狩人達の国境~同人戦記~

低迷アクション

第1話 狩人達の国境

狩人達の国境


剣防は職場のPCに届いていたメール内容を確認し、朗報を喜んだ。内容は水道局からで、数時間前に下水道内で巨大な爆発のようなものが起きたとの事で、電気ケーブルやガス管の一部が破損したらしい。本来なら対応する課が違うところだが、先方はこれが何か

“漫画勢力”に関係する事ではないかと心配している様子だ。早速、安心させる内容を含んだ回答文をメールし、剣防は伸びをするように、頭後ろで腕を組み、呟いた。


 「さて、まずは一つ…お次は…」…



「川は何でも運んできます。良いものも、悪いものも・・・流すのか?拾うのか?判断する役目も私達の仕事の一つですよ・・・」


朝日が射し込む礼拝堂で、先輩シスターの話をなぁなぁで聞きつつ“見習い修道女”はため息一つ(先輩には聞こえないように)仕事の準備をする。


洗濯物をバスケットに詰め、雑草取り用の小鉈を手に、修道院裏手を流れる川原に向かう。“狂うJAPAN”なんて言葉を自分達に当てはめる訳ではないが、彼女達が黒傘町にきたのは最近だ。


魔法少女や能力者が跋扈し、対応に追われた政府はとりあえずの処置として該当する者達を複数の指定都市にまとめて移住させた。


そのため雑多なジャンル(魔法少女、変身ヒロイン、擬人化、特撮、ミリタリー、

ファンタジー、ETC、ETC・・・)が


ひしめく混沌地帯がこの国の各地に生まれる事となり、それらを統一管理するため、

各都市ごとに独立性の強い政令が敷かれる事となった。


隣町を、繋ぐ山間部の郊外には“国境監視所”と命名された見張り所のようなものが設けられ、隣の市をつなぐ道路には“検問所”といった前時代の監視施設も作られる

徹底ぶりだ。


彼女の住む修道院もその一つである。修道院の業務は表向き、実際の役割は街の外、海にまでつながる川を流れてくる“モノ”を“監視する”目的を担っていた(元々は川の貯水施設だったらしい。)


無論、そこに配置される人員もそれ相応の資格を持った者になる。最も彼女、

見習い修道女の場合、その資格は現在“勉強中”であり、文字通り“見習い”のままだが・・・



 穏やかに流れる水面に水を流しながら修道女は手元の鉈を一瞥する。先輩達の話では、街の下水は川につながっており、時折、下水で“処理されなかったモノ”が

そのまま流れてくる事があると・・・


たいていは只のゴミのようだが、そうでないモノも時折あるとの事で、必要とあればそれを回収するか、もしくは“処理”して流すのが彼女達の“洗濯業務”の一つとなっている。

問題は、能力を持たない彼女が鉈一本でそれに対処できるかという事だが・・・



何度目かの水を流し終え、一息つく。以前の自分には能力があった。強力な魔術を

使いこなす主人に仕え、共に一つの世界を手中に収める荒行までやってのけた。


だが、どんな栄光にも蔭りはある。主人は死に、彼女も敗れ、ここに罪人として流されてきた。その手配をしたのは彼女の実の姉だった。恐らくこの生活は一生続くに違いない。


栄光の日々はもう望めない。皮肉とも悲哀ともつかない表情で、一人笑う。いつもと違う水音が聞こえてきたのはそんな時だった・・・



 初め、それは腐った流木に見えた。台風のあった翌日などに流れてくる光景を思い出し、彼女は視線を移す。距離が近づくにつれ、流木ではない事がわかってきた。


「人?まさか死体・・・」


沈んでいる分、容姿ははっきりとしないが、水面に浮かぶ影からして、成人男性という事がわかる。


(問題は生きているかという事だけど・・・)


死体が流れてくるのは、これが初めてではない。彼女自身見た事はないが、この街ができた当初は争いが絶えず、死体が流れてくる事が多くあったようだ。問題なのはその死体をそのまま流すか、それとも拾うかのどちらかという事だ。街の方で事件があった場合は速やかに回収する必要性があった。


(とりあえず先輩を呼ばないと・・・)


踵を返す彼女の前で水飛沫が上がり、全身水草だらけの死体だった者が起き上がる。驚く彼女の前で怪人は口を開く。流れ出る大量の水と共に、水草やら小魚が一斉に吐き出される。


(確かにさっきまで呼吸は止まっていた筈。自分が見ていた時に水面に顔を出した様子は一度もない。呼吸をしないまま、ここまで流れてきたの?それとも今ここで息を吹き返した?何故?)


緊張し身構える修道女に、怪人は顔を向けた。泥で隠されて表情は良く分からないが、目元に走った二つの大きな切り傷がハッキリわかる。おそるおそるといった感じで訪ねてみる。


「あの、大丈夫ですか?それと一応、ど、どちらの方ですか?」


怪人がこちらを一瞥し咆哮する。


「水辺の妖精です!!」


「嘘つかないで下さい。」


全力の否定に怪人は笑いながら話し出す。


「イーッツジョーク!ハハハ、マジ天使ィィ!流されてきた甲斐がありましたぜ。こんなところで美しく、慎み深いシスターさんに会えるとは、まったく地獄で天使ちゃんとはこのことだな?オイッ!」


意味のわからない事を喚きながら上陸しようとする水草以外ほぼ全裸の怪人を、両手を前に出し、押しとどめた。何だかあまり良くない感じがする。怪人は気を悪くした様子もなく再び笑い声を上げる。


「ハハハ、これは名前を名乗らずに!失礼!驚きますよね。わかります。わかりますよ。自分はサンダー軍曹と申します。ある特殊部隊に所属する者です。」


サンダー?何処かで聞いたような・・・そんな彼女の脳裏を2日前に起きた事件が思い出される。都市にある公開処刑場が、見物客が見守る中で破壊された。


破壊したのはその日、刑の執行予定だった死刑囚で、そいつは追っ手をかわしながら逃走した。確か名前は・・・贈られてきた手配書の名前は・・・言葉が自然と口に出る。


「確か、名前は特殊、特殊部隊同人のサンダー軍曹…」


そこまで言った口を突如抑えられる。むせかえるような生臭さと腐敗臭に意識が遠のく。


「フフフ、名前を覚えて貰うとは光栄だ。俺達も偉くなったってもんでさぁ。お察しの通りの者です。できたら穏便にいきたかったが・・・」


水草と泥まみれの顔がグニャリとゆがむ。彼女の顔をつかんだまま、体制を崩さずに上陸してくる。顔を捕まれたままの修道女はその動きについていけず尻餅をつく。


その手元に何かが当たる。感触を確かめ、握りしめる。ためらいは無かった。

勢いよく手にした鉈を振り上げる。刃は軍曹の顔を真横から捉える。


耳をつんざくような悲鳴を気にしている暇は無い。鉈の一撃で離された顔を拭いつつ、

のたうち回る軍曹の頭にもう一度、刃を深々と突き立てた。


悲鳴を上げながら軍曹は水に沈んでいく。それを見つめ、ようやく一息をつく。

肩が震えている。息も荒い。


「やった・・・やったの?」


誰にいうとでなく呟く。


「やられる訳ねぇでしょうが!」


頭に鉈が刺さったままの軍曹が水から姿を現し、怯える彼女の前に再び立ちはだかる。


「やれると思ったのかい?やれると思いましたかい?大事な事なので以下略!

