自分の世界では気持ちよく

 Silent Siren(サイレントサイレン)というガールズユニットがある。

 略してサイサイ。私は世代がおっさんだから、連想されるのはお茶の子さいさい……すまぬ。

 このバンド、すでに結成後11年にもなり、つい最近活動中止が報じられた。こういうガールズバンドが次々なくなっていくのも、時代の流れか。



 8年ほど前のことだろうか。筆者がパソコンに向かって仕事をしている最中、BGMとして流していたテレビの音楽番組から、このユニットの『チェリボム』という歌が流れていた。

 曲名やユニット名は後になってから知ったもので、無意識的に耳にしていた時にはユニット名も、その歌のタイトルも知らなかった。

 ただ、何か若いねーちゃんが歌ってるな……程度の認識だった。

 この歌のサビの部分なんであるが——


 

●cherry cherry bomb!



 ……というのが正確な歌詞なわけだが、まったくそういうことを知らない上にたいして興味もない私は、まさに自分の世界観にひきつけて聴きたいように聴いていた。



●ヘイヘイホー



 大御所・北島三郎御大の、あの名曲「与作」の歌詞の一部「ヘイヘイホー」 にしか聴こえなかった。私にはどう聴いてもそう聴こえるので、「まさか若い子たちがヘイヘイホーを歌詞にはせんやろ」とは思ったものの、それ以上追及するのも面倒だった私は、自分の世界でこの歌詞は「ヘイヘイホー」ということに決めておいた。



 しかし、後日夫婦の会話の中でたまたま私はその話を奥様にした。

「ヘイヘイホー、って聴こえる歌あるよね、時々テレビで鳴ってたけど」

 私が何を言いたいのかを察した奥様は、非情な一言を言い放った。



『あんたアホや』



 すんまそん。テキトーな男で……

 反省します、ハイ。これから人前ではサイレントサイレンの「チェリボム」で、サビは「cherry cherry bomb」だと間違えず言いますとも!



 私の思い込みを正された後でも、やっぱり学習したことというのは怖い。

 あれから何度も意地になって聴いてみた。

 確かに、勝手にどこかで鳴っているという聴き方でなく、意識を向けて歌詞も知って聴いてみたら、「ヘイヘイホーではない」ことは認める。

 でもやはり私の中では「ヘイヘイホー」なのだ。そこは譲れない。

 その昔、長嶋監督が選手引退の時に「我が巨人軍は永遠に不滅です!」と言ったが同じ気持ちだ。(笑) 筆者の中で、ヘイヘイホーは永遠に不滅です!

 だいたひかるの「私だけ?」ではないが、40代以降の人間でこの歌を聴いて「ヘイヘイホー」だと聴こえた人は絶対にいるはずだ!(え、いない?)



 私たちは、個々の人生で見聞きし、その中で「強烈にこれだ、と思ったこと」に関しては、その後も残り続け、似たような体験をするたびに呼び覚まされる。

 それに無理に逆らおうとすると、余計な苦痛が生じる。

 もちろん、あなたを不幸にするような負の「思い込み」は危険だ。

 でも、他人にそうそう迷惑のかからない範囲で、あくまでもあなたの個人的な世界を彩る概念や空想を好きなようにするのは、構わないはずだ。

 もちろん、街中や人が大勢いる場所で、チェリボムの歌詞を「ヘイヘイホー」と大声で歌えば大迷惑になる。だから私は、誰もいない部屋で、誰も聴いてない環境であることを確認して口ずさんでいる。「ヘイヘイホー」と。



 スピリチュアルの世界に身を置いていると、「思い込みを外せ」「ただの解釈であることに気付け」とか言うことが多いが、それに疲れたらバランンスを取るためにも、やって大丈夫な(無害な・ちょっと愉快な)思い込みは残しておこう。ふざけて生かしておこう。

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