俺ら東京さ行ぐだ Part 2

 最初に断っておくが、筆者は吉幾三さんの『俺ら東京さ行ぐだ』が大好きである。

 ここから書くことは、あくまでもその「好き」のなせるわざであり、決して批判をする意図のものではない。今からするお話は、物を見る視点を深めるとはどういうことかを、歌を題材にして説明するものである。



 この歌が面白いのは、個々のフレーズが「ド田舎あるある」になっている点だ。

 テレビがない、雑誌がない、車もそれほど走っていない……私たちはともすれば、この歌の歌詞を「ブツ切り」で捉えている。テレビもねぇ、という部分を聞き終わればその歌詞は頭のメモリーの中にもう残っていない。もう次の「雑誌がない」というところにだけ意識はフォーカスしていて、そこでクスッと笑う。そしてまたその次、という風に、普通の人は次々とフォーカスしていく対象を変えていき、変えたらその前のことはよく覚えていない。



 筆者は、この歌のある部分で考えた。

「村の中で若いもんはおれひとり」という趣旨の歌詞があったあと、しばらくして「映画はない。たまに来るのは紙芝居」という歌詞がある。

 紙芝居というものは、どう考えても子どもが見るものである。小学校高学年から中学生以上なら、幼稚だと言ってみないだろう。ならば未就学児~小学校低学年の子どもがいることこになる。カネを稼がないといけないのに、子どもがいない村に紙芝居が来るわけがない。

 ということは、親はそれほど高齢ではないはず。産んでまだ4~7年ほどしか経ってないということだから、高齢出産の可能性はあるとはいえ(サザエさんのフネさんみたいや!)、いくら年齢が高くても30後半~40代最初より若いはずだと考える方が常識的だろう。

 なのに、吉さんは「村で若者はおれ一人」と歌っている。「若者」と聞けば、ふつう言葉通りだと高校~大学生、あるいは二十歳前後の大人のことを連想するだろう。でも、田舎などで「若いの」というと、労働力やその村を支えることのできる力で考える部分があるので、30代の者でも若者と呼ばれる場合がある。特に老人ばかりの集落だと、一人40代がいると比較論で「若いの」と呼ばれることもある。

 子どもを産める年齢なら、過疎集落では十分に「若いの」である。ならば、子どもを産むには男女ペアが必要である。なのに、「若いのはオレひとり」は矛盾しないか? それでも間違ったことは言っていないというなら、たとえば子ども生んだその母は事情があり村を離れれしまった(愛想を尽かして別居状態・あるいは都市部へ出稼ぎに)とか、そういう特殊事情を考えるしかない。

 さらに想像すると、村に若いのはその男一人なら、その父親は「歌い手」でなければおかしくなる。子作りできそうなのはアンタだけなんだから!



 このように、ただひとつひとつの歌詞をブツ切りで聞いているだけなら、ただの「おもろい歌」という印象で終わる。でも、全体をストーリーの流れで捉えて、そのバランスが成立する上でおかしな点があれば(ある点とある点が相互に補完せず、矛盾を生じている)、アンテナに引っ掛かりそこに気付ける。



●深化した思考とは、言葉と言葉との間にある繋がり、可能性を見出しさらなる思考を展開できることである。たとえ話が上手という能力は、自分のした体験と世間に溢れているニュースなどの情報との間に共通な関連を見出せる力であり、また今の話のように個々に聞けば問題ない話の中に、すべてが同一世界観で語られたとして「齟齬がある」と気付けることも当たる。問題の二点の言葉と言葉の間が離れているほど、気付ける難易度は高くなる。



 DVDやブルーレイのビデオソフトなどを見ていると、一番最初に『これは個人の視聴用で、公に上映など商業目的などで公開することは固く禁じられています』というような説明が流れますよね。

 あれと同じで、この能力で他の「アラ探し」をして指摘してはいけません。あくまでも、その個人の内的世界だけで楽しむもの。たとえ指摘が的を射たものでも、それをわざわざ人に言って、ギスギスを生み出すのは得策ではありません。

 ただし、公共の利益を阻害する者・情報弱者を食い物にしそうな危ないものには容赦なくこの能力を使いましょう。それ以外では、頭のいい人間はおとなしくしておくのが吉です(笑)

 何度も言うが、それでも私は「俺ら東京さ行ぐだ」が好きです!

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