

 先ほどの、ファンクラブの対応を「神対応」などと褒める人がいるが、あれは神対応などではない。昔からの言葉で、「剣を取る者は皆、剣で滅びる」というのがある。これの意味は「たとえ正しいことでも、人から喜ばれることでも、敵と同じ土俵に立てばたとえ勝っても、そういった存在を認めより強化することになる」である。

 転売屋に対して、彼らより安く出品して勝っても、それは間接的に「そういう世界を認める」行為であり、いつまでもそういう戦いが続くということである。必殺仕事人が悪人を殺すのも同じで、結局悪に悪で対抗するので、殺せば殺すほどまた新たな悪人が出、そういう世界が維持されるのに一役買ってしまうのである。

 まぁ、皆さんは根本的解決より「目先の得」さえあればいいと考えるかもしれないので、その考えなら先ほどの転売屋との戦いが「神対応」に見えるのは仕方がない。



●本当の解決は、転売屋と同じ土俵で戦って損害を与えることにはない。

 そもそも度を越した転売ができないような世の中(制度)にすることでしか解決はない。相手して戦うのではなく、そもそも前提としての存在を否定しなければ根本的解決にはならない。



 問題を難しくしているのは、そもそもが商売というものは「安く仕入れて高く売る」ことなので、それを言ったら広義で転売も立派な商売ということになる。ただ、子ども向けの商品を汚い大人が巧みに大量にせしめて、そこから高く買わないと子どもの手に入らない、というレベルになるとまずいわけだ。

 その「道義的にマズい」レベルの転売が目立ってきたので、これだけ問題になっているわけだ。最近のニュースで、ある場所のマクドナルドが、近所にある中学の生徒の出入りを禁じる張り紙を出したことが話題になった。客商売としては、異例の措置だ。本当は客を規制なんかしたくないし、誰にでも利用してもらいたいと思っているだろう。しかし、マナーの悪さが度を越えたので思い切った措置に出たのだろう。

 学校全体をダメなんてひどい! と考える人もいるだろうが、筆者は適切な判断と考える。迷惑をかけてきた生徒個人個人と戦うのは、先ほどの「剣を取る者」になってしまうので、消耗戦になる。でもその土俵を無視して「学校全体を規制」と戦う舞台をさらに上にしたことで、その効果は個人戦よりも大と出るはず。



 転売行為は、そのすべてが悪とは言えない。だが、現状を見るにひどいケースが多いので、やはり何か法的整備をした方が良い。先ほど、マックに出入り禁止を指定された中学校だって、学生の中にはマナー良く普通に利用できていた者も少なくないだろう。でも、いちいち顔を見て相手を判別する余裕など店側にはないので、その学校の生徒と見ればアウト、とするしか手はないのだろう。

 だから、アウトではない転売もあるとは思うが、ここは仕方なく「たとえ良識の範囲の転売があろうとも、転売そのものを縛る法案」を決めることが第一歩だろう。

 出入り禁止の中学だって、その措置を食らったことで反省したら、いつかはその出禁が解かれることもあるだろう。とりあえずいったんは転売そのものに規制をかけて、ほとぼりがさめたらまたそれを一定時間解いて様子を見、反省してないようなら再度規制、良識の範囲で推移していくならそのまま自由に、でいい。

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