フハハハハ。どうやらこの空間においては、ワタクシは不死身のようです。とりあえずは髪の毛を食べさせて下・さ・い・よ。シスタァァァ」


「イヤーッ」


間髪いれずに怪人を突き飛ばす。


「ウゲボゲェェェ・・・」


負けないくらいの絶叫を上げ、再び軍曹が川に落下する。


(鉈では殺せない。鉈では・・・)


助けを呼ぶ?そんな時間は無い。焦る彼女の目線の先に、古びたレバーが目に入る。貯めた水を一度に流す放水装置だ。大きな漂着物を流すために用いるので、敢えて「排水」と表記している。


(これなら・・・)


レバーに手をかけた。固い!普段は使う事がないため、レバーが錆びている。焦る彼女の視線に血まみれの手がちらつき始める。


「グハハハ、良い一撃だ。見て下さーい。これ、鉈が抜けねぇよ~これヤバいな~この代償はナニでフヒヒヒ。」


恐ろしい声が近づいてくる。レバーにかける手を両手に切り替え、力を込める。その意図を察したのか、軍曹が上擦った調子で声をげた。


「そ、そのレバーはっ!?まさか、お、落ち着いて下さい。さっきのは、ほんの冗談ですよ。だから、そのレバーから手を…」


修道女はそれを無視し、力を込める。もう少しでレバーが下がりそうだ。もう少しで・・・

ふいにレバー眼前の壁を血みどろの手が掴む。見れば、軍曹が悪鬼の表情で川から半身を出している。


「おのれぇぇぇ、シスタァァァ、よくもぉぉお。これから

非道い目にぃぃぃあわせてぇぇぇ」


ろれつの回らない声を唸らせながら、這いずるように川から姿を現してくる。それを振り切るように、レバーを動かす。軍曹の声が続く。


「シスタァァァをやったらぁ~次は家族をやるぅぅ。兄弟、姉妹にいたるまでになぁぁぁ。」


その台詞に修道女の手が止まった。家族、姉妹?自分をここに追いやった憎むべき姉を?素早く軍曹の前に歩み寄る。何を期待してか、軍曹の顔が下卑た笑いに包まれる。躊躇いは無かった。顔面を力一杯蹴りつける。


「それはあたしの権利だよ。」


氷よりも冷たい声で言い放ち、レバーを下げる。土石流のような水が三度沈んだ軍曹を恐ろしい勢いで流していく。


「やばい、このオチは見た事がある。エ〇リアン1、2、4だだだだだぁぁぁぁ~」


訳のわからない声を上げながら流されていく。初めは浮き沈みを繰り返していたが、やがて姿は見えなくなった。その光景をボンヤリ見つめた後、


彼女は何事も無かったかのように散らばった洗濯物をかき集める。この事は先輩には報告しないでおこう。


レバーを引いた件に関しては「流した。」とだけ言えばわかってくれる筈だ。気持ちが弾んでいる。スキップをしながら、修道院の入口を目指す。


やがては自分も力を取り戻すかもしれない。確証があるわけでは無い。ただ、そう感じるだけだ。今はそれだけで良い。それが日々の糧になる。


勿論、目的を忘れた訳では無い。空に向かって微笑む。


「待っていてね。お姉ちゃん。」


これから始まる長い復讐劇を想像し、彼女は静かに酔いしれる。「見習い」の肩書きは既に外れていた・・・


 

「距離を稼ぐ必要があるな・・・最も逃げる必要性があるかどうかだが・・・」


後方の雑木林を窺い、同人部隊所属の“ハジ・ハダト”は手にした自動拳銃を構える。装備を持つ暇は無かった。自分達を地面へと安全に送る命綱であるパラシュートが砲撃され、落とされた時の光景は忘れる事が出来そうにない。


だが、同僚であり、部隊長のサンダー軍曹は言っていた。


「落ちた場所が何処だろうと明かりを目指せ。そこが合流地点になる。」


と…ハダトは唇を歪める。その後、奴さんはこうも言った。


「なに、どうせ同人野郎は同じ穴のムジナ。何処に行っても同じような場所に集まる。安心し・・・」


その直後に爆発が軍曹を包んだが・・・恐らく彼は生きているだろう。確信を持てる。ハダトは笑う。


「あの御仁は・・・そう簡単には死なんな。」


ふいに雑木林から銃撃が始まる。


「来たか・・・」


彼は飛び交う銃弾を巧みに躱し、移動を開始した。


「私が引きつける。貴方達は反対方向に移動して。」


彼の上げた声に様々な格好の少年少女が慌てた様子で動き始める。この森で出会った逃亡者(難民と言うべきか?)達だ。聞けば、ハダト達が目指す街から逃げてきたという。


「狂うJAPANも楽じゃないな。」


苦笑交じりに呟き、牽制の意味での銃弾を放つ。返ってくる弾丸を眼で捉えながら、ハダトは懐かしい気分に包まれる。


彼が生まれた場所は憎しみの地だった。自爆テロ、それに対する報復の繰り返し。大国の利益のため、無限に続く代理戦争はゲリラとして戦う自身の存在すらも戦争の一歯車とし、それに気づくハダト自身も、どうにもできない諦めを強く持たせるに至っていた…


キッカケは彼の前に現れた怪人(ヒーローというべきかもしれない)だ。

ハダト達が投入された戦場はある財団の実験場だった。


彼のそのときの指揮官はこの地獄の中では、とても珍しいタイプで、「努力すれば正義は必ず叶う。」と信じている人間だった。部隊は財団の施設を襲撃し、実験材料として囚われている人々を解放しようとした。結果として、その行動は彼自身の死と部隊の壊滅をまねく事となったが・・・


施設は異形の怪物で溢れかえっており、味方は次々と惨殺されていった。唯一生き残ったハダトは救うべき人々と一緒に、連中の餌にされようとしていた・・・

 

その瞬間は今でも覚えている。壁を蹴破り、2台のバイクで突入してきた怪人達がいた。彼等は昆虫や蝙蝠のような覆面とスーツを身につけていて、その姿は周りの化け物と大差無かったが、


ハダト達を庇うように他の同胞を次々と倒していった。中には彼等より強い者もいて、昆虫マスク達が傷を負う場面もあった。だが、全身から血のような液体を流しながらも戦い続ける彼等の姿は、ハダトに強い衝撃を与えた。


最後の一体を倒し、その場を去ろうとする2人にハダトは問いかけた。


「何故、戦うのか?」


と・・・一人が振り返り答えた。


「・・・に妥協は無い。」


「・・・」の部分は分からなかったが、ハダトにとってはそれで充分だった。後に彼等は

“ライダー”と呼ばれる“正義の味方”だと知った。それを生んだ地に向かう

同人部隊にハダトが合流するのは当然の流れだった・・・

 

弾倉に残った最後の銃弾を撃ち込み、これまた最後の弾倉を交換する。相手側の銃撃は一向に怯む様子が無い。


「当たっていると思うんだが・・・固いな。」


自分でも驚く程、冷静に状況を見る事ができている。まるで死ぬ覚悟が出来ているかのようだ。いや、出来ているのかもしれない。


逃げる彼女達と会ったのも何かの縁だ。あの指揮官のように、いやあの“ライダー”達のように自分も正義を信じ、誰かを守る・・・


ふいに彼の後方で音がする。見れば、逃亡者の娘が一人転んだようだ。まるでそれに合わせたかのように銃声が響く。反射的に飛び出した背中に激痛と同時に、


何かが体を貫く感覚・・・だが、そんな事はハダトの気にするところでは無かった。

地面に倒れ込み叫ぶ。


「早く・・・行きなさい。」


逃げるのを止め、自分に駆け寄ろうとする娘に厳しい声をかける。涙を流しながら、走り去る彼女を見ながら、ハダトはようやく安心した。激しい痛みが戻ってくる。


撃たれた部位からして、もう長くない。まもなく死ぬ。だが、良かった・・・

最後は誰かのために…しかも、会ったばかりの自分を気遣う良い子を守れて・・・


前方の林が揺れる。自分達を襲った襲撃者の姿を見て、ハダトは更に高揚とした気分になった・・・


 黒い装甲服に、何かを模したマスク(今回は蝙蝠や昆虫では無く、骸骨のようだが)

