スピリチュアル能力より配慮する力

 幼い頃より日本の古い刀剣や甲冑・昔の装束などを目にして育ったある方が、その魅力に取りつかれ大人になって『装束甲冑コスプレイヤー』として活躍。

 自身がコスプレするだけでなく、甲冑のデザインや製作にまで携わるほどの愛好家であり、コレクションもかなりのものである。

 そんなお方が、ある友人主催の甲冑の展示会に、自身のコレクションの一部を貸し出してあげたのだそうだ。そうすると、その展示会に来ていた『霊が見える』というある女性が、ある甲冑を指さして言ったそうな。この鎧には、合戦で命を落とした人の怨念がこもっています。はやく何とか対処しないと——

 その甲冑は、コスプレイヤーさんが提供したものだったので、その甲冑について誰よりもちゃんと知っていたので、その自称霊能者様にこう言ったのだそうだ。



●これ実は、僕が三年前にある甲冑メーカーで注文してできたものなんですけど?



 この鎧を着たのは、持ち主でありコスプレイヤーである自分だけのはず。あれ、僕って三年前に合戦で命を落としたっけ??

 他の客も注目していたため、場が凍り付いたそうだ。(察し)

 コスプレイヤーさんはこのことについてもっと話を聞きたかったそうなのだが、バツが悪かったのかその女性霊能者(?)はいつの間にか会場から姿を消していたそうだ。このお話には、甲冑を実際に作ったメーカーさんも反応し、ツィッターで「丹精込めて作ってはいますが、怨念? を込めた覚えはないのですが……」とリプ。

 ウソがバレた瞬間ですね! とか除霊を勧めてくる、だとかの「スピリチュアル営業」だったのかも? などの声が多数寄せられた。



 コスプレイヤーさんは、霊だとか残留思念だとか、そういう目に見えない世界のこと全般を否定はしないそうだ。どこかには、本当にそういうこともあるだろう、と。

 でも、今回のようなことがたびたびあると、自分では分からないが「あるだろう」とせっかく思ってあげているのに、それすら実はないのではないかという方向に考えてしまう。

 さらにうんざりすることには、ウソをついたことが明らかなその自称霊能者がそのままひっこまず、自己弁護のコメントをコスプレイヤーさんにリプしてきたそうだ。言い分は、以下の通りの屁理屈である。



●甲冑そのものに霊がとり憑いているというよりは、戦国時代の甲冑という『概念』そのものに怨念がとりついているので、現代のレプリカであっても「戦国時代の甲冑」を指すからにはその縁でやはり呪いが連鎖してくる



 コスプレイヤーさんは、最近作ったレプリカの刀剣や甲冑ばかりでなく、ちゃんと歴史あるものも所蔵していらっしゃる。日々、そういうもののそばで寝食を共にしているが、とりたてて何か大きな不幸があったとか、体調不良や精神的不調があったとか、思い当たる限りではないそうだ。怨念がとか霊障がとか指摘するのは善意からかもしれないが、放っておいてくれよ、というのがホンネであろう。

 この方が何より腹立たしく思っているのは、霊能者が「この鎧買ってからヘンなことが起きるんだけど、ちょっと見ていただけないだろうか」と招かれたのならいざ知らず、実害もなく頼まれてもないのに声高に公共の場で「霊が! 怨念が!」と不安を煽るなど、社会人として最低限のエチケットもない。

 霊が見える能力を発揮する前に、人として大切なことや場の空気を察して配慮する力を持っていてほしいですよね、とコスプレイヤーさんは語る。



 筆者は、スピリチュアル畑の人間であり、そういう類のものは否定しない。

 数はそう多くはないが、探すところを間違わなければ、見抜く目さえあればいわゆる「ホンモノ」はいる。(だがこればかりは、いくら経験を積んで目の肥えた者でも時に判断を誤るほど難しい)

 でも、一万歩譲って本当に怨念がおんねん! というのが本当だったとしても(笑)、相手が何の問題でもないならおせっかいはいけない。



●人気アイドル歌手の歌唱力がいまひとつだったとして、本格派の一流大御所歌手が「おまえなってない」と、頼まれもしないのに歌唱指導にしゃしゃり出ますか?

 そのファンに「お前たちはなぜあのような歌で喜べるのか」「本物の歌とは私のようなのを言うんだ」とわざわざ言いに行きますか?



 その言い分が「事実」だとしても、それは関係ない。

 大事なのは事実よりも、それぞれがそれぞれの世界を生きているということであり、それぞれに「自分の力で生き抜ける」という事実である。

 もちろん助け合いは大事なので、求められたら手を差し伸べることは大事だが、頼まれないうちは、こちからから先に言うことには慎重になるべきである。

 児童虐待とか、被害者が弱者であり、大人であっても精神的に強くない人物であった場合、確かに向こうの意思表示を待っていては「手遅れ」になるケースはないとは言えない。

 だが、誰もが共通の認識を持てることとは違って、霊が見えるとか怨念がとかマイナスのエネルギー(波動)がどうだとか、ある特定の人物しかそれを認識できないようなケースでは、やっぱり慎重になるべきである。



 さっきの話でも、展示会で他の客が注目する中で声高に言うのではなくて、主催者にそっと「あの甲冑のオーナーはどなたですか?」と聞き、コスプイレイヤーさんを捕まえて「ちょっとここでは何ですので、外で話しませんか」とでも言い、私実は霊が見えるのですが……とでもやれば、まだ心証がよかったかもしれない。そうしていれば当事者以外に迷惑をかけないで済むからだ。

 この手のお話は、定期的に何度もしてきているのだが、未だにこういうケースが跡を絶たないのでもう耳タコであろうが言っておく。



●霊能力とかサイキック能力とか、透視力とか未来予知とか幽体離脱できるとか——

 そんな能力を身につけてすごい自分に酔う前に、まず「他者とよい距離感を保て、好感を持ってもらえる社会人」としての配慮スキルを身につけたまえ。



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※今回の話題のネタ元:左近大夫☆浜次郎/左近少将★今若さん(@sakone_shogen)

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