360度回ろう

 ちょっと昔の話になるが、朝日新聞のCMで面白いものがあった。当時、ガッツ石松と松坂桃李が出演していた。そのCMの内容はと言うと——



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 二人は、朝日新聞の集配所の職員。

 ガッツ石松が、タブレットをいじっている。

 で、こう言う。

 


『オレこういうの、キライだったんだけどさ。

 なんかアレだな、人生が360度変わるな!』



 で、松坂がツッコむ。『え、360度……?』



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 そう。

 360度というのは。結局現在位置からクルッと一周回って、元の位置に戻るだけ。

 言わば、「動かなかった」 「何もしなかった」 のと同じこと。

 でも、私は思う。

 人生というのは、結局——



●360度回って、最初の位置に戻るためにある。

「結局、そのままで完全だったのだ」と、あらゆる手を尽くしたあとに気付くため。



 筆者は、新興宗教・既成宗教・いくつかのスピリチュアル・心理学などを探求して来た。自分でもかなり勉強してきたと思う。

 でも、心から納得のいくもの、究極の充足を与えてくれるものはなかった。分かった気になればなるほど、謎は深まっていった。そうして長い年月が経つうち、覚醒体験が起こった。

 皮肉な話だが、その体験を通して分かったことは——



●そのままでよかった。

 何かをしないといけない、なんてなかった。

 すべて、自分の中に解答があった。



 なぁんだ。外を探しても、ないわけだ。

 しかも、「自分の中に答えがあった」と表現するよりも——



●自分という存在自体が、答えそのものだった。

 だから、思考で答えを論理的に限定しなくてよい。

 今この瞬間何を思おうが、何を信じていようが、何を感じていようが、そのいちいちすべてが、その時々で全部 「答え」 なのだ。



 360度回るということは、結果何も回らなかったのと同じだから、じゃあ何もしないうほうが得だよ、ということが言いたいのではない。

 私は思う。


 

●360度回ることに、意義がある。

 それをしてこそ、「ありのままでよい」ことの価値を本当に理解できる。

 しないままでは、確かにあなたの価値は損なわれないが、ゲーム上楽しくない。



 ゲームとは、そもそも「しなくてよいもの」。「あえてする必要のないもの」。

 そして、「しなくてもいいけど、したいからするもの」 である。

 360度回る義務は、本来ない。でも、その一見 「ムダ」 をしてこその、360度回って元の位置に帰ってきた時の充足感ときたら!

 結果ムダだったのに充足感、というのもヘンだが、体験した私はそう言うしかない。情熱に従い、泥臭く生きてこそ、「ムダ」の持つ真の価値が分かるようになる。



 皆さんも、失敗などなく最短距離で、合理的に 「幸せ」 や「悟り」 の状態に至りたいかもしれないが、そこはあまり欲張らないでいただきたい。

 スマートに物事が進むことが、格好良くていいわけではない。

 何をしたにせよ、何を感じてきたかにせよ、あなたが通過してきたすべての瞬間が、あなたを支えている。そして、あなたを「完全に在らしめている」。

 


 さぁ、素敵に「しなくてもいいこと」をしよう。

 ムダという名の彩(いろどり)を、人生に添えよう。

 それが、あなたの360度の旅の添乗員になる。そして、最終的に「目覚め」というゴールに誘ってくれる。

 確かに、360度回った景色は、元の位置の景色と同じかもしれない。でも、目に映る景色は同じでも、あなたの感じ方はきっと変わっているはずである。



 ガッツ石松と一緒に、我々も『360度変わるな!』 と叫ぼうではないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る