世界ははき違えと勇み足で満ちている

 前回、『疑似科学に騙されないで』という記事を書いた。

 もちろんそれは、読者側が「これはおかしいぞ」と気付けたからこそ他を調べてこれは疑似科学だ気を付けよう、となったのだ。気付けない人なら「へぇ~そうなんだ」と信じてしまう可能性大だ。その人が信じるだけなら被害者は一人で済むが、その内容に感銘を受けたら「ねぇねぇ、こないだこういう情報を聞いたんだけどさ……ホントらしいよ」と他人に話してしまうかもしれない。

 聞いた人が「それって確かなの? 情報の出所は?」と聞いてきたら、「確か脳科学ではこういう話がある、って書いてあったから科学的なんじゃないかな?」と言ってしまえるのだろう。

 今回のことで、こういう科学を装って自身の正しさを売り込んでくる自己啓発ビジネスのたぐいは、本当に始末に負えないと思った。スピリチュアル業界にだって、似たような事例がないとも言えない。



 ちなみに、因果関係と相関関係の違い、あなたは分かりますか?



【因果関係】


 2つ以上のものの間に原因と結果の関係があると言い切れる関係


【相関関係】


 関わり合いのある2つ以上のものの間に、一方が変化すれば他方も変化することが観察される関係



 因果関係は、例えば今目の前のコップをあなたが倒したので、中の水がこぼれたというようなこと。これなどは、原因と結果の関係が明らかである。

 しかし、相関関係はそこまではいかない。たとえば昔、ペヤングソース焼きそばの会社が商品にまつわる不祥事を起こしたが、そこからの取り組みが素晴らしかったので復活できたという話があった。そこには、社長以下社員全員の企業努力や誠実さがあった、という感動的な裏話があったわけだが。

 こういう話を聞くと、皆さんこう考えやすい。



●社長以下、社の全員が誠実に反省し、粛々とやれることをやり、揺らがなかった (原因)

 だから、ペヤングは営業停止期間が明けた後、あり得ない復活を遂げた(結果)



 確かに、ペヤング側の誠実な取り組みは、復活の一因であることは間違いがない。

 でも逆に、「明らかに原因はそれだけ」と言いきれないこともまた真実である。

 一口で語ることなんてできない。無数の力学的要素が複雑に絡み合った結果であって、決して人間の誠実さが単純に成功を産んだという話ではない。そんなきれいごとがまかり通るなら、この世界はもっと「正直者が報われる世界」になっているはずである。

 でも実際は、「正直者がバカを見る」ことの少なくない世界である。だから、このケースでは「関係は間違いなくあるが、因果とまで言うと言い過ぎになる」。

 これが相関関係である。因果は理由が明確な1本のストーリー、相関は2本(場合によってはそれ以上)のストーリーの関係性を表している。

 疑似科学やえせスピリチュアルが陥りやすいのは、この——



●因果関係と相関関係をはき違える。

 相関関係に過ぎないものを、勇み足で因果関係と断定してしまう。



「脳は主語を理解しない」も、そう考えられる状況が多数あって、そう考えることで辻褄が合うと考えると、人は悪気なく「~だから~なのだ」という断定的な話にもっていってしまう。

 それは引き寄せとかいうやつにも言えることで、科学のように無数の検証実験を繰り返し、例外も排除でき、公式として証明されたものではない。ゆえに「~の法則」と呼んでしまうのは、厳しいようだが勇み足である。

 そういう風に考えたら、『マーフィーの法則』なんてのも、実に図々しいネーミングだな。



●スピリチュアルの世界で言われる法則やメッセージなどは、相関関係の域を出ないものがほとんどである。明確な因果は、実はほとんど言い当てられていない。



 もちろん、完全なデマというわけではない。その人なりの生々しい経験と実感、そこから来る深い洞察があったからこそ言うのだろう。

 でもそれは、価値があることは認めるが残念ながら「因果」じゃない。あらゆる代数をブチ込んでも等式が成り立つ、みたいな絶対なものじゃない。

 ケースバイケース。一期一会。だから、数学的・物理的公式でもない限り、すべての宗教的哲学的スピリチュアル的真理や格言や法則は——



●ひとつの意見に過ぎない。



 それくらいに考えておいた方が、トラブルが少ない。

 筆者も、ここで言うことはひとつの意見に過ぎないと思っている。

 ただ、それを言わないメッセンジャーさんがあまりに多いんで。で、そういう人がなぜか売れちゃったりするんで。

 その影響で、今後もスピリチュアル界は混沌状態が続く。とんでもないすごい変化(ニューウェーブ)が来るどころではない。

 まだまだ、この世界のドキドキハラハラ物語は続編が量産され続けそうである。

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