21話 一人ぼっちの山登り
――朝。
昨日と同じく、夏雪の降る通りへと向かうレイ。
夏だという事を忘れてしまいそうな、朝の冷たさ何のその。少し多めに荷物を持っての出発。
「ちょっと早かったかな?」
約束もあるが、この山を純粋に楽しみたいという気持ちも強かった。
どんな道が、どんな景色が待っているのかと考えるとウズウズしてジッとしていられなくなる。昨日よりも早い時間に、レイは夏雪が降る場所へと辿り着いた。
クエーッ。
何度見てもため息が出てしまうような景色に、クックもはしゃいでいる。
「うん、あの子が来るまでもう少し待ってようね」
レイはスケッチブックを取り出し、サラサラと降る雪景色を描いている。
緑の世界に、白くて柔らかな雪。
あっという間に一枚。また一枚とスケッチブックを埋め尽くす風景。
「……来ないのかな?」
正確な時間を計っていたわけでは無いが、随分と時が経っていると感じる。
携帯電話に時計を見る機能がある事をナギから教わったが、それを確認せずにレイは立ち上がる。
「しょうがないね、私たちだけで行こうか」
クエッ!
荷物を背負い、山の入り口へと向かうレイ。
夏雪の降る場所とは違い、山の上空には雪の代わりに白い雲が広がっている。
一人。
クックと共に歩きながら、レイは森崎と出会う前の感覚。一人で山々を歩いていた頃を思い出す。
「たまには一人で歩くのも、悪くないかもね」
山の入り口。
観光地のような山では人がわらわらと存在するそんな場所ではなく、ここは静かな町の側。誰も寄り付かないような養護施設の近くでは人の姿は見当たらない。
初めて訪れる山道なのに、何故だか懐かしい歩く感触。
森崎が居ないから、苔の生えた岩の上をあえて通っても注意されることは無い。ナギが居ないから、目の前を横切る虫を追いかける事だって出来る。
「クック、あれなんてどうかな?」
クエーッ!
少し高い岩陰に、一輪の花が咲いていた。
レイがその場所を指差すと、クックは器用にクチバシでそれを摘んでみせる。
「ありがと、じゃあちょっと休憩にしよっか」
クエッ。
ガサゴソと荷物からロールパンを取り出すと、それをちぎってクックに分け与える。レイは残ったパンを片手に絵を描き始める。
岩。土。木。川。
それ以外には目立ったものが無い、殺風景な景色を描く。それでも、レイはとても楽しそうな表情で筆を動かし続けた。
クエッ、クエッ。
「ふぁむふぁむ……そうだね、ちょっと早いけどそろそろ戻ろっか」
スッと視線を空へと向ける。
昼を少し過ぎたばかりの、陽の高い時間帯。白い雲が漂うその空に目をやると、ほんの少しだけ残念そうな顔をして下山の準備をする。
「じゃあ帰ろっか、嵐が来る前にね」
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