秘密をもったまま幸せになる

『SPY×FAMILY』というアニメが面白くて見ている。

 スパイの夫・殺し屋の妻・超能力者の娘。それぞれがそれぞれに秘密と事情を抱えながら、疑似家族となる話。夫は妻と娘の正体を知らず、妻は夫と娘の正体を知らない。唯一、娘だけが心を読む超能力ゆえ両親ともの秘密を知っているが、その「秘密に気付いていない演技をしているという秘密」を守りながら暮らすので、親たちよりも苦労が多い。(笑)



 普通の感覚として、みなさんどうなんだろう。

 たとえば夫婦。生涯の伴侶となる人物とは、隠し事の一切ない、お互いに理解し合えた関係でいることが大事だと思いますか?

 重松清という小説家の作品に『十字架』がある。これは単発の長編TVドラマとして映像化したことがあったように思う。

 学生時代、友人の死に絡んで主人公の男子生徒とある女子生徒が、重大な秘密を胸に秘めていた。その大きすぎる秘密の共有により、必然的に二人の距離は縮まる。

 大人になって、この二人は一度は結婚を考えた。でも、結局二人は一緒にならない選択をした。なぜなら——



●お互いを理解しすぎていたから。



 これは、言葉だけでは意味が分からない人もいるかもしれない。

 お互いを理解していればいるほど、夫婦としては適格なんでないの? うまくやっていけるのでは? と思ってしまうかもしれない。

 筆者の人生にもシンクロする部分があり私はこの感覚よく分かるんだが、絶妙な匙加減ってあるんですよ。そりゃずっとうまくやっていくんだから、一定程度の相手への理解がいるが、ある線以上は「相手のことをよく知らない」部分があったほうが、かえって家族というものはうまくいくのである。

 この小説のラストで、主人公は妻の対応に涙する。本当にありがたい、この人でよかったと。自分の一番大きな部分を占める闇の要素(過去の友人の死にまつわること)を知らないからこそ、そういった相手と一緒にいることが救いになるのだ、と。



 今から筆者の個人的な体験を話すが、ずいぶん昔なことでありかつ私が賢者テラという名前でスピリチュアル活動していることを、ほとんどの過去の知人には知らせていないゆえ、登場人物の個人特定はされないだろうと思うので紹介する。

 私はとある友人(仮にAさんとしよう)の秘密を知ってしまった。彼のシステム手帳に挟まっているメモが落ち、それを拾って書かれてある内容を読んでしまったことがきっかけだ。

 それは、私とAさんとの共通の知人である男女カップル(目下交際中)がいるのだが、そのカップルの男性のほうをBさん、女性のほうをCさんとしようか。CさんとAが実はたびたび「関係」を持っていることが示唆されていたのだ。結婚している相手なら不倫になるが、その手前なんで「二股?」

 もちろん、そんなことBは知らない。知らずに、二人とも誰が見てもうらやむ仲良しカップルに表向きはなっているのだ。

 私は、Bにこのことを告げ口しようとは思わなかった。それは、私がおせっかいやくことじゃない。この三者が自分たちの人生の中で向き合っていくことであり、一時の浅い正義感や義憤で動くことではない、と感じたのだ。結局、私はこの件に関しては放っておいた。

 そのうち、筆者も仕事が変わり周囲の人間関係にも変化が訪れ、A・B・C三人とも会わなくなった。数年後、風の便りにBとCが結婚したことを知った。Aも、別の女性と結婚し、二組ともそれなりに仲睦まじい家庭を築けているらしい。

 そうか。彼らは秘密をもちながらも、それぞれがそれぞれのやり方、向き合い方で今の幸せをつかんだんだなぁ、と思った。



 秘密(特に悪いもの)を持ったままでは、相手と本当の信頼関係を築けない。隠し事などせず、すべてをオープンにしてこそ人間関係(特に家族・夫婦間)はうまくいく——。言葉としては間違っているように思えないだろうが、それは「そりゃそれに越したことはないよね」という程度の話である。別に他人に言えない秘密を胸に秘めたままだって、他者とよい関係を築けるのだ。いや、かえって知らないほうがうまくいくことだってあるほどだ。

 都合の悪いことはいつまでも黙っておいていい、というニュアンスで受け取られては困る。筆者が言いたいのは、あなたが本当に話したい、話せると思ったタイミングが来るまでは、言わないでいることを心苦しく思ったり、「言えない私はダメなんじゃないか」と自分を責めたりしなくていいよ、ということが言いたいのだ。

 そんなことを私に改めて教えてくれたのが、冒頭に紹介した『SPY×FAMILY』というアニメだったのだ。

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