怪しい家政婦

 その昔、『家政婦のミタ』というドラマが松嶋菜々子主演でヒットした。

 それがのちに、韓国ドラマとしてリメイクされたことは皆さんご存知だろうか? ちなみに『怪しい家政婦』が韓国でのタイトル。

 ミタを演じるのは。何と言っても『冬ソナ』が有名なチェ・ジウ!

「女王の教室」に続き、日本の大ヒットドラマが韓国で作られた形になるが、結果として韓国ではさほどヒットしなかった。

 もちろん平均視聴率は10%あり、決して「大コケ」ではない。でも、日本で最高視聴率30%を記録したお化けドラマが輸出されたにしては、大ヒットしたとまでは言えない。そこそこだった、ということだ。

 日本と韓国の文化というか、感覚の違いが原因と指摘する人もいる。日本では、ミタが言われたら何でもするキャラで、人を殺せと命じられたら本当にする、というのは驚きをもって見られることはあっても決してそれが批判や視聴率低下にはつながらなかった。ドラマが面白ければ、文句はあまり出ない。

 しかし韓国では、この「言われたら人殺しでもする」というところが、面白いと感じる以前に心理的抵抗に遭ってしまった。DNAレベルで儒教思想の根強く残る韓国人には、そこが感覚的に受け入れがたかったというのである。



 まぁ、そういう一般的な評価や意見はそれとして。筆者には、日本版韓国版どちらも面白かった。それぞれの味わいがあり、優劣が付けがたい。

 韓国版は日本版よりも話数も長く、一回の放送時間も長い。その分色々詰め込んだり引き延ばしたりしているため、そこが『冗長』だと言えば言えないこともない。

 でも、チェ・ジウは演技頑張ってたと思うよ!

 あと、日本版と韓国版では結末が違う。



 私は、このミタさんって『非二元』みたいだと思った。

 ミタさんは無表情。言われたことだけをし、何ら人情的に関わりを持とうとしない。身もふたもない事実だけを相手にし、決して私情を交えることはない。

 そんなミタさんと、ある家族が関わる。

 その家族はミタさんと関わることで大事なものに気付き、成長していく。

 普通、不思議ではないか?なぜ、そんな「ロボット」のような対応しか受けないのに、それが「感情むき出しの人たち」の気付きや肥やしになるのか?



●いわば、自分の姿を映し出す「鏡」のような存在だから。

 だから、ミタさんに接する者はみな、無地なそこにおいて自分の心の奥にあるホンネや見たくない部分を浮き彫りにされ、示される機会を得るのである。



 たとえば、感情に任せて「あの人を殺して」とミタさんに命じる。

「承知しました」と本当に実行されかけることで、『自分は本当の本当にこの人が死んでもいいとまで思っているのだろうか』というところに気付かされるのである。で、甘く浅い感情の言いなりになっていたと思い直して「やっぱりやめて」と前言を撤回することになる。

 甘く誤魔化していた思いの本質が暴かれることで、成長していく。それには、同じように感情的な人物相手ではムリ。

 あなたは絵を描きたい時、模様や文字がカラー表示でとっちらかった紙を選びますか? それでは自分の描いた線が、付けた色が分かりにくくてしょうがない。

 無地の、真白な紙がいいでしょう。これが「ミタさん効果」の本質である。



 もちろん、厳密にはミタさんはロボットではない。

 人よりも辛い目に遭った分、その経験値から来る鋭い洞察。無機質な言葉に見えて、時々見え隠れする「優しさ」。圧倒的に多くの場面でロボットのような応対しかしないだけに、ほんのたまにミタさんが意見を言うと、それがものすごく際立つ。重く響く。

 調子のいい言葉は、たまに言うのがいいくらいかも。おしゃべり調子乗りメッセンジャーには、それはムリな芸当だろうなぁ。常に人から有り難がられる言葉を連発していないといけないからなぁ!

 身もふたもない非二元の話は、二元に生き変化の波の中で生きる私たちに対して、ミタさんのような役割を果たすのが本来の役目である。そういう使い方をするなら、私たちにも非二元を知る意味がある。

 つまり、そっちにハマりつかりではなく——



●非二元を鏡として、自分たちの立ち位置を改めて確認する

 この世界の意味を改めて見つめ、個として生きる価値を再発見する



 だから、非二元の領域に旅立ちあそばしてそのまま鉄砲玉の使い、ではダメ。

 この世のものではない境地を知ること自体に価値などない。それは最終的に、この世の境地に再び着地するのでないと不完全である。

 無を見て、有の価値を知る。

 最小限の表現の中にこそ、その最小限を最大に見せる効果がある。

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