幾分違いはあるが、自身を救ったあの“ライダー”に酷似している部分が多くある。


そのライダーが2人、突撃銃を構えて進んでくる。まさか、こんなにも早く会えるとは・・・ハダトは興奮した気持ちを抑えるのに苦労する。痛みが消えていく。自分に“正義”を

教えてくれたヒーローが自分に最後を渡しにくるとは・・・

ライダーの一人が覗きこむように屈み、ハダトに訪ねる。


「言葉はわかるか?」


機械を通しての無機質な声、感情は読み取れない。こちらが頷くのを確認し、相手も次の質問を出す。


「味方は何人いる?具体的な作戦行動は?」


初めから質問に答えるつもりは無い。それを無視して、喋りだす。


「二人はライダーか?」


相手がお互いを見合い、首を傾げる。こちらの意図を図り兼ねているようだ。構わず続けてみる。


「ずっと目標だった。お前達のようになる事が・・・もしくはその一翼を担うだけでも良い。満足だよ。それも出来た。だから・・・」


言葉が続かない。そろそろか・・・最後の声を振り絞り、もう一度訪ねた。


「お前達はライダーか?」


ハダトより離れた方が何かを言おうとする。それを目の前にいるライダーが制しながら、こちらに向き直る。


「・・・そうだ・・・」


それを聞き、ハダトは満足下に微笑み、目を閉じた・・・

 


「何なんだろうな?こいつは」


“スカル・トルーパースーツ”に身を包んだ同僚が理解できないといった仕草で答える。

眼下に横たわる死体を一瞥し“右(う)﨑(ざき)遼(りょう)(うざき りょう)”は短く切り返す。


「さぁな・・・」


この国は変わった・・・世間やネットの話題はそれで盛り上がっているが、右﨑達にその感覚はあまり無い。強いて変わったと言えば、戦う相手か?


地球に来襲した未確認生物群を撃退する事、それが所属する組織の仕事だった。右﨑自身もこのスーツに身を包み、戦いの日々を送っていた。彼等の世界には「ライダー」もいた。最も右﨑自身がその存在になる事は無かったが・・・



「本部、こちらボストーク6・・・ボストーク6、通信状態が悪いな・・・逃亡者の一団を追跡中に不法入国者と遭遇。1名射殺。また、例の“同人”のようです。」


同僚の声を背に、右﨑は前方を静かに見据える。その瞬間は突然だった。偉い奴らに言わせれば


「繋がった・・・」


もっと細かく言えば、彼等のいた世界とその他、全ての世界が同じ時間軸に姿を現したそうだ。勿論、敵であった未確認生物群も以前として存在しているが、


それにプラスして、怪獣やら魔法少女が(先日、海から艦砲背負って上陸した娘を見た時は、開いた口が塞がらなかった・・・)存在する世界・・・


敵も増えた。同時に心強い味方もたくさん…だが、共有空間の「土台」となった世界は


自分達以上にこの事態を危惧したようだ。結果として彼等はいくつかの都市に隔離状態で移住を強制され


(元々、広い土地にまばらだった人工はこの影響により一つの国家規模に成長した。)


右﨑達の組織もこの変化に伴い二分された。一つは今まで通りの業務をこなす部署。

もう一つは右﨑達のように街の外の国境を守る警備業務だ。この“変化”

(狂うJAPANという言葉はあまり好きではない。)


が起きて以来、その原因を探るため、または技術を探るといった目的で、世界中からあらゆる調査がこの国に及んだ。


中には武装した輩も多くいる。つい、先日も黒傘市内の研究施設が武装グループに襲撃された事件が起きている。こちらの不手際と言いたい所だが、いくつも研究機関が参入しているこの町では対応できないというものだ。


最も、今回の場合は襲撃者が全滅し、研究していた内容も行方不明となっているが…

また、最近では自由を求め、街の“外”に“脱走”する同胞も出始めている。

右﨑達の業務内容も過酷さを増すばかりだった・・・


「・・・こちら、本部・・・確認しました。まだ、相当数の残党がいるようです・・・北の監視エリアでも20分前から戦闘が始まっています。


巡回隊員だけでは手が回らないそうで、こちらからも増援を出しますが、万が一の時はそちらも迎えるようにして下さい。連絡あるまでは、そのまま追跡を続行されたし・・・」


およそ、戦闘部隊とも思えない、可愛らしい声の本部オペレーターの通信に返答し、こちらを見る同僚に手を振ると、


右﨑は移動を開始する。支給された突撃銃は対人間用の現用武装だ。相手が弾丸を跳ね返したり、瞬間移動する同胞連中では無い限り、問題無いだろう。


最も、連中“同人”なら弾丸を跳ね返さなくても手ごわいが・・・

事の起こりは2日前の輸送機による領空侵犯だ。国境上空(正確には黒笠町山間部)

に突如飛来した所属不明の輸送機3機を、都市に常駐する魔法少女の一人が砲撃し

(砲撃と呼ぶに相応しい攻撃だった・・・)撃墜した。


2機は国境外の河川と森林地帯に落下し、最後の1機は都市の上空で爆発四散した。問題はそこから飛び降りた連中だった…


部隊の指揮官を名乗るサンダー軍曹という男は撃墜後、パラシュートで降下し、その足で市内の酒場に直行した後(後の調べで、軍曹は何度かこの町に潜入しており、馴染みの店としていたようだ。)


そこで一騒動を起こし、拘束された。郊外に設けられた公開処刑場で刑を執行されたが、悪魔のような脱走劇を成功させ、現在も逃走中…残りの残党兵士も今だに国境周辺、はたまた都市内部で目撃されているとの報告が入っている。


国籍、年齢全てがバラバラの彼等に共通するのは、所属不明の軍服と“同人”という、これまた理解不能な腕章を付けている事だ。(世界中の戦線で目撃や証言を合わせていくと、それが彼等の部隊名らしいが・・・)


そして、何故か自分達や自分達以外の警備隊員(魔法少女ETC)に見つかり、戦闘した時に見せる“嬉々、もしくは恍惚とした表情”は理解に苦しむ。だが、戦闘能力は抜群だ。厄介この上ない。そんな事を考えながら進む彼の通信マイクに、緊急コールが入る。


「こちら本部よりボストーク6へ。上空監視をしていた魔女より、川下付近をほぼ全裸で頭に鉈が刺さった軍帽姿の人物が徘徊しているようです。容姿、言動から察するに現在、逃亡中のサンダー軍曹ではないかと・・・至急、向かって下さい。

追跡任務はボストーク8に引き継ぎます。」


緊張した通信を聞き、右﨑は同僚に合図をする。


「弾丸をタップリ喰らわしてやるか・・・」


呟き、2人のトルーパーは銃を構え直した…



 「なぁ、俺さ!街についたら、可愛いバニーちゃんを抱きまくるんだ!」


「そうか、そいつはご相伴にあずかりてぇもんだ。ってオイ!よけろ、アンソニー?アンソニィィィ!」


頭部を撃ち抜かれた戦友を抱きかかえる兵士を一瞥し、

同人部隊所属の覆面兵士“アスク”が慌てた様子で報告する。


「“副長”!アンソニーがフラグブレイク(フラグ立てて戦死)」


「了解!それと、頼みますから戦闘中に下らん会話で死ぬのは止めて下さい!と部隊全員に通達なさい。」


踵を返すアスクを見ながら、同じく同人部隊所属の“副長”は、トンがったおさげ髪をブンブン振り回しながら苛立ちを抑える。


女性兵士が少ない部隊内で唯一の女性将校である彼女は初めからこの作戦に、いや、サンダー軍曹の考え方自体に反対していた。


「“狂うJAPAN”の技術、人材を我がモノとし世界を獲る。」


途方も無い目的に無謀なプラン・・・(輸送機3機のみ、後方支援皆無で他国に侵入なんて作戦は聞いた事も無い。)よく同人部隊の上層部が許可したものだと思うが、


狭い機内に詰め込まれた人員は同人の兵士の中でも更にはみ出した連中ばかり。いわゆる“捨て駒”として狂信者のお供にされたのではないか?そうなると、軍曹のお目付役として配置された自分もまさか・・・!?


