話半分に聞く能力
「20代独身男性の4割がデート経験なし」。テレ朝が発信し、一気に注目され話題となった情報である。
これを受けて様々な芸能人・文化人が自分の所見を述べる展開となるが、若者の恋愛離れがどうの、世の経済問題がどうの、昔はどうだったのという話はここでは省く。重要なのは、冒頭に挙げた言葉がまっとうな真実ではなく「ある程度恣意的に操作された情報に基づく言葉」であるということだ。
これに近いもので、映画の宣伝文句(キャッチフレーズ)がある。
『もののけ姫を抜いて興行成績一位』『全米が泣いた』。
よく、過去に大ヒットした作品の名前を挙げて、~を抜いて1位という言葉が使われることがある。これなどもずるい話で、トータルでは勝てていなくても、ある一部の期間を抜き出して、そこが過去の大作の一番売り上げた日に勝っていれば、そこをもって「~を抜いた!」と言ってしまうらしいのである。
あと、全米が泣くわけがない。泣いていない人もいるし、そもそもその映画に関心がなく見ていない人も多数いる。ここで全米というのは、文字通りすべての米国人ではなく「その映画を視聴して、なおかつその映画に好意的な評価を下し涙した人物」に限ることは暗黙の了解である。
冒頭のデート経験に関する情報は「男女共同参画」に関する網羅的な調査結果の一部を読めばそのように言えるかもという程度のことで、本腰を入れてデートの有無を追った結果に基づく情報ではない。政府もTV局も、だからこうなるべき、こうするべきという「自分の利益となる誘導」がしやすいため、そのダシにするため情報の一部をあえて目立たせた節があり、一般大衆はまんまと乗せられてしまった感がある。
●この世界の情報は、結構な割合でこの手のものが多いと思ってもらっていい。
受け手が賢くないと、発信元のたくらみにうまく乗せられてしまう、という情報である。もちろん、のせられることが結果的に良い場合もある。少子化問題などは、「なんとかしないと」と大勢がのってくることがいいことは明白だ。ただ、冒頭の「若者の恋愛離れ」のように、経済的・外見的・心理的に現状それ以上どうしようもない人をさらにみじめにするだけのこともあり、のせられなくていい情報もある。
こういった「話半分に聞くべき情報」の特徴は以下である。
①悪魔の論理
名作ホラー映画「エクソシスト」で、「悪魔は99%の真実に1%のウソを混ぜてくる」という名セリフがある。
ほとんど正しいのだが、発信者の意見、意図、誘導したい論理の流れというものをほんの少しだけ混ぜ込むのだ。
②さもありなん
確かに、その情報は分かりやすい誤情報ではなく、見た目「ほとんどの人が怪しいとは思わない」体裁になっている。大勢に「いかにもありそうな話だ」と思ってもらえることが重要なのだ。折しも少子化が懸念されている世の中だ。若者の実にこれだけがデートをしたことすらないらしい、とニュースで流してみたら、きっとほとんどの人は調べてみることもなく「そうか。まぁそうなんだろうな~」となる。
③実は情報のコアは「感情」
純粋なニュースとは「いつ・誰が・どこで・どうした」を淡々と述べるものであり、付随する数々の情報(調べによりますと、~氏は……という部分)に関しても、誰が聞いても誤解のない明らかな情報に限り、決して推測や私見を混ぜないもの。
でも、ニュースによってはここにうまく「ニュースに関係ない第三者の意図」が含まれている場合があり、その意図とは「感情」が出どころである。
その第三者の利益になる、と言う場合が多いが、「こうでないといけないしゆるせない・こうあるべき」と人生観・思想的なものが動機となる場合も少なくない。
ここはせっかくスピリチュアルジャンルなので、スピリチュアル(あるいはライトな自己啓発)における「話半分に聞くべき話」を挙げてみよう。
●人は見た目が9割・または話し方が9割
面白い話である。矛盾(ほこたて)と同じで、見た目が9割という本と話し方が9割という本が別で売られており、どっちが本当の9割なんだ? となる。
大学の図書館に、『英語とは、動詞だ!』という本と『英語とは、前置詞だ!』という本が並んでいて苦笑した覚えがある。要するに、その本の著者の人生経験がそう言わせるのだろう。どっちも正しいと言えるが、客観性を重視して見るなら「どちらもその人がそう感じただけ」とも言える。
見た目が9割なわけないでしょ。話し方が9割なわけないでしょ。そんなこと考えたら分かるでしょう!
でも、そのように大げさに言うことで、実体験をもって著者と似た経験をした者は「そう、そうなんだよ!」というカタルシスを得ることになり、そういう人が少なくないからこそ、一定層の人気を博すのである。
●置かれた場所で咲きなさい
筆者は、割と好きな言葉である。ある一面の真実を言い当ててはいるが、真理と言うほどではない。
ブラック企業・ブラックバイトに運悪くめぐり合ってしまった人は、一刻も早く逃げたらいいことは明らかだ。それを「置かれた場所で咲け」は酷だ。
いつ何時でも応用するタイプの言葉ではないことくらい分かるでしょ、と良識ある人は言うかもしれない。でも仮面ライダーの変身ベルトの商品説明に「変身できません」と書かねばならないほどの世の中なのだ。一定数、融通の利かない人というのはいるのだ。
●心地よさを選び取る、自分の好きなこと(だけ)をする
確かに重要なことなんだが、弱い人間が立ち向かうべきことから逃げるための方便として使われることが多い。責任から逃げる自分の正当化のために、隠れ蓑にされるのだ。
●嫌われる勇気
タイトルで誤解する人が多いが、アドラー心理学の言いたいのはそことは全然違う。嫌われてでも自分を大事にする(自分のしたいことをする)ために、嫌われる勇気を持てという話ではないことが、読んでいけば分かる。読んでよかったと思えたら結果オーライなのだろうが、明らかなタイトル詐欺である。
『アドラー心理学入門』『アドラー心理学のススメ』では売れない。アナ雪が流行り自己肯定ということが大勢の心を捉えた今だからこそ、このタイトルにすれば皆注目する! と当時著者(あるいは編集者?)が思ったのだろう。
今挙げたものは、筆者がさっき述べた「話半分に聞くべき情報の特徴」に当てはまっていることが分かるだろうか。
①一見正しいが、落ち着いてよくよく考えたら必ずしもそうでない場合もある。
②発信者の個人的な経験・強烈な感情体験から「そう言いたい」だけのことが、なまじ似たように思う人が多いことから「~は~だ」という断定の域にまでその情報の価値が昇格してしまったりする。
マーフィーの法則や引き寄せの法則などもこれに当たる。
③きちっと調査をしたり統計を取ったわけでもないのに(万民に分かりやすく証明できないのに)、大勢の人が納得しやすいという性質のゆえに、精査されることもなく皆に信じられる。
もちろん、話半分に聞くべき情報をまともに聞いたところで、実害がない場合がほとんどであろう。
ただ、かつて日本が戦争に突き進んだのも、情報というものが大きな役割をはたした結果であることは事実。情報には願望的なものや、こうでないと困る・ウソでも自分にはこっちのほうが都合がいい、という情報が飛び交った結果である。
デート未経験の若者の割合がどうでも、そのデータが多少間違っていても実害はほぼない。でも、同じ構造のことが内容を変えて(しかも割と国民に重大なことで)出てきた時、私たちの鑑定眼が試されるのである。
その時のためにも、今からニュースと向き合ってトレーニングしておくのもいい。
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