第6話 ホームルームはいい匂い、後編

 立ち食いそば屋のいい匂いをさせている駒込サクラが教室の一番後ろの自分の席に座ろうとしていると……


 ガラガラ


 教室のトビラが開いて、女の駅員さんが入ってきました。


「おはようございます、こちらに駒込サクラさん、いらっしゃいますか?」


 手に何かを持ちながら、ホームルームを邪魔してすまなそうにしている駅員さん。


 女子部の教室に入れるのは、やはり女性の駅員さんだけですね。昔は駅員さんと言えば男性だけでしたが、最近は女性の駅員さんが増えて来てうれしいですね。凛とした立ち姿と、ちょっとお洒落な制服と制帽なんか、とてもほほえましいです。


「はーい、わたしですけど?」


 教室の一番後ろの席に座ったばかりの駒込サクラは片手をあげながら元気に答えます。


「ホームの立ち食いそば屋さんのカウンターに学生証を忘れていったでしょう? はい、確かに渡しましたよ」


 女性駅員さんは、にこやかにしながらサクラに学生証を渡します。


 学生証にも、おそばの汁がはねたようなシミが……


 新橋先生はそれを見ながら、ゆっくりと駒込サクラに声をかけます。


「なんだー、駒込もホームの立ち食いそばで食べてたのか。先生もあそこの立ち食いソバ屋にいたんだけど、気が付かなかったなア」


「あそこのおソバ屋さんのかき揚げ、すごーく美味しいんですもの。毎日食べても飽きませんよね」


 なぜか、一番前に座っている大塚メメの口からよだれが垂れているようで、慌てて口にハンカチを当ててぬぐっているのが、教室の真ん中あたりに座っている田町ミカの目に留まります。


「そうか、この匂いは駒込の匂いかー。先生背広にソバつゆを付けて来たのかと気になってたんだがなー。まあ学校に来る前に立ち食いそばを食べちゃあいかん、なんて校則はないからな。でも、遅刻ギリギリまで食べてちゃあだめだぞ。お前は2月にローザンヌのバレコン(スイスのローザンヌで2月初旬に行われる若手バレエダンサーのための世界最高峰のバレエ・コンテストの事ですね)に参加するために学校を一週間休むんだろう?そのためにも遅刻しないように余裕を持って学校に来いよ」


「はーい、新橋先生。これからはもう少し頑張って早く食べる様にします」


 先生の言った事と方向性が違う気がしますが、遅刻はしないと言う点では一致しているので許しちゃいましょう。


「ところで、今日駅のホームをパンツ丸出しで疾走している女子がいたらしいな……」


 田町ミカは、先生の言葉を聞いて耳たぶがみるみる赤くなっていくのを止める事が出来ません。


「誰かがユーチューブにアップしてて、既に『良いね』が30万も付いてるぞ、今も百単位の勢いで跳ね上がってる、ホレ」


 新橋先生は、そう言いながらスマホの画面を生徒の方に向けて見せてくれます。顔は写っていませんが、あの後ろ姿は田町ミカさんですね。


「顔が見えないが、この制服はウチのだろう?まあホームを走る時は注意して走れよ。ただしパンツを直接見せるのはいかんなあ。毛糸のパンツを履けば冷え防止になるし、この動画の女の子はどうして毛糸のパンツ履いてないのかなあ?」


 生徒に向けているスマホ画面を、横から覗きながら新橋先生は不思議そうに言います。


「朝忙しくて、忘れちゃったって言ってましたよー。あ、ミカの今日のパンツ、クマさん付きなんだ。可愛いなあ、私も今度それにしようかな」


 一番前に座っている大塚メメは、先生のスマホ画面を見ながら、独り言を言っています。

 幸い、先生には聞こえてないみたいです。良かったですね。


「ところで、皆んな。朝からで申し訳ないが今日の時間割が急きょ変更になったんだ。ほら、このプリントを後ろまで回してくれ」


 新橋先生は、少しだけ申し訳なさそうにプリントの塊りを一番前の生徒達に渡していきます。


「えー!また臨時のダイヤ改正ですかー」クラスの皆んなが大きな声を上げます。


「数学の五反田先生、風邪を引いちゃってお休みなんだ。それで今日は数学の時間を理科に変更する。ホームルームを3分15秒切り上げて一時間目の僕の授業を2分45秒短くするから、それで移動してくれ。大丈夫、君たちなら次の授業には多分間に合うよ…」


「新橋先生、ひどーいよ!」

 クラス中の乙女達?が悲鳴をあげます。


 さあ、今日も山手学園女子部の楽しい一日が始まりますよ。

 ……



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私立山手学園女子部 ぬまちゃん @numachan

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