なめんなよ

 ホラー映画を見ていると、いくつか定番の導入パターンがある。

 怖いもの知らずの若者が(たいていのケースで男女混合の複数)、世間で「行ってはいけない」場所や「入ってはいけない」建物に考えなしに入り、なめたような行動を取る。ふざけて、そこにある何かのモニュメントや像に飲み物やつばをかけたり壊したり、行き過ぎたものでは明らかに「封印」している風の綱を切ったりお札をはがしたり。一人だとアホくさくてしないはずのことも、仲間がいたり(特に異性)するとヘンに気が大きくなって、バカなこともできてしまうのであろう。

 視聴者は、アチャーだから呪われるんだよ! という感想しかない。自業自得というやつである。本人たちは、自分がまずいことをしたなんて分からず、降りかかる怪奇現象に驚いて「なんでなんで??」となる。そりゃ、お前がなめた態度を取ったからだろう!

 最近見た「アンホーリー」という洋画でも、冒頭から呪いとか霊とかをバカにする雑誌記者が、たまたま古い木の幹の間で見つけた、怖そうな人形の頭部を迷いもなしに踏み砕く。それも、じつにしょうもない理由で。そのあとの展開は、まさにお察しである。



●本来、霊が呪うのはその霊に直接関係があり、憎く思っている対象のみである。

 ただ、ある場所にその残留思念(ホラー映画とかでは怨念という言葉が当てられる)が残っている場合、その呪いはもうこの世にはいない「本来の呪う相手」に代わる行き場を求める。

 それでもやみくもに手を出すわけではない。向こうが実力行使してくる条件はただひとつ、プライドを傷付けられることである。地縛霊は妙にプライドが高い傾向にあり、自分が丁重に扱われないことには敏感ですぐ腹を立てる。



 簡単なことだが、ホラー映画で最後まで生き残れない人間にならないで済む方法は『よく知らないもの、何か分けわからないものに対しては、とりあえず丁重に接する』ことである。ホラー映画で言うと、そもそもその場所に興味本位で行かないことが大事だし、たまたま知らずに心霊スポットに足を踏み入れてしまった場合でも「あたりのものを壊さない、ゴミを捨てない騒がない、唾を吐いたり低俗な言葉を口にしたりしない」のを守ることで、無事に出てこれる可能性が高まる。ましてや男女イチャイチャとか、絶対ダメ。

 まぁ、霊の側の「ツボ」が分からないので、こんなことで? と思うことでもターゲットになり得るので、あくまでも苦肉の策でしかないのだが。



 ひるがえって、私たちの日常生活に置き換えて考えてみよう。

 自分が良く知らないことでも、勝手な意見をもって厚顔無恥にも「正しい」と思ってたりしないか? 上っ面だけのネットニュースや噂程度のことをもって、その人物を良く知りもしないのに善悪や価値のあるなしを決めつけていないか?



●足りてない情報で何かを決めつけるのは、それを「なめている」のと同じ。



 私たちはヘタをしたら、日々どこかで何かを、誰かを「ナメ続けている」のかもしれない。そのひとつひとつは小さいことでも、チリツモで貯まっていけばいつしか大きな「借り」になる。そして一定額に達すると、その貸しを回収しにこられる。その回収のされ方は人によって千差万別だが、辛いことであることには変わりない。

 人生の最後まで、自分らしく生きたと思え納得できる時間を生き切りたいなら、まず自衛策として「よく知らないものはバカにしたりなめた態度を取ったりしない」ことである。周囲の評価とか、あなたの好き嫌いなどどうでもよいし価値がない。そんなものに頼るより、とにかく情報を集めなさい。本当にそうか? と吟味なさい。

 たとえそうしても、判断を誤る時は誤るんだから。ましてや、その検証すらもしないならその間違う可能性はいかに高くなるだろう?

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