「副長・・・」


ふいに聞こえてきた、野太い声に顔を上げる。瞑想していて、周りを忘れていた。2日間街を目指してさまよった挙げ句、骸骨兵士の群れと戦闘に突入していた事を・・・


「戦死9名。残された戦力は7人、敵の数は続々と増える様子です・・ご決断を。」


感情の無い声で淡々と告げる重武装の巨漢“コワルスキー・ビーチャ”元空挺太尉の言葉に副長は首を傾げる。


「決断?」


「ダー(肯定の意)決断です。副長!・・・隊長、いえ、サンダー軍曹は彼等の技術、もしくはその人材を確保する事を目的としていました。」


そう言い、コワルスキーは副長の目の前に敵の兵士(まだ生きている)を投げ出す。驚く彼女を気にした様子もなく、これまた淡々と言葉を続ける。


「スカル・トルーパーという名前だそうです。彼等はこの街、我々の目標都市の警察機関に所属するもので、話によれば隊長(サンダー軍曹)もまだ生きているようです。それも踏まえてのご決断を。


この捕虜の話が本当なら、これからくる増援には無人攻撃機と

特殊能力者が含まれているとの事です。」


何故?この男はそこまであの軍曹を信奉しているのだろう?階級も軍曹止まりであり、とても部隊を率いるような人物ではないというのに


(噂によれば、この元大尉に軍曹の部隊を指揮する話も出ていたそうだが、太尉は拒否し、彼を指揮官に推薦したそうだ・・・)


そして、そもそも…


「あの太尉?その決断とは?」


「ニェーット(否定の意)元太尉であります、副長。繰り返しますが軍曹は、この地に来た目的として彼等の技術、人材を確保する事を上げていました。


ならば今、追撃してくる連中も殺してしまってはその任務自体に反する事かと思いまして・・・」


ビシッと敬礼を決めつつ、報告する巨漢に思わず聞き返す。


「倒せるの?」


「ダーッ!肯定です。確かにこの兵士達の来ているスーツは身体面、耐久面で我々を遥かに上回るものですが、


銃弾による部分的集中攻撃を行う事により、装甲を砕く事も可能です。だからこそ、ご命令が欲しいのであります。このまま全滅するようでは隊長殿に顔向けができません。どうか・・・」


「…やっちゃって☆」


言葉を途中で遮り、命令を発する。敬礼を返したコワルスキーは捕虜の頭を素早く殴り、手にしたAK突撃銃を構え、吠える。


「バックファイア!」


鋭い彼の声に爆煙と銃撃をかいくぐり、大型の携帯ミサイル発射機を構えた眼鏡顔の兵士が姿を現す。


「まもなく、敵の増援が来る。複数の戦闘機も含まれるそうだ。落とせるか?」


“バックファイア”と呼ばれた兵士は無言で敬礼を返し、煙の中に消える。

それにコワルスキーも続く。何と頼りがいのある連中だろう。


「これは私も頑張らないとですね。」


心を決め、手元のカービン銃に新たな弾倉を叩き込む。走りだそうとする彼女の前に、

先程の覆面男アスクが立ちはだかる。


「どうしました?」


こちらも立ち止まって聞き返す。アスクは少しもじもじしていたが、意を決したという感じでしゃべり出す。


「実は彼等に攻撃されているのは俺の責任かもしれやせん。」


「?」


「1時間ほど前に森を歩いている猫耳ニャンニャンを見つけまして、ちょっと追いかけてたら、通報されたようで。」


「・・・」


「いえ、別に邪な気持ちがあった訳ではありません。ちょっとお話をと、なんですか?その目は!いや違いますよ!違うから!別にお尻の尻尾とか、そういうのを期待した訳ではありやせんから!ホントに・・・・・・・・その・・・ちょっとだけ期待してました。」


無言でアスクの顔面を銃の台尻で殴る。のたうち回る彼を尻目に副長は走り出す。彼女は現在、自身が進める“偶然を装って殺したいリスト”に名簿に一人追加した・・・

 

「正面小隊、損害を報告せよ。正面、オイ!ボストーク4、7、9、11。どうした状況を・・・」


「無駄だよ。」


緊張した部下のスカル・トルーパーを一言で制し、「ボストーク1」こと国境警備トルーパー隊“佐藤修也(さとうしゅうや)(さとう しゅうや)”は爆発と銃声が止んだ前方の林を見据える。


国境付近の調査(街の外に出る事は禁止されているが、許可証を持った者は例外とされる。)している女の子達から自動小銃を持った覆面男に追いかけられたとの通報があったのは


3時間前、男の正体は同人部隊所属の兵士で、彼の仲間も複数いる事がわかり、戦闘に突入したが・・・


「あれは・・・!?」


緊張した部下の声が響く。ふいに前方の林を突き破り、両手に味方のトルーパーをそれぞれ掴んだ大柄の兵士が姿を現す。掴まれた部下達は気絶しているのかピクリとも動かない。遅れるように彼の後方から別のトルーパーが姿を現す。


「野郎、そいつらを離せ。」


叫び、銃を構える味方に、男は掴んでいた兵を放り投げる。思わず受け止める形となったトルーパーの膝にAK突撃銃の銃口がピタリと押しつけられる。連続した発射音が響き、足を撃ち抜かれたトルーパーが転がる。


それを確認する間もなく、こちらに向かってくる男を佐藤は見据える。


「たいした奴だな。なら、これはどうだ?」


呟く彼の上空を2機の無人戦闘機が飛ぶ。自衛隊から払い下げた今時代においては旧型機だが、戦闘や上空監視には、充分に役立つ。


(同じ部隊の中には空を飛べる娘などもいるが、佐藤は彼女達を偵察のみに使っていた。)


2つの機影の鼻先に、軽快な発射音と共に一発のミサイルが直上で撃ち上げられる。

一定の空域まで上がったそれは何処に向かうという訳でなく、そのまま爆発する。

問題はその後だった。爆発によって生まれた破片が四散し、近くにいた戦闘機達に容赦なく襲いかかる。


「こちら、ブローハ1、機体の損傷大。後退する。」


同じような報告がブローハ2からも上がり、2機の増援は何の攻撃をしないまま、傷ついた翼で帰投した。(無人の戦闘機なので、オペレーター達に被害は出ていない。)


「携帯式ミサイルの信管をいじって、爆発時間を調整、それによって生まれた破片で迎撃とは・・・面白いな。」


どうやら同人と呼ばれる連中の中にはずば抜けて戦闘に特化した連中がいるらしい。こうなってくると色々、楽しみが増えそうだ。ふいに彼の後方で荒いが、何処か可愛らしい感じの息づかいが聞こえてくる。


