プライドを捨てて今よいと思うことを成せ

 アニメ・特撮好きの筆者も今まで知らなかったある情報を、ネット記事で読んで知った。それは「ウルトラマンシリーズ」に関するものである。

 初代ウルトラマンからタロウまでを「ウルトラ6兄弟」と呼んでいた。そのあとも続々とウルトラマンが誕生し、中にはその兄弟の数に数えようとするものもあるが、筆者の中ではやっぱりタロウまで。レオやアストラは兄弟と呼ぶにはちょっと無理矢理っぽいし、メビウスに至ってはもう分からない。(笑)



 この、別々のウルトラマン作品をまたいで「実は兄弟で、同じ世界観で繋がっている」というのは、制作サイドの円谷プロが最初から考えていたものではなかった、ということだ。

 小学館の『小学2年生』という雑誌の中で最初に「初代・セブン・帰ウル(ウルトラマンジャック)・ゾフィー」が実は血のつながった兄弟なのだ、ということが発表された。しかし、これはこの雑誌が勝手に書いたことで、制作サイドはビックリ。

「4人のウルトラマンが兄弟などという設定はない」と猛抗議したとか。

 しかし、制作サイドの怒りとはうらはらに、その設定は子どもたちに喜んで受け入れられ、以後その空気を読んだ無数の子ども向け雑誌が「ウルトラ兄弟」と銘打った記事や特集を組みまくり、やがてそれが「当たり前」のこととして定着。

 これには制作サイドも無視できなくなり、無視どころかついに敵異星人が憎々しげに「ウルトラ兄弟め!」と吐き捨てるセリフが飛び出し、これでついに「制作サイドも兄弟設定を受け入れた」形となる。続く作品「ウルトラマンエース」では、その第一話からしてエース自ら自分の命を託す人間・北斗星司に「私はウルトラ兄弟の5番目、ウルトラマンエースだ」と自己紹介をしている。

 以降の作品では、以前のウルトラマンたちがウルトラ兄弟として時折助っ人に登場することがお約束となり、それが大人気要素のひとつになった。仮面ライダー作品にもそういうところがあり、歴代ライダーが時々ゲスト登場することで人気をさらに盛り上げていた。

 もちろん、シリーズが長く続くと出てくるウルトラマンが皆「血のつながった兄弟」とし続けるのはムリがあるので、「ウルトラの父のもとで、宇宙の平和を守るという目的のもと団結し、兄弟の契りを結んだ精鋭戦士団」というところで最終的に落ち着いた。皆義兄弟であり、ウルトラの父と母の純粋な子どもはタロウだけである。他はいとこだったり孤児なのを拾ってきて育てた、などとして整合性を持たせている。でないと、ビッグダディも真っ青な、ウルトラの母孕ませまくりなエロ親父となってしまう。それでは子ども向け番組として難がある。



 まぁ、最初は制作サイドが「なにしやがるんだ」と怒っていたわけですけど、結局その外部の勝手な解釈のおかげで人気が出て、怒っていたくせに態度を変えてしれっと「そうなんです、兄弟なんです!」となるのは、ちと笑える。

 でも今回の記事の趣旨は、「簡単に外の要因の姿勢で主張を変えるな(自分軸を失うな)というところにはない。むしろその逆だ。実利を見て態度を変えた制作サイドに学べと言いたいのだ。



●世の中には、真面目過ぎて「今更こういう決断をしたら、一貫性がないと思われないか」「現金なやつ、と軽く見られないだろうか」と、あくまでも最初に言ったことを貫くのがカッコイイという考えの呪縛に囚われているタイプの人がいる。

 そういう人は、損をしてでもその美学を貫いてしまう傾向がある。背に腹を替えてしまえるのだ。だから、「もう少し楽になっていいんだよ」と言ってあげたいのだ。



 筆者は少し過去の記事で、ある真面目過ぎる教会の牧師の話をしたと思う。

 貧乏で、子どもに満足なこともしてやれない。そんな牧師の家庭を憂えて「どうか自分のために使ってください」と百万円を超える現金を信者が寄付してくれた。

 でも、四角四面に真面目で潔癖すぎるこの牧師は、「ありがとうございます。でも、このお金は神様のために使われなければなりません」と言って、結局痛んだ教会の建物の修繕と維持費のためにお金は消えた。1円たりとも自分のために使わなかった。その牧師の子どもが大人になって、当時そんな親父さんを「神に仕える聖職者として立派」と尊敬するどころか、なんで少しくらい家族のために使ってくれなかったんだ、と恨んでさえいたと告白した。



 何かの信念を最後まで貫くのが立派だというのは、いついかなる時にも言えることではない。ケースによっては「そこは柔軟に考えようよ!」と言いたくなる頑迷さになることもある。そのせいで逃すチャンスや幸せもある。

 だから、最初に自分が言ったことを思い出して「ああ、失敗したな」と思っても、やせ我慢してプライドを守ることはない。長い目でそうすることが自分に益だと確信したら、その益を取れる人であってほしい。恥ずかしいかもしれないが、素直にその時によいと思ったことができる人であってほしい。

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