呪いの引き寄せ

 皆さんは、ゲーム好きですか? ニンテンドースイッチとかプレステとか。昔ながらのゲームセンターは今ではずいぶん減って、かつての勢いはないみたいですが。

 ゲームって一応娯楽である。楽しいからするし、楽しくないならやらない。でも、落ち着いて考えてみたら、ゲームってただ楽しいばかりではない。



●ゲームは、その世界観(設定)をわきまえ、その中で「こうすれば勝ちという目標に沿うように操作することを求められる」ので、場合によっては努力や忍耐を強いられる場合がある。



 子どもの親たちは「ゲームなんかやっとらんで勉強せぇ」と言うが、実はゲームのほうが勉強よりも集中力や忍耐が必要とされるケースもある。そこでこそ磨かれる能力もある。惜しむらくは、まだまだ世の中(特に親や学校)では、ゲームはただ遊び、いくらやってもその人にヒマつぶし以上のメリットは何もないものとしての認知にとどまっている。

 近年はeスポーツなど、ゲームが人権(?)を得つつある現象もあるが、まだまだゲームは仕事や勉強と同じか、それを超える価値のあるものとして認められているとは言い難い。



 あるプロeスポーツチームに所属し活動する有名女性ゲーマーが、ライブ配信の中で『身長170㎝ない男は人権ない』という発言をした。よせばいいのにその人はさらに言葉を変えて丁寧に数パターンで表現した。



〇170ないと正直人権ないんで。

〇170ない方は「俺って人権ないんだ」と思いながら生きてください

〇170あったら人権がちゃんとあって生まれてくるんで

〇ほんまちっちゃい男に人権あるわけないだろ。調子のんな



 聞いても当たり前としか思わないしかわいそうだとも思わないが、この放送のあと彼女が所属しているチームから契約を解除されている。

 ちなみに、彼女の理屈でいくと筆者にも人権はないらしい。(168なんで笑)



 確かに、人の人生はその人のものである。意に染まないことはしなくていいし、生きたいように生き心地よさを求めることも権利としてある。好きなようにものごとを考え、言いたいことを言っていい。

 だが、同時にこの世界は「ゲーム世界」でもあるのだ。



●ゲームである以上、楽しいものではあるがそこにはゲームの世界観に従い、ルールに則り上手にプレイすることが求められる。

 裏を返せば、ゲームとは基本楽しいものなのだが、勝とうとするとそこにそのための努力が求められたり、下手にプレイすると苦い失敗を経験することもある。楽しいはずのゲームだが「辛さ」が生じる場合もある。

 だが、その辛さも含めての「ゲームの楽しさ」なのである。



 先ほどの女性ゲーマーの発言に対して、擁護する意見もある。ゲーム世界では、クリアするのに最低限必要なアイテムすらまだ持っていないプレーヤーに対し「人権ない」という表現は日常茶飯事でするらしい。それを知ってれば、何も目くじらたてて責めることはないのに、という。

 要するにこの女性ゲーマーは特に人格的にひどいというのではなく、ちょっと思ったことを流行り言葉(業界言葉?)で言ったら、それを知らない者が大げさに反応しただけ、という意見だ。

 私は、この宇宙はゲームのようなものだと言ってきた。その前提で考えると、このeゲーマーの女性にしてもそれを「たいしたことじゃない」と擁護する人々も考えが甘いと言える。



●ゲームなんだから、ゲームの特性を踏まえ勝てるようにきちんと対策しないと、ひどいプレイ内容になるのは明らかではないか。



 この宇宙ゲームの最大のカギは「呪い」である。

 呪いとはすべての思考(思念)のことである。皆さんは呪いと聞くと、ホラー映画とかで出てくる「恨んでいる人間に不幸や死をもたらす感情的な負の力」と限定して考えてしまうと思うが、筆者の定義では「心の中で他人のことを(いいイメージであれ悪いイメージであれ)考えただけでそれが呪いとなる」。

 だから大げさでもなんでもなく、この世は呪いで満ち満ちている。そしてその呪いが厄介なものになる一つの原因として、このゲームおけるNPC(自分以外の操作不能なキャラ。つまり他人)の見逃せない特性がある。



●価値観(思想・信条)があなたと異なるという点。



 物事を考える基準というか、ものさしが違うという点である。

 いくらゲーマーの世界にいる者が「人権ない、って言い方してもそれはフツー」だと思っていても、その世界を一歩出たら「人の心をとてもえぐる言葉」になるのだ。つまり、自分の近しい世界の理解だけではゲームオーバーになりかねないほどの悪手だというわけで、高得点クリアを目指したければ「他の世界も知り、世の大枠ルールをわきまえて行動する」ことが必要になる。価値観の違う他を「慮る(おもんばかる)」という行為が必要となってくるのだ。

 強力なゲームのアイテムがないことを笑うより、そのゲームに絶対必要な「他に配慮できる力」がないことこそ笑われるべきなのである。



 他者を配慮できない者は、呪いを引き寄せやすい。

 本人に悪気があるかないかは重要ではない。本人のホンネはさして重要ではない。要は「他人がどう解釈し、反応するか」だ。先ほどの女性ゲーマーは、本性としてはそれほどひどい人ではないのだろうが、他者の解釈や反応に思い至れなかったという点で致命的な損をしたということである。

 あなたという人間が本当に悪いから呪いを引き寄せるんではない。あなたという人間がいくら根は善良であっても、その言葉の発し方ひとつで、配慮の何気ない欠けひとつで、他人の思いもしない反応を引き出してしまう可能性があるということである。ある言葉で傷付いた人が、ずっとその言われたことを根に持って覚えていてるのに対し、言ったほうはすぐに忘れ「はて、そんなこともあったっけ?」という感じで軽い認識になっている理由もそれだ。

 なので私たちは、日頃から言葉には気を付けたいものだ。緊張感のある「ちょっとした言葉で自爆しかねないゲーム」をまさにこの世でやっているわけだから。 

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