とにかく頑張れ 沢尻エリカ!

ネコ エレクトゥス

第1話

 僕は彼女のファンでもないし、CМなどで少ししか見たことがない。しかも「マリファナ吸って何が悪い?」とか言うつもりもない。あらかじめ。

 そんな人間でもなんで今度のような出来事が起こったのか理解できるのだ。それは彼女が美しすぎたから。


 彼女は生まれながらにして女王様だった。しかも本人がそれを一番自覚していた。周りの者は彼女にひざまずいた。

 ハリウッドの黄金時代に似たケースがあった。その女王様の名前はエリザベス・テイラー。もし機会があったら彼女の出世作『陽の当たる場所』を見てほしい。彼女がスクリーンに出てきただけで世界が一変する。圧倒的な美貌と存在感。彼女はハリウッドに君臨し、彼女の存在がハリウッドに超大作『クレオパトラ』を作らせた。そして観客もまた彼女がクレオパトラを演じるのを望んだ(映画自体が傑作かどうかは疑問だが、とにかく観客は彼女のクレオパトラとスケールの大きさを望んだのだった)。

 しかし今僕らが生きているのは黄金時代のハリウッドではない。最近テレビでどんなドラマが放送されているか。ちょっとドジなところがありながらも努力して仕事と恋を成就させていく女の子の物語。そんなところにクレオパトラの出番はない。またかつてのように小津や黒沢のような名監督が俳優を別次元に鍛え上げていくという時代も終わった。残念ながら今世界中を見回してもそんな器の監督はいない。

 一方で彼女は自分を次のレベルに引き上げるための何かをやっていただろうか。例えば過去の映画を見て演技を盗むとか、他の芸術から美意識を養うとか。おそらくそんなことは一切やってなかっただろう。自分の美しさを過信しすぎていただけ。

「私はこんなにも美しいのだからあとはあなたたちが何とかしなさい。」

 美貌の維持だけが仕事であって、吉永小百合さんや先日亡くなった八千草薫さんのように歳と共に何かを付け加えていくということもなかった。

 クレオパトラを演じるでもなく、より人間的な深みを要求される役を演じるでもなく、CМなどに便利なただ見た目のいい女。誰より自尊心の高い彼女の感じた空虚さは理解できる。そして時が流れていく。


 ただ幸いにして今回の出来事が起こった。もう彼女を縛り付けていた自尊心に捕らわれることもない。物乞いの役がやりたいか。やればいい。普通のおばさんの役がやりたいか。やればいい。何も気にする必要はない。そしてそれが彼女の持っているポテンシャルを解き放つことになるはずだ。

 薬物の依存状態を断ち切れるのかということも問題になるかもしれないが、見ての通り彼女は意志が強い。方向性だけ与えてあげれば後は自分で何とかするはず。それに彼女に限らず女はこういう時強い。

 そして彼女が円熟味を加えた時、彼女にしか歌えない歌を歌ってくれるんじゃないかと期待している。個人的にはああいう女性はシャンソンなんかを歌わせるといいんじゃないかと思うのだが。

 

 



  


 

 

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