見えざる助けの手

【ネオ・ウルトラQ第七話「鉄の貝」】 



 突如、日本全国に多数姿を現した身長1メートルを超す巨大貝『ガストロポッド』。

 この貝が高熱を発すること、そしてこの貝の出現場所の分布図が日本の活火山帯と一致することから、「この生物が地殻変動(地震)の原因だ」 と、権威筋の大学教授が主張。その意見は世に浸透し、ガストロポッドの駆除が全国で展開していく。

 一方、ある研究チームは、ガストロポッドは確かに高熱を発するが、それで地震を起こしているのではなく「逆に地熱を取り込んだ結果としての高温であり、日本を地震から救っているのだ」という事実を突き止める。

 教授を説得しようとするも、ここまでのことをした教授に前言を撤回する気はなかった。彼はあくまでも、日本を救う英雄でいたかったのだ。かくして真実は隠蔽され、すべてのガストロポッドは駆除されてしまった。

 そんなある日、人々は「揺れ」を感じる。それはガストロポッド亡き今、これから来る未曽有の大地震を予感させるものであった。地震を防いでくれる守護神を自らの愚かさをもって排除した人間が、受けるべき報いであるかのように——



 しかし。

 たった一匹だけ、助かったガストロポッドがいた。

 海辺の町の、酒浸りの父親をもつ父子家庭の女の子が酒を買いに行かされた帰り、浜辺でその不思議な生物を見つけた。子どもは、貝を人目につかない場所へ移動させ、友達のように接した。

 ある日、テレビのニュースでガストロポッドが地震の元凶で、駆除活動が開始されたことを報じていた。それを見た子どもは、急いでかくまっている巨大貝のもとへ。

「大丈夫だからね。私が守るからね……」

 その夜。

 たった一匹の生き残りは、子どもの目の前で息絶えて死んだ。せっかく見つけた友達の死を悲しむ子どもだったが、やがてあることに気付く。最後の力を振り絞って、無数の卵を産んでいたのだ。

 その卵からかえった新たな命たちは、愚かな人間たちのためでもまた守り続ける。それが、彼らの「使命」なのかもしれない——。



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 以上が、ストーリーである。

 今回このお話からシェアしたいテーマは、これである。



●あなたの知らない「見えざる手」が、あなたを救っているかもしれない。



 一匹残ったガストロポッドのことを、女の子以外誰も知らない。

 そして、人間が勘違いと私欲で殺してしまっても、それでも最後の一匹は結果として人間のためになることをした。新たな命を生むことで、日本を救った。

 大学教授も、真実を発見したが奮闘虚しく権力に押し切られた研究チームも、誰も「誰が本当に日本を救ったのか」を知らない。ただ、変わらない日常を取り戻すことで「結局大丈夫だった」と思うだけだろう。

 逆に女の子もまた、自分のしたことが日本を救ったなどとたいそうな自覚を持つこともなく、国レベルの醜い争いなども知ることなく、これからもひっそり生きていくことだろう。



 どこかの誰かのしたことが『見えざる手』となって、あなたを救っているかもしれない。そしてその人物は、それがあなたのためになっているとか考えてはいないだろう。でも、結果としてそうなっている。

 あなたはあなたで、どこの誰かも分からない人物の「おかげ」を受け取って生きている。あなたはそれを「当たり前」として気付きもしないだろう。

 で、それはそれでよいのだ。あなたはあなたで、他の誰かのためになっていて、その誰かはあなたのことを知りもしないだろう。これが『お互い様』というやつである。



 もちろん、この『見えざる手』は悪い方へも働く。

 ある悪意が、その人が全然知らない第三者へ牙を剥くこともある。

『見えざる手』が人を救うのとは逆に「人を傷付ける」場合だ。

 究極には「善悪」などというのはないが、我々はこの宇宙ゲームを楽しむ上でのローカルルール(決まり事)として、色々と設定した。その世界に身を置いて生きている以上、せっかくだからゲームのルール上で得点になる、いいことをしたいものだ。



 だから、今日も考える。

 筆者が今しているこのことは、これからしようとしているこのことは、誰かを助ける・誰かに喜んでもらえる『見えざる手』であるだろうか?

 そうであってほしい、という願いとともに生きる。本書の存在も、ささやかながらどこかの誰かの「見えざる手」でありますようにと祈っている。

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