頼まれてもないのにジャッジしない
『TOKYO MER~走る緊急救命室~』というTVドラマの劇場版が公開されていて、上映するある系列のシネコンが宣伝として放ったコメントが物議を醸している。
●この作品で感動するかしないかで、「人間性があるかないか」がわかるそうです。みなさまも映画館でご自分の人間性をお確かめくださいませ
ちなみにこれは作品そのものや役者・スタッフには何の罪もなくただ上映する映画館側が勝手に言ったものであることを、名誉のために言っておく。
これは炎上し、映画館側は謝罪に追い込まれたが、その謝罪も聞いていれば「皆さんがそう受け取ってしまったのならそのような表現をしてしまったことに関しては謝るが、ホンネでは間違っていると思っていない」ようなニュアンスが伝わってきて不快である。
感動するかしないかで人間性が分かるというなら、これ見て感動しないならもはや人ではない、いわゆる人間のクズだと言っているようなものだ。
言ってることが正しいかどうかはもはや関係なく、たとえ本当に「これに感動しない人はどうかしている」ということが1万歩譲ってあったとしても、言うべきではない。聞きたくない不特定多数に伝わるようなところにあってはならない言葉だ。
たとえばあなたが、高校野球の名門校に入り、まさにその野球部に入って本気で甲子園を目指すなら、監督から厳しいことを言われるだろう。そのようなものを目指しさえしなければ、普通の高校生でいれば言われなくて済んだであろう言葉を投げかけられることもあるだろう。でも、あなたはそれを承知で門を叩いたはずだ。目指すからにはそれなりの覚悟で。
厳しいお寺に入ることを願った僧志願の者なら、弟子入りをゆるされて後どんなに早起きさせられても掃除をさせられても、TVどころか何の娯楽もなくひたすらお勤め(寺での仕事)ばかり。食事も質素。でも、分かっていて望んで入門したのだから、きっとその者は文句を言わない。
厳しいお寺は、そのへんの一般人をつかまえて「ここにこそ人としての本来の生き方がある!」とか言って薦めてきたりしない。あくまでも山奥でひっそりと、わざわざ足を運んでまで求めてくる者だけを対応している。
ここも、よくよく読めば結構な言葉を投げかけている。(笑)
でも、フツーの人が何気なくたどり着く場所ではない。相当の興味をもって、特定の特殊なキーワードでないと見つけにくいはずだ。つまりは、そういうものを読みたい人しか基本来ない場所になっている。もしまかり間違ってたどり着いてしまったなら申し訳ない!
私の書くことは、悟りというものを求めるからにはこれを分かってほしい、こういう覚悟と腹積もりは持ってほしい、こういうことには注意でこういう思い上がりはもたないほうがいい、こういうスピリチュアルの常識は実は違うよとか、「求める者」であることを前提としたきつめの言葉にはなっている。
でも、これを全体に通じる正しさとして発信する気はない。あくまでも、こういう方向へ行きたい人だけに向けたものだ。
『全米が泣いた』とか『ラスト5分、あなたはきっと驚愕する!』とかいうタイプの宣伝ならまだいい。別に泣かねーよ、とかああそうかよとか思われて終わりだ。同意はされずとも反発まではされない。なぜか。
●ジャッジされていないからである。何を言おうが、聞き手を定義してくる内容じゃないので、安全圏にとどまれる聞き手は聞き流すことが出来る。
しかし、「感動するかどうかで人間性が分かる」と言われてしまうと、それは聞き手にある評価を下す内容となり、聞くほうは落ち着かない気分になる。
『平家でなければ人ではない』という言葉を日本史で学ぶ。
あれも、聞いたら自分が平家かそうでないかは一瞬で分かるので、自分は人じゃないと言われているようで嫌な気分になる。
TOKYO MERの映画はまだ見ていない人も多いだろうから、すぐにジャッジが宣告される平家かどうかという話よりはマシだが、それでも不快な気分にはなる。もしその映画を見て感動しなかったらどうしよう、という不安を抱かせることになる。
そうなったら、もはやこれは映画の宣伝ではなく恐喝である。
宗教やスピリチュアルは、はっきりとは言ってなくても「自身が正しいというニュアンス」を醸し出しているものである。ここにこそ正しさがあり、他は間違いであるという。存在それ自体が、ここに来なさい(来ないと知りませんよ)と匂わせているようなものである。たいていの人は相手にしないが、お人好しな人や単純な人が時折引っ掛かる。
望んで深くかかわっていく中であくの強い言葉を聞くことはあるだろう。それは自然なことである。でも、そうでないのにこちらをジャッジされるような言葉を聞かされる状況はやはりおかしい。
いくら宣伝側がその作品を本当に素晴らしいと思って宣伝したのだとしても、多様性こそ重視されるべきこの世界で、はっきり定規で人の価値を量ってしまうような言葉を使ってしまったことは、やはり大失敗だったと言えるだろう。
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