時には真理としか思えない言葉でも

●デイズニーランドはいつまでも未完成である。

●現状維持では、後退するばかりである。



 知らぬ者はないテーマパークの王者・ディズニーランドの創始者であるウォルト・ディズニーはこのような言葉をのこした。

 事実、この考え方は今日のビジネス界における心構えの主流として大事にされている。今の自分と来年の自分が「同じ」だった場合、それは単に「成長していない」というだけでなく、時間という貴重なものが費やされているのに同じと考えると「価値が減少している・損失を出している」と考えるわけだ。

 自由競争社会・利益追求型の資本主義社会においては常に「右肩上がり」の成長と発展をし続けることがよいこととされ、そうならない(あるいはそれを目標としない)姿勢は経営者失格みたいにまで考えられている。

 ビジネス界において、常に現状に満足したり安住したりをせず、さらなる成長を目指すのだという発想は間違いのない「真理」であるかのようだ。誰もおかしいとは言えないほどに、完璧な理屈に一見思える。



 しかし、地球全体の環境問題・社会構造の問題を考えるある研究家によると、もし世界がこのまま資本主義の考え方をする(つまり常に右肩上がりの経済成長を目指し続ける)のに任せていると、人類の未来はない(いずれ破滅に直面する)という警告がなされている。

 経済発展を目指す世界では、GDP(国内総生産)が重要視される。しかしこれを上げることばかりを考え、自分さえ・自分が生きている間さえ地球が大丈夫ならばいいという考えの経営者・成功者がさらなる利益をあげ続けようとする結果、地球はとんでもないことになる、というのである。

 アマゾンの密林は、自然がもっとも成熟し、成功した例である。あれは、本当にもう理想形まで到達しているので、もはや安定を求める他目指すものがない。手の加えようがない。逆に、人工的に下手に手を加えようものなら、せっかく大自然の力によってうまく回っているアマゾンを傷物にしかねない。

 人類は近代以降、産業革命に始まり「利益」を追求し続けてきた。そしてここまできて人類に求められているのはそのままその路線を続けることではない。世界の目指す方向性が変化すべきタイミングにきたのだ。



●もう、右肩上がりのイケイケ利益追求型は卒業せよ。そのステージはもう十分に堪能した。これからは「安定」が目指されるべきであり、その安定のカギとなるのが「分配と共有」である。



 ウォルト・ディズニーの言葉は、彼が生きた時代にこそ必要な言葉であり、その時代限定の「真理」であった。誰も反論できない、非の打ち所のない理屈だった。

 でも今は。地球という限られた入れ物の中で生きているのに、利益を追求することをいつまでもやめないと、やがてそれは世界を食い尽くす。そういう恐れのある時代になると大事なのは——



●足ることを知る。



 つまり、今(現状)に満足することである。今のままでは不十分、もっともっとという執着を捨て、憩う(それ以上ガツガツ戦わず、これでよしとする)ことだ。

 これは、ディズニーの言う「現状維持は後退(つまりそれは失敗であり負けでありダメな姿勢)」とは正反対の概念である。どちらかというと宗教的(仏教的)な発想で、バリバリの野心家経営者(ホリエモンあたり?)にしたら「ジジくさい」と言われてしまう考え方かもしれない。

 でも今、無理をしてまで右肩上がりの成長というものを求める価値があるのか問いたい。そのせいで、日本の社会人はその多くが思うような休みをとれず、休みの時も仕事のことを考えてしまうような状態である(ひどい時には休みの日も仕事の準備に使ってしまう)。

 その結果父ちゃんも母ちゃんも(共働きでないとやっていけない家庭も少なくない)疲れて帰ってきたら子どもに良い精神状態の時と同じ対応がとれず、家庭というものが決して幸せな憩いの場ではなくなってしまうこともある。



 環境破壊もまた、深刻である。カネの力にものをいわせれば、この世界ではたいていのことができる。カネの力は恐ろしく、間違っていることでも相手を従わせることのできる魔力がある。

 そのせいで、一部富裕層の個人的なエゴでとことん自然開発などし、実際に手を下す下級労働者が「こんなことやってて本当にいいのかな」と疑問に思っても、生きていくためにやむなく山を削り谷を埋め、動物を追いやる。

 もう、世の中がここまで来たら世界は経済発展しなくていい。

 現状維持でもいい。ただ、貧しい人も含めすべての人に富を分配しようとしたら足りない、という場合にだけ追加で頑張ればいい。宇宙に飛び出すならまだしも、地球という範囲の決まった枠内に留まり続けるのならば、もう考え方を改めたほうがいい。どう安定して地球を使い続けるか、長持ちさせるかを第一に考えないといけない時代に突入している。



 スピリチュアルで語られるような、真理に思える言葉でも、人と時間と場所を超えて絶対に不動な内容などない。TPOを考えないでいい言葉など存在しない。

 これは絶対正しい! 間違いじゃない! ではなく「このケースにこれを当てはめるのは本当に正しいのか? 百歩譲って正しいとしても、その正しさを押し通すことで、かえって不幸な人がでてくるようなことにならないか? そんなことになるなら、その正しさを守り続けることに大して価値などないのではないか?」と考えられるようになってほしい。

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