飛ぶ豚も飛ばない豚も同じ豚

 ジブリのアニメ映画『紅の豚』の主人公の名ゼリフ。

「飛ばねぇ豚はただの豚だ」

 これ、なんとはなしのうろ覚えで「飛べない豚はただの豚」と覚えてしまっている人も多く、「できる・できない」を問題をしているのではなく、したいことをするかしないかというところに焦点が当たっている。


 

 今朝、NHKで長く続く子ども向けアニメ『はなかっぱ』を見ていたら、いつも当たり前のように頭に花を咲かせるはなかっぱが、スランプに陥って花を咲かせられなくなった。その時のはなかっぱのセリフがこれ。

「花を咲かせられないなんて、はなかっぱじゃなくてただのかっぱじゃん……」



 筆者は、この二つの言葉に違和感を覚える。何か考え方に問題がある。


〇豚・かっぱ……本体。

〇飛ぶ、花を咲かす……本体のする行為。従属的、副次的要素


 ここで一番重要なのは次のこと。


●従属的、副次的要素がどうであるかに関わらず、本体(主体)の価値は変わらない。そこに変動はない。副次的なものはあるに越したことはなく、もちろん良いものであるが、ないからといって本体の価値を損なうものではまったくない。


 つまり、豚が飛ばなくてもはなかっぱが花を咲かせなくても、豚そしてかっぱというもともとの価値自体にはなんら影響はしないし、ましてや損なわれたりしない。

 でも問題なのは、世間では——


●豚が飛ばないと、そもそもの豚という価値まで損なわれるようなイメージ。副次的なものの出来不出来で、本体の揺るがないはずの価値までもが揺るがされる。


 そう言えば、同じジブリ作品『魔女の宅急便』でも、空を飛ぶのが当然でそれを仕事にまでしていたキキが飛べなくなって、落ち込むシーンがあった。確かに、それで生計を立てていてしかもその手段が使えなくなるという現実は辛いので落ち込むことも仕方なしだが、嘆いていいのはその不運であり、「もはや飛べない自分に価値などない」かのように、自分という存在の否定や卑下にまで考えが及ぶとそれはもう的外れである。



 あなたはやってしまっていないだろうか? この間違いを。

 あなたは何かの重大な失敗をしてしまって、それをもって何か「自分はダメだ、人より劣る」というような意識的前提(自己卑下)をもって生きてしまっていないだろうか。あるいは能力や収入面・見た目の容姿など、副次的なものの比較で「自分は価値が低い」という思いに囚われてしまっていないだろうか。



●そういったもののあるなしで自分や他人の価値を決めないでいい。

 もちろん生きる上であったほうがいいもの、頑張ったほうがいいことというのはある。だが、それはあればなおよしという話で、そもそもあなたが生きて存在するというだけで価値の9割は揺らいでいないのである。



 今筆者は9割と言ったが、個人的には99%と言いたいくらいだ。

 とかくこの世は、人の価値を主体ではなくその「従属要素」で決め、それは生きる価値まで侵食してしまう。世の役に立つ者と立たない者、優秀な成果を挙げる者と挙げない者。容姿端麗な者とそうでない者。

 それはあまりにも浸透し、絶望して自死を選ぶ命も出てしまう。あまりにも悲しい話である。

 ただし、この問題の一番難しいところは、「世界で悪いこととされていることをやった人間への評価」である。たとえば、あなたの家族が犯罪に巻き込まれ理不尽に殺されたとして、その犯人も「生きるひとつの命だから」と見れるかという話である。ニュースを聞く第三者でも腹が立つのに、その関係者(遺族)からしたら、殺しても飽き足らないほど憎いかもしれない。死刑にしてくれ、と願うかもしれない。

 そこが、「従属物(そのしたこと)で本体(存在・命)の価値を決めない」ということでの最も難しい部分である。これは、まだ幼い人類には荷の重い宿題である。



 そういう難しすぎる話は置いといて。

 自身の存在価値に関して悩める人に、やはり『紅の豚』に登場するフェラーリン少佐というキャラクターが、ちと次元が違う別の視点からの言葉を言ってるので、それで気持ちをラクにしてほしい。



●飛んだところで豚は豚だぜ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る