人の話に勝手な解釈をまぜないこと

『牛宮城』という、芸人ユーチューバー宮迫の経営する良くも悪くも有名な焼き肉店がある。そこへデヴィ夫人が客として訪れた時のことが歪んだ形で報じられ、物議を醸している。



 確たる、信頼できる情報筋の話がないため、筆者がここで言えることは必ずしも的を射ない場合があることを承知で、それでもネット記事で読んだ記事の断片を繋ぎ合わせて、ある考察を展開してみることにする。

 ネット記事のタイトルに、『デヴィ夫人』『ぼったくり』という単語が並んでいた。これを普通に読むと、たいていの人は「デヴィ夫人が牛宮城に行ってぼったくりに遭った」あるいは「牛宮城で飲食をした結果、デヴィ夫人がぼったくりだと感じてそのように言った」のだと解釈する。

 しかし。よく読み込んでいくと別の可能性が出てくる。それは、この件について聞かれた宮迫本人の言葉がヒントになる。彼は夫人が「ぼったくりでは」と言ったらしいことについて聞かれると、こう答えている。



●デヴィ夫人に「あーた、こんな高いシャンパンしか置いてないの?」と言われたことだけは覚えています



 ぼったくりとは『法外な料金を取ること』である。

 人によっては「安いものを高く売る(本来の価値より高い値段で売る)」ことがぼったくりだと考える人もいるが、それは違う。なぜなら、それが商売の基本だからだ。それをしないと店など潰れてしまう。つまりぼったくりとは、その「本来の価値より高く売る」ことの程度が異常なものを指す。利益を出すのが商売だ、と納得できる許容範囲を明らかに逸脱したものに関して「ぼったくり」と言うのだ。

 牛宮城ではその時、高いシャンパンしか在庫がなかったのだろう。つまり元々が高い酒を、それなりの値段で提示したにすぎず、それをぼったくりとは言わない。高い酒が高いのは当たり前で、別に強制されたとか、ヤクザまがいの店員がいて買わないとひどいぞと脅したわけでもない。

 現に夫人は「高いシャンパンしか置いてないの?」と言っただけで、ぼったくりだとは言っていない。言っているのは、この記事を面白おかしく書いてPVを稼ぎたいネット記者だ。恐らくだが、記者が勝手に似た言葉で刺激の強いものに巧みにすり替えただけのことなのではないか。

 もちろん、品揃えとか在庫管理に迅速な仕入れとか、牛宮城側の落ち度はあるが、高い酒しかなかったのでその適正価格で提供しようとしただけで、ぼったくりというのは言葉として誇張しすぎである。



 スピリチュアルの世界もまたそういうことがある。

 精神世界におけるメッセージは、仕方のないことだが言葉で表現される。指導者のお腹を開けて見せて、相手に心の思いがそのごとく伝わるならいいのだが、そんなわけにはいかない。テレパシーで送るとかもできない。(できると言い張る人はレア中のレアなので考えない)

 人は見たいように見る。自分に一番都合がいいように解釈しようとする。本の文章や動画の言葉やしぐさだけでは、指導者のその言葉の裏にある真の思いまではどうやっても正しく伝わらないので、結局言葉足らずな分、複数の解釈の余地がある分少々ズレたことが伝わる。



●歴史始まってこのかた、キリストや釈迦の言葉でも、本人が意図したそのごとくの基準で理解されたことは一度たりともない。



 世界でただ一人、その本人しか分からない。

 でも、人は他者と関わって生きるのが前提に創造された生き物なので、その限界が明らかにありつつも、人は飽くことなく他者に自分を表現し続ける。そこに誤解が生じるとしても、人は自らの思いを伝えずにはいられない。

 だからせめて、聞く側は謙虚になって「ただでさえ人は自分の都合のよいように外の言葉を切り取ってしまうのだから、人の話はちゃんと最初から最後まで聞こう」という心構えを持ってほしい。ましてや、自身の利益のために意図をもって、相手の言葉をずれたものに置き換えるなどもってのほか。

 スピリチュアルやってる人が、どんなに指導者に学んでも本を読んでも講演会に顔を出しても「人生上向かない」「幸せ度が高まらない」のは、多分にそういう点が邪魔しているのではなかろうか。



 目に映るすべてのことはメッセージ、なんて言葉があるが、それはあなたが何の手も加えず、謙虚にありのままを受け止めた時だけしか役には立たない。目に映るメッセージを自分なりにゆがめてしまったのでは、意味がない。

 まずはそこからであろう。多少恥ずかしくとも、自分のダメなところが見えてしまおうとも、直で受け止める覚悟を持てた人間しか成長しないようになっている。

 話をちゃんと聞けば、ネット記者にうっかり騙されて「デヴィ夫人がぼったくりと言った」とタイトルから早合点する被害から逃れられるのだ。

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