紐付ける能力は諸刃の剣

「ルフィ」と名乗る広域強盗事件の指示役のことがニュースになり、世間を騒がせている。ルフィといえば世間ではもっぱら「ワンピースという作品の主人公の、あのルフィ」という認識なので、そこで嫌悪感を覚えてしまう。あまりにも落差があるからだ。正義を守り夢を与えるキャラと、現実において他人を食い物にして不幸にする悪キャラとが。

 なんであえてその名前にするかな、と首を傾げた人は少なくないだろう。悪趣味だなぁと。いっそのこと原作者は名誉棄損で訴えてもいい、という意見もあった。



 でも、すっかり忘れて怒っている人も多いと思うが、強盗団の指示役は確かにルフィという名前を使ってはいるが、「皆さんが大好きなあのアニメ(漫画)の、あのルフィーのことですよ」などということを言ってはいないのだ。言い換えたら、ルフィという名を聞いてこちらが勝手に「ああ、それはきっとあのマンガのルフィのことを意識したのだろう」と勝手に推論して『紐付け』しまったのである。

 人は、何でも自己流に好きに納得してしまいたい生き物なので、ルフィという名前を使っているという情報だけでワンピースのルフィと結び付けてしまった。証拠もないのに、推測だけで暴走してしまったのだ。



 もちろん、この世界でルフィといえば誰もが高確率で有名すぎるあのワンピースを連想するだろうことは確かなので、推測が当たっている確率は高い。

 たが、確率が高いことをもって真実と断定してはいけない。確率が高いことより重要視すべきは「関係ない確率も低いがある」ことのほうなのだ。それができない人間は、道を誤る。

 大昔、ヒマな羊飼いたちが夜空の星を眺めて「あの星と星をつないだらこんなものに見えるなぁ」とやったことが、今の星空の『星座』になっていったんだとかいう話を聞いたことがある。

 本来何の関係もない二者に、自分視点で勝手に「関係を持たせる」ストーリー付けをするのが大好きなのが人間である。今回の強盗の名前の件は、人のその性(さが)が悪い方に出たケースである。単純な連想に安易に飛びついていては、人生のどこかでつまづく経験をする。



 逆に、その性(さが)がよい方向に出ることもあるのが、人間の面白くも素晴らしいところである。たとえば、私が書いたある日の記事に、読者さんから届いたコメントで、思いもよらない視点からのものがあった。私にはその意図はなかったが、この方にはそう読めたのか! それはそれで素敵だなぁと思ったことがある。書いた本人もビックリの新しい「価値」を提示してくれて、うれしかった。

 このように、関係ないものに関係を持たせる人の能力は、使いようによっては本来なかったはずの価値を新たに生み出すこととなり、大きな利益や福をもたらす。

 人間の「紐付け(したい)能力」は、諸刃の剣なのだ。いいほうにも悪い方にも使われる。ならば、意識してよいほうに用いようではないか。

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