覚醒と肉体との関係

 以前、本書の中で『悟後ごごの修行』という話題について触れたことがある。

 平たく言うと、悟った後にも色々と学ぶべきことはあり、成長はあるのか? という話題である。

 多くのそれ系の発信では「必要だ」と考える。一方で筆者は過去に「そんなものは要らない」という考えを発信した。

 でも、今になってもうちょっときちんと言う必要があるな、と感じた。



 人の話を聞く上で大事なのは「相手がどんな立場でしゃべっているのか、どこに論点があるのか」である。私はかつて「悟り」というものに力点を置いてしゃべっていた。人間肉体サイドの視点からの話ではなかった。

 ゆえに、その観点からは「修行など要らない」という話になる。



●悟りは悟りであり、浅いも深いもない。(勘違いは除く)

 それ自体はそのままで完全であるので、それがある時点で不十分だとか、まだ分かっていない部分がある、などということはない。そういう意味で、悟りを深めるための「悟後の努力」は必要ない、と言った。



 おそらくだが、皆さんが「悟後の修行」と呼んでいるのは「悟り」に関係する部分ではない。『悟っても、依然として残っていて縁が切れない人間としての部分』のためのものである。

 悟っても、精神的スーパーマンみたいになったり、個人としての性格が変わったり、欠点がなおるなどということはインスタントには起きない。過去の感情体験のすべてについて、記憶喪失にもならない。生活上の課題は相変わらず残っている。

 そういう部分での、当たり前の「人生常に勉強」という部分である。



 悟りを、たとえば「高級な包丁」だと考えてもらったらいい。

 包丁に触ったことのない者や、料理下手な人間が所持してもその価値は発揮されない。どこかの名人の鍛冶屋が作ったような百万単位の包丁の、その道具としの素晴らしさを十二分に引き出すことができるのは、しっかりした技術をもったプロの料理人のみである。

 この場合道具がすでに立派なので、包丁をもっと良いものに変えないといけないとか、手を加えないといけないということはない。扱う人間側にこそ、扱いきるための訓練と努力が要る。

 だから、「悟りはそれ自体が完璧なので、それが浅いとか深いとかいう話はない。よって、悟り自体をもっと深めるという話はない」ということ。

 むしろ「悟りを深める」のではなく「悟りを得た人が、それを所持し安置している自分という台座を鍛える」のである。そうしたら、あなたという人間の質が深まることで、悟りという高級包丁を使ってより素晴らしいものを生みだしていけるようになるだろう。

 しかし、その悟りという包丁を用いるのにあなたがあまりにも語彙がなかったり、人生経験が不足していたら、あなたはそれで指を切ったりする。せっかく食材を切っても不揃いになったり、「キャベツの100切り」くらいになったりする。

 ちなみに、今回の議論では「みんなすでに悟っている」 という論点は無視する。これは議論する着眼点が大幅にズレるので、今日言いたいことをボヤかさないためにも、「悟った・悟ってない」があるとして考えている。



 悟りは完璧なので、それをさらに良いものにしようとする行為など無意味。

 ただ、それを持つ側の人間の資質やたどり着いた思いの境地(それは悟りとは別) によって、悟り人同士でもアウトプットに差が出る。その現象を見て、人々は「悟りにもレベルがある」と勘違いする。そうではない。器としての人間側の差が現れているだけである。



●悟りに深い浅いなどのレベルはない。

 悟っているか、悟っていないかの差があるのみ。

 レベルがあるように見えるのは、人間側の個性というフィルターを通すせい。あとは「悟ったという勘違い」という要素がもうひとつ事態をややこしくしている。



 今日も筆者は色んな文献を読むだろう。映画も見るだろう。人から学ぶだろう。

 でもそれは、悟りの深化のためなどではなく、私という人間の今をより豊かにするため。そしてそれは生まれてからずっとやってきたこと。それは悟った前でも後でも何ら変わらない。

 一元では絶対な「悟り」すら、二元性という膜を通ってこの世界で認識される時には、二元になる。肉体を持って「悟り」を語る者は皆、「二元性印の悟り」の域を出ない。

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