切り取りしかできないなら結果で判断せよ

 相変わらず、旧統一教会関係の話題が世には絶えない。

 多分国や政治家辺りにとっては、国民に「早く忘れてほしい」問題のひとつだと思うが、こうして風化させることなく情報が出続けることはまぁよいことである。

 話題にされ続けることがよいこととはいいながら、筆者にはひとつ不満がある。たとえば、先日ネット記事で鈴木エイト氏とひろゆき氏の対談を読むと——



●統一教会は……ということを言っているんですよね



 私としては、あまり読む価値を感じなかった。すべては統一教会のことをまったく知らない人間同士が、伝えられる情報の断片をいじくりまわしているにすぎず、なぜそういうことを信じるに至る人がいるのかには斬り込まない。読者は皆、「なんでそんな荒唐無稽な話に引っ掛かるのだろう?」と首を傾げるしかない。

 世の情報はすべて「なぜ旧統一教会の信者はそれを信じるに至ったか」には1ミリも迫っていない。ああ、それなら信じちゃうよね、こう理論武装しないとそう聞かされたら危ないよね、という話が出てはこないのだ。

 対談のこのお二人は、信者(あるいは元信者)ではない。

 この世界のどこに、いきなり「統一教会の教義を信じる信者以外の人間はすべてサタン(悪魔)に操られている」と聞いて「すごい! その通り! まさに真理」と思えるアホウがいますか? 旧統一教会系のニュースに触れる一般人の感想はまさにそれで、「なんでそんなものにハマれるのか」分からず、頭にクエスチョンマークが飛び交っているはず。

 皆さんが分かっていることと言えば、韓国人の老夫婦二人(肝心のメシアである旦那のほうは逝去)を、人類の真の父母と崇めていること、基本的にはサタンがこの世界を牛耳っていること、一般的な自由恋愛が最大の罪であること(だから結婚相手は教祖が指名する)、霊感商法を代表とする経済活動(カネ集め)にどの宗教にもまして必死である、ということくらい。

 これらを耳にして「私も信者になりたい!」と思う人は皆無だろう。



 筆者は、もと信者だった。

 じゃあ、もし私がいきなり上に挙げた「統一教会の噂・断片的情報」を聞いていたら、信者にはならなかった可能性が高い。えっ、そんなアホな! と思って二度と近づかないだろう。

 しかし私は、正体を隠して勧誘され、教会側が最もベストとする教義の聞かせ方を施された。



【統一原理の理解の流れ】


①序論……すべての人は「幸せ」を求めて生きている。しかし、得られないことが多い。それはなぜか? という問いかけから始まり、それは「価値観の違い」であると指摘する。それが違うから、各々自分が正しいのだと争うことになる。これから紹介する統一原理は、その価値観の決定版を提示し、長く続いてきた争いと不幸の歴史に終止符を打つ。



②創造原理……絵画や彫刻にはそれを作った作者が必ずいる。この地球や宇宙、人間もこうして存在するからには作者(原因となった存在)があることになる。それを神と呼ぶ。そしてその神が本来作りたかった世界はどういうものか? を説明する。



③堕落論……しかし、神が願った世界は実現せず、人類は神によって与えられた「自由意志」の行使を誤り、サタン(もとは天使。それが人を騙したので悪魔になった)の手に落ち、この世界は堕落世界(神が本来意図したエデンの園とは違う、エゴすなわち自己中心性という魔物が跋扈する世界)になった。

 そして、人類の諸悪の根源は性の問題である。(人類の失敗とは食べるなと言われたリンゴの実を食べたとかいうことではなく、それは比喩で実際は不適切な性行為のことを指す)

 全能の神がなぜこの世界をどうにもできないのかの理由は、「人間に自由意志を与えたから」。それは神でさえも干渉不可能なもので、人はその与えられた力と責任のゆえに、自力で神のもとに戻らねばならない。



④蕩減復帰原理……掘った穴を元通りの地面にするには、空いた穴の空間を埋めるに足る土を用意しなければならない。人類始祖(アダムとエバ)が堕落した、その損失に等しい価値のものを神に捧げる必要がある。

