フェアプレイ精神
あなたが、これから水泳の競争を始めるタイミングだったとする。
6人ほどが同時に競うので、第6のコースまでプールが仕切られている。
用意、ドン! の合図で、一斉にコースに飛び込み、タイムを競うのである。
しかし。普通あり得ないことだが——(たとえ話として聞いてください)
あなたのコース上の水面に、無視できない「ゴミ(障害物)」 が浮いていたとする。それを発見したあなたは、審判(競技を監督する者)に言うだろう。
「ちょっと待ってください! 私のコース上に、ヘンなものが浮いてます! これでは、気になってベストなタイムを出せませんので、取り除く時間をください!」
必死に、そのように訴えないだろうか。
あなたは、その時なぜ必死になるのか。
『自分の』コースだからである。自分の損得、成功と失敗に関わるからである。
人は、自分と自分に深く関わってくるものはかわいい。守り、大事にする。だからこそ、それこそムキになって障害を取り除く。
しかし、仮にあなたがど真ん中の第3のコースだったとして、一番はじの他人のコース上に、同じようなゴミが浮いていたら?
あなたは、自分のコースにそれがあった時の情熱そのもので、競技進行を止めてまで訴えるだろうか?「自己責任」という言葉が深層意識にあって、「ほんとに邪魔だったら本人が訴えるはずだ。何も言わないなら、問題がないということだろうから他人である私が何か言う義理はない」として、競技審判が「よーい、ドン!」と言うなら、ただそれに従えばいい——。
むしろ、競争相手のコース上に生じた障害が「自分のレースを有利に進めるもの」として、無意識下で歓迎さえするかもしれない。
今、地球上での人類のゲームはいわば——
●人間の数だけコースが存在する、水泳競技
そのように言うことができる。
基本的に皆、自分のコースに取り組むのに手いっぱいであり、他人のそれに構う余裕は、自分のに注げるほどにはない。特に現代は、資本主義という名の成果主義・競争原理ができあがってしまったので、「勝つこと」「他より優れたタイムを叩きだすこと」に主眼が置かれ、他人を助けるどころか場合によっては「相手のコースに障害でも生じて、遅れてくれればこちらに有利」として、そういうことを願いさえするかもしれない。
でも、今気付く人は気付く時代である。
「自分のコースばかりに気にし、他人のコースはどうでもよく、むしろ悪ければ自分が有利になる」という考え方でさんざんやってきて、数千年あまりの繰り返しによる検証の結果「それではどうもかえって全体がおかしなことになり、結果それも自分に返ってくる」ということに。
皆もうこりてきたのである。そこで今、時代的に求められているのは何か。
●フェアプレイの精神。
自分のプレイが一番大事だが、同じ程度に他人も大事だと思える気持ち。
先ほどの、水泳競技のたとえに戻ろう。
あなた自身のコースに問題はないが、別のコースに無視できない大きさのゴミが浮いているのを見つけた時。確かに、そのまま試合が開始されても、自分は問題ない。
問題のコースの競技者も、気付いていないのか声を上げないようだ。教えてあげないとこのまま試合が始まってしまいそうだ。でも、あなたは自分に問う。
●このまま勝ったとして、本当にうれしいだろうか?
それで、本当に勝ったことになるだろうか?
そう思ったあなたは、自分のコースに関係なくても審判に指摘をする。
やっぱり、勝つなら皆同じ条件でないと、本当に勝った気にならない。
勝つ要因は、あくまで純粋な実力差であってくれないと、喜べない。それ以外の要因のせいで勝敗が左右されても、それはニセモノの勝利。
フェアプレイで勝ち取ったものでないと、この世で「差」など認めたくない——。
そのように思えるかどうか、自身に問うてみるとよい。
この二元性世界で、人間目線からの意味での「平等」など存在しない。
そんなもの幻想であり、それを無理やり何とかしようとすると、ひずみが生じる。
社会主義思想、あるい新興宗教における限られたコミュニティ内での「徹底的な平等」を目指す試みは、ことごとく失敗している。筆者なら、そういうのを「悪魔の平等」と呼ぶ。
実現不可能なものを、さもそれが実現可能でありかつ素晴らしい理想であるように人に思わせる危険があるからである。そして、一度その理想が脳内にインプットされて根付けば、その高尚な目的のために、多少の「残酷な行為」が可能になってしまう。そういう行為への敷居が低くなる。オウムの事件などがそうだ。
そうやって人類は、最初は素晴らしい理想から物事を開始して、次第に歪んでいくという結果を何度も体験してきた。(十字軍、日本での学生運動)
基本、平等はない。
地球に生まれたこと。そして地球のどこに生まれたか。
男か女か。健康か、その方面でハンデをもって生まれてきたか。
どんな親のもとで生まれたか。経済状態はどうか。愛ある家庭かどうか……
