スピリチュアルに潜む甘い話

 筆者の奥さんは、ラジオを聴くのが好きである。

 うちではTVをさほど見ない代わりに、居間でラジオを聴いていることが多い。

 でも最近、奥さんはラジオを聴いている最中、ちょっと変わった行動を取ることが増えた。それは何かと聞いたなら……ベンベン。



●スピードラーニングのCMになったら、局を変えるかいったん消すかする。



 ことの始まりは、スピードラーニングに興味を持った奥さんが、無料のお試しCDを取り寄せたこと。

 筆者はそれに一切興味がなく、奥さんが独自の判断でやったことで、私は奥さんがこの件でブツブツ文句を言うまでそんなことをしていたのを知らなかった。

 奥さんのまずひとつめのつまづきは、「こんなもん聴き続けたからって、英語がマスターできるわけねぇべ?」と結論付けたこと。一方で筆者は「これで英語ができるようになる人は絶対にいない」とまでは思わない。ただ、宣伝しているほどだとも思わない。

 本当に、一か月間以上同じCDを何度も聞き続けたら、人によっては効果はあるのかもしれない……が、一番のネックは「飽きること」。

 話の内容が度々変わるならちょっとは興味も持続するが、CDでまったく同じ英会話を繰り返し繰り返し聴き続けるのは、ヒアリング力が付くのだろうが人間「つまらないことには弱い」ので、挫折する人は続出するだろうと思われる。

 奥さんは、無料CDを試した結果、こりゃ無理だと思ったようだ。

 石川遼選手は、本当にこの教材だけで英語がペラペラになったのか、疑問である。



 そして、奥さんが何より怒ったのは、売る側のやり方である。

 もちろん、よく調べないほうも悪いが、最初にやってくる初回セットは、1巻と2巻の中に無料視聴用のCDが同梱されてくる。試聴出来るのはあくまでも試聴用のCDだけなので,1巻と2巻そのどちらかを開封してしまうと返品出来ない。買い取りになる。

 なお、返品する場合送料は購入者持ちという残酷さ!

 奥さんは、無料お試しCDが送られてきますよ、という言葉の大体の雰囲気で考えていたので、何気なく1巻を開封してしまった! 無料試聴用のCDだけ送ってくれれば、そんな失敗をしなくてもいいのに……

 こういうのは商売上手と言っていいのか、卑怯というのか自己責任につけこんでいるというか。



 お試し期間は10日だけである。

 それだけでは、本当にこの教材を根気よくやり続けるだけで英語が話せるようになるのか判断できる材料としては、はっきり言って弱い。だから、申し込む人はたいてい「これでできるようになるかも!」と夢見て、テンションをアゲアゲにして勢いで申し込むんじゃないか。

 で、ガチで一年間この教材に取り組んだ人(決して最初から批判前提で揚げ足取りな人ではない)のリポートによると——



●なんとなく英語が聞き取れるようになってきた気もするけど、前からこのぐらいは聞き取れていたような気もする! とにかく、大きな変化は感じなかったということだけはハッキリ言える。



 先ほども触れたが、同じCDを何度も聴くシステムなので、数回目以降は「苦行」になる。

 聞き流すだけでOK、という宣伝文句は話半分に聞いた方がいい。

 額面通り信じてやるのは、バカである。やっぱり、自分で単語を調べて暗記しなさい。でないと、本当に何十万も払って「英語を沢山聴き続けただけ」になる。

 とりあえず、個人差があることは認めつつも、一般多数向けに言えるだろうこと。



①1年程度では、英語を聴いて瞬時に理解できる力はつかない。

②音読して発音練習もしないと、上達しない。甘えるな!

③英語は使ってこそ覚えるもの。ヒアリングだけでなく書き取りも発音もオールラウンドにやらないとダメ! 子どもの成長に勉強も運動も遊びもバランスよく必要なのと同じ。



 教材自体は、悪くはない。取り組めば、それなりに一定の効果が上がるだろう。

 ただし、宣伝文句通りに「聞き流すだけでOK」を信じて本当にそれだけをやっていると、かなりの確率で泣きを見る。教材はこれを使い、なおかつ辞書で単語を引き意味を調べ、イデオムや構文も頭に叩きこみ、何度も音読してみる。そうやってはじめて、教材の代金分のもとは取れるだろう。

 多少英語の聞き取り力はつく(たとえば映画の字幕を見ないでもある程度意味が取れる)と思うが、「英語がマスターできる」というのは誇張だと思う。

 


 実は、スピードラーニング側のスタッフさえも、聞き流すだけで英会話が出来るなんて本気で思ってないらしいのだ。サポートセンターなどに電話して話を聞いてみても、「リピーティングやシャドーイングなどの音読を行なってください」というアドバイスが返ってきたそうな。

