煉獄さんが泣いてるぞ

 私たちは日本に住んでいる。(海外の人で一部これを読む人がいるかもだが)日本は一応先進国であり、民主主義国家である。基本的人権が認められており、教育では建前上命の尊さや個の違いの尊重などが教えられている。

 そんな私たちは、社会主義をちょっと見下す。たとえば北朝鮮。主席を絶対の頂点とし、『主体チュチェ思想』のもと朝鮮労働党の一党独裁体制を敷いている。

 民主主義とは、拠り所とする根本思考が違う。



【民主主義】


 複数の政党がある。与党以外にも野党がおり、野党が与党を牽制する。いくつかの政党が存在できることで、与党の暴走や驕りの抑止力にもなる。

 つまり、自由にものを述べることができ競争することができるのを「よいことだ」と考えている。逆にその自由がないことこそ不幸だと考える。

 ただ、その自由を人類はうまく扱えているとは言えず、自由がゆえに様々な問題も起き犠牲もでるが、それは自由というものを維持するために支払う必要な代価として目をつむる。



【社会主義】


 民主主義は大枠ではいいように見えるが、その社会の底辺では民主主義の恩恵にあずかれず、かえって住みにくいと考える者も出てくる。

 自由であり競争があるがゆえに、それに負ける者が一定数出現し、社会福祉制度で形ばかりの救済案は提示するが基本「自己責任」として本腰は要れない。

 そこで渇望されるのが「平等」である。一部の肥え太ったブルジョワを打倒し、全国民に平等をという話になる。本当はもっと複雑で、一言には語りにくい。

 社会主義(ちょっと飛躍するが全体主義)とは、実は民主主義の問題点を解決するために出発したのだ。

 下手に自由にするからいけないのだ、と考える。個々人や色んな集団が自由の名のもとに自分の利益を求めるから、軋轢が生じるのだと。だから、ひとつの権力がブレずに全体をまとめ上げれば、民主主義のような混乱も起きないと。各政党が何事にも他党を批判し文句を言い、政治が進まないことに比べればこちらは運営がスムーズだ。国民の声とかに政治がたじたじになることもない。そもそも、疑問を抱かないように教育ができている。

 ただし、この体制下の国民が幸せになれるのはその権力者が「まともでやさしい」ことが絶対条件ではある。日本における共産化の運動が失敗したのは理念が間違っていたというよりも、民主主義を嫌って打倒し始めたくせに、ふたを開けたら「上下関係や利害関係が出る中で、結局民主国家のトップと同じになっちゃった」ことだ。人間、人の上に立って相手が言うことを聞くようになると、結局カネや欲に負けてしまうものらしい。

 ミイラ取りがミイラになっちゃったのが社会主義の失敗である。



 実は、安倍元首相狙撃事件で一躍話題となった統●●会も、その考えの根幹は社会主義そのものである。経典である原理講論という教義書の冒頭の「序論」に書いてある。世の混乱の原因は、価値観の乱立であると。人の価値観がみな違うので、そのゆえに様々な問題・苦しみが起きるのだ、と。ゆえに統●●会が目指すのは、世界中の人々の価値観の統一なのだ。教義上、すべての人間が統一教会を(その教祖を救い主として認めて)受け入れるのでないとこの世界のサタン(悪魔)支配はなくならないことになっている。

 気持ち悪くないですか? すべての人の価値観を統一ですってよ! もちろん、教会側は自分たちの教えに「ギョーザに絶対の自信あり!」と宣伝してる餃子の王将並みに自信があるため、何の問題にも思っていない。それがよいものであるなら、すべての人間が同じになっても構わないと思うのだろう。



 民主主義陣営の住人は、社会主義をちょっと怖がる。

 そういう社会主義・共産主義の運動を描いた映画やドラマを見たら、いやでも怖くなるだろう。ちょっと演出過剰な部分もあるが、それだけ民主主義の弊害に苦しんだ民の反発エネルギーがすごかった、ということだろう。

 でも、その怖い社会主義は、どうも民主主義が生んだのだ。だから私たちは相手を責めたりおかしな連中だと思うのではなく、自分たちの社会のひずみが見せる写し鏡である、と見たほうがいい。

 でも、一見よさそうにみえる「価値観が絶対の価値をもつなら、押し付けても問題ない。皆が同じ信仰を持てば世界から争いや問題が無くなる」という考え方は、筆者にとっては最大級の大バカな考えと思える。



