丁寧な仕事
例えば、戦国時代の合戦を思い浮かべていただきたい。
味方の敗戦濃厚。ついに総大将は、撤退命令を出した。
Aという家臣が撤退を指揮したが、実に見事だった。ほとんど追い打ちに合わず、損害を最小限にして撤退を完了した。
でも、別の戦で。今度は、勝ち戦。
大した工夫も、見るべきものもないごく当たり前な指揮だったが、Bという家臣が前線で勝利を収めた。少なからぬ犠牲は出たが、「勝利」という美酒のもとにそう問われることはなかった。
よっぽど殿が傑出した智将でない限り、どういう評価になりやすいか。
●丁寧に負け戦を処理したAより、少々雑で当たり前のことしかしていなくても、勝ちを得たBの方の手柄が大きくなる。
ともすればこの世界は成果主義・実力主義だったりするので、過程の仕事の丁寧さより、結果としての「勝利」のほうが評価されることがある。
自戒の意味も含め、すべての『仕事人』たちへ。
仕事上の成功、成果が重要であることは言うまでもないが——
●それ以上に大事なのが、『丁寧な仕事』である。
これは私見に過ぎないが、筆者の場合、具体的成果という名の『勝ち』より、納得のいく仕事ができたかどうかを重要視する。
筆者の場合の成果とは、日々人々の気付きに役立つようなメッセージを発信することだが、趣味ではなく本業で、つまりメシ食っていくためにやっている人なら普通やっていくことをあえてしない。
①もっと自分の発信を世界に広めるための積極的努力。集客。
②市場調査をし、世間が何を望んでいるのかを把握し、ニーズに合ったものを提供する。
③広い人脈を築く。特にその分野で著名で影響力のある人物とのパイプは欲しい。
『外科医・大門未知子』というお化け大ヒットドラマがある。
権威に与しない、ゴーイングマイウィエイな女医の話である。彼女は、「医師免許がなくてもできる一切の仕事」を拒否する。
筆者も、多少それと似たようなところがある。私の本業は、文章書きであり、また「話し手」。それにこだわる、職人肌の人間である。
逆にそれ以外のことには、ほぼ関心がない。
でも、その選択のゆえにこうむる不利益を嘆くか、といえばそれはない。もとより、覚悟の上での選択である。
大門未知子も、自分のしたいようにした結果病院をクビになっても、実に清々しい。嬉々としてマージャンや卓球を楽しみ、屁程も問題と思っていない。そんな彼女を見て、医局の正規医師がボソッと「うらやましい」とこぼす場面もあった。
過度に宣伝をすると、うまくすれば有名にもなりお金も入ってくるかもしれない。
(まぁ、内容がないと宣伝すらできないが)
でも、その交換条件として「要らないもの」もしょいこむ。多くの人が目にする結果、時でない人物やヘンな人物が絡んでくる可能性も増える。
(筆者が今のようにしてさえそういうのがいるのに、これ以上広まるとさらに……)
また、世の望むものを提供しようという奉仕精神は素敵なことだと思うのだが、これも度を越すと、書く人物が「書きたいことを書く」という主体性を失うことがある。また、人脈を広げると色々な人間関係のパワーバランスにも巻き込まれる。嫌な奴に頭を下げる必要にも迫られ、興味がある相手でも悪い噂を聞けば安全策で遠ざかる選択をする。
野望があるなら、そういことすべて承知で頂点を目指せるのかもしれない。でも私は、そうまでして上を目指したいとは思わない。
ここで、意識万能主義のスピリチュアリストは、こう言うかもしれない。
●すべては、あなたの意識次第。あなたが「何かの犠牲を払わなければ、上には立てない」と思いこんでいるだけ。
「上にも立てて、しかもしたいことをしたいように伸び伸びとできる」って前提してごらんなさいな。「そうしか無理」という前提を壊されてはいかが?
バカな。
あんた甘い、甘いよ。この世界は『ゲーム』なんだ。一定の設定(ルール)のもとに動いている世界だ。
しかも、MMORPG(多人数参加型RPG)ゲームだから、自分とはまったく考えも個性も違う人物の思惑が絡んでくる。自由人の特権としての「仕事や自分の在り方のこだわり」を犠牲にせずに得られるこの世の栄光なぞない。
二兎を追う者一兎をも得ず、ということわざがある。
一時、「二兎を追う者二兎とも得る」なんて言ったこともあったけど、筆者も青かったなぁ(笑)。やっぱり、無理があるぜ。
確かに、意識にはものすごい力があることを認めるが、それでも現実を100%凌駕できるわけではない。あえて、「全能ではない」「限定的」であることを味わいにこの世界に来ているので、どうしたってできないことがあって当然なのである。
自分の仕事は自分の思うようにしたい。付き合いたい人とだけ付き合いたい。
でも、それをやっていて収入が減ったら、これはいかんとばかりに媚を売ったような万民受け路線に走る。で、うまくいったならそれはそれで付き合いたくない人脈を作り、ホンネではないことを確信犯的に言ったり書いたりするかもしれない。
私は、そういうシーソーゲームはいやだ。自分のホンネと現実、そのどちらにもいい顔をしようとして、中途半端になるのは嫌だ。
この肉体をもっての人生は、一度きり。だから、有名拡大路線なのか、ゴーイングマイウェイ細々路線なのか、はっきり的を絞りたい。で、自分の中で考えるまでもなかったが、後者となった。
●『丁寧な仕事』に、最後までこだわり続けると決めた。
その結果、経済的には決して豊かとは言えないが、それなりに幸せには暮らしている。幸い、たとえ今の生活バランスが崩れることはあっても、今の日本では(死にたいのでなければ)飢え死にするのは難しいそうだ。ありがたや。ただそれでも、子どもに不自由な思いをさせないようには頑張ろうと思っている。
でも、本当にスッキリだよ! おかげで「余分なひとたち」「烏合の衆」は離れていったから。
本当に、身軽。今なお私に付き合ってくれるのは、表面的なことではなく、もっと別のところを見て付き合ってくれる仲間である。
あまり儲かりはしないが、必要最低限のシンプルなもの、そして在り方。これはこれで、なかなかいいっすよ。
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