「す、すいません。連絡受けた増援ですけど、道に迷っちゃって・・・今つきました。」


振り向き、その存在を確認する。自然と笑みがこぼれた。


「さて、お次はどうだ?」・・・

  

 

「銃撃が止んだ。コワルスキー大尉達がやってくれましたね。」


戦闘地帯からだいぶ離れた林を進む副長は一息をつく。逃げようという訳では無い。コワルスキー達が敵を引きつける間に本隊に奇襲をかける。どれほどの戦力かは皆無だが、

やるしかない。


ふいに自身の進む方向から銃撃音が連続して響く。

どうやら敵が近いらしい。歩みを遅くし、音の方向を目指し静かに進んでいく。


銃撃音は止む事もなく、恐らくコワルスキー達の方向に向かって連続して響く。

その内、妙な事に気づいた。


「可笑しい?銃声の種類が多すぎる。」


まだ歳若い副長とて、様々な戦場を経験してきた者だ。銃声一つで、どんな口径でどの銃が使われているか、おおよその見当がつく。


だが、今連続している銃声は軍用ライフルに大口径機関砲、はたまた散弾銃、ロケット砲に対戦車銃の音までしている。


妙だ。仮にも正規軍の部隊、増援がきたからといって、これほど用途の違う重火器を用意してくる必要があるのか?しかし、どっちにしろ、いつまでもやらせておく訳にはいかない。意を決し、突入を決める彼女の後ろから声が響く。


「女の子の匂いがしますぜ。副長。」


突然の声におさげが「ビクッ」と跳ねる。そのままトンガリおさげを振り向き様、相手の顔面にぶつける。背後にいたアスクがうずくまる。


「何ですか?アスク?奇襲かける味方に奇襲とか、殺しますよ。女の子?副長さんが目の前にいるじゃないですか?」


悲鳴を押し殺したアスクが小声(その辺りは一応、空気を読んでいる。)で応える。


「いや、副長みたいな殺(ころ)しやんガールじゃなくて、もっと繊細な・・・」


副長のトンガリおさげが再びアスクに突き刺さる。そのまま踵を返す。


「着いてきなさい、アスク。」


「あの副長。いくら俺が覆面だから、顔のダメージ具合判別しにくくたって、痛い時は痛いんですよ。」


ぶつくさ言いながら着いてくるアスクを無視し、眼前の枝をかき分ける。視界が開ける。


「派手に行きますよ。」・・・

 


 「えーっと、M2は出したから、次はG3小銃を…」

呟き、トルーパー隊、増援要員の“霧流(きりゅう)(きりゅう)”は自身のスカートを少しめくる。


鈍い金属音と共に自動小銃が地面に落ちてきた。彼女はそれを拾うと、前方の敵に向かって射撃を開始する。赤い曳光弾が先行し、弾幕を盛り上げていく。


敵の生死は不明だが、一発も応戦してこない様子を見ると、もう死んでいるのかもしれない。ここに到着してから数十分、霧流が放った弾丸と砲弾は、まとめて4000発になる。華奢な彼女がそれだけの銃器を携行できるのには理由があった…


彼女が着ているボロをまとったような衣服は、通称“武器(ぶき)娘(こ)なドレス”と呼ばれるモノであり、服の中に別の空間を形成している。


使用者はそれを身にまとい(必ず身にまとわなければならない。)

肌と衣服の隙間(胸の谷間、足のスカート部分等など)


から武器を出し入れする事ができるという代物だ。このドレスは人や物を破壊、殺傷できるモノならどんなサイズの物でも無限に収納する事ができるが(原理は不明)


それ以外は何も仕舞う事ができない。霧流の生まれは戦場であり、物心ついた時にはこの服を着せられていた。驚く事に彼女の成長と共に衣服のサイズも変わっていき、今でも着る事ができている。


彼女が過酷な戦場を生き残ってこれたのも、ドレスのおかげであり、これが自身の特殊能力となっていた。そのまま流れるように戦場を渡り歩き、いつの間にかこの街に流れつき、なんとなくの流れで、この部隊に雇われた。


仕事内容は別段、気になる点も無い。給与も労働に見合うものだし、生活するには困らない。戦場で育った霧生に今更、普通の生活を送る方法も思いつかなかった。


流され、流れて、流れるままに…それが自分の生き方だろう。なかば諦めに近い感情を、ぶつけるように銃撃を続ける。そんな彼女の視界に、突如として2人の兵士がとびこんできた・・・


 慌てる霧流の前で2人のウチの1人、覆面をつけた兵士が、鼻血を出しながら威勢よく吠える。


「女の子のスカート下から重火器が!そうか!コルトにHK!FN社の連中は女の子から銃器を作ってたんか?」


「いや、多分違うと思いますけど。」


そう答えたもう一人の女性兵士も、こちらを凝視し、呟く。


「単独で無限の武器庫を保有・・・これなら、後方支援無くとも、部隊全員の火器を用意し、尚且つ侵攻地域への進入、移動も容易に行える。正にウチ、同人好みの能力ですね・・・」


喋る女性兵士の鼻先からも静かに血が流れ始めた。心なしか目つきが怪しい。気がつけば味方のトルーパーもいない。何だか非常に不味い感じがする。


そもそも“同人”と言えば、彼女達の戦っている相手の部隊名だと思うし、霧流の能力を一瞬で見抜いたこの女性も、その後ろで佇む覆面の怪人も…なにより二人共、鼻から血を流し続けている点を踏まえて・・・


「アスク・・・」


女性兵士の方がアスクと呼ばれた覆面の兵士に目配せをする。頷く覆面をそのままに、女性の方が流れる鼻血を止める様子もなく、静かに、だが確実に、こちらににじりよってくる。


「お名前は?」


歌うような声で聞いてくる。恐ろしいくらいまでの笑みを浮かべて・・・


「えっ?」


思わず聞き返してしまう。


「お名前は何というんですか?」


子供に尋ねるような甘い声でもう一度聞く。その辺りで霧流も本来の役割を思い出し、

新しく衣服から出した自動拳銃を相手に向けようと構えた。その腕を女性兵士のおさげ(悪魔の尻尾みたいにトンガったおさげ髪)が、まるで意思を持ったモノのように

素早くはたき落とす。驚く彼女の足が地面から浮く。


いつの間にか、後ろに回った覆面が霧流を羽交い締めにして持ち上げている。荒い息づかいが首筋にかかる。震える彼女の頬に先程のトンガリおさげが撫でるようにまとわりついた。すぐ近くに女性兵士の顔があり、不気味さを漂わせている・・・


