俺たちが分かっていりゃいい
「ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜」という人気ドラマがあった。
原作はマンガで、戸田恵梨香と永野芽郁のダブル主演でドラマ化がなされた。
そのドラマの中で、次のようなエピソードがあった。細部は正確ではないが、おおよそこんな話だったはずだ。
主人公である新人巡査の麻衣は、子どもが犠牲となって死亡してしまった痛ましい交通事故の現場を見て、ショックを受ける。
交通事故の痛ましさを痛感した麻衣は、交通違反の取り締まり業務中、過度に厳しい態度に出てしまう。交通事故など起こすとは思っておらず、緊張感のない違反者は「お巡りさんどうせノルマでしょ? こんなところで張るなんて性格悪いなぁ」「これくらい大目に見てくれよな」と、まるで捕まったことが不運で警官が悪者であるかのように言う彼らに、麻衣はキレる。その怒りの背後にあったのが、まだ未来があったはずの少女の交通事故死があったのは言うまでもない。
「あなたたちは、交通事故の本当の怖さが分かっていない!」という憤り。
そんな麻衣に、あるベテランの交通機動隊員(白バイ)の男性がこう語る。
●おれもずっと交通課やってきたから、気持ちは分からないでもない。
でもな、交通事故の本当の悲惨さや辛さなんてものはな、オレたちが分かっていりゃそれでいいんだよ。この世のみんながみんな、そのなもの分からなくていい。むしろ分からなくて済む人が大勢なほうがいい世の中ってことなんだよ。
職業としての警察官であるオレたちが分かっていて、使命感と誇りをもって事に当たれたらそれで十分だ。皆に分かれ、というのではなく分かっている自分が頑張れたらよしとするんだ。そうしているうちにいつか、そんなお前を見て押し付けでは広がらなかった理解の輪が広がるかもしれない。
上記の言葉はドラマどおりでなく、かなり筆者の解釈や思いが入っていることをお断わりしておく。
筆者は一応、「スピリチュアル」というジャンルに身を置き、活動している者である。似たものに「宗教」「自己啓発」があるが、どれにも共通しているのはその内容を「よかれと思って他人にも広めよう」としているところにある。基本は「世界を良くしたい」「皆が幸せになるように」という趣旨であるが、現実的には宗教なら信者獲得であるし、スピリチュアルや自己啓発ならそれに興味を持つ人を増やすことで、その指導者が儲けて生活が成り立ち、業界がにぎわうことがその目的である。
陰謀論系のものなどは極端であるが、「これを知ってないとマズイ」「そんな意識の低いことでは今に大変なことになる」「あなたはこの愛の時代に、愛なきことで時代から取り残される」など、少々脅し系の文言が躍るようなスピリチュアルもある。そのように警告するスピリチュアルは、暗に「みんな分かっちゃないけど、私たちには真実が分かっている」という驕りが見え隠れする。
筆者は、先に紹介したドラマを見ながら思った。本当にその通りで、この考え方は他のことにも通じるな、と。スピリチュアルという世界でも一緒だ。
●とりあえず、他者に要求するのをやめろ。
あなたが分かっておればそれでいいではないか。
たとえ善意でも、あなたから他人に分からせようとしたりするな。自分は分かってるが周囲は理解がないなんて考え方を放棄することだ。
北風と太陽の話を思い出せ。あれ、どっちが勝った? 内容の素晴らしさを盾に「これを分かれ。さもないと——」とビュービュー吹き付けて力押ししたほうか? それとも、強制もせずただサンサンと照ったほうか?
今の時代、皆ギャーギャー自己主張しすぎて「背中で語れる」人間が少なくなった。他者を変えようとするベクトルにエネルギーを注ぐよりは、自らの命のもつ使命を誇りとし、今を充実して生きる中に自然と周囲が感化されていく。そんな風に無理なく世界が変化していくのがよいと思うのだ。
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