すぐに自分の手柄にして自慢する人たち

 私には、小学五年生の娘がいる。

 彼女は今「あたしンち」というアニメにはまっている。

 今風のワイド型テレビに対応していない旧版(画面のはじっこが欠ける)、そして「新あたしンち」も含めると、何百話もあって見続けても一向に終わりが見えない。

 サザエさんと似ていて、描かれているのは今の時代ではなくひと昔前の在りし日の日本であり、今どきの子どもが見て理解し楽しめるかどうか疑問である。でも、娘は嬉々として見ているから不思議である。



 ある日のこと、筆者は日頃偉そうな記事を書いているくせに、凡庸な親が言うあるあるパターンなことを娘に言った。

「もっと映画とか、内容や重みのあるストーリーのものを見たら? こんなのばかり見ていたら、発想が貧困になるよ」

 あたしンちは、庶民の一家庭の日常における「あるある」を面白おかしく描いたものであり、クスッと笑える作品ではあるが設定上ストーリーが大きく広がりを見せることはない。(劇場版などはちょっと頑張ったようだが)ある程度単調である。

 もちろん、筆者が言ったことは正しくない。なのになぜ言ったか? しょせん私も親であるということだ。しかも、親の代表的性質のひとつは「バカ」なことであるから。よかれと思うことが的を外すのがバカだから!

 でも、娘の返しが筆者を黙らせた。賢者テラ、小5の娘に論破される! の巻であった。



●私、発想すごいけど? 先生とかにも結構褒められてるし。独創性もあるし。心配されることなんかゼンゼンありません!



 これには、父親も返す言葉がなかった。(笑)

 一本取られた、と思うと同時に驚きもした。いったいつから、どういう風にしてそんな自己肯定感の強い子になっていたのか、と。筆者が(あるいは奥さんが)、何か特別な教育的理念や教育法があって、こんな子に育てることに成功しました! ということではゼンゼンない。むしろ、放任放置(勝手にしやがれどうでもいい)くらいが教育法だ。

 私は、この現象の前にとても謙虚な気持ちになった。すべては縁起・因果をめぐる「お蔭様」のゆえなのだなぁとしみじみと感謝した。



 この世では、たとえば教育に成功したとされる親が本を出版したりメディアに取り上げられたり講演会をしたり、ということがある。子育てに限ったことではなく、人生成功しても「成功本」を出し、成功哲学というものを語る人になったりする。

 東大ママが教える子育ての秘訣とか、子どもを立派に社会で活躍する二世に育てた大物芸能人が「私流子育て」とか偉そうに語ったりする。



●私、こうやって子育てに成功しました! は傲慢である。

 自分はこうやってうまくいったので、そうでないあなたに教えて差し上げますという意識は幼い。宇宙の仕組みを分かっていない、傲慢な考えである。



 実は、その親の力でなど成功していない。大いなる勘違いである。

 一番褒められるべきは子ども本人である。社会も、子どもをうまく育てた(ように見える)親を持ち上げてお金を払って厚遇するのではなく、むしろ子どもの方に「あなたはどうしてそういう風になれたの?」と直接聞くほうがいい。

 もっと突き詰めると、その子ども本人だって、自分の力だけで育ちはしない。確かに親の庇護下にあるため親の影響や助けは大きいだろうが、学校の先生や友達、お店とか地域の人たちなど、その世界は狭いようでいて実は色々ある。

 それらのひとつひとつが全部、その子が変わる化学変化を起こしていくのだ。だから、私などが今の境地で一番実感するのは「自分の力だけのものは何一つない」という厳然とした事実である。それはもちろん良くも悪くも、である。



 たから筆者は、間違っても「テラ流子育て」なることは言わない。自慢もしない。なぜなら、娘の成長は大いなる宇宙の采配と流れによるもので、個人の栄光に帰することはまったくできないものであるから。

 世で、自慢できるような子どもを育てた親はもうちょっと慎みをもって、あまり「ドヤ!」的な発言をしないことを進言する。たいへん見苦しい。あなたの子育て能力なんて大したことありません。すごいのはお子さんであって、あなたの子育て方針や指導実践の賜物なんかじゃありません。

 まぁ、いつか分かる日が来るでしょう。ただただ子どもに、そしてこの有形無形含む宇宙・世界のすべてに感謝することになるでしょう。そして周囲がどうあろうとただ静かに、厳かに「在る」ようになるのです。



 だから私は、今日もただただ感謝の思いで『情熱の赤いバラ~♪』と鼻歌を歌うのです。(笑)

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