冒険記録52. 神になる END

 一体何事だとざわつく門番たちに呑気な声であいさつするヘルニー。ため息をついたヨシュアは事の顛末を説明していた。最初は頭の上にはてなが浮かんでいたが、理解した門番たちに犯人を預け、ガルーラの元へ戻っていく。


「自分の力が尋常じゃないこと理解しろよ。飛び蹴りで気絶って」

「これでもめちゃくちゃ制限してるよ」

「それでもか」


 制限しまくった結果が飛び蹴りでの気絶。ヘルニーの力の片鱗を見たヨシュアは、気味悪そうな顔をしながら見つめた。視線に気づいたヘルニーが「なんだよー!」と頬を膨らませながら怒っていた。


 ガルーラのところに戻った2人は報告をし、まだ無事だった建物に移動する。怪我はしていないものの家が無くなってしまった街の人たちは、お互い協力しながら家の中へと入って行った。


 案内された家の中へ入ろうとしているヨシュアの耳に、馬の蹄の音が聞こえてくる。音の方向を見ると、存在をすっかり忘れていた彼の愛馬、アルヴァーノがものすごい勢いで走ってくるのが見えた。ただ少しだけ違和感があった。今まで無かったものがアルヴァーノの頭にある鋭利な角だ。頭を下に項垂れながらヨシュアの脇腹に突っ込み、カエルが潰されたような声を出しながらヨシュアは飛ばされた。


「今までと同じ愛情表現なのだろうが、加減はしてくれ……」


 地面に倒れながら言うヨシュアの周りを不安そうに歩いている。半神になっているとはいえ、怪我だってするのだ。脇腹から血を流しながらゆっくりと起き上がり、心配している愛馬の背を撫でて、共に家の中へ入って行く。


 夕食はあるものでしか食べられなかったが、今まで以上に飲んで騒いでをヨシュア達は繰り返し、月が真上に来るまで来てようやく落ち着いた。案内された部屋で2人と1頭は、そこで一日の疲れを癒すためにベッドに潜りこみ、即眠りについた。


「お疲れ、ヨシュア様」


 斥候の姿ではないヘルニーがヨシュアの頭を一撫でし、その部屋から消えた。それを見ていたのはアルヴァーノのみだった。




 

「おかえりなさい」

「ここに戻ってくるとはな」


 全ての罪を償い終えたヨシュアは異世界で眠っていた時に、創造主アテリアによって引き戻されていた。同じくアルヴァーノも。妙な浮遊感で彼は目覚めたが、愛馬はまだ呑気に寝ていた。まぶしさに眉間に皺を寄せて起き上がった彼は、異世界に行く前に来ていた場所にいることを一瞬で察した。


「次はどこに行けって言うんだ?」

「どこにも行く必要はないのですよ」


 異世界にいく前、ヨシュアはベッドごと移動していたが、それがまだ世界の狭間に残っていた。ベッドの上にある毛布。2、3個置かれている枕。整えられたシーツ。何もかもが変わっていた。


「どういうことだ」

「罪を償ったことで試練に合格したのです」

「試練?」


 なんの事か分からず、聞き返すヨシュア。彼はただ異世界に行って好きなように旅をしていただけである。目の前にいる女神から罪を償うことと友人を1人だけでもいいから作れと言われたこと以外は、何も言われていない。終盤で助けてほしいとは言われたが、旅の途中で言われたことはなかった。


「試練はわたくしが勝手にしたことです」

「……女神アテリア。今でもあなたに対して興味は薄れていないが、やはり神だからか少し強引だな」

「ええ。そして今ではあなたもその神になっているのですよ。今はまだ半神の状態ですが」


 旅で疲れた体をいやそうとベッドに向かっているヨシュアの動きがアテリアの一言で止まる。ブリキのおもちゃのように振り返り、片眉を上げている。そして深いため息をついた。


「冗談はよしてくれ。私に一番似合ないものだ」

「冗談を私が言うと思いますか?」


 真剣なまなざしを向けてくるアテリアに、ヨシュアは疲れた顔をする。彼女の目は嘘をついていなかった。驚愕きょうがくの連続で疲れ切った彼は、ベッドにうつ伏せで倒れ込んだ。そして、意識を失うかのように寝た。


「寝てしまいましたか。お話ししなくてはならないこともあったのですが、今はそっとしておきましょう」


 ベッドに近づき、寝ているヨシュアの隣に腰掛けると、彼の優しく頭を撫でていた。彼が初めて世界の狭間に来た時と同じ状況だが、唯一違うのはアテリアの表情だった。初めはやんちゃな息子を愛おしく想う母親のようだったが、今では恋人を想う表情をしている。彼のどこに惚れたのかはアテリアしか知らないが、この世界に#誘__いざな__#ったのは、恋人にするためだったのだろうことは明らかだった。


わたくしのエゴでありますが、必ず幸せにしますわ。貴方は納得しないでしょうけど」


 そっとヨシュアの左手を取ると、薬指に口づけをする。白い空間にさらに白く淡い光が出来たかと思うと、銀色の指輪がはめられていた。


「人間界ではこれを結婚というらしいですね。貴方が生きていた時代よりも未来の世界のやり方ですが」


 しばらくヨシュアの頭を撫でて、その空間を享受しながらアテリアは水晶玉を見ている。そこにはヨシュアによって文明が進んだ世界が映されていた。女神に惚れられているのも1つではあるが、人でありながら人を勇敢に、時には強引に導く様子はまるで神のようだった。その姿に魅了されたのも1つなのかもしれない。

 恩には恩を。罰には罰を与えるヨシュアの考えは神そのものだ。


「どの神になるかは貴方が起きてからにしましょうか」

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【完】海賊、異世界で旅を続ける やさか @yasaca1

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