相変わらず穏やかな笑みを浮かべたままで。


「お名前は?」


再三の質問が繰り返される。


「き、霧流です。」


もう、こうなってしまっては仕方ない。後は成り行きに流されよう。


「霧流、霧流さんですね。そうですか、うん、良い名前。確か、そんな名前の怪獣もいましたね、うん。」


世間話をするように女性兵士が頷きながら、彼女の周りをいったりきたりする。突然、スカート部分が前触れ無しにめくられた。


「ヒャウッ」


「うん、良いですね。とても良い反応です。」


嬉しそうに喋る彼女の足下に何丁かの銃器が転がり落ちる。それを拾い、手にとった

女性兵士は性能を確かめるように銃を構える。


「損傷箇所無し。すぐにでも実戦に使えます。素晴らしい。この能力は貴方がそれを着ていないと発動しないんでしょうか?」


思わず頷いてしまう。自身を守るために取った行動だったが、後ろで笑う覆面の声と目の前の女性兵士の満面な笑みを見て、頷いた事をとても後悔する。


「だったら、一緒に連れて帰らなければですね。アスク、お持ち帰りで。」

「ベトナムを思い出しますなぁ~副長」


楽しそうに笑う二人にがっちり体を抱えられ、そのまま林の方に運ばれていく。


「そこまでにしてもらおうか。」


鋭い声が響き、複数のスカル・トルーパーが霧流達を包囲したのは彼女にとって、正に救世主的タイミングと言えた・・・



「虐殺マニア?」


なだらかな丘に立ち、サンダー軍曹は隣の平和維持軍の兵士に訪ねる。彼等の眼下に広がる風景は赤と黒の2色のみだ。幾千、幾万の死体がそこにあった。


焼け焦げたモノ、切り刻まれたモノ。腐乱し、もはや原型を留めていないモノ。

それらがひしめき、折り重なって丘の周りを包み込んでいる。想像を絶する臭気に

顔をしかめながら、兵士が答える。


「その通りだ。連中は世界中、何処にでも現れる。何の罪も無い人達、女や子供に老人。それらを狩り、様々な方法で殺していく。


時にはそれを動画で撮影し、ネットで配信する輩だっている。共通している点は一つ・・・奴らが活動するのは、法に及ばない地域という事だ。第三世界に紛争地域・・・人々が感心を持たないもの、見捨てられた世界。そんなひずみを食い物にしているんだ。奴らは・・・」


憎しみを込めて呟く若い兵士に自分は何と答えたか?そもそも、これはいつの出来事か?意識が戻ってくる。不快な悪夢はふいに終わりを告げ、過酷な現実が戻ってきた。


トラックの排気音が鮮明になり、高速で移動する景色は、自分が輸送トラックの荷台に乗せられている事がわかる。両手は後ろに拘束され、何もまとっていなかった体は

作業着のようなツナギを着せられていた。


確か修道女に流され、辿り着いた岸辺で、

空飛ぶ獣耳(その服装がデフォか?何故か下着丸出し)の女の子を追いかけ、2人のライダーに見つかって・・・


「気がつきました?軍曹?・・・」


聞き覚えのある明瞭ボイスと共に顎に一発、スペシャルパンチを喰らう。


「このパンチの味は・・・副長!それにみんな。生きていたのか?」


ハッキリした視界に戦友達が次々に映り始める。さらに彼等の後ろには様々なジャンルの女の子達がっ!?喜々として叫ぶ。


「ここは天国か?」


「地獄ですよ。」


副長のトンガリおさげが額に刺さる。ニッコリ笑顔に青筋一閃、副長が言葉を続ける。


「貴方のくだらない作戦にみな付き合わされて、このザマですよ。責任とって下さい」


「責任?冗談じゃねぇな。こっちは捨て駒部隊率いて、頑張ってるっていうのに?処刑台で公開処刑されそうになるわ。下水道でワニさんと戦って、全裸の包帯美少女と会うわ、そのまま流れ着いた先で、


ちょっぴり腹黒シスターの顔を鷲掴みした後に、空飛ぶ獣耳+下着娘のお尻追っかけたらで、大変やったんだぞ?」


「後半、楽しんでんじゃねぇか?」


必死の弁明を部下全員にツッコミと拳で返される。


「うるさいぞ。お前達!捕虜なら、捕虜らしくデッドオアアライブ突きつけられた表情で小さくなってやがれ!」


血しぶき上がる勢いに、監視役のトルーパーが制止の声を上げる。


「すいません。トルーパーさん、この野郎に後2、3発喰らわさせて下さい。」


副長の鬼気迫った丁寧語に若干引きながらも、監視役のトルーパーは言葉を続ける。


「2、3発って、監視役が捕虜を虐待とか、良く聞くけど、捕虜が同じ捕虜を殴るとか聞いた事がねぇよ。とりあえず落ち着いて。ねっ?」


トルーパーの言葉に勇気づけられた軍曹が血しぶきを上げながら叫ぶ。


「そうだぞ。お前達、この方はだな。パンツっ娘追いかけている俺の後頭部を、メチャクチャに殴りつけた、スカル・トルーパー隊の皆さんですよ。凄いんだぞ。特に後方からの攻撃に定評があるんだぞ。」


「誤解を招くような言い方すんな。」


「そーですよ。同僚さん。もう、こんなクソ軍曹、一緒にボコボコしましょうよ。さぁ、後ろの女の子達も。」


「ええっ。女の子達も!?ドキドキなんですけど。」


狭いトラックの上で起こる阿鼻叫喚(主な被害は軍曹に集中している。)を見ながら右﨑が静かに笑う。


「本当に・・・可笑しな連中だ。」


同僚がこちらを振り返る。


「笑い事じゃねぇぜ。右﨑。」


「ああ、確かに笑えないな。」


その言葉に唯一、争いに参加していないコワルスキーが反応する。


「・・・行き先は収容所か・・・?」


「うん?勿論その通りだ。」


同僚のその言葉を右﨑が制する。


「何だ?何か問題でもあるのか?」


訝しむ同僚を動かし、外の景色に視線を移させた。


「これは・・・?」


「その通り・・・本部とは逆方向、むしろ森に向かってる。何かが可笑しい・・・」


同僚は答えない。


「オイ・・・」


右﨑の言葉と同時に、トラックが静かに止まる。


「全員、後車・・・」


隊長の佐藤の声が静かに響きわたった・・・


 


「・・・という状況を鑑みて、我々は森に行く。ボストーク6の2名と増援の霧流はここで待機。トラックを護れ。」


的確に指示を出し、捕虜達を連れて行く。その背中を見ながら残された霧流、右﨑は

同僚に納得できないといった様子で聞く。


「トラックの故障?どこも壊れていない・・・歩いて本部を目指す?逆方向の道で?・・・絶対に可笑しいぞ?これは・・・」


同僚は答えない。


「オイッ・・・聞いているか?」


「もう決まった事だ」


「・・・?・・・」


絞り出すような同僚の声に疑問を覚える。


「一体、何が決まっているんだ?」


「俺とお前、この件を見逃せば、大金が手に入る。」


ますます同僚の言葉がわからない。たたみかけるように同僚が続ける。


「奴らが始める狩りの事さ。佐藤隊長は国境を越えた違法者を時折、森で殺してる。それを見逃せば、俺等にも分け前が入るんだよ。


何処から金が出るかって?そりゃ色々だろ?殺人映画を見たがる変態共に、女の子達の死体だけでも、その“能力、技術の残り香”を回収できるなんて考えてる連中もいる。


その一部を俺たちがもらうんだ。」


最後まで聞く必要は無かった。右﨑は静かに銃を構え直し、彼等の消えた方向に向かう。慌てた同僚が彼に追いすがってくる。


「オイオイ、何処に行くんだ。俺達はここにいれば良いんだよ?まさか連中を助けに行こうって訳じゃねぇよな?