「聞き流すだけじゃ語学は身につかない」と思っている人たちが 「聞き流すだけでOK」という宣伝をして教材を日夜販売し続けている……なんという矛盾か。

 いったい、いつまで続くことやら。

 スピードラーニングの宣伝はしつこくて、あるラジオ局で流れてきたので奥さんがムキになってチャンネル変えたら、その変えた先でもスピードラーニングの宣伝をやっていたので、相当イライラしていた。(笑)

 当分、この教材はうちの奥さんに恨まれることになりそうだ。



 こういったこと何も、英語の教材だけではないから、用心されたし。

 スピリチュアル業界でも、このスピードラーニングもどきはある。

 たとえばあなたが、覚者やスピリチュアルメッセンジャーの主催するセミナーや講演会に行くとしよう。

 


●参加しただけでは、聞いただけでは何にもなっていない。



 もちろん、参加していい話が聞けたら、何か高揚感はあるし、何か自分の中で変わった気はする。でも、それで満足していたら、すぐにその余韻は消える。人から聞いた話は、あなたの実生活や考え方に落としこんで実行してこそ、力になる。

 あと、精神ステージの高い人(悟った人)のそばにいるだけで、会話するだけで意味がある(波動を受けるから)というバカくさい宣伝文句は信じないことをオススメする。そんなんで楽に何かを得ようとするあなたの性根が腐っている。



 有料の動画配信なども、聴くだけではほぼ何も変わらない。もちろん、相手の言葉によりあなたの中に「気付き」が引き起こされ、ガーンと何か開けたようになる現象は、確かに起きる。でも、それを針小棒大に「悟った」とか「私は生まれ変わった」とか勘違いしないほうがいい。

 半分以上のケースで、ただ「数学の公式に気付いただけ」だと思うがいい。公式を知って、さらに代数をブチ込んで自分で実際に計算してこそ、公式が本当に生きて働くことが実感として分かる。

 公式を覚えてただそのままにしておいたら、何の役にも立たないことは分かるだろう? スピリチュアルのやっかいなのは、数学の公式ならただ覚えただけで使わないと役に立たないというのは分かりやすいが、メッセージを聞くとそこには「感動」とか「意味が理解できたことの納得から来る爽快感」みたいな、ありがた迷惑な副産物が生じるので、それを「成果」とすり替えてしまい、その人の中でその探求が終わりになってしまう場合があることだ。



 スピリチュアルが提供するライブ・セミナー・講演会・動画配信・DVDその他、スピードラーニングと基本的に同じものだと思ったほうがいい。

 聞き流すだけで、何か分かったり益になると考えるのは甘い。聞いたことは、あくまでも聞いたことにすぎない。それ自体が何か、あなたの精神性を高めたというのは申し訳ないが勘違いである。

 聞くこと。その上で、あなたの世界観 (土俵)に置き換え、あなたなりの人生の中で「再現性」を実現できること。そこまでしてやっと、あなたにスピリチュアルな情報を聞いたことの意味が生まれる。



 セミナーの中で、講師の指導のもと「ワーク」と呼ばれるものを参加者が行うことがあるが、それだけで実践した気になるのはどうか?

 あれは、目的や理念・信念を同じくするいわば「仲間同士」が集う。要は「内輪の集まり」。そんなところで何か取り組んでも、見た目うまくいくに決まっている。

 皆さんは、何のためにそういうものに参加するの?

 スピリチュアル話が通用しない社会や人間関係に触れている、圧倒的に多い時間を乗り切るために、より良く生きるためにじゃないか? そこに通用する訓練とは、守られた、あなたの話を理解してくれる環境で何かすることではなく、あなたを理解しない人たちと一緒にいてこそ、鍛えられる。



●究極のスピリチュアルセミナーとは——

 そんなもの誰も知らない、理解しない(むしろ胡散臭いと思っている)人たちの中で暮らし続けることである。その中で一定の信頼を勝ち取ることである。

 そのほうがよっぽど人格向上の訓練になる。



 スピバカ人間が量産されてしまうわけは、そういうお話が存分にできるビニールハウスのような楽な環境に生き続けるからである。日常で苦しんで、たまの休みにそこへ出かけて息継ぎをして元気になって——って、何のためにやっとんのか?



 スピリチュアルにおいても

 英語学習においても

 うまい話などない

 楽して得する話などない

 お金を積めばより楽にスムーズに学べるとかない

 提供される情報そのものに価値はない

 ただ、あなたがどのように料理するかである

 それによって、払ったお金だけの価値が生まれるか、死に金になるかが決まる 

 あなたの覚悟次第である



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※この記事は、5年ほど前に書かれた記事です。

 スピードラーニングの無料お試し制度は、もしかしたら現在当時とは変わっているかもしれません。その点をご了承ください。

 今現在の制度を調べた上で書き直しをするほうがよりよいのかもしれませんが、興味もない上に好きでないもののことを調べる労力と時間がもったいないので、あえて書いた当時のまま本書に収録します。

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