25話 輝く虹色の人々

 ――それから。


『レイ、それで森崎ったら酷いのよ。帰って来たと思ったらすぐまたどっか行っちゃうし自分勝手だわ横暴よ千枝も一緒に連れていきなさいって感じよね!』


 夏雪の降る町で三日ほど寝込んだレイ。


 風邪が治る頃には、ホーケンは仕事の都合でその町を離れていた。


 それに乗じるかのように、森崎は別の山へ行くと言って別れ。ナギもまた、組織の拠点に戻ると言って去って行った。


 ほんのひと夏の時間。共に旅路を歩いた仲間達。


 自分の知らない事を知っていて、自分に出来ないことがたくさん出来て。考え方もそれぞれで、一人ひとりが色々な色を持っている。


『そうそう、それと前に送ってくれた絵なんだけど。あれは何なの塗り忘れよ印刷ミスと言っても過言じゃないわ!』


 ひと夏の旅を終えたレイは、その道を折り返していた。


 祭りが終わってその色が薄れてしまった町を、相変わらず人の少ない小さな公園のある町を。信仰者の居る真っ白な施設を、水色の防人が住んでいた田舎の村を。


「あはは、ナムに教えてもらったんだけど、千枝は十人十色って言葉知ってる?」


 千枝と再会したレイは、携帯電話の番号を交換していた。


 最も、電話が出来るのは千枝が町に行く週末だけ。森崎も時折、千枝に顔を見せに来るようだ。戻ってくるのが気まぐれで中々会えないと、度々千枝がぼやいている。


『ふふん、千枝はこれでも村一番の優等生なのよそれくらい答えられるわ。十人居たら、十人が違う色って事。人それぞれって意味でしょ』


「うん、でも私は違うと思ったから。人は一つの色だけじゃなくて、その人の事を知れば色んな色を持っているって分かったから」


 レイの描いた絵。千枝に送った風景画。それは何の変哲も無い、平凡な田舎道。一面緑色の小高い山と透明感が伝わってくるような川。色取り取りの花と共にある土。それらを包み込むようにして、ほんの薄っすらと虹の架け橋が描かれている景色。


「もしかしたらこの世界は鈍色なのかも知れないけど、だけど人は虹色に輝く事だって出来るから。だからその虹は、雪のように白く輝いているんだよ」


 遠くから見ると存在に気が付かないくらいの、薄すぎる虹色。


 見ようとしないと見えないその輝きは、意識すればその正体と向き合える。


「千枝ともこれからたくさんお話して、桃色以外の千枝の色も知ってみたいな」


『桃色、ピンク……って、それ千枝のパンツの色じゃないそれ以外にあるでしょもっと千枝を知りなさいもうパンツの事は忘れなさーい!』


 旅路を折り返すレイ。


 今歩いている道のりは、すでに家路だ。


「あっ、そろそろ家に着くからまた今度ね……うん、それじゃ」


 ピッ。


 家はもう目の前にある。そこからレイは、歩いてきた道のりを振り返る。


 鈍色も虹色も、視界から遠ざけて過ごしていたら気付けない。


 たくさんの色を知ったひと夏の旅は、レイにとって輝いた時間となっただろう。


「ただいま、迅。あのね――」


 土だらけで泥だらけ、そんな格好で帰ってきたばかりのレイはすぐに旅路で起きた出来事を話し始める。


 それが良い旅だったと、それだけで十二分に伝わってくる。


 目を逸らしたくなるような鈍色だってあるだろうが、輝く虹色の人々が確かに存在する旅路を歩いてきたのだから。

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少女の旅路は今日も鈍色 かさかささん @richii

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