俺ら東京さ行ぐだ Part 1
往年の大ヒット演歌ナンバーにして吉幾三さんの伝説のデビュー曲『俺ら東京さ行ぐだ』。リアルタイムで吉さんがデビュー曲を披露した歌番組を見た(歳が知れる)が、当時はキワモノ的なウケ狙いの存在で、そのうち消えるだろうと思っていた。
ところがどっこい、ちゃんと真面目に歌う路線になっていって、押しも押されぬ大御所的な存在となった。吉幾三なんて名前からダジャレなこの人が、こんなふうに化けるとは小学生当時まったく予想しなかったことだ。
この歌の面白さは、ふたつある。
ひとつには、~がねぇという言葉の連続によって、私たちが日頃当たり前にあると思っているものがなく、若者がいない田舎にはそれがないのか(そりゃ若者も出ていきたくなるよな)という驚きが笑いを誘う。落差(ギャップ)によって生じる笑い。
しかも、この歌詞の話し手である村の唯一の若者は、そんな田舎なくせに、文句たらたら言いながらでもそこに居るというところで、最後まで残ったその若者の人の良さにほのぼのとするのである。
ふたつめには、無邪気な誤解である。いつか東京へ行ったらその時は牛を飼う、とか銀座に山を買う(銀座が分かっていない)とか。あるわけねぇだろ! と突っ込むところなのだが、設定上歌っている本人は大真面目である。なぜなら、東京をちゃんと知らないからである。
東京を、自分が住んでいる場所のちょっと小ましな延長上でしか考えていない。井の中の蛙大海を知らず、ということわざの通りである。
宗教やスピリチュアルの世界というのは、誰もがこの歌の若者と同じじゃないのか、と思うことがある。この次元を超えた世界というのは、当たり前だが人間には手の届かない世界であり、見ることも体験することもできない。人間は、別次元がどうの以前に死んだ後どうなるかすら、その実相を解き明かせていない。色々なことを言う人はいるが、それは皆が共通常識として認めるスタンダードな情報としての地位を得たものではまったくない。ただその人がそう言っているだけで何の裏付けもなく、それを言う人のファンが支持するという程度でしかない。
でも、人間とは罪作りな生き物で、手が届かないくせに思いを馳せて思考する力だけはあるものだから、色々なことを言う。世にスピリチュアル的に目覚めたという人がいて、さも見てきたように証明しようのない次元のことをいろいろ言う。逆に言えば、誰も証明も否定もできないという安心感があるからこそ、安心してウケ狙い(集客)のために適当なことが言える、というイヤな面もあるのだが。
かく言う筆者もその一人に違いないが、私は「自分がそう思うだけ」だとちゃんと断りを入れて書いている。
私たちは、何でもこの世界で学んだことを元にしてしか考えることが出来ない。
自分たちの常識、これは良いと思った考え方の延長上でしか思考できない。
だから神という存在を考える時、「完璧に違いない」「愛であり善でしかない存在に違いない」と考える。それは人間にとっては自然で悪いことではないが、かといって思考法として正しいとは言えない。なぜなら、次元が違えばその世界を構築する法則性も、この物理宇宙とは違う可能性があるからである。当然、宇宙を構成する原理が我々の宇宙と違えば、そこでの意識の在り方や思考も根本から違う可能性がある。
だから、宗教やスピリチュアルでわいわいガヤガヤやっているのは、銀座で山を買うぞ~東京で牛を買うぞ~と言っているのとそう変わらない気がする。向こうのことが実は分かっていないくせに、分かったようなことを言うからだ。
何度も言うが、そうすることに罪はない。皆、よかれと思って、全体の益を思ってやること。世界を良くしようとすること。なので、方法論的に誤りでも目指す方向がよいものなので、そこまで目くじら立てることではない。宗教もスピリチュアルも好きに熱中すればよい。
だが、ある一線を越えるとその人の幸せを願うというだけの話だったはずが「皆がこうならねば。これを信じねば」「なぜ分からないんだ」というベクトルにその真面目さが向かってしまう時、すべてが台無しになる。
宗教とスピリチュアルに手を出す者は、心しなければならない。その一線を肝心なタイミングで見極めて魔境に入らないようにしなければならない。でないと、人を救うはずのものがかえって人に迷惑をかけ、ひどい場合には不幸をもたらし、死に追いやることすらないとは言えない。
私たちスピリチュアルの民は、常に自戒の念をもって「俺ら東京さ行ぐだ」は我がことと考えるくらいの方がちょうどいい。
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