そんなこと、平等じゃないからといって何とかできることではない部分もある。
何とかできないのは、生まれつきのものや出生時の状況。
でも、何とかできる部分もある。
経済状況なら、何とかするのは不可能ではない。家庭や親に問題があるなら、手を差し伸べて愛のモデルを示すことはできる。最終的には本人次第な面があるが。
とにかく、現代において人に願われているのは『フェアプレイ精神』である。
●この世界は、ゲーム世界である。
だから、競争や成果を出すという差異を否定したら、生きる意味がない。
ただ、同じ差が出るにしても、それはフェアプレイで出た差であってほしい、という願いが大事。
他者のコースに、本人の責任とは関係のない障害があるなら、そのままいけば例え勝つ試合であっても、試合を止める。そして、みんなでフェアな勝負が開始できるまで、協力して取り除く作業をする。
その選択に目覚める者が増えることが、新たな時代の幕開けとなる。
これからの時代、そういう時代状況が絶対実現するとかいう無責任は言えない。我々次第であるし、「すべてのことは決まっている」としても、我々にはその先の内容までは感知できない。分からないなら、この世次元ではとにかく打てる手は打って、良いことが起きる可能性を高め続けるしかない。
もちろん、自分のことがちゃんとできていないで、他人を構うなど難しいというのはその通りな部分もある。だけど、「フェアプレイ精神」を持つことは、必ずしも「しっかりした、他人のことに口を出す資格のあるできた人間」にしかできないことではない。
試合環境を整えたい、という願いは、自分の人生の成功や幸せさ加減などといった現状によらず抱くことが可能で、何とかすることが可能だ。
今の時代の物事の展開スピードだと——
「自分がまずちゃんとしてから他人」という意識でいたら遅すぎる。手遅れになる場合もある。(いったい、いつやるんですか? と問いたい)
だから、優先順位として「この世界をできるだけ大勢にとって居心地よくする」ことを意識する。そのために、自分が役割としてできることは何だろう? と先に考える方が、自分の幸せをまず考えるよりも有効な場合がある。
最近のスピリチュル的発想の傾向である「まず自分の幸せが先」も、一歩間違えれば自らを生かし全体を顧みないということが起こり得る。「自分の幸せが他人の幸せにつながる」は一理あるが、一事が万事その感覚もまずい。時には、「自分のこと以上に他人のこと」も大事だ。
今の自分を大事にするという論調のスピリチュアルがウケすぎて、「自己犠牲」が悪者にされすぎてきている。もちろん、今までの歴史でそれが美徳にされ過ぎてきたのは確かであり問題だったから、仕方のない部分もある。ただそうにしても、反動が凄すぎる。
場合によっちゃ、「自分よりも他人」もいいものだし、時には必要なんだよ。
もちろん、視点を変えれば「それだって自分の願い通りにすること=自分を大事にすること」なんだよね。だから、この問題でつまずくのは、物事を立体的に見れない人、一面的平面的にしか物事を認識、検証できない人である。そういう人の単純な脳内では——
●自分にとって都合の良いこと、気持ちよいこと = 自分を幸せにすること
自分が苦を背負うこと、損をすること = 自分を犠牲にすること・避けたいこと
……となっていて、とにかくその人個人の願望や心地よさ(悪口的に言えば快楽)に関わることしかアタマにない。
表面的に自己犠牲に見える現象でも、本人がそうしたいからしている、のでそれは究極には自己犠牲ではない、という視点が必要である。マザー・テレサなどがそれに当てはまるだろう。
その視点を欠くと、「自分を大事にする」というスピリチュアルの理屈を自分の都合にだけ利用する浅い人になる。イヤなこと、辛いこと(だけどその人のためには必要なこと)を避ける口実を与えることになる。
筆者は、今の自分が他人様の幸せを考えてやれるほど自分の現状の生活が安定してるわけではない。むしろ、何とかしたいし、手も貸していただきたいくらい。
でも、だからといって筆者は人気取りや収入アップにつなげるような露骨な行動を取らない。なぜなら、自分のスピリチュアルな取り組みにおいて、どんなに切羽詰まろうが『フェアプレイ』をしていたいからだ。
なりふりかまわずやる、ということもしたくない。そして、人に受け入れてもらうために今まで言ってきたことを撤回するとか論調を変えるとかいうこともしたくない。決して、貧乏には屈さない。
この世界には「決まっていてどうしようもない要素」って少なくはないけど、でも一人でも多くの人がフェアプレイ精神をもって協力すれば「何とかなりそう」な部分もある。
あなたの参戦表明を、心待ちにしている!
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