Q&Aのコーナー第八十三回「死を恐れないのが強いのではなく死を忘れるのが最強」

Q.


 最近、加齢のせいだけではなく死を意識せざるを得ない出来事が自分を襲ったこともあり、以前にもまして「死」について考えるようになりました。

 テラさんは先日のメッセージで「死んだ後のことなんて分からない」という趣旨のことを言われていましたが、それでもテラさんが死について色々語るのを聞きたいです。どうかよろしくお願いいたします。



A.


 世の中には確かに、いろいろと知識を仕入れることで対処が楽になるし上手になることというのはあります。でも、「死」というものに関してはそれが当てはまりません。あなたの望み通り私が死について語っても、それは何もあなたのためにならないどころか、かえって毒となる可能性すらあります。

 一番いいのは、まだ来ていない死のことを意識するヒマとエネルギーが勿体ないほどに、今生きることが楽しい(あるいは充実している)という状態になることです。逆説的ですが、死について考えないほど良い死を迎えられるのです。



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 筆者はここでズバズバものを言っているので、そこからするとちょっと冷たくて怖い印象を持つかもしれない。でも、自分で言うのもなんだが、結構温かみのある人間であると思っている。

 そんな私だから、この質問者のご要望通りに「死について私が語れるかぎりのこと」を語ってあげようか、という誘惑に一瞬駆られた。でも、やはりこの方にそうするのは短期的には喜ばれて私は感謝されるが、長い目で見るとその人のためにならずかえって成長を止めると分かっていたので、嫌われることを承知であえて語らないことにした。

 その代わりと言っちゃなんだが、「筆者はなぜ要望通りにできないのか」「じゃあ質問者が問題とすべきは何で、これからどうしたらいいのか」について書いてみる。



 世に「禅問答」というものがある。

 そのしっかりした定義はここでは述べない。ただ、その禅問答というものがもつひとつの特徴に、「逆説的」という点が挙げられる。

 世の平均的大多数が、普通はこういう見方、という「物事の判断の基準・切り口」というものを持っている。ものを見る視点、大げさには世界観と言ってもいい。

 禅問答というのは、悟りをまだ得ていない者が「この問いの答えはこうだろう」と予測していたところが、マスター(悟りを得た師匠)からまったく意表を突かれた答えが返ってきてビックリして、そのビックリが強烈であればあるほどに「なるほど、そうか!」というアハ体験(パラダイム・シフト)が起きる。

 前から攻撃が来ると思って盾を構えていたのに、予想していなかった無防備な背後から攻撃されたようなものである。

 全部が全部というわけではないが、人を驚かせる意外性のある話ってだいたいが「逆張り」。こうだという常識の反対のケースが多い。頭の悪い人はそのパターンの部分だけを見て「なんでもかんでも逆張りをしておけばいい(深く考えずなんでも反対のことを言っておく)」と考えてしまうが、それは浅はかだ。



 実は今回の「死が身近になって怖くなった人に、その恐怖を軽減してあげるために死について情報を与えてあげる」というのは、このケースにあてはまる。

 逆になるのだ。死についての情報を欲しがっている人にはいそうですか、と与えるのはよくない。むしろ、与えないほうがいいというのが今回の結論だ。

 親なら誰しも、子どもに良いものを与えてあげたい、幸せになってほしいと思うはずだ。でもだからといって、どんな場合でも単純に与えまくるだろうか?

 例えば、子どもがあまりにも場をわきまえず自分勝手にしてほしいことを要求するとする。一昔前、デパートのおもちゃ売り場とかで床にひっくり返って「買って買って~」とバタバタし、買ってくれるまでそこを動かない、というアレ。

 そこで親が甘やかして要求通りにしてしまった場合、この子は間違ったことを学習して味を占めてしまう、と危惧した場合。子どもがキライとか不幸になれとかそういうのでなく、「子のためを思って」あえて望み通りにしない、という選択が躾というか教育の一環としてある。

 つまり——



●その人の望み通りにすることが良いケースというのは、それを与えることで相手がそれを有効活用できる力が備わっており、間違いは起きないという信頼性がある場合。逆に、望み通りにすることが良くないケースというのは、与えても本人にそれを使いこなせるだけの力量と成熟した視点がないので、かえって害になる場合である。