わかる。わかるぜ。確かに同人連中はともかく、あの娘達は可愛そうだ。だが、彼女等はルールを破った。


収容施設に行ったって、町に戻ったって、連中はすぐに自由を求めて、また国境を抜ける。こっちが決めたルールなんてお構いなしでな。


それを俺達が苦労して、また捕まえる。その繰り返しだ。ウンザリだよ?仮に本職に戻ったって、訳のわからない化け物共に捨て駒同然にぶつけられる運命だ。


金があれば・・・そんな事しなくたって良い!そうだろ?答えろ!右崎!それの・・・

それの何が悪いんだよ?」


「全部だ・・・」


答えたまま、歩みを止めない。以前の右﨑なら納得したかもしれない。しかし、

同人の兵士ハダトを撃った時から・・・考えが少し、ほんの少しだけ変わった。


「俺達の着るスーツ・・・その重みがわかった気がする・・・」


あの男が羨望した“ライダー”、それに自分はなれるかわからない。だが、この“ライダー”を模した“トルーパー”のスーツを着るからには、その責任、使命を遂行するのは当然の義務であると思えた。やるべき事は一つ。


「彼女達を救う・・・」


呟き、進む彼に、同僚は慌てる。


「オイ、一人で何か、オーケー!把握みたいな事になってんけど、やばいって。向こうはこっちの倍以上だぜ。蜂の巣だよ?」


「構わん・・・」


「良くないよ。お前、話しただろう?金が出来たら、仕事辞めて一緒に南米いくって!ひと山当てる約束したじゃん。」


「・・・一人で行け。」


「今の間(・・・)←コレね。若干、未練があるんだろ?南米行っても良いかなって思う気持ちもあるんだね?あーもう、しゃあねぇな・・・よっしゃ、わかった。俺も把握!」


同遼が隣に並ぶ。


「何のつもりだ・・・」


どこか笑いを含んだ様子で右﨑が聞く。


「3人いりゃ、何とかなるだろ?とりあえず行くべ。」


同僚が快活に答える。


「えっ?3人?私はここに残りで・・・」


突然、会話の引き合いに出された霧流が慌てる。


「・・・3人なら・・・何とかなるか。」


「えっ?右﨑さん、ちょっ・・・」


霧流の声は流されたまま、2人のトルーパーと1人の“幸薄流され娘”の姿は森に消えていった・・・


 「さて、簡単なゲームの説明をする。女の子達は森に逃げて良い。自由を掴む最後のチャンスだ。60秒たったら、我々が追いかける。捕まったらそこで終わり。文字通りの意味でね。それでは始めよう。」


「わぁーっ。女の子は逃げて良いんですか。超助かりますぅ~。それでは。」


「君は…残りだ。」


どさくさに紛れて逃亡者に加わろうとする副長の肩を佐藤がしっかり掴み、そのまま

同人達の列に戻す。


「何でですか?女の子オーケーって!ねぇ?」


軍曹以下、部下一同、誰も答えない。不気味な沈黙が特殊部隊同人、トルーパー隊双方に流れる。


「あの・・・副長は殺しやんガール・・・」


珍しくおずおず口調の軍曹の頭をトンガリおさげが貫通する。のたうち回る軍曹を尻目に佐藤がウンザリした様子で口を開く。


「そこまでだ。同人諸君、一足早いが処刑を始めよう。」


それを合図にトルーパー達が銃口を上げる。


「俺達を殺すのはわかる。だが、森に逃げた奴らはおたく等の同胞だろ?何故だ?」


軍曹の言葉に佐藤は笑う。可笑しさを隠しきれないといった様子で・・・


「面白い事を聞くな?軍曹。これから殺されるっていうのに、他人の心配か?」


黙り込む軍曹に言葉を続ける。


「何故か?獲物によく聞かれる質問だ。答えよう。楽しいからだ。子供の頃に蟻の巣を叩き壊した事ないか?あれ面白いよな?


何が起きたかわからねぇって面で、這い回る兵隊蟻を見下ろして、叩きつぶしたり、ひねりつぶしたりよぉぉ。きっと連中の世界では歴史に残る大虐殺って事になるんだろうけど、


いや、そもそも連中にそんな頭はねぇか?馬鹿だもんな?殺しまくった俺は何も裁かれねぇ。次の大虐殺を考えながら家路につく。


そんな遊びを大人になっても続けてるだけだよ。蟻と同じ、誰も気にしない、何をしたって良い世界の連中を食い物にして生き続ける事ができるのさ。」


喜々として語る佐藤を、見詰めていた軍曹が口を開く。口元には皮肉のような笑いが浮かんでいる。


「・・・じゃねぇな。」


「?なんて言った?」


「お前は正義じゃねぇ。そう言ったんだ。」


その言葉に佐藤はさらに笑い出す。


「正義さ、正しい事をしてる。証拠を見せようか?」


言いながら、持参してきたケースから端末を取り出す。


「これはトルーパーのように装着するものじゃなくてな。」


佐藤が端末を操作する。瞬間、光が彼を包み、頭部に特徴的な突起を持つ

銀色の怪人ライダーが姿を現す。


「俺がライダーだ。」


呟く佐藤の声は自身に溢れている。国境警備強化の一環として支給された。もちろん、適合試験もパスしている。


「これの試験運用も兼ねているんだよ。今日のゲームは・・・」


手にした斧のような獲物を手にし、佐藤が続ける。


「彼女達はルールを破った犯罪者、愚かな話だ。街にいれば安全だったのに。街の外に出れば、何をされても文句を言えない。お前達と同じでな。」


そこまで語り、同人達の様子を見る。


「ようやく思い出したぜ。」


ふいに軍曹が喋り始める。


「?」


「さっき見てた夢の話だ。」


「夢?何かこの状況を打開できる事かね?」


面白そうに佐藤が聞く。殺す獲物の話を聞く。これも習慣となっていた。


「ああ、まぁ、聞けよ。何年か前によ・・・アフリカで似たような虐殺現場を目撃した。その時、一緒にいた若いのが憤ってよ。


この人達の敵を必ずとるってさ。あんまり言うモンだから、約束しちまった。そいつらを見つけたら、俺が代わりにとってやるってね。ようやく見つけたぜ。」


不適に笑う軍曹の顔に一瞬凄みが走る。その姿に少なからずたじろぐ。


「俺がやったとでも?残念だが違うな。それは俺じゃない。」


言い捨て、佐藤は部下達に指示を出し、一足先に森に向かう。数分と立たず、彼の後方で銃声が聞こえた・・・



 「見つけたぜって、かっこつけたからには何かプランがあるんでしょうねぇぇ。軍曹。」


副長が掴みかからんばかりの勢いで訪ねる。銃口は以前として、軍曹達に向いている。状況は変わっていない。


「俺もまだ死にたくないですぜ?隊長。」


アスクが身につけた覆面をビッショリと汗で濡らし叫ぶ。バックファイアは静かに目を閉じる。コワルスキーは憮然とした表情を崩さない。他の2名の隊員も似たようなものだ。


「待っているんだ。こーゆう時は颯爽とヒーローが助けに来てくれるってもんだろ?」


軍曹が呟く。相変わらず不適な笑みは絶やさない。


「待つ?何を?」


訪ねた直後だった。連続した銃声が鳴り響き、目の前の処刑人達が崩れ落ちる。驚く副長の前に2名のトルーパー達が飛び込んでくる。先程、トラックで自分達を監視していた連中だ。


「なっ?凄いだろ。」


軍曹の言葉に驚きながらも頷く。その2人に続き、後方からヨタヨタとついてくる人物に副長とアスクは歓声を上げる。


「霧流さん!」


「エヘヘ、助けにきちゃピャァァァ」


恥ずかしそうに小首を傾げる彼女に同時に襲いかかる。悲鳴を無視し、アスクが羽交い締め、副長が胸元に手を突っ込み、吠える。


「ヒャハハハハハ。ホントに良い娘ですわ。もうこの場で犯したい症候群ですが、とりあえず・・・コワルスキ、バックファイア。」


駆け寄る二人に胸元から出した銃器を放る。そのまま戦闘に加わる部下達。


「軍曹!」


叫ぶ副長の言葉を手で制し、叫び返す。


「わかってる。女の子が女の子の胸をまさぐる。そんな光景を見せられちゃ、色々MAXハートだ!!俺は奴を追う。ここは任せた。」


「了解!上手くいったら、この娘の胸、揉ませてあげますよ。」


「マジで!?ヨッシャァァァァ」


振り向き、眼前に迫ったトルーパーを掴む。既に立場は逆転していた・・・




 「58、59、60・・・狩りを始めたいが、追い立て役の犬がいないな。何処にいった?」


佐藤はマスクの下から、軽く舌打ちする。元々、利用するためだけに仲間に引き入れた連中だが・・・仕方ない。


「一人で行くか。」


ニヤリと笑う。それはそれで楽しそうだ。なにより、このスーツ、とてもつない力を感じる。これなら何でもできそうだ。ふいに後方の草むらで音がする。


(やっと来たか・・・)


