表向ききれいなことを言って何もしない馬鹿

 成田悠輔という知識人(?)が高齢化社会の解決のため『高齢者は集団自決すればよい』という発言をしたことが大きく報じられ、議論を呼んでいる。

 この見た目過激でヤバい意見に対して世間の反応のメジャーは「暴論だ」である。命の尊さ(尊厳)を何だと思っているのだ、いくら人の関心を引けるネタだからといってそんなことをメディアで取り上げていたのでは、命軽視の方向に人心が向かってしまわないか、と危惧する。まるで、ホラー映画やスプラッター映画ばかり見る人はやがてその心もそのようなことをする人になる、と言わんばかりですが。

 人としてどう、とかどんな理由があっても命の尊厳を軽んじる言葉には静かに「NO」を突き付け続けることが大事、とかいうコメントにたくさんのイイネ! がついているようだ。



 筆者は、確かにこの成田氏の言い方には問題があることを認める。お上品ではなく、品がないことは確かにそうである。だが、全否定かというと実は大事なことを言っている。



●頭のいい人は、成田氏のこの一見暴言とも取れるこの言葉の奥にあるメッセージを見出し、そこだけ上手にいただいてあとは静かにしている。頭の悪い人は、入り口であるその「言葉の使い方」でつまづき、けしからん! ときれいごとだけ言ってその先の議論に進まない。



 ここに5リットルの水がある。

 全部汲み取りたいが、手元に3リットルしか入らない容器しかない。でも、5リットル入れないと残り2リットルはそこに捨てていくしかない。

 成田氏が言いたいのはこれである。少子化で、今すぐは分かりにくいがやがて少ない若者で大勢の高齢者を支えなければならない時代がやってくる。

 今市街地へ出ていったなら、色々な社会的サービスが今日もうまく回っている。交通も運輸も商業もアミューズメントも飲食も、シフトに入れる者(その多くは低賃金に我慢している非正規かもしれない)がいるから今は成り立っている。

 駅前や大型ショッピングモールで、大勢の人間でにぎわっている光景が見えたなら、そこから若者や30代・40代が消えるところを想像したらいい。露店から、駅の売店から、ブティックやコンビニのレジから若者が消える。働き盛りの中年が消える。サービスを与える者がいなかったらお客など来ないので、想像の中で目の前の光景は一転してひっそりしたものになる。

 家が余る。社会構造や現存のサービスはすべて今生きている人間を支えるキャパのものなのに、人が減って歯抜けになり、支える人も減るので土地建物やモノや機械だけあって回すシステムだけが消える。取り壊すったって、そんなことを日本中して回れる元気な肉体が未来どれだけいると思っているんだ。

 地方では、移動どうするんだ。車どうするんだ。誰がガソリン運ぶんだ。誰が送迎バス運転するんだ。訪問医療できる医者が何人生きているんだ。



 高確率で、本人は死にたくなくても物理的な状況の現実的帰結によって、食べ物もなくスマホも電波がとまり車もなくあっても運転できず運転できても視力が悪すぎ視力が良くてもガソリンスタンドがなくあってもガソリンを運輸する人手が足りず食料品を売っているところはとても歩ていけるような距離ではなく配達も若い人がいないからサービスはなく水道も水道管に問題が生じて止まり修理も人員手配が進んでいないらしく壊れたまま——

 社会の受け皿がいまのまま、子どもや若者だけが減る世界をシュミレートしたらそんな感じだ。そんな状況の中で、絶望的に餓死で野垂れ死んで腐敗した体を発見者にさらすくらいなら、いっそ潔くきれいに死にませんか? ということだろう。また、早いうちのほうがより若い世代に負担をかけないから一石二鳥ですよ? 誰が孤独死した死体を片付け焼却し特殊清掃するんです? その費用はどこから出るんだい? そのシャツは誰が縫うんだい?(ラピュタ)



●つまり、成田氏のメッセージの力点は「高齢者に死ねというところにはない」。本当にこのままでいいのか、お前たちに危機感はないのか、現状実感しにくい問題だからといってのほほんとしていたらいつか滝つぼに落ちるよ? という当たり前の警告を、皆さんがあまりにも楽観視しすぎなものだから、親切にもちょっと皆さんが気色ばむような言い方にして刺激してくれた、ってこと。



 かしこい人は、そこだけをとらえてあとは「ごちそうさま」と言って捨てる。

 頭の悪い人は、やれ倫理が道徳が、言っていいことといけないことがあるやないや、命の価値を軽んじているやどやとまくしたて、そんなご立派なことを言う割には「じゃあどうしたらいいと思うか」ということについてはほとんど触れない。

 頼むから、成田氏の言葉にかみつくなら、対案を示せや。そうしたら私も「ごもっともです。あなたの言うことは素晴らしい」と褒めてやります(笑)。

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