 子どもに猟銃や日本刀を手渡すようなものである。



 筆者は、何も死について語れないというわけではない。語ろうと思えばなんぼでも語れる。あと、ケチだからとかもったいぶってるとかでもない。

 でも、それはこの質問者さんのためにならないから言わないのである。

 確かに、例えば目標が「試験合格」とか「スポーツで勝つ」とかいう目に見えて把握しやすい願いであれば、その目標を定めるとおのずと「それを実現するためにどんな準備が必要で、どういう手順を踏まねばならないか」という筋道が見えてくる。あとは、愚直にそれを進めていくだけ。

 だが、スピリチュアルな覚醒(悟り)とか、死について怖がらなくていいように理解を深めたいとかいう目に見えず捉えどころのない目標は、「こうしたければこうすればいい」というような筋道が見えてこない。そういうものは——



●追えば追うほど逃げる。

 だが追うのをやめ、他のことに意識がむいたとたんに「あれ、追うのをやめたの?」と向こうからその姿を現してくれることもある。

「求めない」ことで得られる、というまさに禅問答(逆説理論)。仏教的には、執着を捨てることでかえってもっと大事なものを得る、という話につながる。



 死の影におびえる人にいっぱい死の話をしてあげるのは、「ヤクをちょうだいっ!」と言っている人物に望み通り与えるようなものである。そりゃ相手は喜ぶが、麻薬依存から抜け出せないという長期的視点での不幸が待っている。その時だけ気持ち良ければいい、という話ではないだろう。

 筆者としては、「死についての知識が増えるほど理論武装できて死が怖くなくなる」というイメージは持たないことをオススメする。むしろ知らないほうがいい。

 死の宣告を受けたある人が、どうせ死ぬなら、と自分のお笑い好きを生かして老人ホームや養護施設、はては刑務所までボランティアで慰問して回り、芸を披露した。

 それが喜ばれ、気を良くして熱心に活動をしているうちに、持って何年と言われたその期間をゆうにすぎてしまい、医者がびっくりした。しかも、悪性腫瘍が消えていたのだという。

 もしもこの人物が、ああ私はあと一年で死ぬんだ、死ぬんだ……そんなことがしょっちゅう意識にのぼるのをゆるしておいてごらんなさいな。あなたは望み通り死ねることでしょう!

 ここで大事なのは、「死なずに済んだ」「病気が治るという奇跡が起きた」という部分ではない。そこに注目するのは、幼い魂である。



●死を免れたことよりもむしろ、今ここに生きることでまだ来ていない幻想としての「死」に支配されなかったこと。



 こここそが大事なのだ。死について色々知っているよりもむしろ、死について考えなくていい状況があることが最強なのだ。

『君の膵臓をたべたい』というヒット小説がある。その人気のゆえにアニメ化、実写映画化まで果たした。

 この作品に登場する山内桜良やまうちさくらという女子高生は、膵臓の病気のため余命宣告を受けている。この少女と知り合った主人公の少年・ぼくは余命宣告を受けて怖くないのか、みたいなことを聞く。すると桜良の答えは次のような趣旨のものだった。



●あなたは余命宣告を受けてないかもしれないけど、もしかしたら明日、ビルの上から鉄骨が落ちて来て当たって死ぬかもしれない。みんなそんなこと考えないで生きてるけど、可能性としてはゼロではないでしょ? だから、今この瞬間生きていて、明日からのことは分からないという点で君も私も同じだと思うの。



 これはすごい言葉である。悟り級の境地である。

 強がりでなく、この言葉が心の底から言えるのなら、この少女の魂の旅の進み方は他の千人万人の大人に勝る。

 筆者がさらに(小説の中の話とはいえ)感心したのは、アメリカの映画でよくある『余命宣告されたのでこの機会にとナイアガラの滝を見に行ったり、世界遺産を訪れたり、スカイダイビングをしてみたり』と余生をエンジョイするような特別なことはせず、死を宣告された者の生活とは思えないほど桜良の日常は「超普段通り」なこと。その落ち着きにも、筆者は舌を巻いた。フィクションだけど、この桜良はそうとう成熟したスピリチュアルティの持ち主だ、と。



 今回、筆者が質問者さんに期待するのは、この方向性なのだ。

 死が怖いので死についての情報を仕入れて恐怖を軽減しよう、相手の正体を知ることで適切な対策を立てよう、というアプローチはダメ。むしろ追えば追うほど死に囚われてしまうだろう。心に弱さがあればなおさらである。

 むしろ、今を充実させること。死を「あ、忘れちゃってたぁ」と言えるほどに、今エネルギーを注げる何かを持っていること。そのことのほうが、私から死の話を聞くよりもはるかに役立つことである。

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