振り返った顔面に鋭い拳の一撃が決まる。マスクごしでもその痛みが伝わる強力な攻撃だ。見れば、それは部下ではなく、口元に薄笑いを浮かべたサンダー軍曹だ。


「へいっ、お待ちどうだな!ご同輩。ゲームスタートといこうぜ。」


返事の代わりに手元の斧で、至近距離に迫った軍曹の腹部を切り裂く。腹から大量の臓物のようなモノをまき散らし、それでも突進を止めない軍曹に攻撃を続ける。


頭、腕、足、ほぼ全ての部位を切り裂く。スーツによって強化された一撃は、常人ならとっくに絶命している。しかし倒れない。斧で切る。軍曹が吹き飛ぶ。また向かってくるの繰り返し。


「ハハハハハ、楽しいねぇ~。」


咆哮し、全身から赤黒い血を滴らせながらも、執拗に飛びかかるその姿は、まるで悪夢に出てくる怪物だ。


「いくら、斬っても・・・倒れない。痛みで体がハイ?いや、違うな。何かの能力か?」


動きを止め、喋る佐藤に対し、軍曹も動きを止める。見れば、あれほど傷つけた体も、とうに癒えているようだ。


「能力ぅ?違うね。これは呪いだよ。」


軍曹が話し出す。心なしか楽しそうだ。


「1568年・・・いや1868年か、それとも1968年か?よく覚えてねぇな。とにかくそんくらいの時、俺は相変わらず兵隊として戦っていた訳なんだが、非道い負け戦でよ。俺も体のほとんどがぶっ壊れた状態で、戦場に転がっていてさ。あーこりゃ死ぬなと思ってた・・・」


軍曹の声は次第に興奮してくる。佐藤は、話を聞くような様子で頷きながら、静かに腰のポーチを探り始める。


「そん時だよ。俺の前を、ありえねぇ話なんだが、何かスゲー美少女が通った訳だ。ナリはチンチクリンだったがね。


今、思えば、狂うJAPANのような夢見せまくり的存在はだいぶ昔から、現世に姿を見せていたのかもしれないな。


話を戻すよ、そのロリちゃんがこっちを見て微笑んだ。それ以来俺はなんつーか漫画的?萌え的な要素を見ると、一定時間不死身になれる訳だ。


ある意味呪いだ。死ぬ事もできねぇ。“同人鬼”って呼ばれてもいるよ。そして、この国には萌えがあの娘みたい子達が溢れてる。


もしかしたら、あの時救ってくれた奴にも会えるかもしれない。それまで俺の旅、戦いは続く。それこそ永遠に・・・」


喋る軍曹の足下に丸い物体が転がる。


「なら、お前の旅はここまでだ。お決まりの言葉で失礼。」


佐藤が喋るのと、足下の物体がテルミット(小型のナパーム)に気づくのは同時だった。次の瞬間、軍曹の体を数千度の炎が包む。さらに、接近した佐藤がその巨大な斧で軍曹の首を一凪に切り開く。


「その減らず口、首無くとも叩いてみせろ。」


燃えさかり、崩れ落ちる死骸を前に佐藤は笑い出す。


「どうだ?軍曹、それで終わりか?これが力の差だ。俺にはそれを使う権利がある。俺は選ばれた存在だ。お前には何もできない。そうだろ?答えろ?同人兵!」


燃えさかる残骸に自信を込めて言い終える。その残骸が突然前触れなく動き始めた。驚く佐藤の顔を焼け焦げた手が掴む。


「お前の頭を掴む事ができる。」


「グアアアアオオオ」


マスクの上からでも、その暑さが伝わってくる。佐藤の絶叫を聞きながら、自身の頭を体につけた軍曹が焼け焦げた顔で笑い出す。


「熱いか?痛みが伝わってくるか?お前達みたいに単純な悪は殺りやすくて助かるよ。最近はさ、悪だけど世のため、人のため、あえて泥を被るとか、


正義だけど、やってる事は悪に近いなんて、よくわからねぇ奴ばっかでウンザリしてたとこなんだ。良いんだよ。そういう事は!俺達みたいな悪人面が担当すればな。そう思うよな?ご同輩。」


「だ・・・・黙れ。」


やっとの事でその腕を引き離す。飛び退る軍曹を睨みつけ、痛みを振り切るように斧を振り上げる。


「俺はお前達と違う。俺は狩る側だ。選ばれた者なんだ。」


叫び、軍曹に向かって走る。対する軍曹も走り出す。接近する瞬間、佐藤は渾身の力を込めて斧を振り下ろす。確かな手応えがあった。


下ろした刃は相手の体をしっかりとらえ、そのまま一つの体を二つに切り分ける。だが、切り裂かれた体は瞬時に元に戻り、

体を通り抜けた刃は軍曹の手元に収まった。


「馬鹿なっ?」


驚愕と同時に振り上げられた斧が、深々と佐藤の腹を抉った。金属が爆ぜる音と肉体の破壊音が自身の最後を実感させる。倒れる彼の頭上から軍曹の声が響く。


「ご同輩と言ったのはな。俺も同じだからだよ。虐殺があったあの日、俺は連れて行かれる彼等を見ていた。何が起きるか察していた。止める事も出来た。


だが、止めなかった。何かごく当たり前、戦場では当たり前のような気がしていたんだ。だが、あの若い兵士の言葉で我に返った。


見捨てられた世界でも、正義を信じる者がいる事を知った。そして、今はその夢を担う存在達が現実化する素敵な時代だ。」


淡々と話す軍曹に佐藤は最後の皮肉を返す。


「偽善だ。そんなものは・・・」


「そうだ。その通りだよ。だが、その偽善を真実にするために、お前達ライダーがいるんだろう?そんな奴らがいるからこそ、俺達は戦える。この世界もまだ、捨てたもんじゃないって、呟きながらな。」


その言葉はもう佐藤に届いていなかった。それでも良い。死体となった佐藤を見下ろす軍曹の体中から大量の出血が始まる。


「さすがにライダー相手じゃキツイか・・・」


再び崩れ落ちる。恐らく後の指揮は副長がとるだろう。右﨑達は部下を上手く見逃してくれるだろうか?


そして、武器を服から出しまくる娘っ子は仲間になってくれれば良いが・・・


足下に黒い血だまりができはじめる。こんな場面は何度も見てきた。今更、どうという事は無い。目を閉じる。


(できれば迎えは、羽根の生えたロリロリ天使ちゃんか、ドカ胸お姉天使でヨロシク・・・)


「軍曹ー、軍曹~」


邪念MAXの頭に脳天気なアスクの声が響く。


「何処ですか~?これから霧流ちゃんの胸揉みまくりSHOWを始めるっすよ~。」


「何ぃぃぃっ!?すぐ行くから!ホントすぐだから、残しとけぃぃぃ。」


立ち上がり、走り出す軍曹。傷はとっくのとうに癒えていた・・・(続) 

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狩人達の国境~同人戦記~ 低迷アクション @0516001a

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