老翁

深川夏眠

老翁(ろうおう)


 仲間とポーカーをしていたら、遂に出た! 負けが込んだアイツが苦汁の決断、秘蔵のを放出したのだ。オッサンはミニサイズのクッションの上に、ちんまりと胡坐あぐらをかいて薄目を開けている。

 オイラは嬉々としてオッサンを連れ帰り、テーブルに安置した。オッサンはインスピレーションの源泉だ。毎日の献立に頭を悩ます嫁に、今夜はチキンカレーがよい……等々、的確な指示を与えてくれる。

「面倒を見てたら宝くじが当たるとか、何かご利益あるの?」

 下世話なことを言うんじゃない、嫁よ。小さいオッサンは迷える者を真理へ導く究極の至高善なのだ!

「夕方から雨が降る。傘を持って出よ」

「いつもこの程度でしょ!」

「今日は本当の運命の出逢いがある。西の方角で」

 すると、嫁は化粧の仕上げを念入りにし、折り畳みの傘を握り締めて出ていった。呆気にとられたオイラの傍で、オッサンは髭の生えた小さな口をモグモグさせて朝食のオムレツを食べていた。



      【了】


◆ 初出:note(2015年)退会済。

◆ 縦書き版は『掌編』にて無料でどうぞ。

 https://romancer.voyager.co.jp/?p=116877&post_type=rmcposts

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老翁 深川夏眠 @fukagawanatsumi

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