 人類始祖が「神の御言葉(善悪知る木の実を食べるな)を破った」ので、その逆をして埋め合わせる必要がある。つまり「神の言葉に絶対忠誠を貫く」。

 本来人類は地球環境をうまく治める器として用意されたのに、堕落によって万物をうまく治める能力を失い、人間中心の過度な開発・環境破壊をする始末。よって、悪魔によって奪われた万物を神のもとに返すことで埋め合わせする。これを「万物復帰」と言い、要するに教会の経済活動である。カネ儲けである。もちろん教義的に、額が多ければ多いほど貢献になるようなことを匂わせている。



⑤摂理歴史……アダムから始まりノア・アブラハム・モーセも、すべて人間が失った本来の「神の子」としての立場を悪魔から取り戻すため神から選ばれた人物だった。でも彼らもことごとく失敗した。

 しかしようやく、人類の罪をぬぐうメシア(救世主)としてのイエス・キリストを地上に降臨させることに成功。しかし、人類は自らのちっぽけなプライドと自己保身のため、イエスを受け入れずこれを処刑。人間に自由意志を与えた神はこれを侵害できず、ただただ涙で見つめるしかなかった。

 この失敗のツケにより、長きにわたる暗黒歴史(ローマ時代から中世末期まで)を味わうこととなった人類。しかしその間も、神によって少しづつイエス再臨のための準備が整えられた。(ルターの宗教改革など)そして、満を持して再臨のイエスが韓国に誕生した。(なぜ韓国なのか?についても長い説明があり、それなりに説得力があるが長くなりすぎるので省略)



 ……とまぁ、こういう流れの話を、おかしな噂が入らず、異様に親切にしてくれ思いやってくれる人たちに囲まれて聴くわけだ。講義の合間の休憩には「どうだった? 分からないところなかった?」と肩もみをしながら聞いてくれるのだ。もちろん、彼らは配偶者以外の異性に触れることを激しく禁じているので、絶対同性同士だが。

 もちろん、統一教会の経典である『原理講論』の内容は、もっと膨大で説明も巧みだ。ここで紹介したのはこれでもほんの砂粒程度に過ぎない。

 こういう聞き方をすれば、そりゃ信じる者もでるさ。いきなりサタンと聞くから、皆さんは茶化したくなる。爆笑問題の太田氏などもやたらネタで「サタン」という言葉を使っているが、どれほどの意味を分かっているというのか。

 ひろゆき氏にしてもそうだが、教義に深く切り込まない無関係者がいくらこの問題を論じたところで、世間に人には肝心なことが何も伝わらないのだ。ただ信者が「キモッ」と思うだけで終わり。



●余計な横やりもなく、落ち着いたベストな環境で一連の流れを聞けば、信じる者が出るほどに巧みな理屈なのだ。



 TVとかも、そこにメスを入れて「こういうことを言ってますが現代科学や考古学ではこうですので、勝手な解釈に惑わされないで」という話をもっとしたらいいのだ。もちろん結果論的な間違い(過度な献金や二世信者の問題・霊感商法・自分で結婚相手を決められない合同結婚式)は指摘し続けていくことは必要だが、それだけでは「なんでそんなものについていくの?」という疑問が一般人には理解できないまま放置されてしまう。

 まさかとは思うが、ヘタに教義を紹介して「信じる人が出たらどうしよう」と恐れたりしてないですよね? もしそうなら笑い話だ。



 一番の理想は、なぜ財産のすべてを捧げようと思うほど信じされることができるのか、一体どんな教義なのかにもう少し恐れず迫ってほしい。そうすることで、未来に勧誘され得る被害者予備軍も、「ああこれか」と思い当って助かるかもしれない。

 それができないなら、せめて結果としてひどく世間や家庭に迷惑をかけ、下手したら崩壊させている現実はあるわけだから、追及の手を緩めず報道し続けてほしい。

 国葬が終わったら、岸田政権が変わったら風化、そういやそんなこと騒がれたよなぁ、というのはもうナシだよ!

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