●この宇宙の存在目的。それは、あらゆる可能性を楽しむためである。

 違いを味わうことこそが目的で、その違いが互いを尊重し合い気持ちよく生きられることが目的である。

 すべての人間の価値観の統一は、たとえそれで表面的な問題が解決するとしても、その代償にとんでもないものを犠牲にすることになる。それは「ドラマ」であり「豊かな感情」である。



 百歩譲って、統●●会や社会主義の考えがパーフェクトなものだったとして。

 それは、そう思うその人だけが信じておればよく、他人に広めたりましてや当てはめるものではない。何かの宗教の信者になると、その信者ではない有名人や知人の行動が「その教えの基準ではどうだ」ということを考え始め、他人に実際に言ってしまったりする。本人にはよかれと思っての行動なんだが、実に迷惑である。



●本当によい教えなら、拡声器で怒鳴らず背中で語れ。

 教義を語らずとも、その良い教えに従って生きるあなたの生きざまに魅力を感じた人が「あなたのようになりたい。何か大事にされている考え方とか信条とかっておありなんですか?」と興味をもって聞いてくることが起きる。その時にだけ、実はねと語ればいい話だ。統●●会は、自分に内容がないくせに教えの絶対性と教祖のカリスマ性に威を借るキツネのようだ。自分が真理を分かっている、という顔をしていて実にエラそうだ。

 皆統●●会や北朝鮮をバカにするが、我々もそう変わりはないことを御自覚だろうか? 先日、安倍元首相が銃で撃たれた事件のネットニュースについたコメントで、次のようなものがあった。



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煉獄 杏寿郎(れんごく きょうじゅろう)が死に際に残した言葉です。


「胸を張って生きろ」


「己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ、歯を食いしばって前を向け」


「君が足をとめて蹲っても、時間の流れは止まってくれない。共に寄り添って悲しんではくれない」


 どんなに苦境に陥っても、家庭環境がどうだろうが、そこからドン底から這い上がれ。ただそれだけだ。君より、もっと不幸な人だって、それをやらない。人間としてあってはならないことだ。法の裁きを受けてください。



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 まぁ、大体の人は超有名な鬼滅の刃という漫画(アニメ)の煉獄さんを知っているものとして話を進める。

 煉獄さんのセリフからうかがえる理屈だけ見たら、まったく正しい。反論の余地もない。だが、このコメント主はちょっと考え方が未熟だ。なぜなら、言葉は正しいが引用の仕方を間違った。

 これらの言葉は、鬼滅の刃を直接見た人が、そのセリフを心で受け取って感じて「そうだよな!」と思うためのものである。ここに、新興宗教の信者と同じ思考原理が見られる。



【新興宗教】


①まず、自分が聞いてなるほど!と信じる。

②あまりに素晴らしいので、世の人にも広めないと、と思う。

③ちょうど、救ってあげないといけない(この教義を伝えてあげないといけない)人が身近にいた。

④相手の立場の特殊性や都合などお構いなしに、「相手を救うためだ」と他者に教義を当てはめ、こうしたらいいと諭しだす。



【さっきのコメント主】


①自分が鬼滅の刃を見て、煉獄さんの言葉に感動する。その通りや!と。

②あまりにその通りなので、何かの折にちょっと言ってみたくなる。

③ちょうど、世の中に文句ばかり言い、殺人という短絡的な解決に走った犯人みたいな人がいて。これは、世のバカどもに教訓を垂れるいい機会だ! と息巻いた。

④犯人もただ安倍さんを撃った人、というだけではないがその背後のすべての事情をすっ飛ばし、ただただ正論を振りかざす。




 煉獄さんがもしリアル世界に生きて存在していたら、このコメント主のしたことを喜ぶろうか? よくやってくれたね。私の代わりに言ってくれてありがとう、となるだろうか?

 復讐しても亡くなった娘さんは喜ばないぞ! という刑事物のドラマによくあるセリフと一緒で、きっと彼は喜ばないだろう。むしろ、自分の言ったことがちゃんと理解されていないことを知り落胆するだろう。きっとこう言う。



『僕の言ったことはね、他人に当てはめてその人がいかにちゃんとできていないか、を明らかして反省させるためのものじゃないんだ。強制でもなく、自然とこの言葉を聞く機会があって、自ら納得して参考にしようと思う人だけのものなんだよ』

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