またひとつ星が消えるよ

 銀河鉄道999や宇宙戦艦ヤマトの生みの親で知られる松本零士氏がお亡くなりになったと聞いた。

 中高年世代の男子で、彼の名を知らない、あるいは氏の作品に触れたことがないという者は少ないのではないか。少年時代、夢を持つことや勇気をもつこと、そういったことを教えてくれた作品であるし、また背中を押してくれもした。

 大御所アニメ歌手の水木一郎氏に続いて、また惜しい方を失った。人はいつか死ぬものであると分かってはいても、気持ちとしてはやはり抱いてしまう。



 999は、終着駅に停まるまでにいろいろな駅(惑星)に途中停車する。たとえ目的の場所ではなくとも、その星の基準で一日(星によって地球時間にして二週間にも及ぶ場合もある)停車しているので、せっかくだからと哲郎とメーテルは降りて、その星を探索する。

 そしてその中で命からがらの大変な目に遭うこともあり、その星の人間の悲しい人生模様や生きざまに触れたり—— そうして少年・星野哲郎は一歩一歩成長していく。その成長を見守る、また少年のあこがれの象徴であるメーテルは、視聴者にとってもまたあこがれのキャラとなった。



 私たちは、ある場所で生まれて、そこで長く暮らすこともあれば住む場所を変えもする。環境も変わる。周囲の人間も、家族以外は成長段階によって目まぐるしく変わる。家族も、いつか離れ離れになったり死別したりする。

 無数の体験が、人の一生を通り過ぎていく。あれでもない、これでもない……ひとつの体験の後、その学びを踏まえて次の体験へと、どんどん人生を旅していく。

 私たちが日々する印象的な体験は、哲郎やメーテルが途中下車するのと似ているのではないか。そこはふらりと立ち寄った場所で終着駅でも目的地でもないが、本人の思いもよらない学びや収穫があったりして、新鮮な感動がある。

 松本零士氏はその途中下車を味わい尽くし、ついにアンドロメダ終着駅にたどり着かれたのだ。そのあとを任された、氏の意志を受け継いだ999ファンやヤマトファンは、これからも希望の星にたどり着くまではその歩みを止めないだろう。



 今はただ、若き日にお世話になった松本氏に哀悼の意を捧げる。

 氏は亡くなったが、999は今でも私の中で走り続けている。また大勢の心の中でもそうだろう。ヤマトもいまだ、地球を救う使命を帯びて、皆さんの精神世界という大海原を航行中であることだろう。

 人は死しても、その人(あるいはその功績)を覚えている者がい続ける限り、その命の「しるし」は消えることがない。肉体としての氏がいなくなったことは寂しいが、今は作品の中に生き続けてくださっていることに感謝したい。

 誰の心の中にも、哲郎が所持してたあの『地球 → アンドロメダ 無期限』と書かれたパスがあるのだ。あなたがその気にさえなれば、哲郎やメーテルたちにも負けない冒険譚を、あなた自身が今まさに紡ぐことができるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る